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三歩歩いたら忘れます。

前回、シリアスになるんじゃと見せかけ、なりません。

しょせん、ハルなので。

シリアス? シリアルの仲間かな? ぐらのーら? ってのも、食べてみたかった。ぐらいな生き物です。

(ふぅ、やっぱり、こっちの方が落ち着く〜)

 私がリュートの肩でまったりしていると、リュートの頭にいたルーが、もふもふに潜り込んでくる。

(まま、まま、いつものまま)

 ぷぅぷぅと歌うように鳴きながら、ルーは私のもふもふ内を出たり入ったりして遊んでいる。

 ルーも、ケダマモドキな私の方が落ち着くらしい。

 と言うか、ルーは潜り込むのが好きだから、胸の谷間じゃ落ち着かないか。

「人の姿なハルさんも素敵ですけど、こっちのハルさんの方が俺は好きです」

 ルーを愛でていたら、もう一人の甘えん坊も、私のもふもふに顔を埋もれさせてきた。

 うむ、文句無しに可愛いな、うちの子は。

 路地裏でいちゃいちゃしていたら、さっきの某ハーレム系の主人公みたいな奴のことは、すっかり忘れ……いや、頭の隅に追いやっただけだよ?

 たぶん。




 もちろん脱いだ服とかは、きちんともふもふ収納済みだ。

 成せばなると言うか、戻りながら着ていた服を回収出来たり。

 ま、リュートは紳士だから、ずっと後ろを向いてたけどね。

 いい子に育っていて何よりだよ、とか親戚のおばさんじみた事を考えている私は、リュートの横顔を見つめている。

 え? 今こそ周りを見て、道を覚えるべき?

 さっき見たキモいのを忘れたいんで、今はうちの可愛い子しか見たくないんで。

 誰に訊かれた訳でもないが、私は内心でそう言い訳しながら、楽しそうなリュートを眺めている。

 ちなみに向かう先は、冒険者組合ではなく、エヴァン宅だ。

 私が人型で戻る可能性があるため、冒険者組合は止めたらしい。

 そりゃ、いきなりリュートに女性の仲間が現れれば警戒されるよね。

 まさか、あのケダマモドキのハルです、とか皆さんの前じゃ、名乗れないだろうし。

 リュートの仲間運の無さは、ノクの冒険者組合じゃ有名だろう。

 関係はないが、リュートは楽しそうに、肩にいる私に時々頬擦りしていたりする。

 リュートが美少年で良かった、と思うけど、私も楽しいので止めない。

 外野から見ると、ドン引き確実だとしても。

 迷惑かけてる訳じゃないし、問題ないよね。

 そんな感じでいちゃいちゃしながら、エヴァン宅まで戻ると、屋敷の前には鬼が……。



 違いました。



 背後に怒りのオーラを背負った受付嬢達と、怖いぐらいににこにこしたエヴァンが揃い踏みでお待ちです。

 私、死ぬんじゃないか、とちょっとだけ思ってしまった。




 結論。

 そうだよね。

 心配してくれてただけなんで、死んだりはしなかったよ?

 イリスさんの全力ハグで変形しかけたり、ウィナさんの全力なでなでで蕩けきったりはしたけど。

 アンナさんは、大人のお姉様的な笑顔で、困った子ね、とだけ言って、軽くデコピンしてくれた。

 それで、エヴァンはと言うと……。

 屋敷の中に入り、受付嬢達の一連の流れが終わってから、無言で持ち上げられ、そのまま見つめられてる、なう。以上。

 受付嬢達は、何だかニマニマしてるけど、リュートだけはあわあわして、私を取り戻そうか悩んでいるのが、視界の端に見える。

 うむうむ、可愛いな、あの生き物。

 ルー? ルーは遊び疲れて、私のもふもふの中で、ぷぅぷぅ寝息立ててる。

「……何か言うことは?」

 しばらくして、やっと口を開いたエヴァンは、表情を消して問いかけてくる。

 さっきまでみたいに、にこにこ笑っているのも怖いけど、美形の無表情は、さらに怖いので、私はちょっともふっと膨れる。

 鳥肌的なものかな。

 あ、イリスさんが遠くから、ボフッてなったハルさん可愛いです〜、って言って、ウィナさんに物理的に黙らされてる。

「……もふもふだな」

(ケダマモドキですから)

