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海で青春~やっぱり夏はいいなー

作者: 沢山書世

実際に行ったときの記憶と、イメージしたものとが混ざっている江の島が舞台です。実際の江の島と差異がある点はご容赦ください。お好みの夏の海の景色を思い浮かべて、心地よい気分になっていただけたらうれしいです。

「文さーん、溶けちゃうから、はやくおいでよー」

 可奈はそう声をかけると、手にした二つのかき氷をテーブルの上に置いて椅子に腰掛けた。可奈お気に入りの場所である。仕事終わりにここに座って、海を眺めながらしばしの時間を過ごすことが習慣になっている。

「あいよー、いつもありがとう」

 文吉が、ビーチパラソルをたたみながら返事を返してきた。

「どういたしまして」

「今日は何味かな?」

「レモンだよー」

「おー、いいねー」

 可奈がスプーンを口に運んで、

「クスッ」

 と小さく笑った。

「俺、なにかおかしなことを言っちゃったかなあ?」

 文吉が可奈に尋ねる。

「ううん、違うの。単なるあたしの思い出し笑いよ」

 かぶりを振りながらそう答える可奈。

「楽しいことかい?」

「文さんと初めてここで会った時のことをね、ふっと思い出しちゃったの」

「俺、なにかやらかしたっけかなー」

「ほら、覚えてない? かき氷の種類のこと」

「ん?」

「文さんは最初、なんて言ってたっけ?」

「あー、あれかあれか」

 文吉の顔が赤くなった。たっぷりと日に焼けているので、赤黒くなった、の方が正しい表現になるであろうか。

「あのことは忘れてちょうだいよ、俺、恥ずかしくなっちまう」

 二人が思い出していたのは、ひと月前、文吉がこの店にやって来た頃のことである。


「はい、かき氷ですね。シロップは何色にしますか?」

「ストップ」

 可奈が文吉を止めた。

「え?」

「そこは色で言うかなあ?」

「いけませんか?」

「あのね、かき氷の種類は、味で言ったほうがいいと思うの。色で言われてももちろん解るし、伝わりはするんだけど、なんかさー、絵の具みたいで食欲中枢に響いてくれないような気がするの」

「すみません。どれも味が同じなものだから、つい・・・」

「確かに味は一緒かもしれないけど、色で言うのは文吉さんぐらいのものだよ」

「そうでしたか」

「レモンとか、メロンってみんなは言っているよ。ほら、あそこにもさ、そう書いてあるじゃない」

 可奈が壁に貼られているメニューを指さす。

「ああ、本当だ、ははは」

「果物の名前で言ってあげた方が、おいしいイメージが湧いてくるのよ」

「レモン、メロン、いちご・・・ そうですね。レモン、メロン、いちご」

「あはは、練習するほどのことじゃあないけど」

「そうですね、ははは」


「うーん、そんなこともあったなー」

「でしょ」

「可奈さんにはほんとうにお世話になっちゃって。いろいろ教えてくれてどうもありがとう」

「いいえ、どういたしまして。ここではわたしが先輩だからね。後輩を指導する役目も社長から仰せつかっているんだから、気にしない気にしない」

「はい、先生」

 文吉はパラソルを片づけ終えると、可奈の隣の椅子に腰を降ろした。首に巻いた白いタオルでおでこをひとぬぐいする。

「ふう」

 江の島の方角からこの海の家へと西日が差し込んできている。

「今日も忙しかったなー」

「うん、そうね」

「このお客の入り具合なら、パラソルは明日も四本は必要だなあ」

「そうね、まだお客さんが減っていないものね」

「・・・」

「もう八月も終わりに近いっていうのになー」

「・・・」

 文吉から返事が返ってこない。可奈が隣に目をやると、文吉は頭を抱えてその場に屈んでいる。

「・・・」

「あーあ。また、キーンってなっちゃったのね」

「・・・うーん、うーん」

「一度に沢山頬張らないほうがいいよって、何度も言っているでしょ。まったくもー」

「それを忘れてしまうんだよね。つい、大量に口の中へ掻き込んでしまう」

「ほんとに懲りないんだから」

「こらえろ、文吉。辛いのは直ぐに治まるぞ!」

 こめかみを押さえながらそう自分に言い聞かせる文吉。可奈はそれにはお構いなしに、右手に持ったスプーンで隣の店を指し示しながら話を続ける。

「よそが店じまいをしはじめてくると、もっと混み合ってくるわよ」

 文吉の苦闘は続いている。

「くーっ」

「うちのお店みたいにまだ開けているところには、その分のお客さんが集まってくるからねー」

「つーっ」

「で、大繁盛してくれるわけよねー」

 文吉が顔をあげた。

「ふー、治ったー」

「あっ、そ」

「あっ、そって、可奈さん、良かったねーくらい言ってよ、冷たいなあ」

「はいはい、今度からはそう言いましょうかね」

「どうせまたやるにきまっている、と決めつけているような言い方だよなあ。それってちょっと失礼なんじゃないのかなー」

「あはははは」

 こういった話をしてこの時間を過ごすことが、この夏の彼らのこの海の家での日課になっているのだ。


 青い空、青い海、白い雲、白い波、砂浜、波の音、白いパラソル、海の家。

 夏だ!

 夏を思い浮かべたとき、これらの映像が次々と脳裏に浮かんできて、心地よさをもたらせてくれる。寒さ真っ盛りの真冬の時期に夏をイメージしたときなどは、それが一層顕著になる。暑さとは正反対の、寒さを肌に感じているからなのか、寒い時の無い物ねだりで暖かさが恋しくなっているのであろうか、とてもわくわくしてくる。幼いころの楽しかった長い夏休みの思い出の引き出しから、数々のイベントで体験した出来事が飛び出してくる。ラジオ体操、スイカ割り、水泳教室、蝉取り、釣り、花火、そして海。どれも楽しい思い出ばかりだが、体感的なことも思い出してほしい。暑い、とにかく暑い。

 昨今の夏は特にそれがひとしおのようだ。今年の夏も、かなり暑いぞ。連日この状態が続くと、どこか涼しいところに逃げ出してしまいたくなる。ここ江の島の海水浴場も、県の内外から水の恵みを求めて繰り出してきた大勢の人々が、海岸線を埋め尽くしており、波打ち際、砂浜、海の家の前、そしてその中も、どこも人、人、人で、連日ごった返している。

 確かに水の中は冷たくて気持ちがいい。しかしそこはなんといっても屋外、あの灼熱の太陽の縄張りである。直射日光が容赦なく降り注ぎ、もちろん家の中にいるときよりも格段に強力な暑さの攻撃を受ける。それを承知の上で人々は時間と労力をかけてこの場所へとやってくる。家族が大勢いるのであれば、前年暑さにやられて懲りた者の口から反対意見が出て、行き先が変更になってもよさそうなものなのだが、毎年懲りずにやってくる家族は不思議と多い。暑い暑いと不平を口にしながらも、言っているその顔は笑っている。本当に海が好き、夏の不動の人気スポットなのである。

 子供だけでなく、大人もここにいられることがうれしくてしょうがない。ついはしゃいでしまう。海に集まる人みんなが、普段からテンションの高い人たちだというわけではない。ほとんどが普通の人だ。夏という季節の、海という場所が人々のテンションをあげてしまう。普段は日向を避けて公園にでさえも寄りつかないような、冷房をこよなく愛する大人たちが、炎天下でビーチボールを追いかけておおはしゃぎ。人目もはばからずにみんな大口をあけて笑っている。無理をしているわけでもない。いやおうなしにテンションを上げられてしまう。海を見たとたん、潮の香りを嗅いだとたん、直射日光をおつむに浴びたとたんに、スイッチが入ってしまう。

 海だ―

 イェーーーイ

 わおー

 はしゃぐぞー

 となる。

 素面のままの状態から、瞬時に酔っ払いへと変身してしまう。海ではこれがありなのだ。

 外でかけるのは恥ずかしいからと、家の鏡の前でしかかけたことのないサングラスを、ここぞとばかりに持参して、堂々とかけたうえで恥ずかしげもなく決めのポーズまでとってカメラに収まる。にわか男前の完成だ。

 困ったサンも出てくるぞ。突然友人や息子の海水パンツを引き下ろそうとするおとうさん。抵抗をされても、一旦入ってしまったスイッチは切れることなく、鼻息を荒げたまま迷惑行為を続けてしまう。自分までもが脱ぎはじめてしまうようだったら、それは本当の酔っ払いだ。

 まわりをながめてみても他の集団の様子もこれと似たり寄ったり、テンションの上がった状態で遊んでいる人がわんさかいる。この季節のこの場所では、無邪気な行為もけっして浮いてしまうことはない。奔放な面をさらけ出しても一向に構わない。ひとりで突然踊りだしたとしても許される。小学校を終えた時点ですでに卒業していたはずの公園での外遊びが、ここ海水浴場で蘇える。

 炎天下に繰り出してきて、しかもお祭り騒ぎをしているのであるから、第一の目的が避暑というわけではない。水はたっぷりあるが、体を冷やすことを目的にわざわざやって来る人はいない。それなら、家なり、自宅近くの公共施設なりで、クーラーに当たっていればいい。それで避暑は事足りる時代である。当然暑いことを覚悟してみんなは海にやってきているのだ。笑いながら、暑い暑いと言い合っている。

