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彼女の小説はどこかずれている  作者: 白夜いくと
■1年生■ 梅雨~夏
17/30

『迫り来るモフモフ』

 俺はリビングのテーブルにあったラップ巻きおにぎりを3個平らげると、自室にこもっていつものようにスマホで動画を観ていた。それにしても今日の美咲みさきは可愛かったなぁ。バイト先のコンビニまでお菓子を買いに来てくれたり、白猫を怖がって俺の腕を掴んだり……そういえば彼女の言っていた「モフモフ恐怖症」とは一体何なのだろう。俺は猫のあざとい動画を手当たり次第観ながら考えた。こんなにも愛くるしいものを怖がるなんて。普通の女子なら黄色い声で可愛いと言うものじゃないのか。まぁそんな姦しい美咲みさきはクールな印象と反するか。


 次に大学で美咲みさきと会えるのは国文学基礎講座Aのときだ。俺は予習をするために、スマホにイヤホンジャックを挿して、どこかノスタルジックな音楽を聴きながら結構な値段のした参考書を開く。専門書はどうしてこうも高いのか。無駄にしないためにも俺はよくわからない単語を辞書で調べながら、ルーズリーフにおおよそ理解できたことを書いていく。疑問点などはレポート用紙に書くため、それも記した。


 ひと段落着いた頃にはもう20:30。再び俺はベッドに寝そべって動画を観る。いつもは「○○チャレンジ」や「○○してみた」などの挑戦シリーズを観ているが、今日は美咲みさきの意外な一面が見られたということで、ある猫動画を再生した。その猫は毛がモフモフで、まるで綿飴のようだった。短い足でちょこちょこ歩き回る姿は可愛らしい。つい自然と口角が上がる。


 そんな時、美咲みさきから小説メールが届いた。俺は動画サイトを閉じてメールを開く。今日はどんな内容の小説なのだろうか。


***********************






件名:『迫り来るモフモフ』


 世界中に蔓延するモフモフウイルス。コイツは厄介だ。感染するとモコモコのアフロヘアーにされてしまう。喘息になる者もいる。私はその核となる白いモフモフウイルスと戦うことにした。


 「キャシャー!」


 モフモフは鋭い視線と鋭利な爪で私の元へ迫ってくる。まずいこのままでは私まで感染してしまう。モフモフとりがモフモフになってしまう。だが、私は諦めなかった。家族のため、愛する人のため。私は戦う!


 「喰らえ! マタタビ砲!」


 私は懐にあったマタタビを地面に投げつけた。モフモフは酔ったように地鶏足になり大人しくなった――pm18:56。無事確保。


 「こちらA-123隊.任務遂行いたしました」


 「でかした。帰還せよ」


 「ラジャー!」


 私はやったのだ。歴史的快挙を。血の1滴も流さずに。これはノーベル平和賞ものだ。


 ――完――


 ps.今日の晩御飯はクリームシチューだったわ。






***********************


 おそらくミリタリーものだろう。そんなに嫌いか、あんなにも愛くるしい猫が。帰り道の白猫を題材に小説を書いたんだな。さて、どう感想を書こうか……


 「独自の世界観に惹き込まれるようでした。傑作です」


 美咲みさきからの返信は数分で来た。


 「大事なところに気付かないのね、仁司ひとし


 (え?)


 俺はすぐに電話をかけて真意を確かめた。しかし、肝心なことは話してくれない。彼女は一体この小説にどんな想いを込めたのだろう。俺にはわからなかった。彼女はもう寝るらしい。早めの就寝。もしかして機嫌を損ねたか……どうする、俺。明日講義室で隣同士になれなかったらどうしよう。そんな不安を抱きながら半分やけくそになってベッドに横になる。両親が帰って来る前に寝たので、晩御飯は食べ損ねた。そんなことなどどうでもいい。明日の俺はどんな顔をして彼女に会えばいいんだ。

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