39 忘れていた約束
うかつに口約束で大変な事態に陥ることはよくあると思います。特に恋人とか夫婦間で。
約束は吟味しましょう。
スザクとゲンブが東で、ビャッコとアニカが西で魔族との戦争が始まった頃、南へ行った父親マサをダン一行は追いかけていた。
村長の所有している竜車を使って、ダンとライカ、サクヤとウサギの獣人八人衆の四人である。
「南に行くときに寄りたいところが有るんだけど」
「ダン君とあんたを南に送れって言われただけで目的は聞いてないけど、何をする気?」
「それなんだけど、ルコイから南の空を隕石が落ちていてね。材料を取り出せるチャンスかなあと」
「へえ、隕石かあ。見たこと無いから見て見たい。行こうよ」
「南へは急がなくて良いの?」
ダンはライカの調査に乗り気である。行程の時間を気にしているのは初登場のウサギである。
「まあ急ぎは急ぎなんだけど、マサさんが居るし、いざとなればこの子達飛んでいけるからって・・・」
「ええ!飛んでいけるの?不思議な子達ねえ。まだ子供みたいなのに」
「ウサギ・・お姉さんは僕たちが子供に見えるの?」
「今なんか変な間があったわねえ。ええ、ちゃんと見えてるわよ。間違いなく子供に。まあそれと強さは関係ないけどね」
「そうよ。この子達、強さはめちゃくちゃなんだから。ライカは兎も角ダンは凄いよ。まだ師匠の域には届かないけど、私たち二人がかりでも危ないわね」
「そんなに?うわあ、楽しみねえ。後で手合わせしてくれない?」
「いいですよ。毎日サクヤ姉さんと修業してますから。夕方の野営地が決まったら、手合わせしましょうか」
「お願いね。楽しみが出来たわ、サクヤ」
「油断したらやられるからね。気をつけるんだよ」
「わかってるって」
「ウサギ姉さんは何が得意なの?当然、仙術かな?あと何か術を使えるの?」
「私は、仙術と精霊術、それに魔法を少し。精霊術と魔法は本来両方は使えないんだけど、昔事故があって死にかけたときにね、師匠が双子の姉と私を一つにしてくれてね。姉は死んだけど身体は残った。姉は魔法が得意だったからね。だから私は魔法と精霊術両方が使えるの」
「そんなことがあったんですか」
「その時、分身が使えたら良かったんだけど」
ダンはウサギをじっと見つめた。
ライカとサクヤも互いの顔を見合わせた。
「皆、どうしたの?私なんか変なこと言った?」
少し焦ったようにウサギが、何かやらかしたのか心配顔で皆の顔を見渡した。
「違うのよ、ウサギ。その分身が使える人が居るの」
「ええ?嘘!どうして?えっ!何処?」
「ここよ。この二人。見て気づかない?」
「??そう言えば、二人似通った年頃ね。何となく顔も・・・て言うか、そっくりね。兄弟か従兄弟?」
「違うのよ。この子はライカ」
「知ってるわよ。さっき紹介してもらったもの。それがなんなの?」
「ライカはダンの分身なの」
「うそ?へ?髪型や雰囲気もダン君とはちょっと違うよ?」
「色々あって今は分身は解けないけど、二人は別々の人格なの」
「はやあ〜!・・・あっごめん。何でもありなのね。ダン君」
凄く珍しいものを見つけたような、正に鳩に豆鉄砲である。
「こんなのは序の口よ。まあ、今は言わないけどお楽しみにね」
「こりゃあ・・・なんかさあ手合わせするの、楽しみなんだけど」
「だから油断しないようにね。特にダン君は、大黒竜アベルナーガの頭を焦げさせた実績があるからね」
「サクヤお姉さんそれは。叔父さんが油断していたんだってば」
「サクヤ。僕の実力も侮らないで欲しいな。ダンとは同じ身体、分身体なんだから」
「何言ってるのよ。あんたが部屋に何時間も籠もってる間ダン君は修業してる御陰でしょ。ダン君に感謝しなさいな」
「いやいや。僕もちゃんと修業してるよ。ダンと・・ねえダン」
「昼ご飯食べた後ぐらいにね。それが澄んだら、お決まり事が始まるから僕は瞑想してるけどね」
「お決まり事って何だよ。・・兎に角僕もちゃんと修業してるし技も増えたんだからね。それにダンに念動力教えたの僕だからね」
「わかったわかった。ハイハイ。自力はダン君と同等、あとはその他の戦闘能力を生かせるかどうかでしょ。やってみればわかるんじゃ無い。ねえウサギ」
「まあそうね。後で私の技も体験してみてよ。二人同時でも良いわよ」
「ダン。どうする?何かすごく侮られてる気がするんだけど。いきなりスーツで驚かせてやろーか?」