 ただ、暑さを過度に体に与え続けるのはこたえる。適度に暑さを浴びながらも、かつ水泳を楽しみ、水遊びをして過ごすのが現代の海水浴スタイルであろう。

 そして欠かせないのが海の家だ。あけっぴろげの場所なので、冷房装置は置かれていない。その代わりに扇風機、うちわ、タオルで涼むということになる。パラソルの陰、冷たい飲み物やかき氷、一時体を休めるにはこれらはありがたい存在だ。


「よー、やってるかなー」

 甲高い声が店の中に響き渡った。二人が声の出所へと顔を向ける。

「あ、社長、ちょうどよかった」

「ん? 僕に用事?」

「はい」

「この暑いのを何とかしろなんて言わないでくれよな、僕なんかの手にはおえないからね」

「わかってます。ほかでもない、ここのお店の話ですよ。いつまで開けておくことにするのか決まりましたか?」

「うん、決まった」

「で、いつまで?」

「客がいなくなるまで開けておこうかなって」

「じゃあ、当分続けることになるんですね」

「うん。この海水浴場の海の家の中で、最後の一軒になるまでやってみたいんだ」

「すごい」

「この際だから、冬がくるまで開けておきましょうか」

「いい意気込みだねえ。ただし、その時期になってもかき氷が売れてくれるのであればの話になるかな」

「それはちょっと無理ですね」

「名案ではあると思うよ。昔と比べて夏が長くなってきているのは間違いないんだからさ。閉める時期だけが昔といっしょ、というのはナンセンスな話だもの」

「そうですよ」

「人はいっぱいやってきているんですもん。夏の遊び納めということで、駆け込み需要がでているのかなあ」

「それ、あるだろうね」

「宿題から逃げ出してきたのもいるな、きっと」

「宿題かー、なんか青春だなあ」

「社長は宿題をすぐに片づけちゃうタイプでしたか?」

「いや、やり残して新学期をむかえていたな、反省はするんだけど、翌年もまたおんなじことの繰り返しだったね」

「やっぱり」

「ははは、たいがいの人がそうだよね」

「あはは」

「まあ、理由はともかくとして、暑さが残っているのであれば人は海に集まって来るものなんだな」

「せっかく来てくれるんだから、そういった人たちのために店を開けておこうということですね」

「うん。カレンダーに影響されることなしにね」

「わかりました」

「それに、ここを閉めたところで、他にやる仕事があるわけでもないしさ。うちは多角経営とはいっても、あとは小さな駐車場がひとつあるだけの零細企業だからねえ」

「他にやることがないからだなんて、とても優雅な話じゃないですか」

「おいおい、そこの部分だけ切り取るかあ? ははは」

「ははは」

「ま、続ける意義はおおあり、だからやりがいあると思うよ」

「ほう」

「青春のお手伝いというお役目さ」

「というと・・・」

「若者たちには、過ぎてゆく夏を存分に楽しんでいってもらいたいわけ」

「へー、社長はお客を単なる金ズルだと思っていたわけじゃあないんですね」

「もちろんだとも! ちっとも儲かっていないところがなによりの証拠だな」

「ははは」

「見直しました。よっ、若者の味方!」

「そんなわけで、ふたりにはこれからも仕事を続けてもらいたいんだよ。明日一日休んで、後半戦を頑張ってくれるとありがたいんだけど、どうだろうか」

「続けるのはいいんですけど、明日休めっていうのがちょっと気になります・・・お店はどうするんで?」

「他のメンバーと僕とでやるさ。彼らには別の日に休んでもらうから、心配しなくても平気」

「そうはいっても・・・」

「大丈夫だって」

「俺は休みをもらっても、何をしていいのかわかりません。どうせなら店に出させてください」

「わたしも出ます」

「可奈さんは休みをもらったほうがいいよ。夏の思い出を作っておかなきゃ。なんといってもここは海なんだからね」

「だったら文さんも」

「俺は今更もういいんだよ」

「だめよ。文さんだって働きづめなんだから、思い出を作るべきなんじゃない」

「なんか、めんどうくさい言い争いだね。この際だから、予定のない者同士で一緒に過ごせばいいじゃあないか」

 社長が口を挟む。

「ふたりで?」

「なんだよ、仲が悪いのかい?」

「いいえ、決してそんなことは」

「だったらそうしなよ」

「はあ」

「もしも明日仕事をするにしても、どうせ一緒に過ごすことになるんだぞ。休みをとって一緒に居るのも同じこと、変わりはないだろうに」

「まあ・・・たしかに」

「ほんとだ、どっちにしても一緒だね」

「じゃあそれで決まりだ」

「ちょっと待ってください。休みが決まったといっても、どこで何をすればいいのやら、自分には思いつかないんですが」

「可奈ちゃんに決めてもらえばいいよ」

「可奈さんに?」

「あたしは文さんの行きたいところに連れて行って欲しいな」

「俺の?」

「うん。海の男でしょ、リードしてくれなくちゃ」

「そういうものなのかな、解った。考えてみるよ」

「よろしくね」

「あれ? 俺が決めることになっちゃったな、おかしいな、なんでだろう?」

「男が細かいことをごちゃごちゃ言わないの!」

「だいたい、俺が海の男に分類されるっていうのは正しいことなのかい?」

「頼りにしてまーす」

 可奈が敬礼で返した。


 おろおろおろおろ

「さあ、どこに行こう、さあ、何をしよう」

 文吉が店の前を右往左往している。

「文さん、まだ決まらないの?」

「そうなんだよ。一晩中寝ずに考えたんだけど、どこもいまいちのようで自信を持って連れて行けそうもないんだよ。可奈さん、どうしようか」

「どこでもいいじゃない。昨日も言ったように、わたしは文さんが行きたいところでかまわないのよ。思い浮かぶ場所、どこかないの?」

「そう簡単に言わないでよ。なんていっても思い出がかかっているんだからね。自分と、そして可奈さんの大切な思い出がね。これはとっても大事な選択になるんだよ」

「こうしているうちに過ぎ去ってしまっている時間の方も大事なんじゃなくって?」

「はっ」

 店の時計を振り返る文吉。

「それもそうだ。もったいない、もったいない、でも決められない、ああー」

「しかたがない、あたしが決めようか?」

「そう願いたいけど、甘えるのも申し訳ないような気もするしなあ」

「じゃあ、じゃんけんで決めようよ」

「じゃんけん?」

「そ、だったら公平でしょ」

「そうだね、それは名案、可奈さん名案だよ。で、勝った方が決めるの?- 負けた方が決めるの? どっちにしよう」

「勝った方が行きたいところに行く、それでどう?」

「そうだね、そうしよう」

 文吉は、出発前だというのに、もう汗をかいている。

「じゃんけん」

 力が入った握りこぶしを振り下ろす文吉。

「ポン」

 文吉の勝ちであった。

「うわー、勝っちゃったよ、どうしよう」

「さあ、潔く行き先を決めてちょうだい」

「そうだよね、勝った方が決めるという約束だったものね」

「そ」

「えーとえーと」

「早く」

「これって何回勝負だったっけ?」

「一回に決まっているでしょ、往生際が悪い!」

「ごめんごめん、じゃあ、とりあえず歩こう、・・・それでどうかな?」

 文吉が可奈の顔色を覗う。

「うん、それでいいよ。そういうのもアリね」

 ようやくスタートをきれたふたり、ゆっくりと砂浜を歩き始める。

「本当はね」

「ん?」

「なんとなく思っていたんだあ」

「何を?」

「歩くだけでも充分なんじゃないかなあって」

「ふーん」

「でも、そんなことは言いにくくてさ」

「なんで」

「それだけじゃあ芸がないというかなんというか」

「そんなふうに思ってたんだあ」

「うん。でも、じゃんけんに勝ったんだから僕が決めていいんだよね、堂々と歩いてもかまわないんだよね」

「うん」

 とにもかくにもふたりのデートが動き出した。

「おはようございまーす」

「こんにちはー」

 店先で開店準備をしている同業者たちから次々と声がかけられる。ただ歩いているだけだから、二人がデート中だとは誰も思っていない。

「砂浜は知り合いばっかりだ」

「これじゃあ、なんだかいつもと変わりばえしないね」

「そうだね。ちょっと表に出てみようか」

 表というのは海の家の裏側のことである。コンクリート製の防波堤で、人が歩けるようにと上を平らにしてある。歩道を作ったらそれが防波堤になったのか、防波堤の上を歩道として利用しているのか、それは解らない。表側に移動すると、顔見知りの数がぐっと減った。遠来近来の来訪者たちが多数派になっている。人の流れに身を任せて歩いているうちに、二人は弁天橋へと入っていた。

「これで行先は江の島に確定ね」

 と可奈。

「うん」

 目的地が決まって文吉は幾分ホッとした様子だ。

 江の島、そこは海水浴客と観光客が共生している場所。水着にビーチサンダルという出で立ちの人もいれば、Tシャツにジーパンといった姿もある。すれ違う人たちはみんな笑顔だ。家族連れ、カップル、友人同士が楽しむためにやって来ている、まさに観光地、そういった場所だ。その江の島に通じている弁天橋を二人が歩いて行く。橋は右側が歩道、左側が車道と住み分けになっている。

