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彼女の小説はどこかずれている  作者: 白夜いくと
■1年生■ 梅雨~夏
2/30

『最後の言葉』

 講義を終えた俺は、美咲みさきと同じ民族学Ⅰの講義を受けるために若干遠いD校舎へと小走りで向かう。そこには既に席取りをしてくれていた美咲みさきがいた。彼女はおそらく百均で購入したであろうレポートパッドを俺にチラつかせながら手招きする。席に着いて一息つく俺。


 「できたわ。新作」


 「田中教授が主役の小説ですか?」


 こくりと頷く美咲みさき。田中教授は民族学Ⅰの講師だ。いつも10分以上どうでもいい長話しをして学生たちを次の講義に遅刻させることで有名だからか、「たなっがー」とあだ名が付いている。そんな田中教授が主役の小説……ちょっと気になる。俺は渡されたレポートパッドを見てみた。


*******************





『最後の言葉』


 靴はボロボロでも億は持ってる田中。彼はある者から狙われていた。それは金持ちから金を奪う「ねずみ大人」だ。ねずみ大人は田中の長いお喋りの最中にスマホを抜き取ろうとした――刹那、田中の強烈アッパーが炸裂したのだ。靴はボロボロでもハートは熱い田中。今日も地球の平和は守られたのであった。


 しかし、お喋りなのが災いして舌をかんだ田中は出血多量で死んだ。


 「こんなことになるとは……」


 それが田中の最後の言葉であった。


 「たなっがー!!」


 生徒たちは心の中で叫んだ。みんなの目には涙が浮かんでいた。


 ――完――






*******************


 ……あ、教授死ぬんだ。


 「どうかしら。アクションものなのだけど」


 にこやかに両肘をついて俺を眺める目は幼いこどものようにきらきらしている。しかし美咲みさきは簡単に登場人物を殺すなぁ。田中教授に恨みでもあるのだろうか。


 「最後は感涙のシーンですね」


 俺がそう言うと、美咲みさきは少しがっかりしたように長いまつげを伏せて


 「私は悲劇を描いたつもりだったのだけれど……」


 「え?」


 落ち込んでいる。やばい俺。望みどおりの回答が出来なかったみたいだ。シュンとした顔で俺からレポートパッドを取り上げる美咲みさき。そんな中、例の田中教授が登場して講義が始まる。教授は講義中に本当に舌をかんで痛がっていた。俺と美咲みさきはクスクスと小さく笑った。次は食堂でのランチだ。美咲みさきの好物はふわふわオムライスのデミ&クリームソースだ。彼女は次にこれをテーマに小説を書くと言っている。本当は彼女とゆっくりデートらしいランチを楽しみたいのだが、これが俺達の日常なのだ。

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