「もう普通に喋らないのか?」

(ん? やっぱり、戻ると無理みたいだね)

「そうか……サンダル、気付かなくて悪かった。足はもう痛くないのか?」

(私的には、リュートとエヴァンとは話せるから不便じゃないし、足はもう痛くないから気にしないで)

 急に情けない表情をするのは止めて欲しいな、エヴァン。

 ちょっときゅんってなったよ?

 これが、ギャップ燃えってやつか? あれ、何か不穏なのはどうしてだ? もっとふわふわした感じだったよね、ギャップ燃え。

 字面が違う? 燃え? って、燃えちゃ駄目だろ。望絵? 違った。それは高校の時の同級生だ。草冠に……えーと、漢字なんて使わないから、忘れかけてるんだね。度忘れ? それとも、前世の記憶薄れていくのかな。

 私が色んな意味で混乱をしていると、勘違いしたらしいエヴァンにがしがし撫でられる。

「……驚かせて悪かった。心配したから、ついな」

(私の方こそ、心配させてごめん。エヴァン、組合長だもんね。私が騒動起こしたら、迷惑かけちゃうとこだったよ)

 混乱は脇にひとまず放置して、私が心から反省してもふっとして謝ると、何故かエヴァンが何とも言えない表情で脱力した。

 どうしたんだろ。

 受付嬢達も不思議そうだったけど、リュートに私が何て言ってたかを訊ねて、納得したらしい。

 なまあたたかい眼差しが、エヴァンに向けられてるよ。

 私にも説明ぷりーずですが。

「……ったく、お前は何なんだろうな」

 お、復活した。

 小脇にホールドされて、また撫でられる。

 さっきみたいながしがしではなく、擽ったくなるような優しい手つきに、ちょっとぞわぞわする。

(何なんだって言われましても、ケダマモドキのメスですけど)

 それ以外に、私を説明する言葉はないよね?

「そうだな。知ってるよ」

(私の中まで見たもんね)

「ぶ……っ、いや、あの時はあまり意識がはっきりしていなかったから、そんなには見てないからな!?」

 私の指摘に、吹き出したエヴァンが、大慌てな様子で反論してきて、私は大きく体を傾げる。

 あれ? そうだったっけ?

 まぁ、確かにエヴァンは毒で死にかけてたし、それもそうか。

「ハルさんの中は、もふもふで、もふもふで、もふもふなんです!」

 受付嬢達に訊かれたらしく、リュートが元気良く答えてる声がするけど、もふもふがゲシュタルト崩壊しそうだよ。

(ままのなか、もふもふ、あったか、るー、しあわせ)

 いつの間にか起きたのか、ルーもぷぅぷぅと鳴いて説明してくれてるけど、私にしかわからないんだよね、残念ながら。

(見たければ、見ても良いよ?)

 反論してきた後、思い出そうとしているのか、じぃ、と見てくるエヴァンに気付いた私は、そう言って真っ白なもふもふを蠢かせる。

「いや、だが、あー、今は大丈夫だ」

 エヴァンはかなり悩んだ後、受付嬢達の方をちらりと窺ってから、苦笑して首を振る。

 訝しんだ私がそちらを向いても、そこにはニッコリと笑うアンナさんとイリスさん、それと無表情なウィナさんがいるのみで。

「それより、宿の件だが、まだ空かないらしいが……」

 む、相変わらず人気というか、ノクのダンジョンが混んでるせいか?

