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05 仙人登場

なかなか話が進みませーん。

 静かな森の外れの街道を、ゴトゴト音を立てながら地竜を走らせ、それでも悪路ながらそこそこのスピードでは走っていた。


「旅の人、もうすぐつきますぜ。あの丘越えたらみえてきまさあ」


「ああ。無理を言ってすまなかったねえ。かなり遠回りをさせてしまって・・」


「いやあー、あんたが居てくれたんでこの命があるってもんですよ。あんたがいなかったら今頃はお花畑で眠ってまさあ」


 地竜を操る御者と、荷台に載る旅人との会話である。


 国境の町ラモンからポローニャの町を抜けて西へ西へ。

 ここまで来るのに何度も魔物に襲われていたのである。


「しかし、あんた強いねエ。あんだけの数の魔物をひっとりでやっつけちまうんだから」


「私もあんた方が居なかったら長いことラモンで足止めを食らうところでしたよ。ただで乗せてもらって、飯までご馳走になって。礼を言わねばならんのはこちらの方ですよ」


 乗り合いの竜車が無く、宿に帰ろうとしたときに、商団の一人が冒険者に絡まれていたところを助けたのが切っ掛けでルコイの村まで一緒に行くことになった。



「最近は魔物や盗賊が増えて街道も物騒になったもんで。ワシら商人は冒険者か用心棒を雇うのも大変なんでさあ。あんたみたいな旅の人が一緒なら心強いんですがねえ。ルコイに用がおありなんでしょ?残念だなあ」


「まあ心配しなくてもこの先は魔物も出ないでしょう。昼間はね。夜はなるだけ出ない方が良いですよ。怖いのは魔物だけとは限りませんから」


 御者の心配げな顔を見て、旅人は慰めとも労いともつかない言葉をかけ、そっと荷台から御者台へ移動した。


 旅人は、地竜の背中を眺めながら、今までの出来事を振り返っていた。


「まあ、大変なのはこれからだが・・・」


 独り言ちて、ふっと息を吐き、そして口の端を少し引き上げてわくわくしている自分を楽しんでいた。


 この旅人、見た目は30歳半ばに見えて、実は300歳をとっくに越えている。名をスザク。光の魔術師の二つ名を持つが、精霊術士である。


 長い旅の間に固まった腰を労るように、手と手を合わせると指先がほんのりと輝いた。そのまま手を腰のあたりに持って行くと、すーっと凝り固まった物が流れるように消えた。


 しばらく走ると、門が見えてきた。前方からは槍を持った戦士風の青年が走ってくるのが見えた。


「あれがルコイの村でさあ」


「ああ。そうみたいだねえ。あんたはここで町の方に向かうんだろ?ここで降りるよ。いや、世話になった。道中気をつけてな。ありがとさん。しばらくはルコイに居るよ。困ったことがあったらここにきてくれ。力になるよ」