「いいよ。でも、改良版はまだテストだから5%ぐらいしか使えないよ?」
ダンとライカが小声で作戦会議しているのを、ウサギの耳が聞いていた。
「サクヤ。二人が話してるスーツって何?」
「スーツ?・・成るほどね。ウサギはまだ見たこと無いから、みたらビックリするわよ。あれこそ反則的な代物よ。ダン君専用だけどね」
ダンたちの向かい合わせで、ヒソヒソと作戦会議を始めたサクヤとウサギ。
「ちょっと。何時まで作戦会議やってんの?皆ウサギに筒抜けなんだけど?」
「えええ!聞こえてたの?どうする?ライカ」
「どうせ対戦するときにわかることだから、僕たちの実力の一端だと思って貰えれば良いんだよ」
「大きく出たわね。あんた、約束覚えてるんでしょうね。負けたら何でも言うことを聞く、あの約束」
ライカはハッと、我に返り頭を抱えだした。その場しのぎに見栄を張って、サクヤの実力を知りながらも勝つと断言してしてしまった約束。
「何のこと?ライカ。何をしたの?」
「いやあ、あははは。あんまり弱いから護ってやるとか、食料の調達も出来ないだろとか、からかうもんだから。やってやろうじゃ無いのってことになって。負けたら何でも一日言うことを聞くって事に」
「あらら」
「そういうことね」
ダンとウサギはあきれて、顔を見合った。
「覚えていたのならよろしい。獲物の確保と対戦。両方で勝たないとだめだからね。しかも二人対戦だから。負けたら両方の言うことを聞く!良いわね!」
「えええ?何で僕まで?」
「可愛そうだけど、分身のライカがした約束だから、本体のダン君にも受けてもらわないと」
「そんなあ。ラーイーカー!」
「ごめんごめん。でも勝てば良いじゃん、勝てば」
迫るダンのほっぺを両手で押さえ、防御。焦りまくっているライカであった。
「まあサクヤもライカいじりはその位にして。もうそろそろ一息入れましょ。地竜も休ませないと」
「そうね。一息入れましょうか」
少し小高い丘。ルコイから南西に走ってこれから南に進路を変える所の大森林の切れ目。東西に流れる川を渡ればジェノーヴィア、ポルゴダ、ルカリアへと続いている。
地竜に水と栄養補給。人は薪拾いと獲物の調査。
ダンとライカはこっそり大物狙いに森の中へ。
サクヤとウサギはお湯を沸かしてお茶を楽しんでいた。
小さい森ではあるが、広さは山二個分ぐらいの広さはある。
木々もそれなりに有り、昼間といえど薄暗く鬱蒼としていた。
ダンは、木や草を分けて足跡を探り、ライカは木の上を器用に渡り、上から獲物を探し、ついでに木の上の卵などを探していた。
木を渡ること20本目。案外早く、卵を見つけた。
サクヤは精霊にダンたちを監視してもらっている。護衛の意味もあり、彼らの様子を逐一報告してもらっていた。
「じゃあそろそろ、私達もちょっとだけ狩りに行っときましょうか」
「そうね。ダン君は別として、ライカにはお姉さん方の強さというものを分かっといて貰う必要があるみたいだからね」
「そうそう。特にこの頃は、ダン君が強くなってきて何故かライカが偉そうなのよね。この頃」
「サクヤにとは、命知らずね」
「どういう意味よ」
「こっちが揉めても仕方ないでしょ。兎に角ちょっと絞めとかないと。行きましょ」
「何となく納得できないけど・・・行きましょ。絶対負けられないからね」
「了解!」
二人はダンたちとは少し離れた森の方角を目指した。
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「ダン。そっちはどう?」
「こっちはいないね。ライカもかい?」
「なかなか餌には食いつかないね。ここの魔物や動物は何か違うものを食べてるのかな?」
二人木の陰から離れたところでヒソヒソと話していた。
「ここはだめみたいだからもう少し奥へ行ってみようよ」
「そうだね。サクヤたちに追い越されないためにも、ぶっちぎりの獲物をゲットしないと」
二人は周りを気にしながら、奥へ奥へと進んでいった。
森の中木漏れ日が眩しいぐらいの昼下がり。
少し明るく開けた場所にライカは顔を出し、あたりをそ〜っと確かめてみた。何か地面が抉れて削られた跡が、数百メートルに渡って続いている。
遅れてダンも同じ場所に屈んで顔だけを木々の間からのぞかせていた。
「あれは何だい?」
「何かが衝突したか?穴を掘ったにしては削れ方が横方向すぎる。これは飛んできた何かが突っ込んで行った跡じゃないかな?」