「文さん、ちょっと聞いてもらえる?」

「いいよ、なに?」

「女子を守るのが男らしさだと、わたしは思っているわけなのよ。古臭いかもしれないけどね」

「その意見には俺も賛成だ」

「だったら文さんとあたしの立ち位置がね、逆になっているんじゃないのかなあって思うの」

「あっ、ご、ごめん」

 あわてて可奈と入れ替わる文吉。

「ありがとう」

「ごめんごめん、車道側には危険がいっぱいだものね」

「本命の人と歩く機会が訪れたときに、同じことをしたら目も当てられないからね。今日はそのときのための練習」

「教えてくれてありがとう」

「いいえ、どういたしまして」

「間違ったことを俺がやっていたら、また言ってほしいな」

「うん、お節介やかせてもらおうかな」


 こんな話しているうちに江の島に到着した。

「とりあえずお参りをしておこうと思うんだけど」

 文吉が可奈にそう提案する。

「うん、いいよ」

 江の島神社へと向かう参道は砂浜を歩いていたときとは違った気分で歩けた。大勢の人たちで賑わっているのは同じだが、同業者からの干渉を受けることがないのだ。二人を知る顔ぶれは海水浴場で仕事をする人たちの中だけに限られている。仕事場の目と鼻の先であるのにもかかわらず、ここ江の島では他者の視線を意識することなく過ごすことが出来た。ふたりっきりになれる世界だった。


「文さんたら、お賽銭を千円も入れちゃっていたでしょ」

「うん、ちょっと奮発しすぎたかな」

「いったい何をお願いしたのかしら」

「素敵な人とのデートがうまくいきますようにって」

「いやみか、それは」

「素直に受け取ってちょうだいよ」

「で、自分のことは何をお願いしたの?」

「それはなし。お礼を言っておいただけ」

「お礼?」

「いつもありがとうございますって」

「ばかねー、これから先のことをお願いしなさいよ。千円よ、千円。文さんのことだから、だいそれた望みなんかはないんでしょうけど、ささやかなお願いなら多少はあるはずよ。 千円だったら十個はお願いする権利はあるわ」

「願い事に、値段の相場があるのかい?」

「あたりまえでしょ。逆に考えてごらんなさい。一円のお賽銭でみんなから百個ずつお願いされたら、神様もたまったものじゃあないでしょ」

「まあ、そうかもしれないね」

「そうよ。今からでも遅くはない、追加のお願いをしたほうがいいわよ」

「いやあ」

「まったく遠慮しいなんだから。あたしが残りの九個をお願いしてあげてきてもいいのよ」

「じゃあ頼むよ」

「頼むよじゃないでしょ! あのねえ、文さんには欲というものがないの?」

「持ってはいるつもりなんだけどねえ」

「だったらそれを神様に伝えればいいじゃない」

「ずうずうぃいような気がしちゃうんだよね。欲を出すのはほんの少しじゃないと申し訳なくって」

「ふうー、まったく。文さんは、文さんらしい人だわね」

「すまない」

「神様は、文さんのそういったところをどう見るのかしらねえ」

「おみくじで確かめてみる?」

「あっ、それ名案。そうしよっ」


 文吉がおみくじ箱へと手を伸ばすと、横から割り込んできた手が当たった。

 文吉は手をひっこめて、

「あ、お先にどうぞ」

 と、横入りのおばさんに先を譲った。

「すんまへんな、遠くから来たもんですきに、じゃあお先に」

 おばさん二人組が理由にならない理由を言っておみくじを引いていく。

「五十番か、まあまあの数字じゃな」

「あたいは三十番」

「あんたもまあまあじゃの」

 おばさんから、お待たせと言われて手渡されたおみくじ箱を、文吉が可奈へと回す。可奈はそれを三回振ってからくじ棒を引きぬいた。

「七番だ、いい数字」

 続いて文吉が引く。

「俺は七十七番。二人とも幸先いい数字がでたね」

 それぞれの数字が表示されている引き出しからおみくじの本体を取りだし、まずは文吉が開けてみた。

「げっ、大凶だって」

「なにそれ」

 言いながら可奈も自分のおみくじを開いてみる。

「うっ、大凶・・・」

「ははは・・・さっきのラッキーセブンはなんだったんだろう」

 浮かない表情の二人とは対照的に、

「やったー、大吉だって」

「わたしも大吉」

 二人の横入りおばさんたちは大喜びだ。

「やっぱり日ごろの行いかしらねえ」

「神様は見てくれているんだねえ」

 それを耳にした可奈が、いい気がするわけがない。

「本当はあたしたちが大吉を引いていたかもしれないのに」

「まあまあ可奈さん、いいじゃないの。それよりこのおみくじを何とかしないと。どこかに結んでおけば厄が落ちるんでしょ」

「そもそもは、文さんが遠慮して、おばさんたちのずる込みを許してしまったからこんなことになったんじゃないの」

「すみません」

 文吉がしょんぼりと小さくなった。

「まったく! カッカしたらなんだか暑くなってきちゃった」

「かき氷でも食べて冷やすかい?」

 可奈の顔色をうかがいながら文吉が尋ねる。

「毎日食べてるからいらないわよ!」

「じゃあ、アイスクリームなんかは」

「あ、それならいいわ」

(よかった。機嫌が直ってくれるといいな)