 地竜を止め御者台からスザクが降りると、竜車を街道に向きを変え、互いに手を上げて挨拶を交わして分かれた。


 簡単な胸当てと、脛や肘を守る程度の鎧を着た村の青年が、息も切らさず走ってきて、荷物を片手のスザクに


「旅の方、ルコイに何か用が?」

「ここにマサとミサが居ると聞いてやってきたんだが・・・」

「何の用向きかきいても?」

「そうだなあ。話の中身は話せないことがいっぱいあるんでなあ。ここで待ってるから、村長に仙人が来たと繋いでくれないか」


 スザクの姿を上から下まで、飛行場の入管検査官のような目で睨み倒し、


「ではここで待たれよ」


 青年を見送り、道ばたに腰を下ろし懐からキセルらしき筒をだして一服。ふうっと息を吐いた。煙を眺めていると、門の向こうから慌てて走ってくる姿が見えた。


 今度は息も絶え絶えの青年。


「先ほどは失礼しました。」

「村長さんかマサに会えますか?」

「はい。村長の家に案内いたします」




 青年は小走りに門をくぐり村長に伝えに戻り、その後ろをゆっくりあたりを見渡しながら同じ道を滑るように走るでもなく、まるで空中移動をしているように付いていった。




 丘の上の切り株に腰を下ろし、空を浮いて移動している雲を見ながら、子供のことを考えていた。


「あれから・・・なんかあっという間だったなあ。あん時は村に帰ってびっくりしたのが、木の実やら獲物の山が運ばれてきたのと、樹の前でミサも加護を貰えたのと・・・」


 その後のことを順番に思い返していた。


「あと、村の結界を破って、魔物が入ってきたことだな」


 このとき不思議と怖いとは思わず、村の物みんなで撃退した。青年たちの動きが見たことないくらいに早く、二、三人で一匹ずつ見事にやっつけていた。


 マサは村を背にして、一番大きい魔物を村に入れないように押さえ込んでいたが、マサが剣を構えたとたんに剣が光り出し、気がつけば剣は魔物の胸に突き刺さっていた。


「ありゃー剣の能力か?精霊様の加護?どっちかねえ」


 あれからもうすぐ、精霊に教えられた2年が経とうとしていた。


「あれから2年かあ。早いもんだな」


 そう思い出に浸っていると後ろから


「こんなところで何してるの?」


 少し舌っ足らずの可愛い女の子の声がした。


「アニカちゃんか。休憩だよ。ちょっとだけ休憩したら森に木を切り出しに行かねえとな。早く村の周囲を壁で囲っとかねえと心配だからな」


 アニカは2歳と半年。マサが育てた子供と同い年だが、幾分ませたお姉さんである。


「お母さんが心配いらないって言ってたよ。村のご神木が守ってくれるって。それから叔父さんもまもってくれるでしょ?」


「そりゃあ、可愛いアニカちゃんを守るのは、叔父さんの神様から与えられた仕事だからな。何があってもアニカちゃんを叔父さんが守ってやるよ!」


「うん。ありがと。叔父さんだーい好き。ダンはだめね。全然頼りがいないの。あたしが守ってあげないと」


「そうだなあ。まあ二人ともまだ2歳だろ。もう少ししたらダンもアニカちゃんを守れるくらい強くなってくるよ。それまでアニカちゃんが守ってやってくれるかい?」


「うん、わかった。叔父さんの頼みだしアニカがまもってあげる」


「そうかそうか。んで、ダンは?ダンと一緒じゃなかったのかい?」


 小さなお姉さんとの、ホンワカとした会話を楽しんでいたとき、坂の下から息を切らして走ってくる小さな足音があった。


「アニカ待ってよう。荷物全部持たしといてほったらかして行くんだもん。はあっはあっ」


 この子がこの物語の主人公ダンである。


 精霊に保護され、マサとミサたちの子供として育てられた。名前はダンと付けられ、今は学校の幼年組に通っている。


「ちっちゃい荷物でだらしない。男でしょっ」


 いつもこの調子である。すでに押されっぱなしのダン。


「最近父さんの気持ちがわかりかけてきたよ」


「ダンよ、良いこと教えてやろう」

「うん。なーに、父さん」

「我慢だ」

「ガーーん!!」


 頭を抱えたダンと、アニカとの間を嬉しそうに見つめるマサだった。


 ワイワイ騒いでいるところへ村の青年が


「村長がお呼びです。ダンと来るようにとのことです」


「何!わかった。すぐに行くと伝えてくれ。ちょうどダンもここに居る。ミサに連絡したら直ぐに伺う。そう伝えてくれ」


「はっ。村長にそう伝えます」


「アニカちゃん。悪いが今日はお客さんが来たみたいなんだ。明日朝、また誘いに来てやってくれるかい?」


「うん。わかった。じゃあダン、また明日ね」

「わかった。また明日。明日は絶対負けないからね」

「何回でもかかってらっしゃい。ダンには負けないんだから。じゃあね」


 アニカは足が速く、それが自慢だった。いつも顔を合わせれば、勝負を挑んでくる。ダンも結構走るのは速いはず。しかしアニカの前では、金縛りに遭ったように思うように走れず、アニカに勝ちを譲っていた。


 悔しくもあり、悶々とするダンだった。


「ダン。母さんとお前に今、村長さんところにお客さんだそうだ。一緒に行こうか」


「うん。父さん。誰が来てるの?」


「精霊様のことはお前も知ってるだろう?」

「うん」

「その精霊様が見込んだ仙人様が、世界で何が起きているのか。これから俺たちやお前たちがどうやって暮らせば良いか。教えに来てくれたんだよ」


「ふーん。ねえねえ、仙人様ってどんな人だろうね」

「さあな。父さんも初めて会う人だ。どんな人か楽しみだよ」


「じゃあ僕、先に母さんところに行ってるよ。」

「父さんも直に行く」


 ダンが走って行った後ろ姿を見ながら、おもむろに空を見上げるマサ。


「いよいよか」


 ふっと息を吐き、覚悟を決めるべく、顔を両の手でパンパンと叩いて気合いを込めるマサだった。












ちょっと二歳での会話がむずかしい。異世界では成長が早いと言うことにしておいてください。

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