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君と二度目の初恋  作者: 天川 夕
2/5

遊園地1

   7


 僕たちは遊園地に来ている。

 当然、二人分の入園券を買う。いくら幽霊と言えど、連れがタダで遊ぶのには気が引けるからだ。

 入園料金は小人、中人、大人の三種類あり、幼稚園以下は無料と表記されている。

 僕は高校生だから大人料金でいいのだが、彼女の料金が問題だ。中人の備考に、中学生以下と書いてある。

 彼女は、死んだ時点では中人料金。しかし、幽霊となった今は大人料金になる。

 チケット売り場のカウンターで聞いたりしたら引かれることは避けられない。

 料金表を見て長考していると、後ろにいる彼女に肩をつつかれた。

「もしかして、私が中人料金か大人料金か迷ってる?」

 僕は驚いて振り返った。彼女の顔とぶつかりそうになり、お互い一歩引く。

「な、なんでそれがわかった」

 やはり彼女は相手の心を読むことができるのではないだろうか。

 動揺する僕を見て彼女がクスクス笑う。

「背中に書いてあったよ」

 僕は服を引っ張り背中を確認した。もちろん何も書いていない。

 彼女が腹を抱えて大声で笑っている。

 周りを行く人は大声で笑う彼女を振り返りもしない。幽霊であることを再確認すると、良い夢から覚めたような気分になった。

 胸の辺りをクシャクシャに掻き回され、不快感が全身に走る。同時に、彼女が幽霊でなかったら、と思ったことが不思議だった。

「おーい、何ぼーっとしてんの?」

 今の僕はひどい顔をしているだろう。

 彼女から向きを変え、料金表に視線を戻す。

「何でもないよ。それより、どっちで買えばいいんだ?」

 彼女の方は向かず、料金表を指差して僕は言った。

「じゃあ、大人料金で」

「わかった。買ってくるからここで待ってて」

 僕はチケット売り場にできた蛇のような列に並んだ。

 日曜日ということもあって、昼間の遊園地は賑わっている。

 彼女が急にいなくならないか不安になり、遠くにいる彼女の姿を確認しながら列を進んだ。

「大人二枚で」

 カウンター越しに若い女の人の声が聞こえる。

「本日はデートでお越しですか?只今キャンペーン中でして——」

 デート、と言われた時は少し動揺したが、話を聞くにカップル割というものがあるらしい。

 カップルで入園する場合、料金から割引される。

 しかし僕らは付き合っていないどころか、彼女は幽霊だ。

「いえ、今日は友人と」

 ふと、この会話に既視感を覚えた。

 確かこの遊園地には一度だけ来たことがある。

 遠いような近いような記憶はどこか心地よくて暖かい。

「二千四百円です」

 料金を支払ってチケットを受け取る。

 彼女の元へ戻ると、さっきと同じ暖かさを覚えた。

 桜の木に寄りかかる彼女は僕に気づき無邪気に笑う。

 ひらひらと舞う花びらは陽の光を彼方此方へ反射し、そっと地面に溶け込んだ。


   8


 中学生活二度目の春休み。僕は遊園地に行った。

 天気が良く、暖かい日だった。

 平日の昼は日曜日に比べて空いていて、家族連れよりもカップルが目立つ。

 急降下するジェットコースター、回っているかいないかわからない観覧車、小洒落たデザインの売店、全てが輝いて見えた。

 それは陽の光によるものではなく、紛れもない、その場その時に留まった色のようなもの。

 一人では見つからないその色は、隣にいた友人……

 記憶にもやがかかった。まただ。

 パズルを完成させるのにあと一歩のところでピースが足りなくなるみたいに、ぽっかり刳り抜かれている。それを補うようにもやが覆う。

 僕は親しい友人と結論付けた。

 もやを払うように吹いた風が妙に心地良い。

 地面の模様になっていた桜の花びらが舞い上がり、空へ昇華した。



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