07 神樹のしずく
まだダンはスーパーなダンにはなってません。もうしばらくお待ちください。
スザクが魔王軍の六魔将について精霊に報告した。
「六人の魔将軍と言われるものがおるのですが、すべての将軍が裏切り合い、皆が皆魔王の座を狙っておるものばかり。一斉に攻めてくるとすれば、魔王復活の後と思われます。ですので脅威は、魔王復活が鍵かと」
『ではこちらの世界、特に魔王軍は今すぐ事を起こす脅威はないと言うことですね』
「はい。ただ、先ほどの六魔将が何をしでかすか、見張っておかなければと思います」
此処までの報告で間違いは無いともう一度確認し、スザクは精霊のものと思われる光を見上げた。
マサ、ミサ、マッコイ、ダンの四人がポカーンとスザクと精霊のやり取りを聞いていたが、理解が追いつかなかった。
「すまんすまん。皆には悪かったが、先に精霊様に此処の現状を話さないといけないと思ったものでな」
スザクは精霊への報告を先にしたため、周りが置き去りになったのを、謝罪しようとした。
「仙人様、お気になさらず。私たちも、聞かされていないことも今からは知っておかなければいけない領分です。ダンにはこれから少しずつ言って聞かせます」
気丈なミサは、粗方精霊から今この世界に起きているかもしれない出来事を聞かされていたので、さほどの驚きはなかった。
「そうだ。ミサの言うとおり。俺たちのことより、何に立ち向かえば良いのかの方が大事だよ。村の防御の方もそれで変わってくるし」
村長の顔を見ながらマサはミサの言葉の後を繋いだ。
マッコイはまだ、精霊とのやり取りは数えるほどなだけに、相当緊張している。ぐっと拳を握って声を絞り出して、
「そそそ、そうですす。む、村の守りの方も、せせ仙人様とよく相談しねーと」
『そうですね。・・・マッコイ。大丈夫。スザクとよく相談してください。私も力を惜しみません』
「ははーっ」
マッコイは土下座の勢いである。
「村長。そんなに緊張してたら、立てなくなるぜ」
「ダ、ダイジョブ。オレハダイジョブ」
「何でカタコト?」
「村長の叔父さん、口から泡吹いてなーい?」
「わ、わ、拝んだまま目がいってるわよ」
固まったマッコイをマサ、ダン、ミサがあたふたし出した。
『マッコイにこれを』
精霊の言葉と同時に、マッコイの目の前に小さなグラスが現れた。
『それをマッコイに飲ませてください』
「はいっ」
ミサがそれを両手で受け取り、マッコイのところへ持って行った。
「アッアリガト、ゴゴジャーマス」
何とかお礼を口にしたマッコイ。
グラスの中の少しの液体を、口にした。途端に、舌先から喉へ。喉から身体の奥へ。マッコイの身体の中を何かが走り回り、強い酒を飲んだような浮揚感に包まれ、得も言われない幸福感に気持ちが次第に落ち着いていった。
赤みの差した顔のマッコイ。顔を手で押さえながら、
「ありがとうございます。精霊様。落ち着いてきました。今飲ませていただいたのは?」
『神樹のしずくです。お酒なのですが、”お酒”と同じで緊張を解したり酔ったりしますが、副作用がありまして・・・』
「「「副作用?」」」
声がハモってしまったマサ、ミサ、マッコイ。
『実は・・・』
何となくやってしまった感を醸し出す精霊”セイメイ”
「「「「じつは?」」」」
今度はダンを除く全員が声をそろえた。
『寿命が』
「「「「じゅみょうがあ」」」」
村長マッコイの心臓の鼓動が全員に聞こえるかのような一瞬。
『10年伸びるんです』
「「「「おおおおう」」」」
村中に響き渡りそうな、安堵と感嘆の混ざったため息とも付かない声で全員がうなった。
「精霊様、心臓に悪いです。副作用で石になるとか、死ぬとか言われたらどうしようかと思いましたよ。寿命が10年伸びる副作用ですか?できれば毛が生えてくる副作用が欲しかったです」
神樹のしずくの影響か気分がほぐれた村長のマッコイ。
