表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/114

仲間って……(怒)

うん、もうすでに仲間をヤりたくなってます。

「え? 満室、ですか?」

 私を肩に乗せ、リュートは宿屋のおかみさんの言葉を、呆然と繰り返す。

「そうなのよ、ごめんなさい。今日は、思いの外、お客様が多くて」

 申し訳なさそうに告げるおかみさんは、ふくよかな体型の肝っ玉母さん系で、言葉に嘘は無さそうだ。実際、食堂を兼ねている一に階は、かなりの人数がいる。

(仲間がいるって言ってみたら?)

「はい。あの、連れが先に入っている筈なんですが……」

 私の助け船に、リュートはおずおずと、こちらも申し訳なさそうに告げる。

「あら、そうなの? お名前は?」

 リュートの言葉を聞いたおかみさんは、ホッとした表情を隠さず、宿帳を捲り始める。

「ノーマンです」

「はいはい、ちょっと待ってね。……良かったわ、あったわよ。あなたより少し上ぐらいの子達だね」

「はい、そうです。すみませんが、部屋を教えていただけますか?」

「ええ」

 こんなやり取りがあれば、普通なら仲間と合流し、相部屋にさせてもらえると思うだろう。

 しかし、リュートが教えてもらった部屋に行くと……。




「はーい、って、リュートかよ。遅かったね〜、相変わらずトロいね」

 部屋から出て来たのは、ヘラヘラと笑っているチャラ男。

 廊下に立つリュートを認めた瞬間、チャラ男は嫌そうに顔を歪める。

「……ごめん」

「で、何か用? 今日は、お前を探して疲れたから、休みたいんだけど?」

「部屋が満室で、相部屋させてもらえないか?」

「無理。だって、ベッド二つしか無いんだよ?」

 丁寧に頼んだリュートを、ヘラッと笑ったチャラ男は迷う素振りも見せず、バッサリと切り捨てる。

「俺は、ソファでもいいから、頼む」

 頭を下げて食い下がるリュートを見て、チャラ男が嫌な感じに笑うのを、私は必死に黙って見ている。

「えー、嫌」

「じゃあ、床でも……」

 さらにリュートが食い下がると、部屋の奥からボンボンが現れた。

「うるさい。お前みたいな穀潰しが、僕達と同じ部屋に泊まれると思うな。お前は、その辺で寝ていればいいだろ、その毛玉と」

 リュートへ言い返す間を与えず、一方的に喚き散らしたボンボンによって、無情にも私達の目の前で部屋の扉は閉じられる。

「……すみません」

(リュートが謝る事じゃないよ)

「廊下で寝てたら迷惑ですよね」

(おかみさんに、相談してみようか。物置でもいいから置いてくださいって)

「そうですね」

 肩を落としたリュートを慰めようと、私はもふもふした自らの体をリュートの頬へ寄せる。

 自慢の毛並みは、リュートの気分を浮上させてくれたのか、リュートは小さく笑い、元来た道を戻っていく。

「おや、どうしたんだい?」

 戻ってきた私達に、おかみさんは優しく声をかけてくれる。

「いえ、あの、物置でもいいので、泊まらせてもらえませんか?」

「物置かい? そういう訳には……そうだ、今日は馬を連れたお客様はいないから、厩舎が空いてるんだよ。少し寒いかもしれないけど、藁に潜れば外よりは暖かいはずだよ」

「はい! それで十分です。厩舎を使わせてください」

(リュート、厨房借りられるかも訊いて。肉焼こう)

「……それと、あの、図々しいお願いですが、厨房を少しお借りしてもいいですか? 肉を焼きたいので」

「もちろん、構わないよ。食堂が混む時間は駄目だけど、それで大丈夫かい?」

「はい、ありがとうございます」

 ニコッと人懐こい笑顔を浮かべて返事をしたリュートは、おかみさんに向けて、ペコリと頭を下げる。

 私もリュートの肩の上で、一緒になって頭を下げておいた。




 夕食後、食堂に人影も疎らになった頃、私達は厨房を借りて、遅めの夕飯を作る。

 当たり前というのもおかしいが、リュートの仲間達は、夕食へ誘いに来る事はなかった。

 出来上がった料理を抱え、私達は厩舎へ移動して、ランプの明かりの中で皿を囲む。

(いつも一人なの?)

「みんなが食べた後、その日の働きによって、食べ物がもらえるので、一人で食べる事が多いですね」

 美味しそうに焼けた肉へかぶりつき、リュートは幸せそうに笑いながら答える。

(どうしたの?)