 注文したアイスクリームが二人の前に運ばれてきた。伝票と、二枚の紙片が添えられている。

「福引券です。今週はセール期間になっていましてね、時間に余裕があるようでしたら、この券をお持ちになって、福引会場まで足を運んでください」

 おかみさんからそんな説明があったが、今はそんなことよりもこっちの方が大事だと、アイスクリームの方に手を伸ばす可奈。

「おいしい」

 完全に機嫌がよくなっている、文吉は一安心だ。

「うちでもアイスクリームをやればいいのに」

「それがだめなのよねえ。今の品ぞろえでうちの冷蔵庫はいっぱいいっぱい、もう他の材料の入る余地がない」

「そうかあ」

「アイスクリームを入れる代わりにかき氷をやめてしまう、というわけにもいかないしねえ」

「じゃあ、冷蔵庫をもう一台買えばどう?」

「高価なものだからちょっとねえ・・・社長にそんなこと言えないわ」

「ふーん」

「こんなにおいしいんだから、出せば売れること間違いなしなんだけどね」

「そうだよなあ、何とかならないものかなあ」

 アイスクリーム好きの二人、ウエハース製の容器までしっかり平らげた。

「もうひとつどう?」

 文吉が可奈にお代わりを勧める。

「ううん、これで充分」

「そう。じゃあ、出よっか」

「うん」

 席を立った二人がレジへと向かう。そこで別のカップルとかち合った。

「あっ、お先にどうぞ」

 先を譲る文吉。

「またあ」

 可奈が文吉の脇腹を突っつく。

「ここはいいでしょ。順番で値段が変わるなんてことはないだろうから」

「そうね。少しばかり待ったとしても、貧乏くじを引くことはないものね」

「あっ」

「そうだ、くじがあった」

 前の客の支払いが済むと、

「おかみさん、お会計、急いでください」

 可奈が急かす。

「わかりました。あっ、お釣りの百円玉が切れちゃってる」

 とおかみが叫ぶ。

「ちょっと待っていてくださいね」

 そう言い残して奥へと行ってしまった。


 福引会場へと駆け込んできた二人。

「こちらへどうぞ」

 係の人に案内され、列の最後尾に並んだ。二人の前には先ほどのカップルがいた。

「なんだかやな予感」

 可奈がつぶやく。

 そのカップルにくじの順番が回ってきた。

「二回引いてください」

 と係の人が促す。

「一回ずつやろうか」

「うん」

「じゃあ、まずは僕から」

 回転式福引器の取っ手を慎重に一周させる成年男子。

 カラン

 銀色の玉が皿の上に落ちた。

「大当り―。一等、冷蔵庫ゲットです!」

 続いて女子。

 カラン

「またまた冷蔵庫。連続大当たりいー」

「やったね、お互いの実家にプレゼントしよう」


 大当たりの目録受け渡しが終わると、可奈と文吉の順番だ。

「冷蔵庫はまだありますか?」

 係の人に訪ねる可奈。

「あー、残念ですが、今ので終わり。一等は二本だったんですよ」

「そうですか」

 二人が肩を落とす。

「その代わり、特賞のクーラーがまだ残っていますから、頑張ってください」

 結果はティッシュニ個獲得。

「惨敗だ」

「あーあ」

 足取り重く会場を後にする二人。

「冷蔵庫を手に入れられたはずだったのに」

「そうね、残念だったわね」

「俺のせいだ」

「そんなことないでしょ、ついていなかっただけよ」

「いや、俺が悪かったんだよ、可奈さん、すまない」

「べつに損をしたわけじゃないし」

「で、でも・・・」

「得をしそこねただけじゃないの」

「あのカップルにレジで先を譲らなければ、冷蔵庫は俺達のものだった」

「かもしれないという話でしょ」

「くそっ、冷蔵庫が手に入っていれば、可奈さんにアイスクリームを好きなだけ食べさせてあげられたのに・・・」

「まあまあ」

 文吉をなだめる側にまわる可奈。

「おみくじだって、本当なら自分たちが大吉を手に出来ていたはずだったんだ。

 それを・・順番を他の人に譲ったばかりに、可奈さんに大凶を引かせてしまうことに・・・」

「まあまあ、そう落ち込まないでよ」

「くそっ、自分に対して頭に来た!」

 文吉の眉に力が入った。

「遠慮するのはもうやめだ!」

 文吉の口元が一文字になった。

「これからは図々しく生きていくことを太陽に誓おう!」

 空を仰ぎ、太陽を睨み付けるが、眩しくてすぐに目を閉じた。

「図々しくするっていうことは、他人を押しのけていくということでしょ、それはいかがなものかしら。だいいち、文さんにそんなことが出来るの?」

 可奈が諭し尋ねる。

「無法者になろうというわけではないんだから、大丈夫だと思う」

「そう?」

「他の人と同じだけの権利を主張しようというだけのこと。他の人がやっていることは、自分も同じようにやってもいいんだよね」

「もちろんそうだけど」

「さっきのあれはもったいないことをしたな、とか、あれは悔しかったよ、とか、そんな後悔をもうしたくないんだ」

 可奈を見つめる。

「まあ、遠慮し過ぎの今のままでは、文さん自身が可哀そうではあるけど」

「とりあえずは自分の気持ちに正直になってみようかと思うんだ」

「新しい世界に一歩踏み出す、それはいい選択なんじゃないかな」

「ありがとう、なんだか淀んでいた気分に晴れ間がさしてきたなあ」

「そ、よかったね」

「じゃあ、気を取り直して登って行くとしようか」

「ねえ、エスカーに乗ってみない?」

 佳奈子が乗り場を指さして提案する。

「いいね、そうしよう。ん?」

 目の前の食堂から、食事を終えたカップルが出てきた。

「美味しかったね」

「うん、満足満足」

 見つめ合いながら腕を組んで階段を上っていく。

「いいなあ、うらやましいなあ」

 文吉が立ち止まってカップルの後ろ姿を見つめている。その脇を今度は別のカップルが通り過ぎていった。このふたりは先のカップルとは違って腕を組んではいない。が、階段の前でいったん立ち止まったかと思うと、

「さあ、行こう」

 男の方がそう言って手を差し出す。女子がその手を掴んで一緒に階段を上り始めた。

(これだ! 階段には手をつなぐチャンスが潜んでいる。こいつを利用しない手はないぞ)

(だけど、女性と手をつないでみたいなどとは俺の口から可奈さんには言いだせないよ。どうすりゃいいんだ)

 腕組みをして考え込む文吉。

(あのカップル達ときたら、なんの苦労も無くあっさりと手を握りやがって。双方が引き合っている場合っていうのは、ほんと楽ちんなものだよな。全く持って羨ましいかぎりだ。それに比べてこっちの願望は完全な一方通行だからなあ、しかも、険しくて高―い山道のようなものなんだもの。先方がその気になってくれなければ登り始められないし、願いがかなうどころか蹴落とされてしまう確率の方が圧倒的に高いときている)

(彼らは神社でお願いなんかしなくてもいいんだろ、どっちかがスッと手を出せば、相手がその手を掴んで、いとも簡単につなぐことが出来るんだものな)

 ふうーとため息をつく。

(俺なんかが手を差出したら、どういう意味に取られることやら。まず、確実に警戒されてしまう。可奈さんの手がこっちにすんなりと伸びて来ることはない、きっと無視されるだろうな。もしも手が伸びてくることがあったとしても、それは荷物付きだろう。そして自分はその荷物を受け取って歩くことになる。ありがとう、お願いね、とかなんとか言われてね。いや、そういったタイプではないか。次に考えられるのはじゃんけんと間違えて後出しチョキを出してくるケース。この場合は、可奈ちゃんはじゃんけんが強いなあと言って切り抜ければいいかな。問題はこっちが手を伸ばしていることに気付かないふりをされたときだよ。出した手を引っ込める理由はどうする? 理由が見つからず、一時間も二時間もずっと出しっぱなしで過ごすのは辛いぞ。引っ込める理由を探してからでないと、うかつに行動には移せないな。いやいや、そんなことを考えている時間などないよ。おいおい、考えれば考えるほどトンチンカンなことが頭に浮かんでくるぞ。いったいどうすりゃいいんだろう、どうすりゃ願いがかなうんだろう)

 憔悴し切った表情の文吉を、可奈が心配そうに覗き込んでいく。

(平らな場所では手を繋いでもらう正当な理由は見つからないな。曲がり角だから手をつないでいこう、そんなことを言ったとしても、ちっとも説得力はないもの。エスカーに乗るのは問題外だな。せっかく階段があるんだから、ここを利用しない手はない)

(もっともらしい理由を考えろ)

(もっともらしい理由だ)

(なにかないか)

(そうだ!)

(階段の途中までいってから、上がどうなっているのか気になるなあ、そう言い出そう。急いでなどいやしないけれども、ちょっと急ごうかと提案してみよう、大声で叫べば疑問を持つよりもびっくりする方が勝ってくれるはず。そこに手を差し出すんだ、自然を装ってさりげなく出せばいい)

 よし!

 理論上では夢が実現した。文吉に気合が入る。

(さっきの決心を実行に移す時が来たな)

「可奈さん、やっぱり階段で行こう」

「文さんは徹夜明けなんでしょ。寝不足の身体にこの階段はきついんじゃないの? エスカーでいこうよ」

「いや、大丈夫、普段はたっぷり寝だめをしているからね」

「それって、効果あるの?」

「いいから、いいから。ほら、こんなに元気だ」

 言いながらラジオ体操を始める文吉。

「わかったわかった。恥ずかしいから止めて、階段で行くから止めて」

「うん」

「そのかわり、くれぐれも足を踏み外したりしないように注意してね」

 一歩一歩慎重に登っていく二人。

「はあはあのはあ」

 ものの十段ほど行ったところで息を切らしはじめた文吉、顎が上がってきた。必然的に上を見上げる形になる。見たくない先行きが見えてしまった。

「まだけっこうあるなあ」

(急ごうと提案するどころか、下に戻ってやっぱりエスカーで行こうって言いたいくらいにしんどくなってきた)

「よいしょ、よいしょ」

 自分の身体にかかっている負荷がどれくらいのものなのか、どんな思いで足を動かしているのか、それが口から出てきた言葉でよくわかる。

(そろそろ作戦を決行しないと、手をつなぐ時間が減ってしまうぞ。上にたどりついたらすぐに手を離されてしまうだろうからなあ)

「文さん」

 数段先を登っていた可奈が後戻りしてきて、文吉の目の前に手を差し伸べてくる。

「掴まって」

「すまない」

 可奈の手を両手で握り、ぶら下がるようにして一歩一歩足を上げる。踏み外さないよう気を付けながら一段一段階段を登っていく文吉。最後の一段を登り切って、その場にしゃがみこんでしまった。

「ふー、ふー」

 息切れがひどい。

「もう無理はしないでね」

 可奈がその手を離した。

「どうもありがとう、助かったよ」

 はっ!

(しまった! 念願の、女子と手をつなぐという希望が叶えられていたというのに、登ることに必死で、その感触を味わっている余裕がまるっきりなかったぞ)

 目をつぶって、手のひらに意識を集中して、今さっきここにあったはずの感触を必死で思い起こそうとする。

(ちっとも残っていないや。せっかく願いがかなったというのに、手が覚えてくれていないとは・・・くっそー、なんてもったいない。。。)

「さ、あっちで休みましょ」

 再び可奈の手が文吉に差し伸べられた。

「え?」

 ズボンに手のひらをこすりつけてから、可奈の手をそっと握る文吉。

(やわらかい)

 可奈の手を借りて立ち上がった。見届けた可奈が手を離す。

「ちょっと、可奈さん可奈さん」

「なあに?」

「そりゃないよお」

「なにが?」

(せっかく手をつないでもらえたと思ったのに、すぐに離すだなんてつめたいなあ)

 そう思いはしたが、それは言えない。

「なんかまだ疲れているようでさあ。もう少しの間、手を貸しておいて貰えないだろうか」

「しょうがないなあ。無理するからよ、はい掴まって」

 文吉を引っ張って可奈が歩き出した。

「うわっ、文さん、手にたっぷりと汗をかいてるね」 

 これは文吉だけの汗ではない。気付いてはいないようだが、可奈も汗をかいているのだ。だから二人分の汗、たっぷりに感じるはずだ。

「強くは握らないでよ」

「なんで?」

「いつでもパッと離せるようにね。だから軽くつなぐだけにしてちょうだいね」

「刺さるなあ。それが弱っている人間に対して言う言葉ですかあ?」

 顔を近付けて訴える文吉。

「ちょっとくっつきすぎ」

 文吉との間隔を広くとる可奈。繋いだ手を二人して真横に伸ばした状態になった。

「可奈さん、これで歩くんじゃあ疲れちゃうよ」

 少しずつ二人の距離を可奈が縮めていき、ほどほどのところで落ち着いた。

 元気が戻ってきた文吉。足取りがリズミカルになった。

「青春はいいもんだなあ」

「え? これが?」

「そう、俺にとっては青春だよ」

「手をつなぐことが?」

「そ」

「なんだ、そうだったの」

「うん」

「文さん、よかったね」

「可奈さんのおかげだよ、ありがとう」

(文さん、そうだったの)

「いいえ、どういたしまして」

(わたしのしていることは、はたして正しいことなのだろうか・・・)


「青春という言葉が似つかわしい年頃は、もうとっくの昔に過ぎ去っちまったと思っていたからなあ。青春っていうのはさあ、あれだよな、なんといっても年の若い人たちに与えられる、その時期だけの特権としてあるものだよな、ってね」

「そんなことないでしょ」

「年齢の限界を自分で設定していてさ。せいぜいいっていても三十歳とかさあ。いったい幾つだと思っているんだい? もうどっぷりとおじさんの領域に浸ってしまっているんだよ、ってね」

