監禁1日目: 無垢な暴力と、鎖
予期してなかった分、衝撃をもろに受けた。
マジで痛い、、手加減無しで殴られた。
こんなのは親父によくやられていたから、慣れていたけど、それでもやっぱり慣れない。
「…ちょっとお口が悪いよ?君。」
可愛い声が不機嫌そうに言った。
「せっかく優しくしてあげようと思ったのに…いきなりプランぶっ壊れかなぁ…。」
は?
「あのね、バカって言われても、それが例え軽い冗談でも、女の子は傷つくんだよ?だから軽々しく言っちゃダメなの。わかる?おバカさん。」
「…あんたも今言ったじゃん。」
「男の子はバカだから傷つかないもん。女の子は繊細なの。わかれバカ。」
「いや言い過ぎだろ普通に。女はいちいち発言を重く取りすぎなんだよ。そういうとこってほんと、マジでウゼえ。」
言った瞬間、息ができなくなった。
首を締められているという事実が、一瞬頭に入ってこなかった。
苦しい、、喉が締め付けられて、、酸素が、、声が、、
手を離された時、俺は咳き込んだ。
「やっぱりあんた、可愛くない。まあそこがいいんだけど。」
そう言って頬を撫でてくる手は、とても冷たい。
「あ、別に『ごめんなさい』は求めてないよ。私ね、謝罪とか感謝、伝えるのも苦手だし聞くのも苦手。だから言わなくていいから。でもちょっとは口を慎んでよ。じゃなきゃもっと楽しみたくなるじゃない。」
楽しみって、、俺を痛めつけるのが楽しみってことかよ。
「あんた、、イかれてる。」
「あー、よく言われるんだよねそれ。なんでだろーね?」
さらっと返されてビビる。こいつにとって『イかれてる』は罵りじゃないのか。
というか笑ってるってことはむしろ褒めと受け取っているような気がするのがマジで怖い。
「とりあえずおやつ食べよ?冷たさが逃げちゃう。」
そう言ってスイカの皿を床から取り上げる。
「おめーが胃殴ったせいで食欲湧かねえよ。」
「あ、そうなの?」
「それよりコレなんとかしてくれよ。」
「あー、縄ね。んじゃあ『お願いします』は?」
「…は?」
「え?いや普通頼み事をする時は『おねがいします』でしょ。」
「…誰が言うかバカ。」
「じゃあそのまま寝てね〜。」
「…お願いします…」
「うん、その心底嫌そうな顔すごく好きだよ!」
そう言ってイカレ女は部屋を出て行って、すぐにダンボール箱を抱えて戻ってきた。某通販サイトのロゴが書かれたそれは、中くらいのサイズ。中身を予備動作なくひっくり返して、床にぶち撒ける。
短く響く金属音。
「…は?」
長い長い、がっしりした鎖と、枷?みたいなやつ。
南京錠、ワイヤーソー、大きくてゴツい金切り鋏、首輪、手錠、レジに置いてあるような呼び鈴、キーホルダー、チョコレート一箱、iPhoneケース、黒いビニール包み…ごちゃごちゃと色々出てきた。
「あ、ごめーん、私物も混じってました♡ でもこれは君のだよ?」
そう言って、鎖と枷を繋ぎ合わせて、俺の足首に掛ける。しっかり鍵もかけられた。
反対側を持って、なぜかベッドの下に潜り込む。
ガチャン。
ああ、鎖を繋げるところがあったのか。
下から出てきた彼女は、髪の毛をかきあげて、これでよし。なんて言ってる。
そして俺の手足の縄を解いた。
「あ、そういえば、これも君のだったわ。」
黒いビニール包みを俺に投げて寄越す。破ってみると、中には男性ものの部屋着とか下着の類が何着か入っていた。
「…なんで俺のサイズ知ってんだよ。」
「え?当たった??すごーい、それ全部適当なんだよー!」
「…バカかよ。」
「えー、褒めてよ??すごくない??」
「ない。」
俺はそっぽを向いてふと気付いた。
「待って、俺トイレ行きたい時どーすんの?」
「あ、ベル鳴らしたら私が来るから。」
そのための呼び鈴かよ…え、聞こえんのか?本当に。無理あるだろ。
「大丈夫♡じゃあ私は行くね〜。バイバーイ。」
「キモい。二度と来んな。」
言った瞬間後悔した。
こめかみをぶん殴られて、あまりの痛みに反撃を忘れた。
その隙にあいつはさっさと荷物をまた元の箱に戻して、
「じゃあねー。」
と言って出て行った。
…マジでイかれてる。