「村長!!副作用に欲言っちゃいけないよ。それにその頭。年季が入ってるんだから、ちょっとやそっとじゃだめなんじゃ・・」
マサに突っ込まれて、反論しようとして、
「村長さん。さっきのしずくでツルツルのピカピカね。お肌が」
「ミサまで~」
二人で解れてきたマッコイを弄りだした。
「でも、しずくで10年も寿命が伸びるんなら、もっと飲めば不死の薬になるんじゃないですか?」
誰もが思うことを臆面も無く、マサは聞いてみた。
『其れは有りません。飲み過ぎると身体が消えて無くなります』
「ええーっ。ということは?」
マサは考えていることを口に出そうとして、ミサの顔を見た。
「「若返ると言うことですか?」」
二人で同時に聞き返した。
『はい。ですがあくまで副作用。必ず若返るとは限らないのです』
「神樹のしずく恐るべし。神樹に貯まる力でお酒が出来るだけでも不思議な力。それが若返りの薬にもなる。正に神樹様だ。ありがとうございます」
先ほど弄られたことなどとうに忘れ、神樹のしずくに感心し、マッコイは感謝し拝み倒していた。
「話が少しそれてしまいましたが、よろしいですかな?」
スザクが報告の続きをしようと皆の顔を見回した。
「先程の六魔将が来た場合、ダンはまだ間に合いません。ですので、マサとミサに。あと、私が道中選んできたものでどうにか出来ると思います」
「ええエーっ。私は戦えませんよ?て言うか足手纏いですよ?」
スザクの進言にミサが戦うという言葉に慌てだした。
「大丈夫。後方から攻撃とヒーリング。つまり怪我とかの防御、癒やしと言ったところですかな」
「なるほど。私も戦うのは吝かではないのですが、格闘となると・・・。では防御法とか教えて貰えますか?」
納得がいったのか先程と違い、やる気を込めた表情になった。
「はい。そのために来ました。マサとミサ。お二人にはダンが戦えるようになるまで、頑張っていただきたい。まあ、現状では魔物もそんなに強いものは此方には来ない様子。慌てることは有りません。ですが準備だけはしときましょう」
ミサはコクリと頷き、マサの顔を見た。
「俺に任せとけって。攻撃と防御の仕掛けとか、色々考えて作ってあるから。なあ、村長!」
「そうじゃ。若いもんと一緒に山や森に行って木を切り出して。家や塀を作るだけでなく、でっかい穴堀ったりしてたからなあ」
村長が感心するほどに、この二年間マサは動いた。
「なるほど。あとは魔法と体術ですね。仕事と両方で大変でしょうが、日替わりでどうでしょうか。村の若者も鍛えたいと思うのですが、マッコイさん、どうかね」
スザクは村の人間も総動員で事に当たろうと考えているようだ。
「願ってもないこと。宜しくお願いいたします」
マッコイは拳を握って頷いた。
「ではマッコイ殿。今はこのくらいで。一月に一度会合を設けて貰えますかな」
「ええ。いつでも結構です。役所の扉はいつも開けてますので」
「わかりました。では、マサとミサ。私は精霊様ともう少し話があるので。今日はここまでにしようか。あっダンはまだ用があるので、私が責任もって送り届けよう。良いかね?」
「では、私は帰って食事の用意を」
「俺は役場で他の連中と、訓練とかを組み入れた日程を話してくる。ダンのこと、宜しくお願いします」
ミサとマサ二人で頭を下げた。
「精霊様、ありがとうございました」
『ミサも。これからも神樹のことお願いしますよ』
深くお辞儀をし、マッコイ、ミサとマサ。一歩下がった。
”結界”から出た三人は姿が見えなくなった。
残ったのはダンとスザクと、精霊。
「さてと。ダンよ。もうそろそろ良いだろう。今の調子を話してくれないか?」
スザクがダンの“何を?”というような不思議そうな顔をのぞき込んで、目を見つめた。
ダンはそのスザクの目を見つめ返した。
「えへへ。ばれてました?」
ダンが、ダンが。何かに取り憑かれてしまったのかあ!!次回お楽しみに!!