「それは青春を使い切ってしまった人の言う言葉よ」

「やり残していることはたくさんあるものなあ」

「だったら青春は残ってる」

「うれしいねえ」

「使わなければ減ることはないの。ちゃんと残っているのよ」

「俺にもまだ青春がある・・・ふふふ」

「青春をすべて使い切って、そこで初めておじさんになれるんだよ」

「なるほどねえ」

「君にとって青春とはなんだ!」

「おおっ、いきなり青春ドラマっぽいせりふになったね」

「さあ、心に浮かんできた言葉をそのまま言ってみて」

「チャレンジ・・・かな」

「そう、冒険心よね、それから?」

「失敗を恐れない!」

「そうそう、いくらでもやり直しはきくものだからね。さあ、それから?」

「若気の至り、これを忘れちゃいけないね」

「なんかムシのいい言葉みたいだけど、そうよね」

「うん、とても便利な言葉だよ」

「ふふふ」

「楽しい楽しい」


(ま、こうやって喜んでくれているのだからいいのかな)

「いつまでもこうして歩いていたいなあ」

 文吉がしみじみと言っている。

(ただ、この先文さんの願望がエスカレートしていくなんてことにならなきゃいいんだけど・・・ま、それについてはその時になってから考えることにしよう。それよりも、今起こっている問題をなんとかしなきゃ。手のひらがべとべとしてきて、気持ち悪い)

 前方にカフェが見えてきた。

「ちょっと休憩しよ」

 これは可奈からの提案だ。

「休憩? まだいいんじゃなの?」

「疲れているのは文さん、あなたなのよ」

「え? 俺なの?」

「さ、入りましょ」

 店の中に入り、手を離そうと可奈が力を抜いた。ところが文吉の手には力が入ったままだ。

「店の中よ、もう手を離さなきゃ」

「せっかくつないだ手なのに・・・」

「ほら、店の中で手をつないでる人なんていないでしょ」

 辺りを見渡しながら説得に入る可奈と、渋々だがやっと手を離した文吉。案内されたテーブル席に腰を降ろした。

「よっこらせ」

「ほら、そういった掛け声が出てくるということが、疲れている証拠なの」

「心配かけてごめんなさい。手をつなげたことがうれしかったもんだから、脳も神経も疲労の方にまでは気が回らなかったんだろうね」

「いらっしゃいませ」

 やってきた店員が、水の入ったグラスをテーブルに置いた。

「ご注文がお決まりになりましたらお声掛けください」

「はい」

 店員が離れていった後、文吉が可奈にささやいた。

「あのさ」

「なあに」

「考えてみたら、神社に行くのも喫茶店に入るのも、女性と二人きりでっていうのは今日が初めてだった」

「そうなの? 今日は文さんにとってはお初尽くしの一日になりそうね」

「そうなんだよね、わからないことだらけで困っちゃうよ」

「ふんふん」

「そこで教えて欲しいんだけど、喫茶店では、いったい何をしゃべればいいんだろうか」

「今更何を言っているの、さっきアイスクリームを食べたのも喫茶店の様なものだったでしょ。何を話したか思い出して御覧なさい」

「なんだったかなあ」

「すぐには出てこないでしょ」

「うん」

「そう、それでいいのよ。とりとめのない話でね。決められた話題なんてないんだから。なんでもいいのよ」

「なんでも?」

「そ。いつもしゃべっていることでかまわないのよ。普段と違った、なにか特別なことを話そうだなんて考える必要はないの」

「その普段には、俺は何をしゃべっていたっけ」

「べつに考えて話を絞り出してはいなかったでしょ」

「うん、絞ってはいなかったな」

「無口ではなかったわけだし」

「うんうん」

「文さんはむしろおしゃべりな方に入るんじゃないかしら」

「そうかい?」

「とにかく、何をしゃべろうかだなんて、変に意識をしない事。自然に任せておけばいいの。勝手に言葉が口から出て来るわよ」

「そうか」

「それにね、黙っていちゃいけないというわけでもないのよ」

「そうなの?」

「今話題がなくても、ボーっと海を眺めていれば、そのうち話したいことが浮かんでくるんじゃないかしら」

「うんうん、そうなってくれるのであれば、とっても助かるなあ」

「どう? これで安心できた?」

「うん、ありがと」

「それじゃあ、とりあえず注文を決めちゃいましょ」

「おっと、そうだったね」

 脇に置かれていたメニューを手に取り、テーブルの上に広げた。

「わっ、レモンスカッシュがある。これにしようっと」

 可奈が先に注文を決めた。

「さわやかな感じがいいな。それが青春の味なのかな」

「あのね文さん、青春に味という言葉をつけるのもなんか違和感があるよ」

「そうか、時代なのかな」

「で、文さんはなににする? おんなじもの?」

「うん、俺も青春の味がいい」

「すいませーん、レモンスカッシュ二つくださーい」

 先ほどの店員に可奈が注文を入れた。

「そうだ、ちなみに、世間の人たちは何を頼んでいるんだろう」

 辺りを見渡す文吉。首を回すこと二往復目、ある地点で文吉の視線が止まって、その表情に明らかな変化が。異変に気付いた可奈が文吉の視線の向かっているその先を追いかけていくと、そこには向かい合う一組のカップルが。テーブルの上に置かれているジュースグラスはひとつだけ、それにストローが二本入っている。

 これはまずい、動揺する可奈。

「ああいったものは、見なくてもいいの」

 文吉の顔を両手で挟んで、こちらに向き直させた。

「うらやましいなあ」

「あっちゃー遅かったか。しっかり目から洗脳されてしまってる」

「ねえ、可奈さん、俺もあれをやりたいんだけど」

「ああいうのはね、もう古いの」

「俺は古い人間なんだから、別にかまいはしないだろ」

「はやらないことはやめておいたほうがいいわよ」

 文吉は運ばれてきたばかりの自分のジュースを急いで飲み干すと、

「ほら、なくなっちゃったよ」

 と言って自分のストローを可奈のグラスに差し込もうとしている。可奈の忠告をまるで聞いていないのだ。

「やめてよ」

 自分のジュースを急ぎ手元に引いて逃がす可奈。

「それ頂戴よ。一緒に飲ませてよ」

「ジュースが欲しいのなら、お代わりを頼めばいいでしょうに」

「可奈さんの、そのジュースじゃなきゃ嫌だ」

「じゃあこれをあげるわ。これを自分のグラスに一緒にいれて」

 言いながら自分のストローを差し出す可奈。

「ストローだけじゃだめなんだよね。肝心なのは一緒にジュースを飲むこと。それが青春なんだってば」

「また青春か」

「飲まなくてもいいからさ。口をつけているだけでもかまわないからさ、可奈さん、どうかお願いします!」

「ああいったことは、恋人同士じゃないとねえ」

「キスしてくれとは言っていないんだよ」

「間接だとはいえども、キスはキスだから」

「さっき協力してくれるって言ってくれたよね、ね、ね、ねー」

「それは言ったけど・・・」

「けど?」

「わかったわよ! 協力すればいいんでしょ」

 テーブルの中心に置いたグラスに向かってゆっくりと近づいていく二人の顔と顔。

「うわっ」

 文吉が突然顔を引っ込めた。

「あともう少しのところだったのに、どうしたんだろう」

 寄っていこうと、もう一度試みたのだが、

「わわっ」

「どうしたのよ」

「で、出来ない」

「は?」

「はーはー」

「ちょっと、大丈夫?」

「息切れしてきた」

「文さん・・・」

「くそっ、こんなことが出来ないとは」

 文吉は女子の顔に近づくとドキドキしてしまうらしい。

「文さん、汗をかいてるよ」

「ん?」

「額と首のところ」

「ほんとだ。なんだ、喉が渇いているのはそのせいか」

 目の前のジュースに手を伸ばしたかと思うと、ストローを抜いて一気に飲み干してしまった。

「ふー、うまかった」

「あーあ」

「え?」

「・・・」

「あーっ、大切なジュースだったのに、自分で全部飲んじゃったよ」

「まったく」

「あーあ、間接キッスがパアだあ、なんだよー」

「どのちみち出来ないんだから、いいでしょ」

「それはまあ・・・」

「こういった挫折も、まあ青春のうちかもね」

「そうか、そういうことなのだな。また一つ青春を経験できたんだと感謝しておけばいいんだね」

「切り換えが早くて潔いこと」

「ショックは大きいけど、そうとでも思わないと、やっていられないよ」

 文吉を可愛そうに思いはするものの、どこかホッとしてしまう可奈だった。

「はあー」

 ため息とともにうなだれる文吉。

(本当は立ち直ってなんかいないんだわ。しょぼんとしちゃって、なんだかかわいそうかな)

「さ、外に行って、気分を変えてみましょ」

(空気が重くて、ここには居られないわ)

 これが本音だ。

「とにかく遊びに行きましょ。さあ、外で青春を満喫しましょ」

 可奈は文吉を店から引っ張り出した。


 江の島の側面右側半分には岩場が広がっている。しゃがみこんでそこかしこに出来ている水たまりに目をやると、たくさんの小動物の姿が確認できた。ヤドカリ、小魚、それらを目にした途端、子供時代へと一気に遡った文吉。擦り傷を作りながらでも楽しく遊んでいたころの遠い思い出が蘇えってきた。波の動きで見え隠れしているヤドカリを、満ち引きのタイミングをうまく計って素早く手でとらえた。波しぶきが顔に当たって塩辛い。

「ほら、かわいいヤドカリ」

 可奈に差し出して見せる文吉。目が輝いている。

(ヤドカリがかわいい、ということには私も同感ではあるんだけれど・・・)