「じゃあこの先に、その落ちてきた何かがあるかもしれないね。行ってみよう」
「ああ。無闇に近づいたり触ったりしたらだめだからね」
「うん分かった。何かワクワクするね。謎とか危険な冒険みたいで」
「まあ・・油断は禁物だよダン」
「分かったよ」
ダンに忠告しながら、ライカも興味津々である。
何日か前に見た隕石かもと期待しているライカであった。
地面の所々に焦げたような跡があり、大きな何かが這いずり回ったような、獣臭と焦げた匂い。
あちらこちらに獣の足や身体のどこかだと思われるものが飛び散っていた。
「何だこりや。大量の獣同士の争いがあった感じ?」
「それにしても・・・ダン、もう少し奥へ行ってみようよ」
二人は奥へ、奥へと身を低くして草木をかき分け進んでいく。
ダンは何が起こるのかワクワクしながら、いつでも何が起きてもすぐに飛び出していく心の準備をしていた。
「きゃー!!」
誰かの叫び声が聞こえた。甲高い声がかなり遠くで、しかし森の中でもダンとライカにははっきり聞こえていた。
「誰かがなにかに襲われてるのかな。ちょっと上から見てみるよ」
そう言いながらダンが上空に飛び上がった。
「あんまり上がりすぎないようにね。魔族に居場所がばれないように!」
「うん。分かってるって」
ダンが飛び上がり森の上空の空中に飛び出し地面の抉れた前方を目で追った。
約1キロ先に煙が上がり、そのあたりで魔物の咆哮が聞こえた。
「ライカ、前の方で魔物が暴れているみたいだよ。しかも誰かが襲われているみたい」
「じゃあそこからゆっくり飛んでいってよ。僕は下から走っていくから。僕が行くまで手を出さないように」
「了解!」
ダンが素早く空を飛んでいった。
ライカは自作の閃光弾を空に打ち上げ、サクヤに知らせるように合図を送った。
「きゃー!!!」
またも叫び声。ダンは急いだ。
ダンは獣の集団が何かに群がっている後ろに着地、様子を伺う。
狼のような顔にゴリラのような体格。身長は2メートルを超えているであろう巨大な魔物が何十匹も何かを取り囲んでいる。
「なんなんだ。この魔物たちは?」
不思議に思っているダンの後ろから声がかかった。
「ダン。どうなってる?」
「どうもこうも、見たことない魔物だよ。誰かが囲まれてるみたいだよ」
「ちょっとこっちに気を引いてから、片付けていこうか。その間に僕が助けに入るよ。後からサクヤたちが来てくれるから一匹ずつ片付けて」
「そんじゃ片付けますか」
ダンは先ず一番後ろの背中に大声で
「こらー!!!弱い者いじめはやめろ!!!」
「ダン。それはちょっとダサいから。何かもっとヒーローっぽい言い方に変えてよ」
「えええ!分かった。んじゃあ。正義の味方ダンアベル参上!!!」
「それって・・・まいっか。頼んだよダン。こっちも行くよ!」
ダンの掛け声に魔物たちは一斉に振り向いた。
魔物の向こう側にかすかに大木に背を向けて頭から血を流しながらも、短剣のようなものを振り回し、近づく魔物に威嚇していたが今にも倒れそうな様相である。
「ライカ。援護するから急いで助けてあげて。相当参っているみたいだよ」
「わかった」
「君たちは全員こっちで相手するから。向こうは向いちゃだめだよ」
ダンは煽るように指弾を魔物たちの周りにランダムに打ち込んだ。
魔物たちはダンめがけて一斉に襲いかかってきた。
ダンは魔物をひきつけながら後ずさり、囲まれていた血だらけになっているものから魔物を引き剥がすことに成功する。
「ライカ、今のうちに・・・」
「確保。被害者確保」
「なにそれ?被害者には違いないけど。その人を保護したらこっちも片付けていくよ」
ダンはライカの声に首を傾げながらも魔物たちと向かい合った。
ライカはダンに合図を贈り、被害に会っていた者にライカ用特性ジュースを飲ませ体力を回復させ、声をかけた。
「もう大丈夫。傷は大したことないよすぐに仲間が直してくれるから・・・・・」
ライカは被害者の姿を確認した。
「両手両足異常なし。身体に裂傷や傷なし。頭に打撲のための傷はあるものの、命に関わるほどではないみたいだね」
声をかけながらなにか不思議な感覚が、胸にざわつく締め付けるような感じが沸き起こってきた。
「君は・・・・誰?」
ダン 「ライカ、誰だったの?」
ライカ「今思い出してるとこ」
村長 「私、村長だけど出番まだかのう」
ライカ「今思い出してるとこ」




