21 二人の親爺
新章突入しました。
主人公なかなか出てきませんが、ただいま熟成中。
暫くお待ちください。
中央国家郡の比較的大きな国の一つベレーゼ王国。ラモンより南西にポローニャ。更に南にルコイ村。更に南西に王都ローゼンハイム。
ここは隣接する西側にジェノーヴィア公国。南にポルゴダ王国。更に南西にルカリア国。この四カ国で中央国家連合を形成している。
バーレンシアから南東に大森林が伸び、この大陸の陸地中央部分の三分の一はこの大森林に飲まれている。
ゴトゴトゴトゴト・・・・・
荷車の車輪が石にぶつかり”ガコン”と跳ね上がり宙に浮いた。荷車が少し傾いたが御者をしている男はお構いなしに前の地竜に走ることを強要した。
「走れ走れ!急ぐんだ。ベレーゼの王様に知らせないと」
国境を斜めに走る街道を、地竜が飛ぶ勢いで急いでいた。
「えらいことになったもんだ。何としてもこの手紙を王様に届けないと。魔族とだけじゃすまなくなるぞ。ロンちゃん頼むから頑張ってくれよ。あと少しだからよ」
この男、ジェノーヴィア公国とポルゴダ王国の間で海で取れた魚の輸送をしている商人であった。ある出来事を切っ掛けにジェノーヴィアの王様と仲良くなり商業の一切を任されることになったのである。名前はガトー。
ロンと名付けた愛竜に過酷な命令を出すのは心が痛むが今それを問題視するより、もっと切実な問題が起こったのである。
バーレンシアが宣戦布告され、ムーラシアと東の国、つまり魔族との開戦間近の知らせが各国を慌てさせている頃、今度は海から飛龍の大群が港町を襲ってきた。
「海で何かが起きたか、南の大陸?島?有るのか無いのか知らんがそこら辺で何かが起きたかだな。最近の漁が不作なのも関係あるのか?」
地竜の手綱を握りしめながらガトーは考えていた。落ちてきそうな瞼を気力で支えながら、時々頭を左右に振った。
目の前を光りがチカチカと輝いた。
「いかん!体力の限界か。もう三日も寝てないからな。少し休むか」
暫く走ると道端に標識があった。
「左ルコイ村1k、右王都30kか・・・良しルコイでロンを休ませるか」
ガトーは地竜に左へ向きを変えさせた。
またもや目の前がチカチカし出した。
「いよいよ俺もだめかもな。栄養補給もしないと返事を持って帰れねーぞ」
ガトーは自分に言って聞かせるように、ルコイに愛竜を走らせた。
ルコイの村の門番、ボギーにガトーが声を掛けた。
「俺はガトーと言う。ジェノーヴィアからベレーゼの王様に会いに王都に行く途中なんだが、地竜を休ませたい。それと村長に相談したいことがある。会わせてもらえるか?」
「今村長は出かけているが、もうすぐ帰ってくるだろう。村長の家で待たれよ」
「ありがとう。そうさせて貰うよ」
村長の家に竜車を着け、中で食事をしているとマサが青年団の訓練の終了を伝えに事務係に声を掛けていた。
「本日の訓練終了しましたって、報告しといてくれる?ボギーは今日は門の当番だっけ?取り敢えず宜しくね」
「わかりました。マサさん。そちらに村長さんにお客さんなんですが、村長さん出たまま帰ってないので、お相手お願いできないでしょうか?」
「ええ?村長まだ帰ってないの?わかった。話聞いとくよ。ユーミンの頼みじゃ断れねえもんな」
「ふふっ。ええ。お願いします」
マサは受付から村長の部屋へ移動し扉をあけた。
「お待たせしてるようで申し訳ないが、まだ村長が帰らねえもんで、私がお相手させて頂きますが。マサと言います。急ぎの用とか聞きましたが?」
「そうなんですよ。私はガトーと言います。南の海の産物を運んでるもんです。ジェノーヴィアの王様から手紙を預かってベレーゼ国の王様に話してこいと一任されたんですが、もう少しと言うとこで地竜と乗ってる私自身が持ちませんで、少し休ませて貰いに此処によりました」
「なるほど。休むのはいくら休んで貰っても、地竜にも腹一杯食わせてやってください。それで?南の国で何か困ったことでも?」
マサは話しにくいだろうと気を遣いながら、世界の事情を話し合った。魔族のこと。西の国がムーラシアと戦争危機にあること。そのことで仙人が対策に乗り出していること。
ガトーもマサの人柄を見て、南の海からの攻撃を受けたこと。海の産物に異変が起きて居ることを話し合った。
「ガトーさん。王様に会いに村長と三人で行きませんか?此処の村も王都から見学に来るくらい、訓練が行き届いてるって評判で。俺も村長も何回か王都に行って王様に会っているんですよ。それから本格的な対策を話し合いましょう」
「まだ国の方の王様に報告しないと・・・」
「多分、その時間は無いと思った方が良い。こちらで決めてそれを実行しないと、ムーラシアの二の舞ですよ」
「二の舞?」