「どうしたの? 浮かない顔をしているね」

「ちょっとね」

「せっかく来たんだから、楽しまないと」

「うん」

「ほら、あっちのカップルも楽しそうにしているよ」

 文吉の指さす方に可奈が視線を向ける。

(あれは小学校もまだこれからの子供たちでしょうが。親らしい姿が見守っているから、おそらくは兄妹ね。わたしもあれくらいの頃は同じようにしていたなあ。でも今はもう無理なの)

 ヤドカリだけならいいのだが、それと一緒に舟虫のうじゃうじゃが目に入ってしまう。あれがTシャツの中に侵入してきてパニックを起こした過去の苦い体験を可奈は思い出してしまった。

「うわー」

「どうしたの、可奈さん」

「聞かないで、もう思い出したくないんだから」

「え? なんだかわからないけど、大丈夫?」

「場所を変えましょ」

 可奈の表情が青白くなっている。

「解った、急いだ方がよさそうだね」

「うん」

 可奈が先を行き、文吉がそれを追いかける。

「岩場での青春は気に入らなかったの?」

 後ろから声をかける文吉。

「青春時代よりもその前の時代にちょっと事件があってね」

 何も知らなかった幸せな時代。見るものすべてが新鮮で、キラキラして見えていた。ある意味青春時代よりも良い時期だったかもしれない。可奈はその時代の記憶まで一気に遡った。ただ残念だったのは、不幸な記憶を連れ戻してきてしまったこと。これは勘弁してほしかった。

(過去は捨てて、今を生きよう)

 可奈と文吉が兄妹の横を通り過ぎる。

「おにいちゃんおねえちゃん、行っちゃうの?」

「うん」

「ばいばーい」

「ぼく、これあげるね」

 文吉がヤドカリを兄に手渡した。

「ありがとう」

 兄妹に手を振って可奈のもとへと急ぐ。

「ごめんなさい、岩場はまずかったんだね」

「私の方の問題なの。まだ小さかった頃にちょっとあってね」

「そうだったんだ。思い出したくないようだから、これ以上は聞かないでおくよ」

「ありがと」

「そうだ、橋のたもとに砂浜があってね。気分直しに、そっちに行くっていうのはどうかな?」

「それなら大丈夫そう、そこ行こ」


「気持ちいいー」

 ビーチサンダルを脱いで波打ち際に立っている二人。

「毎日海辺で働いているというのに、海を肌で感じたことはなかったなあ」

「不思議ね、目の前にいつでもあるのに」

「そうそう。ちょっと顔をあげるとすぐそこが海、潮の香りと波の音は常に入ってきていたんだもの」

 目と鼻と耳では毎日しっかりと海を感じていたのだ。

「今日は、手と足を通して海が身体に伝わってきているよ」

「うわあ、詩ってるう」

「いやあ、おはずかしい」

 また赤黒くなってしまう文吉であった。

 波打ち際ではたくさんのカップルが戯れていた。女子が引いていく波を追いかけて行き、打ち寄せてくるところを急いで後ろに逃げる。戻ってきた女子が、後方で待機している男子の胸の中に勢いよく飛び込んでいく。これを幾度も繰り返すのだ。波の満ち引きに気持ちを集中させているうちに、いつしか二人きりの世界へと入り込んで幸せに浸る、映画の主人公になった気分にさせてもらえる、そんな場である。大きめに寄せた波でスカートの裾やズボンが濡れそうになるといった、ちょっとしたスリルも時折味わえる。大体二十回くらい繰り返すというのが平均的であろうか。飽きてやめたあとに次のカップルが入れ替わり入ってきて、また同じドラマが始まる。そんなじつに微笑ましい光景が延々と繰り広げられている場所だ。

「あれ、俺もやってみたいなあ」

 文吉が可奈に提案する。

「こうやって波に足を洗ってもらっているだけでもいいじゃない。充分気持ちいいよ」

「あっちの方が楽しそうだ」

「映画の撮影だというのならまだしも、現実にやるのはあたしにはちょっと抵抗があるなあ・・・本気でやっていると思われたら恥ずかしいもん」

「そうかあ」

 文吉はしゃがみこんで、カップル達を物欲しげに眺める。

「あれを可奈ちゃんがやると、きっと似合うだろうけどなあ、絵になるだろうなあ、やって見せて欲しいなあ、リクエストしたいな」

 ちらっと可奈を見る文吉。

「だーめ」

「じゃあ、しょうがない」

 文吉が立ち上がって、波打ち際へと向かった。

「文さん、なにするの?」

「一人二役でやってみるよ」

 波が寄せてきた。

「きゃー」

 逃げ戻ってくる文吉。波が引いていくとそれを追いかけていき、寄せてくると逃げる。

「きゃー」

 可奈が文吉の腕を掴んだ。

「代わる!」

「え?」

「見ていられないもの」

「そう?」

「気色悪いの!」

「ありがとう、あれ? お礼は変かな?」

「恥ずかしいから、一回だけだよ」

「一回? 貴重だな、きっちりと目に焼き付けておこう」

 引き波を追いかけていく可奈。かなり深追いをしている。

「可奈さん、それは行きすぎなのでは?」

 波がグイッと寄せてきた。

「ほんとだ、あわわわわ」

 ダッシュで駈け戻ってくる可奈。

 ドーン

 勢いよく文吉に体当たりしてしまった。

「おうわ」

 砂浜に叩きつけられる文吉。

「文さんごめん、大丈夫?」

「当りが激しかったおかげで、身体に充分覚え込ませられたよ。なにしろ貴重な一回こっきりの体験だからね」

「ごめんなさい」

「可奈さんのせいじゃないさ。そろそろ潮が満ち始める時間なんじゃないかな? だから波が長くなってきたんだよ」

「そうかあ」

「もう移動した方がいいかも」

「そうだね」

「よし、行こう」

「あーあ、びっしょびしょ」

「何処かで乾かそう」

 二人は砂浜を後にした。


 小休止できるベンチを探しながら歩く二人。途中小さめのベンチに引っ付き合って座っているカップル達の姿を見かけた。

(うらやましいな。ああいうのって憧れるなあ)

 羨望の眼差しを向ける文吉。文吉も同じようにしたかったのだが、あいにくベンチは全て埋まっていた。

「お店に入る?」

「いや、外の方がいい。もう少し探してみよう」

 座る場所を探しながらなおも歩き続ける。しかし文吉にとって都合のよい小ぶりの椅子がなかなか見つからない。大きなベンチを見かけることがあっても、文吉はそこを素通りする。

「ここでいいじゃない」

 可奈がそう訴えても、

「いや、ちょっと汚れているなあ」

 といった難癖をつけてそこに座ろうとはしないのだ。

「外のベンチなんだから、少しくらいはしょうがないでしょ」

「いやいや」

 可奈の提案には乗らずになおも歩く。椅子が狭ければ体が必然的にくっついてくれる。小さめのベンチを探し求めて歩く歩く。

「文さん、わたし疲れた。どこでもいいから座って休もうよ」

 可奈からの何度目かの提案があった。仕方なく大きなベンチに座ることに。文吉はへこんだ。

(半泣きだ)

 はあー 

 ため息まで出てくるしまつ。

(でも、諦めてしまったらそれで終わりだぞ。考えるんだ、さすれば道は開ける・・・かもしれない)

 すうーっと自らの妄想に入り込んでいった。

(要はベンチを小さくすればいいんだよ。どうすればそいつができるかだが、はてさて)

 顎に右手を当てて考える。

(公共のものを真っ二つに破壊してしまうわけにもいかない。圧縮するには硬すぎるし、そもそも俺はそんなパワーを持ち合わせてはいないしなあ)

 腕を組んでなおも考える。眉間にしわが寄ってきた。

(そうだ、自分の身体を大きくすれば比例してベンチが狭くなるぞ)

 表情が明るく変わり、眉間のしわが消えた。

(ズボンのポケットに詰め物をしようか。いや、なにもポケットに入れることはない、荷物を使えばいいんじゃないか?)

 肩からかけていたバッグを自分の脇に置いて、その分可奈との距離を縮めることにした。十センチほど近づいたが、まだ遠い。縦に置いたため、たいした幅をとってくれなかったのだ。

(よーし)

 今度は寝かしてみる。もう十センチ距離を稼げたがまだ遠い。向きを横にしてその分お尻をずらしてみた。寄り過ぎて、可奈にぶつかってしまった。

「うわっち」

 反射的に50センチ跳ね戻り、バッグごと椅子からころがり落ちてしまう。

「いつつつうー」

「さっきから、ひとりで何をやっているの?」

 不思議そうに尋ねてくる可奈。

「いやあ、ベンチに上手に座るっていうのも結構難しいものだね、ひと苦労だよ。ははは」

 もう一度座り直して、可奈まで2センチの距離に落ち着くことが出来た。

(ふー、やったぜ)

 大きなベンチで近寄っていく作戦はうまくいったようであったが、それは文吉にとってのことである。相手も同じ感想を持ってくれるとは限らない。

(近すぎるのよね)

 今度は可奈がお尻を動かした。少し離れる。

(そんなあ。やっと近くに座れたのに、そりゃないよ)

 諦めきれない文吉は必死で考えた。幸いここでももっともらしい理由を生み出すことが出来た。なんかこのベンチは汚れているなあ、と手ではたき、3センチずつ3回距離を縮めた。

(近すぎ、こりゃたまらん)

