定刻の彼と懐中時計
最近親が「早く嫁ぎ先を探せ」と五月蝿い。
確かに私もそういう歳だと思う。
でも私には既に想い人が居た。
親には学友の家に居候していると話しているが、本当は彼の家に住んでいた。
それに二人の間では既に結婚を約束していた。
「昇進したら結婚しよう」
一月前、彼は求婚の言葉と共に美しい指輪を渡してくれた。
私は彼と結婚をする。
誰に何を言われようとも私のその意思が揺らぐことは無い。
机の上にある懐中時計を手に取る。
これは彼がいつも肌見離さず持っていた物だ。
「そろそろかな」
時間に正確な彼はいつも定刻の電車に乗り定刻に家に帰ってくる。
もうそろそろ彼が帰ってくる時間だ。
私は玄関前に出て彼を待つ。
懐中時計を見て時間を確認する。
時間になった。
私は彼に言う。
「おかえりなさい」
私はまだ彼の帰りを待ち続けている。