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彼女の小説はどこかずれている  作者: 白夜いくと
■1年生■ 梅雨~夏
24/30

『♪ぽんぽこりん』

 今日の分の講義を終えて一人で帰っている途中、美咲(みさき)からの小説メールが何通か送られてきた。それらを読みながら電車に揺られている。俺が感想メールを返そうと思ったとき、一番会いたくない奴と出くわした。コンビニバイト先の近藤(こんどう)という男だ。美咲(みさき)から見た第一印象はタヌキ。俺が知ってる奴の印象は嫌味魔人。近藤(こんどう)は俺のスマホを覗き込むと、美咲(みさき)が送ってきた小説たちを鼻で笑った。


 「こんなの小学生でも書けるぞ。お前も友人もIQ低すぎだろ」


 近藤(こんどう)の発言に苛立った俺ではあったがここは電車の中。なんとか抑えた。コイツはそういう奴なのだ。そう思おう……俺達を散々馬鹿にして近藤(こんどう)は電車から降りていった。さぞかし気分がいいことだろう。


 夜になってその事を美咲(みさき)に話すと、彼女は怒るでもなく近藤(こんどう)をテーマにした小説メールを送ると言った。これには俺も期待している。痛い目に合え近藤(こんどう)


**********************






件名:『♪ぽんぽこりん』


 いじわるタヌキは毎日毎日誰かを傷つけていました。しかしタヌキには自覚がありません。末期です。これは所謂「愚痴言わなきゃ死んじゃう症候群」です。早く治療しなければ死に至るでしょう。


 「患者を病院に運んでください!」


 「本人が行きたがりません!」


 「そうか、なら仕方ない」


 そうして、いじわるタヌキは息を引き取ったという。


 ♪ぽんぽこりん


 ――完――







**********************


 どれだけ死んで欲しいんだ。短いが近藤こんどうに小説を馬鹿にされた恨みがこもっているのが伝わる。リビングテーブルには千円札一枚が置いてあった。おそらく昨日の夜も今日の朝も食べなかったからだろう。俺はバイト先とは異なる、家から近くのコンビニで98円の菓子パンと129円のパックジュースを買ってそれを夕方と夜兼用の食事とした。両親には悪いが、現金を置いてくれたのはありがたい。明日の美咲みさきとの祭りでありがたく使わせてもらおう。


 小説の感想は通話で行った。スマホ越しに聴こえる美咲みさきの澄んだ声。その音に癒されながら、明日の待ち合わせ場所などについて話し合う。肝心の俺は何を着ていこう。ああ、なんだかソワソワしてきたぞ。美咲みさきと一緒に歩いて恥ずかしくない格好をしなければ。俺が笑われたら彼女も笑われる。それだけは避けたい。明日は土曜日。二人とも午前中で講義が終わる。待ち合わせ場所は祭りが行われる神社の大鳥居の前になった。約束時間は18:00。美咲みさきの両親の言いつけで、門限は21:00までらしい。彼女の家は娘を大事に扱っているんだなぁ。いつかそんな彼女の父親を御父さんと呼ぶ日が来れば……いや、まだ早いか。


 夜遅くになって俺の両親が帰って来る音がしたが、俺が夢中だったのは美咲みさきからの小説メールが来る受信音だった。

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