 もう座席に後がない、可奈がたまらず立ち上がった。

「あおあわっつ」

 それに驚いた文吉が言葉になっていないうめき声を出す。

「ねえ文さん?」

「おあわお?」

「今日のわたし、どうかなあ」

「え? どうって? なにが?」

「髪型とかファッションとかがどうかっていうこと。感想を聞かせてほしいの」

「ん? 感想ねえ・・・」

「わたしのこと、よく見てなかったの?」

「うん、ごめん。そういった気持ちの余裕がなかった」

「今からでも遅くはないわ」

「うん、わかった」

 言われた通りにじっと可奈の目を見つめる文吉。

「なにか気付くことがあるでしょ」

「うん、あった」

「じゃあ、言ってみて」

「帽子に花がついている」

「他には?」

「いつもは半ズボンなのに、今日は違うね」

「あのっさ、目の付け所がおかしいっていうか、女の子に喜んでもらおうとか、そういう気持ちは持ち合わせていないの? ものには言いようってものがね、あるんじゃあなくって?」

「ごめんごめん、たとえば?」

「それ似合うねとか、素敵だねとか、どこかを褒めてもらわないとねえ」

「おせじを?」

「違うわよ、嘘をついてもらってもうれしくないでしょ! しっかり探せば褒めるところのひとつくらいは必ず見えてくるはずなんだから、今日のあたしの中から褒められるところをみつけだして、それを口に出して言って欲しいの! もちろん本当のことをよ! 絶対ひとつは見つけてちょうだい。そうじゃなきゃ、わたし、自己嫌悪に陥っちゃうから。男子と出掛ける時の女子は本気を出して出て来ているんだからね」

「よし、まかせとけ」

 文吉が可奈をじっと見つめる。

「うーん」

「そんなにじろじろ見ないと出てこないのかなあ。直感で感じたことでいいのよ」

 文吉の耳に可奈の言葉は入っていかない、すでに集中力の針はマックスを指しているのだ。じろじろ見る文吉。

「うーん・・・責任重大だ」

「・・・まだかな・・・」

 文吉の顔が寄っていく。可奈にくっつきそうなところまで来た。

「文さん、近すぎ」

「あっ、ごめん」

 と慌てて離れる。

 改めてじっと見つめた後に一言、

「若いな」

「それだけ? あれだけ時間をかけて、出てきた答えがたったそれだけなの? 本当に不器用な人なんだから。

「きれいな肌だと言いたい」

「あのね、私には同級生が百万人以上もいるのよ。みんな同じような肌をしているんだから」

「ああ、そうか」

「私だけの何かを見つけてちょうだい」

 可奈はそう言いながらぐるっと歩いて海側へと移動していった。日陰から日向に変わったと同時に青い空と大きな入道雲が可奈の背景になった。さんさんと日の光が可奈に降り注がれる。その瞬間、可奈が絵画になった。

 光って見えた。大きな麦わら帽子も似合っている。リボン付きは特にまぶしい、リボンの付いていないものはNGだ、おじいちゃんのものを借りてきたと思われてしまうから。

 風がなびき始めた。麦わら帽子が飛ばされないようツバを掴む可奈。揺れる白いワンピース。光と風と仲良くなって、これぞ夏の少女の姿だ。

(これは写真に残したい)

「可奈さん、こっち向いて」

「ん?」

「写真撮らせてよ」

「いいけど」

「服の肩の上を、ちょいとつまむのをやってみてくれ」

「こう?」

 言われた通りにしてみる可奈。

「そうそう」

「こんな仕草、どこで仕入れてきたんだか」

「お客さんカップルが、剥けた皮がTシャツにひっついてしまったのを、取ってあげているところを見かけたときにね」

「妙な点に意識が向くのね」

「今度は、ぷくっとふくれっ面を作ってみてくれ」

「こう?」

「違う違う、ほっぺたはそれでいいけど、睨むのはやめてくれよ」

「文さんからの注文が難しすぎるから、そういう表情になっちゃうんでしょ。睨まれたくないのなら、簡単な注文にしてちょうだいよ」

「ごめんごめん」

 シャッターを押し続ける文吉。

「なんだかモデルになったみたい。恥ずかしい」

 可奈の照れた表情に、潮風が、心地よい潮風が吹きぬけていく。揺れなびく髪が絵になる。ファインダーから目を離し、可奈に見とれてしまう文吉。

「なあに?」

 ドキッ 

「いや、なんでもない」 

 強い日差しも夏らしくてよい、時折入りこんでくる風も肌に心地よい。

「いい青春だ」

 納得のいく写真が撮れて満足げな文吉。

「はい、撮影終了。モデルさん、お疲れ様」

 ベンチに戻る二人。

「文さん、写真の趣味があるの?」

「趣味って言うほどじゃあないよ」

「だってそのカメラ、ゴツゴツしていて、プロっぽいじゃない」

「古いからだよ。昔のカメラはみんなこんなだったんだ」

「ふーん」

「手にしたのも、久しぶりさ」

「ねえ文さん、立ち入った話になっちゃうけど、少し聞いてもいい?」

「うん」

「文さんは、どうして引きこもっていたの?」

「え? 俺が引きこもり?」

「長く引きこもっていたって・・・そう聞いているけど」

「きっと社長が気を使ってそう言ってくれたんだろうね」

「違ったの?」

「刑務所に入っていたんだよ。世間知らずなところは引きこもりとおんなじかもしれないなあ」

「なにがあったの? 文さんのことだから、殺人や誘拐じゃあないんでしょ」

「先代の社長と仕事の上で無茶しちゃってね。それがどうもルール違反だったらしいんだ。一緒に捕まって、二十九年間の刑務所暮らし。まだ先代は中に入っているんだ。先代のせいで俺まで捕まったんだと、息子である今の社長が責任を感じてしまってね、出所してきたときに、身元引受人になってくれたっていうわけさ」

「そうだったの」

「別に隠すつもりはなかったんだよ。とっくに可奈さんの耳には入っているだろうと思っていたから、こっちから言いだすこともないかなってね。犯罪の話なんか幾度も聞かされるのは嫌だろうし。ま、風変わりな人生を送ってしまったよ」

 15歳から20歳まで先代社長の元で働いていた。側近として日々社長の行く先々に付いて回り、公私ともどもかわいがられていた。社会人としてのいろはから始まって、仕事に関係するあらゆることを社長から教わり、極秘の業務にも関わらせてもらっていたが、あれがまずかったのだろう、ライバル会社が企てた罠にはめられてしまったことから、ルール違反が発覚して逮捕され、29年間刑務所に入ることに。ともに捕まった先代社長は現在も服役中だ。この夏に出所した後は当代社長の家に居候、経営する海の家でアルバイトをしながら、今後の身の振り方について漠然とたが考えている最中である。

 自分が味わうことの叶わなかった甘い青春時代を今まさに味わっている真っ最中の若いお客さんたちを海の家から眺めていて、うらやましく思った。自分だけのせいでこうなったわけではないのだが、先代社長やライバル会社の誰かを特段恨んでいる、ということはなかった。ただ、青春時代への未練らしきものは胸にあった。もちろん時間を戻すことができないことは知っている。それは諦めていても、できることなら、せめて青春のまねごとのようなものを味わってみたいとは思ったりもする。けれども、若者の輪の中には入れてもらえないであろうし、一人だけでは青春を満喫できそうもないし、今更、年齢的にも世間から見ても自分としても、青春といってみたところで違和感がつきまとうだろうから、と、自分で自分の願望にブレーキをかけていた。


「可奈さんはなぜここに?」

「苦学生だからね、働かなくちゃ。ただね、どうせならバケーションの雰囲気を感じるくらいはしていたいなあって思ったの。他の学生たちと同じように遊んで過ごすことは無理な相談だとしてもね。それでここにお世話になって、もう三年目ね」

「贅沢はできなくても、まあまあ順調な学生生活なのかな」 

「そうね。わたしの人生、今のところ大きな事件はないし」

「平和が一番だよ」

「たまには刺激が欲しいとも思ったりするけど」

「なるほどね。まあ、良い方の出来事だったらそれもいいかもしれない」

「今日感じさせてもらった程度の刺激が丁度いいかな。いっぱいあったなあ。日記に書ききれるかなあ。きっと一ページでは収まらないだろうなあ」

「・・・」

「私もきょうは青春だ!」

「可奈さんも? そうか、俺と一緒だったんだね」

「ふふ」

「こうしちゃいられない、時間がもったいないから、次行こうか」

「そうね。日が傾いてきたものね。あと、お望みの場所は?」

「一緒に夕日を眺めたいなあ」

「じゃあ、上に登る?」

「いや。橋の中程に、いい場所を見つけてあるんだよ。そこに行こう」

「よく知っているのね」

「実をいうと、昨日の夜、下見もしに来ていたんだよ」

「え? そうだったの」

「部屋で考えているだけではどうしようもなかったから。それに、布団に入ってもどうせ眠れなかったと思う」

「文さん急ごう、日が沈んじゃうよ。真っ暗になっちゃ、せっかくの文さんの努力が台無しだ」

 猛ダッシュする二人。自然と手をつないでしまっている。無意識の行為だったので、二人ともそれに気づいていないが。

 げっ、

 ベンチの真ん中に猫がでんと陣取っていた。目を閉じて丸くなっている。

 文吉が近づいて行って、

「しっしっ、あっち行きなさい」

 追い払おうと試みるのだが、ちらっと視線をくれるだけで、また目を閉じてしまった。

「しかたない」

 猫を挟んで座ることにした。

「あーあ、肩を寄せ合って夕日を眺めたかったのになあ」

 文吉は不満を漏らすが、

「おんなじ景色をおんなじ場所で見ているんだから、それだけでも充分なんじゃないかな」

 可奈は満足げだ。

「それもそうかな」

 思い直し、夕日を見つめる文吉。

 水平線に近づく太陽を眺めていると、実際に動いているんだなあと、はっきりとわかる。落ちていくにつれて、太陽の動きは早くなっているように感じる。今日も一日地球を照らし続けて働いたんだ、早く沈んで休みたいとでも言いたげだ。

