表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の小説はどこかずれている  作者: 白夜いくと
■1年生■ 梅雨~夏
15/30

『かくれんぼ』

 「367円になります」


 俺は大学の最寄り駅の一駅先のコンビニでバイト中だ。実家の近くにもコンビニは沢山あるが、近所の人間と会うのが気まずい。それに大学から近ければなるだけ多くの時間をバイトに費やせる。また、求人には大学生歓迎と書かれていたので、人脈も広がると思っていたのだが……


 「お前文学部なのに、()()()()っていうのはないだろ~」


 出た。先輩の近藤(こんどう)の嫌味。こいつは大学5年生。決して医学部系ではない。本人は去年の就職活動で「得るものは無かった」からわざと留年したと言い張っている。が、俺が推測するに単に単位が足らなくて留年したのだろう。その腹いせか、まだ一年生の俺を馬鹿にするかのように扱ってくる。マジで嫌なやつだ。そのことで大学で美咲(みさき)に愚痴をこぼすこともある。彼女はそんな俺の話を黙って聴いてくれた。そのおかげかバイトを初めてもう3ヶ月ほどになる。美咲(みさき)がいなければ3日も持たなかっただろう。


 やっと休憩の時間になった。控え室には煙草のにおいが充満している。そのせいで午前中の美咲(みさき)から漂っていたシトラスの香りが消されていく。はっきりいって公害だ。と、言うこともできずに適当に話をあわせる。パチンコや付き合ってきた女の数、サークルでの飲み会などのどうでもいい話。退屈だ……そう思っていたところ、俺のスマホが鳴る。美咲(みさき)専用のメール受信音だ。俺はみんなには彼女の存在を隠している。なので、こそっと隠れてメールを開いた。


************************






件名:『かくれんぼ』


 ある日コンビニにお馬さんが大好きなお菓子を買いにやってきました。コンビニにはいろんな種類のお菓子が置いてあります。しかし、お馬さんは困りました。会いたかった馬主さんが見当たらないのです。レジの前には偉そうなタヌキが一人で意味も無くストローの補充をしています。働いているアピールでしょうか。


 「なら私も隠れてやる!」


 そう思ったお馬さんは、コンビニのどこかで隠れることにしました。


 さて、お馬さんはどこにるかな? 当ててみろー!






************************


 ――来ているのか、美咲みさき! 今レジを任されているのは近藤こんどう一人だけだ。確かに奴はちゃかちゃか動いているように見えるが、どうでもいい事ばかりをしているようにも見える。俺は笑いを堪えて控え室のモニターで美咲みさきがいるかどうかを確認した。すると、ドリンクコーナーで普段はおろしている黒髪をポニーテールにしている彼女の姿を発見する。今日着ていた藍色のワンピースが目印になった。画面越しでも綺麗だ。


 「ドリンクコーナーですね。見つけましたよお馬さん」


 俺がそうメールを送ると、モニターに映る美咲みさきがスマホをバッグから取り出して内容を確認したのか、何か文字を打ち始める。返信はすぐに来た。


 「一緒に帰りましょう、仁司ひとし


 (え?)


 今日はやけに積極的だなぁ。しかしあと2時間もここで彼女を待たせるわけにはいかない。俺のバイトが終わるのは18:00。それまでの時間を彼女から奪ってしまうことになる。すると美咲みさきは近くのコーヒーショップで時間を潰すとメールで送ってきた。そこで明日の予習や課題をするらしい。なんだ。ちゃんと勉強しているじゃないか。俺が心配することじゃなかったんだな。


 こうして本日のコンビニバイトは目立ったミスも無く無事に終わった。近藤こんどうの嫌味も、奴がタヌキだと思えば笑ってやり過ごすことが出来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