「そう。あの国、魔族に乗っ取られてしまって・・・表向きは人間の国王がいるみたいに装ってますが、実は魔族らしい」
「そんなあ。中央の国が無くなったら、この世界に人間の住むところがなくなるじゃ有りませんか」
「それを阻止するために、仙人様が極秘で動いてます」
「仙人様が?」
「そうです。時々その人のお弟子さんが、報告に来てくれます。その仙人様の指示で訓練している。対策もしている。だからこの村は慌てないで訓練に勤しんでいられる」
「その仙人様は今は何処に居られるんです?」
「それは俺たちにはわかりません。知っていても言えません。何処で誰が聞いているかわかりませんから」
「なるほど。それもそうですね。今の世界の状況はわかりました。ジェノーヴィアだけじゃ無いって事が。世界で何かが起ころうとしてるって事が」
「お互い苦労をせおってますなあ」
「マサさんも。損な星の下に生まれたのかも」
「めげずに頑張りましょう。村長が帰るまで家に来ませんか。どうせ今から行っても城には入れないし。明日朝一番で入って、王様に謁見するように。門番には連絡させときますんで」
「ではお世話になります」
「もう一寸だけここで待っててください。女房に用意させますんで」
マサは部屋を出てミサの所へ急いだ。ミサは花を抱えて壺に刺し、水を掛けていた。
「ミサ、お客が来たから飯、用意してくれねえかい」
「出来てるよ。さっき精霊様から大事な人が来るから食事させてあげなさいって。明日精霊様も王都に行くって」
「ええええ!精霊様が王都へ一緒にい~?」
「精霊様も心配されていたわ。南も大変だって」
「そうかい。スザクさんに知らせねえといけねえな」
「あんた、お願い」
「任せろ」
マサはスザクの弟子、つまり獣人八人衆に合図を送る手段をスザクから聞いていた。
普通は木をもやし煙で合図するか夜明かりを布で隠し、布の開閉で合図するが、これでは全てが周りに見えてしまい、しかも内容が伝わりにくい。精霊術で送ると内容まである程度伝えられるため、狼煙や明かりよりも伝達が早い。
「微精霊の力お借りします」
マサは大樹のそばへ行き手を合わせた。するとマサの周りに無数の光りが踊るように集まり始めた。
「ウサギさんに連絡を取りたいんだが、直ぐ頼めるかい?」
沢山の光りは五つの集まりになり、それぞれが重なり五層の光の束に変わった。光の束はそのまま空へ舞い上がり、飛ぶ方向を探しているようだった。
やがて方向を見つけ位置を固定すると、カタパルトからロケットが打ち出されるように糸を引くように飛んでいった。
「これで良しと」
マサが連絡を取ろうとしている獣人八人衆の一人、ウサギ。ウサギはクニの代わりにルコイ村と西の街道の中間までを任されていた。
しかし、ムーラシアの不穏な動きに八人衆が二人ずつで動き、もしも魔族に出くわしても片方がスザクに連絡でき、全体が繋がるようにスザクに指示されていた。
マサは神樹から離れ、自宅に帰りミサに連絡したと伝え、村長宅に向かった。
ガトーはウトウトしながら椅子に座り待っていた。
「ガトーさん、ガトーさん。此処じゃなんですから、うちに行きましょう。起きてください」
「すみません。じっとしてると疲れが出て・・・お世話になります。少しだけ休ませてください」
「まあ、ゆっくり・・・とは言えないけど、これからまだまだ働かなくちゃいけねえんだ。今はまだ無理する所じゃ無い。本当の苦労はもっと先。それに向けて準備しましょうや」
ダンが来た頃や、ほんの何年かで起きた出来事ですっかり肝が据わったマサだった。
家に戻り、二時間ほどたった夜の食事時。ガトーが眼を覚まして居間のマサとミサに挨拶に入ってきた。
「どうもすっかりお世話になりました。だいぶ体調も良くなったので・・・」
「いやいや、明日、いや夜が明けたら一緒に王都に行きましょう。行きたいと仰る方も来られるので」
「村長さん意外にですか?」
「そうです。朝になれば来られますので」
「わかりました。では私はもう少し休ませて頂きます」
「どうぞ。ああ、地竜のことは我々が見ておきますので心配なさらずに。良い地竜ですね。名前は確かロンとか」
「どうしてそれを?私言いましたっけ?」
「いいえ。あの子が教えてくれましたよ」
「あの子?」
「貴方の可愛がってる地竜がね」
「まさか?」
「まあ、信じられないのも無理有りませんからね。仙人様が来るまで私たちも同じでしたから」
「私なんか頭が・・・もう少し休ませて頂きます」
「ごゆっくりー」
「あんた、だめじゃ無いの。脅かしちゃあ」
「その内慣れるよ。明日はこんなもんじゃすまないからな。今から慣れてた方が良いんだよ」
これから中央国家郡を背負って立つ二人の出会いが此処にあった。
修行の成果を妾に見せて見よアニカ。
お婆様、それはまだ少し先です。