 うちのリーダーである、リュートがどうするかだけど。

(そっか、どうする? リュート)

「じゃあ、馬ご「「「組合長の家で」」」……お世話になります」

 一応お伺いした私に、元気良く即答したリュートを台詞を、勢いのある三人分の女性の声がぶった切る。

「俺の家なんだがな」

 そう苦笑しているエヴァンだが、何だかんだで私達を追い出したりしないから優しいよね。

 と言うか、相変わらず兄貴か。

「ハル、その変顔は止めろ」

 そして、相変わらず、兄貴という単語には、私を変な顔にする力があるらしい。




 それはさておき、宿は一週間は空かないらしく、私達はエヴァンの屋敷へお世話になることにした。

「ハルさん、明日、女の子同士で飲みに行きましょう〜?」

 で、イリスさんのこの一言で明日の私の予定は、女子会決定だ。

(女の人呼びたいなら、言ってくれれば空気読むからね)

「……読まなくて大丈夫だ」

 受付嬢達を見送りながら、気を使ってエヴァンへ声をかけたら、ハァ、とため息を吐かれた。

 空気を読み間違えたかな、と思っていたら、私を抱く腕が、エヴァンからリュートに代わる。

「家政婦に説明してくるから、お前らは部屋で寛いでいて良いぞ」

 そう言い置いて、エヴァンは屋敷の奥へと消えていく。

 ちょうど家政婦さんが、掃除をしに来ていたらしい。

「どうしますか?」

(お言葉に甘えて、部屋で休みたいかな。人の姿は疲れたよ。変な人にも会ったし)

「わかりました。行きましょう」

 くてり、とリュートに体を預けると、しっかりと抱えて運んでくれる。

 やっぱり、リュートの腕は安心感があるよね。

「……そう言えば、あの男性、何処かで見覚えがあったんですよね」

 私を両腕で抱えながら、ふと気付いたように、リュートがポツリと洩らす。

 特に気になった、とかではなく、本当にふと思い出した感じの呟きに、私は無言で瞬いて先を促す。

「何処でお会いしたんでしょうか? かなり強そうな雰囲気でしたが……」

(確か、上級冒険者だって言ってたし、強いのは事実だろうけど。エヴァンに訊けば、何かわかるかもしれないね)

「上級冒険者なんですね。ハルさんにやけに馴れ馴れしかったですし、要注意人物です」

 口調は丁寧だけど、明らかにムッとした表情の可愛らしいリュートに、私はにまにまと目を細める。

 ヤキモチ妬きは、健在のようだ。

(よーちゅーい! あいつ、きらい!)

 ルーも同意なのか、激しくぷるぷるして、リュートの頭の上でぷぅぷぅと鳴いて跳ねている。

 本当に謎だな、あのキモい男。

 ルーにこんなに嫌われてるの、ボンボンぐらいじゃないか?

「ルーも、ハルさんを守る気満々みたいですね」

(みたいだね。二人共、ありがと)

 うちの子達は、いい子に育っているようで、何よりだ。

 二人共、気にしているけど、私は出来れば、あのキモい男にはもう会いたくない。

 ついでに、トイカで遭遇したクールな感じの名前のヤツにも会いたくない。

 何か、根っこが似てる気がするんだよな、何でか知らないけど。




 ――それより、気にしなきゃいけないことを、唐突に思い出す。

 と言うか、私にとっては、こっちの方が重要だよね。

 部屋に入った私は、ベッドの上に陣取ると、不思議そうなリュートを見上げて体を傾げ、口を開く。



(ねぇ、私の名前って、花の名前からとってくれたの?)



 目を見張ったリュートは、少しだけ躊躇った後、コクリと頷いて笑う。




 頬を染めて、はにかんだように笑うリュートは、ヤバいぐらいに可愛かったとだけ、ひとまず内心で叫んでおいた。

どちらの作品にも感想ありがとうございます。

近日中に返信予定です。


ハルのスルー力は、日々鍛えられ、主にエヴァンが被害を受けます。

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