１６ 古龍と古代魔法①
間が開いてしまいました。今回は少し短めです。
想像するだけで、例えば花が咲き。
想像するだけで、例えば生き物が生まれ。
想像するだけで、地面が隆起し。
想像するだけで、思い出を再現できる。
ただ頭の中で思い浮かべるだけで・・・・・
そんな古代魔法も使い手を選ぶ。
今や古代魔法を使えるのは古龍、大黒龍アベルナーガ。四大古龍の中の一人だけである。
しかし、他の四大古龍は姿を見せず、その存在も過去の者になりつつある。
西の大赤龍バロン。南の大青龍バハムート。東の大白龍ファフニール。どの龍も生きていれば千歳を優に超えている。
特にバハムートは何度も勇者と呼ばれる人間の神に等しい存在に殺され、そのたびに生まれ変わっている。
大黒竜アベルナーガはバハムートを煩わしい存在に思っていた。
「彼奴が暴れる度に我の肩身が狭くなるわい」
当時はそう思っていた。
しかし、仲間が誰一人いなくなれば次第に寂しくなり、自分で古代魔法を駆使し”祠”つまり寝床を拵え、人間に祀らせた。
自らを神格化することで、祠で閉じこもりながら時代の移り変わりをのぞき見ていた。
ある日、若い人間の男と女が願い事をしに来た。
その願い事とは、
「ロールスと幸せになれますように」
「ルイスに子供が出来ますように」
この祈願にアベルナーガも驚いた。子供など思ってもみなかった。増して自身が子を持つなど考えたこともなかった。
「子供か・・・・子供子供。・・・。我も子供を育ててみるか」
長い長い年月をかけ、古代魔法で子供を具現化したアベルナーガは身体から分離した子供を、言葉を教え古龍の役割、この世の理を古龍魔法で体験させた。
若い黒龍は正義漢であった。この世の正義を背負って、この世を統べる大黒竜アベルナーガの子として、悪を憎んだ。
大黒龍アベルナーガが長い眠りに入った頃、子供は目覚めた。アベルナーガが眠っている間、自分がこの世の間違いを正そう。悪を罰する勧善懲悪を自分が行うのだと信じ、祠を抜け出した。
暗い祠からでた若き黒龍は、山肌の断崖の大きな穴から顔を出し、初めて外の空気に触れた。
やっと手を広げ羽ばたきの練習を何度も繰り返し、風を起こした。
若い黒龍が羽ばたく度に谷間に竜巻が起こり、木々が倒れ、裾野の村はいくつも災害に飲み込まれた。
やっと羽ばたきにも慣れ、身体も軽くなってきた。羽ばたく度に身体が軽くなって浮き上がってきた。
やがて、洞窟の中で羽ばたき浮き上がると洞窟入り口の天井が崩れ、若い黒龍は思わず外へ飛び出した。
思いがけず飛び出した。が、身体はすでに空を飛んでいる。景色はみるみる小さくなり、生まれた祠のある山は遠くに置き去りになった。
高く高く。遠く遠く。羽ばたく度に風が起こり、身体が軽くなった。
地上では、災厄のドラゴンが暴風を呼び起こしたと、慌てふためき、若き黒龍を攻撃し退治しようと沢山の兵を差し向けた。
若い黒龍は困惑した。祠では祀られていたが外へ出てみると、災厄だと、退治する対象に、攻撃する的になった。
自分は世の中の間違いを正し、魔を撃退し、悪を裁く者。何故自分が攻撃されるのか。人間に忌み嫌われ攻撃されるのか。
自分は何なのか。どんな存在なのか。この世の理の中の何処にいるのか。
何年も何年も、夜も朝も、悩み各地を飛び回った。
一人悩み魔物を狩りながら飛び回った。
しかし、どれが善でどれが悪か敵味方入れ替われば悪と善になることを、判断する術を知らなかった。
彼方此方飛び回っているうちに、夜、三日月の横を通り過ぎるとき、有る叫び声が聞こえた。
「黒龍よ降りてこい」
若き黒龍はまた攻撃されると思い飛び去ろうとした。が、またしても
「黒龍よ、私と話をしようではないか」
自分と話をしてくれる？
疑うことを知らない若き黒龍は、自分の正しさを聞いてもらおうと、そして何故自分を攻撃するのか聞いてみたくなって降りていった。
人間と直に話をするのは初めてである。
小さな人間とアベルナーガほどではないが身体の大きな自分が話をすることが、出来ることが少し嬉しかった。
しかし、現実は違った。
目の前にいるのは、人間にしては身体は大きく、頭には角が生えていた。
魔物とも違い、知能があることは解った。しかし何処か違った。だが、話をしてくれる人間など他にいないと、そこは難しいことは目をつむろうと、近づいていった。
「来たか黒龍よ。この世界の歪み、私と一緒に取り除いてはくれぬか。其方の力が欲しい」
やっと解ってくれる者に出会えた。そう思った若き黒龍は一も二もなく同意した。
「友となった証にこれをお前に渡そう」
その者は光る水晶を黒龍に渡した。
若き黒龍がその水晶を手にした、覗いた瞬間、水晶は光り出し周りは・・・暗闇に包まれた。
思考は停止し、善も悪もない。何もない。有るのはあの人間の言葉が全て。それを実行するのみ。
若き黒龍は全てを無くした。記憶も、矜恃も。自分が大黒竜アベルナーガから生まれ落ちた存在であることも。
心が綺麗だけではなかなか真っ直ぐ歩かせて貰えません。
