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彼女の小説はどこかずれている  作者: 白夜いくと
■1年生■ 梅雨~夏
13/30

『刺された熊吉』

 2時限目の講義が終わり、これまた必修の情報リテラシー基礎の講義室へと向かう俺。今度は俺のほうが美咲みさきよりも早く着いたので、席を取って彼女を待っていた。割かし狭い空間のパソコン教室といった感じで、どの生徒が何をしているのかがよくわかる。グループ課題のやりとりをしていたり、レジュメの作成をしていたりなど、とにかくキーボードを叩くカタカタという音が静けさの中に響きわたる様は、一種の音楽のように聴こえた。


 少しぼやけたガラスの扉に、藍色の服を着た女性が映る。紛れもない、美咲みさきだ。彼女は俺を見つけると俺の隣に座って「ありがとう」と小さな声で言った。そして、いつものように当然の如く差し出されるレポートパッド。今回はSNSが題材だったな。どんな小説なのだろうか……


*************************






『刺された熊吉』


 グループユニット「S・N・S」のメンバーであるソルティ松岡が、暴行容疑で逮捕されてから約4年。その真相が今明かにされる。なぜ普段温和な彼が暴力を振るってしまったのか。また、その相手は誰か――


 ソルティ松岡「ミルキィ熊吉の素行が悪かったので……」


 それ以外は語らなかった松岡。しかし衝撃の真実が明らかになる! なんと彼は熊吉との楽曲の著作権で揉めていたのである。熊吉のあげた動画の再生数は1億万回以上。そのBGMとして使われていたのがそう、人気グループユニット「S・N・S」の新曲「世界を繋ごうネットネット!」であったのだ。これには「S・N・S」のメンバーもおこ。


 ミルキィ熊吉「もう和解しましたので、この件は終わりました」


 この発言が元で、「S・N・S」のファンたちに刺されてしまった熊吉。


 ※著作権は守ろう!


 ――完――






*************************


 何かのテレビ番組みたいだ……感想に困る俺をジッと頬杖をついて見つめてくる美咲みさき。彼女の方を向くのには勇気がいる。なぜなら美咲みさきの花のような美しさに見惚れて、小説の内容が頭から吹っ飛びそうになるからだ。彼女にとっておそらく一番嬉しいのは自分で書いた小説を俺に読んでもらうことだと思うから……まてよ。もし美咲みさきが仮に他人にも小説を見せているなら俺は相当馬鹿じゃないか。そんな不安を抱きながら、俺は感想を考えた。


 「おこ、って表現が今時風でいいですね、さすが美咲みさきさん」


 美咲みさきの頭上にクエスチョンマークが浮かんでいるように見えた。つまりはきょとんとしている。俺、変な事言ったか……


 「おこ、ってみんな使っているの?」


 「え?」


 美咲みさきは「おこ」という言葉を日本で始めて考えたものだと思っていたらしい。随分前からSNSなんかで使われているぞ……なぜ気付かない。しかしそんな天然なところも愛おしいと感じてしまうのは俺が彼女の彼氏だからだろう。そんなこんなで情報リテラシー基礎の講義も無事終わり、俺達は食堂へ向かった。また美咲みさきは好物のふわふわオムライスのデミ&クリームソースを頼むのだろうか。俺は先頭を歩く藍色のワンピース姿の彼女をぼんやりと眺めていた。その姿は太陽よりも眩しかった。

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