遊園地1
7
僕たちは遊園地に来ている。
当然、二人分の入園券を買う。いくら幽霊と言えど、連れがタダで遊ぶのには気が引けるからだ。
入園料金は小人、中人、大人の三種類あり、幼稚園以下は無料と表記されている。
僕は高校生だから大人料金でいいのだが、彼女の料金が問題だ。中人の備考に、中学生以下と書いてある。
彼女は、死んだ時点では中人料金。しかし、幽霊となった今は大人料金になる。
チケット売り場のカウンターで聞いたりしたら引かれることは避けられない。
料金表を見て長考していると、後ろにいる彼女に肩をつつかれた。
「もしかして、私が中人料金か大人料金か迷ってる?」
僕は驚いて振り返った。彼女の顔とぶつかりそうになり、お互い一歩引く。
「な、なんでそれがわかった」
やはり彼女は相手の心を読むことができるのではないだろうか。
動揺する僕を見て彼女がクスクス笑う。
「背中に書いてあったよ」
僕は服を引っ張り背中を確認した。もちろん何も書いていない。
彼女が腹を抱えて大声で笑っている。
周りを行く人は大声で笑う彼女を振り返りもしない。幽霊であることを再確認すると、良い夢から覚めたような気分になった。
胸の辺りをクシャクシャに掻き回され、不快感が全身に走る。同時に、彼女が幽霊でなかったら、と思ったことが不思議だった。
「おーい、何ぼーっとしてんの?」
今の僕はひどい顔をしているだろう。
彼女から向きを変え、料金表に視線を戻す。
「何でもないよ。それより、どっちで買えばいいんだ?」
彼女の方は向かず、料金表を指差して僕は言った。
「じゃあ、大人料金で」
「わかった。買ってくるからここで待ってて」
僕はチケット売り場にできた蛇のような列に並んだ。
日曜日ということもあって、昼間の遊園地は賑わっている。
彼女が急にいなくならないか不安になり、遠くにいる彼女の姿を確認しながら列を進んだ。
「大人二枚で」
カウンター越しに若い女の人の声が聞こえる。
「本日はデートでお越しですか?只今キャンペーン中でして——」
デート、と言われた時は少し動揺したが、話を聞くにカップル割というものがあるらしい。
カップルで入園する場合、料金から割引される。
しかし僕らは付き合っていないどころか、彼女は幽霊だ。
「いえ、今日は友人と」
ふと、この会話に既視感を覚えた。
確かこの遊園地には一度だけ来たことがある。
遠いような近いような記憶はどこか心地よくて暖かい。
「二千四百円です」
料金を支払ってチケットを受け取る。
彼女の元へ戻ると、さっきと同じ暖かさを覚えた。
桜の木に寄りかかる彼女は僕に気づき無邪気に笑う。
ひらひらと舞う花びらは陽の光を彼方此方へ反射し、そっと地面に溶け込んだ。
8
中学生活二度目の春休み。僕は遊園地に行った。
天気が良く、暖かい日だった。
平日の昼は日曜日に比べて空いていて、家族連れよりもカップルが目立つ。
急降下するジェットコースター、回っているかいないかわからない観覧車、小洒落たデザインの売店、全てが輝いて見えた。
それは陽の光によるものではなく、紛れもない、その場その時に留まった色のようなもの。
一人では見つからないその色は、隣にいた友人……
記憶にもやがかかった。まただ。
パズルを完成させるのにあと一歩のところでピースが足りなくなるみたいに、ぽっかり刳り抜かれている。それを補うようにもやが覆う。
僕は親しい友人と結論付けた。
もやを払うように吹いた風が妙に心地良い。
地面の模様になっていた桜の花びらが舞い上がり、空へ昇華した。