「おっとそうだ、可奈さん、沈むまでの間に願い事をしなきゃ」

「それは流れ星の場合でしょ」

「そうだっけ?」

「ま、太陽も星の内だから、べつにいかまわないだろうけどね」

「せっかくだからさ」

 目を閉じて手を合わせる文吉。

「・・・」

 それに付き合ってあげる可奈。

「・・・」

 二人同時に目を開いた。

「文さんは、何をお願いしたの?」

 可奈が文吉に尋ねる。

「べつに何も」

「願おうって言ったのは文さんじゃないの」

「可奈さんに願い事をして欲しかっただけで、自分の願いごとはないんだよ。だって俺の願いは今かなっているまっ最中なんだから、これ以上何かを望むというのは、ちょっと欲張りすぎだ」

「今願いがかなっている?」

「そう、俺は今、たっぷりと青春を感じているんだからさ」

「ふーん」

「俺ってさあ、今の可奈ちゃんの年頃の時に青春って味わっていなかったからさ」

「うん」

「もう、年を取っちゃっているんだから、今更青春なんて無理だよ、って諦めていたから。タイムマシンがあるわけでもないし、いい年をして今更青春はないだろうって本気で思っちゃっていたし」

「そんなことないよ」

「物事には早いも遅いもない、気付いた時にやればいいんだ、とかいうけれども、どうもそれは違うような気がしていたんだ」

「違わないよ」

「そうだった。とりあえずやってみたら、違わなかった」

「でしょ」

「可奈さんのおかげで、願いが叶ったよ」

「それは・・・」

 赤黒くなる可奈。

「青春という定義にこだわらず、その時楽しいと思っていることをすれば、どんな世代の人も人生を楽しめる。それを青春と呼ぼうが呼ぶまいが、それはその人の選択の自由なんだな、きっと」

「うん、きっとそうだよ」


 変化していく橙色をぼーっと眺めている文吉。

(楽しかったなあ)

 どん!

 突然、文吉の太ももに可奈の頭が乗っかってきた。

「うお」

 瞬時に固まる文吉。何も出来ないまま横顔の様子をじっと見ているだけ。すると、すーすーと寝息が聞こえてきた。

「ほっ」

 いつの間にか猫はベンチの下に移動していた。

 起こしてはいけないと、動けないままで一時間が経った。

 もぞ

「はっ」

 飛び起きる可奈。

「ごめんなさい」

「いや、こっちこそごめんよ。疲れさせてしまったんだね」

「ちがうの。わたしも昨日は眠れなかったから」

「え?」

「寝不足だったっていうわけなの」

 何をしていたわけでもなかった。オジサンといえども文吉も男子のはしくれである。二人きりで過ごすデートの前日に、女子のはしくれである可奈が何らかのストレスを感じていたとしても不思議ではない。

「もう真っ暗ね」

「いけね、大事なことを忘れるところだった。可奈さん、もう一か所付き合っておくれよ」

「いいいけど・・・」


 土産物屋に到着した二人。

「可奈さん、俺からプレゼントをさせてほしいんだ」

「わたしに?」

「うん」 

「なんで? いらないわよ」

「頼むよ、受けとって欲しい」

「受けとる理由ないもの」

「女性にプレゼントをもらってもらう、それも青春かなあと」

「まったく、文さんにかかったら、何でも青春のせいにされちゃいそう」

「協力してください」

「わかったわ。そのかわり、高いものはよしてちょうだいね」

「わかりました。そういえば、可奈ちゃんアクセサリーをつけていないね」

「うん」

「いつもはどうだったっけ」

「つけてないよ」

「仕事以外の時は?」

「同じよ」

「ふーん」

「誰もくれなかったからね」

「プレゼントだったらつける?」

「一度はつけてみるかもしれない。あとはわからないなあ」

「とりあえず、見るだけ見てみてよ」

 店の中へと入っていく。

 指輪、ネックレス、イヤリング、腕輪、髪飾り、綺麗に並べられている。 

「いっぱいあるなあ」

「おしゃれに際限はないからね」

「気に入ってくれるものが見つかればいいんだが」

「どうかしらねえ」

「指輪は?」

「無し」

「ネックレスは?」

「くすぐったい」

「イヤリングは?」

「重い」

「腕輪?」

「邪魔くさい」

「残るは髪飾りだ」

「高いなあ」

「高くてもいいよ」

「安いのがいい。センスの悪いのがいい」

「なんでよ」

「かっこ悪ければ、つけなくて済むでしょ」

「ひょっとしてアクセサリーは本気で欲しくないんだね」

「うん」

「そうか、困ったなあ」

「あっ、コップがいい、コップが欲しいな」

「コップを頭に載せるの? 流行っているのかい?」

「髪飾りとして使うわけじゃないよお。普通にコップとして使うの」

「なんだ、びっくりしたあ」

 陶器のコーナーへと移動する二人。

「お茶碗もあるけど」

「持ってる」

「ぐい飲みは?」

「使わない」

「湯飲み」

「マグカップ。マグカップの大きいのがいい」

「大きい湯呑み?」

「違う、大きいマグカップ! 小さめのだと、氷を入れると、ちょっとで一杯になっちゃうんだもの」

 手に取って品定めをしていく可奈。

「これなんかいいな」

「おお、いいねえ」

「じゃあ、お揃いにしようよ」

「え?」

「記念になるでしょ」

「俺にはなるけど、可奈ちゃんにとっても記念になるのかなあ?」

「なるなる」 

 手に取ってみる文吉。

「こんなんでねえ。安上がりだなあ」

「それって失礼な意味?」

「いい意味悪い意味どっちにも」

「?」

「俺なんかと一日一緒にいてくれたり、安いプレゼントで喜んでくれたり、見ていて、身近に感じさせてくれる人だなあってね」

「ふーん」

「相手が金持ちじゃないと嫌だとか、高価なものしか欲しくないとか、注文がうるさくないんだなあってね」

「つまり庶民的っていうことかな?」

「そうそう。それが言いたかった。一行にまとめちゃうとは、さすが可奈さん」

「お金持ちが身近にいなかったからかもね。今後目の前に現れることがあったら、人格変わっちゃうかもよ」

「ええー、そうなの?」

「うそうそ、大丈夫よ」

「よかったー」

「ははは」

「そうだ、いいこと考えた」

「なあに?」

 文吉が可奈の右手を両手で握る。

「可奈さん」

「俺はたった今、とても良いことを思いついてしまったのですよ。ははははー」

「それは良かったわね、で、なに?」

「これには可奈さんの協力が必要になるんだけどね」

 げっ

「文さんにとって良いことが、わたしにとっても良いことだとは限らない」

 文吉は耳を貸さない。

「先代の社長が出所してきたら、可奈さんにデートしてもらおうと思うんだ」

「やめてよ、勝手に決めないで」

「今日は俺にとって出所してから一番幸せな日だったんだよ。社長にも俺とおんなじ思いをさせてあげたいからさ。恩返しだ」

「そんなことは自分でやってよ」

「俺はデートできないだろう」

「だったらお母さんは? そうそう、息子さんがいるんだから、お母さんがいるんでしょ、 そうよ、つまり先代の奥さん」

「いるよ」

「だったらその方にデートしてもらわなくちゃ」

「出家してしまったんだよ」

「なにそれ」

「先代が、まあ自分も一緒だけど、刑務所生活に入ってからすぐ、出家してしまったんだ。籍はまだあるのかもしれないが、それ以来手紙も面会もなかったっていう・・・いまさら会えないんじゃないかなあ」

「そうかあ」

「だから頼みます」

 頭を下げる文吉。

「うーん、なんか他にいい方法はないかなあ」

「そうだ、こうしちゃいられないや。うちに帰って先代に手紙を書こう。きっと喜んでくれるぞー」

「ちょっと待ってよ」

「がぜん元気が出て来たなあ。可奈さんのおかげです。どうもありがとう」

「文さん、わたし、引き受けるなんて一言も言っていないわよ」

「可奈さんはまだ自分のことがよくわかっていないんですよ。可奈さんはきっと引き受けてくれます。あなたはつまりそういうやさしい人なんですから。良いお嫁さんになれますよ」

 言いながら離れて行く文吉。

「ずるい、褒めておいて断りにくくしてる。ちょっと文さん、待ちなさいったら―」

「人助けに待ったはありませーん」

「まったくもー、すっかりズーズーしくなっちゃって」

「おかげさまで自分の気持ちを正直に表現できるようにもなれました」

「こっちは散々。とんでもないものをしょいこまされそう。あーっ、さっきのわたしのおみくじ、あれって的中していたんじゃない」


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[良い点] 社会人っぽくは見えない。二人共舞い上がっているということなのか、元から子供っぽいことなのか。夏の海気分を味わうなら、世知辛い感は極力ない方がいいので、ありかもしれません。 [気になる点] …
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