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彼女の小説はどこかずれている  作者: 白夜いくと
■1年生■ 梅雨~夏
22/30

『バージニアの星』

 講義を終えた俺は英語Ⅰの講義を受けに行くためC校舎へ向かう。ちょうど小雨が降っていた。傘を差さずに小走りで講義室に入る。湿気た室内には独特の嫌な臭いが充満していた。


 「ハロ」


 俺が席に座ったと同時に講師のナンシー先生がドアを開けてやってきた。褐色の肌に美咲みさきにも劣らない綺麗な黒髪。そして耳につけた派手やかなピアス。そんなナンシー先生は、バージニア州出身でちょっとプライドが高い。というのも、バージニア州は大統領が沢山輩出されている州であることや、「米国初」の出来事が多いことを誇りに思っているからだ。教科書も独立戦争を取り上げた重い内容のもの。かの有名なジョージ・ワシントンもこの州の育ちである……と何度も聴かされた。


 段々生徒が講義室に集まってくる。美咲みさきもそれらに紛れてやってきた。彼女は俺の隣に座るとレポートパッドを取り出して渡してきた。今度の題材はナンシー先生と言っていたな。先生は真面目な人権派だぞ。冗談でも肌の色や黒人を煽るようなネタを書いたら、俺は彼女を軽蔑するだろう……


*********************


『バージニアの星』

 

 「プレジデントにはハウマッチでなれる?」


 幼き頃のナンシー。彼女は大統領はお金でなれると思っていたのだ。しかし現実はそんなに甘くは無い。なんやかんやいったって世界の米国。そのトップに君臨したい者は山ほどいる。まずはその者たちと戦わなければならない。例えば


 第一ラウンド「口論」


 第二ラウンド「ゴルフ」


 第三ラウンド「宇宙人との会釈」


 第四ラウンド「大統領選挙」


 の段階を経なくては米国では大統領にはなれない。それを聴いたナンシーはそれでも諦めなかった。そして夢はかなった。優しいナンシーの政策は功を奏し、世界も平和になり差別もなくなった。このことから後に彼女はバージニアの星と呼ばれるようになった。


 ――完――






*********************


 うーん……なんとステレオタイプな米国の描写。しかし、宇宙人はともかく口論・ゴルフ・大統領選挙はなんとなくだが、大統領の条件として必要なのはわかる気もする。


 「感想を聴かせて」


 俺は困った。ナンシー先生が不思議そうにこちらを伺っているのだ。先生もまさか自分がネタにされているとは思わないだろう。そっと美咲みさきに目で合図を送ると彼女は先生にニコッと笑って


 「ハロ」


 っと挨拶をした。これには生真面目な先生も思わずにっこりだ。うまい、うまいぞ美咲みさき! ……そうだ、感想を言わなければ。


 「努力すれば報われるってことですね」


 「世界は口先とお金で出来ている」


 「え?」


 持論を展開されて戸惑う俺。そんな俺を見て


 「冗談だったのだけれど」


 と、からかうようにクスクス笑う美咲みさき。いや、冗談にも程があるだろ。それらしいことを言うんじゃない。もし他の生徒が聴いていたら嫌われるぞ……この講義室は決して広くないのだから。そんなこんなで講義が始まる。いつもの州自慢から始まって独立戦争の教科書の翻訳で講義は終わった。次に彼女と会えるのはランチタイムのときだ。今日はあるといいな、美咲みさきの大好きなふわふわオムライスのデミ&クリームソース。

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