 リュートの扱いに、内心でイラッとしていた私は、リュートの表情を見て、頭を傾げる。

「こんな美味しいご飯を食べられるのもありますが、ハルさんと一緒に食べられるのが嬉しくて」

 ふふ、と心底幸せそうに笑うリュートに、私は抱いた怒りが萎んでいくのを感じる。

(うん、私も嬉しいよ)

 リュートが笑ってくれて。

「パンも美味しいですよ?」

(良かったね)

「ハルさんも、食べませんか?」

(大丈夫。リュートが食べて)

 リュートが差し出してくれたパンを前に、私はゆっくりと体を左右に振る。

「……じゃあ、取っておくので、お腹が空いたら言ってくださいね」

 少しだけ困った顔をしたリュートは、そう言いながらパンを入っていた紙袋へ戻す。

 このパンは、リュートを気に入った宿屋のおかみさんが、夕飯にしな、とくれたものだ。

「久しぶりにお腹いっぱいです」

 満足そうにお腹を擦ったリュートは、バフッと勢い良く積まれた藁へと仰向けに倒れ込む。

(そっか。明日はどうするの?)

 私はゆっくりと移動して、仰向けに倒れたリュートの顔を覗き込んで尋ねる。

「……予定はノーマンが決めるんで」

(未定って事か)

「そうですね」

 コクリと頷いたリュートが、小さく身震いしたのを、私は見逃さなかった。

(寒い?)

「……正直、少し寒いです」

 私の毛並みに入れてあげれば、寒さは凌げるだろうけど、目立ち過ぎる。万が一の可能性を考えれば、リスクが高い。

 私が悩んでいると、リュートは私を抱き上げて、藁へと潜ろうとする。

「藁へ潜れば、少しは暖かいかもしれません」

 藁へ潜る?

 そうだ、と思いついた考えに、私はリュートの腕から飛び降り、藁の中へと突っ込んでいく。そのまま、多少のチクチクは気にせず、泳ぐように藁の中を進む。

「ハルさん?」

(外から見える?)

「大丈夫ですけど……」

(じゃあ、ちょっと待ってね)

 困惑を隠せないリュートの声を聞きながら、私は藁の中でゆっくりと体のサイズを変えていく。

 これで、外からは藁の山が膨らんだようにしか見えないだろう。多少見えても、丸見えよりはマシだ。と言うか、私がリュートの寒そうな姿を見ていられない。

(ほら、リュート。寝るよ? 入って)

「ハルさん……」

 外が見えないので、私は声だけでリュートを誘う。

 しばらくすると、藁が掻き分けられる気配がし、人の温もりが毛並みへ入ってくるのを感じる。

「ハルさん、暖かいです」

(そう、良かった。今日は、色々あって疲れたよね。ゆっくり休もう)

「はい」

 リュートを包むように、ふわふわの毛並みをざわつかせ、私はリュートが眠るのを待つ。

 寝付きの良いリュートは、数分もしない内に、健やかな寝息を立て始める。

 さて、リュートが寝てる間に、もう少し自分探しをしよう。

 冒険者組合の組合長ですら、私――ケダマモドキを知らなかったという事は、鑑定通り、私はかなりのレアモンスターらしい。

 そんな事を考えながら、私はもう一度ゆっくりと自らを鑑定していく。

『鑑定結果

 種族 ケダマモドキ(雌)

 名前 ハル

 レベル 10』

 お、リュートがつけてくれた名前が、出た。これで、私は完全にハルだ。レベルも上がってる。

 まずは、私の特殊スキルから。

『鑑定……これ』

 そうか……って、やっぱり、私の鑑定って何か違うんじゃ、と力なく思う。

『最強もふもふ……触り心地の良さと、防御力の高さには定評あり』

 そう、定評あるんだ。って、誰にだよ。思わず突っ込んだ私は悪くない。

『サイズ変更……体のサイズを大小変えられる』

 これは、普通だ。一番お世話になってるし。読める最後は、

『接吸収……毛に触れたモノから、色々と吸収出来る』

 ざっくり過ぎる。まぁ、これで食べなくても平気な訳は何となく、理解出来た。

 空気中とかから、色々吸収してるんだろう、私。

 リュートから、吸い取ってはいないよね?

 と、不安を感じながらウィンドウを見つめていると、追加情報が浮かぶ。

『無意識な制御が出来るため、好きな相手からは吸う事はない』

 そうか、良かった。

 食べる必要はないみたいだけど、食べられるのかな?

『毛の中に収納した物を、吸収する事は可能』

 怖いよ。ガクブルだよ、それ。生き物とか吸収出来ちゃうの? 私。

 しようと思えば、リュートを吸収……したくないな。食べちゃいたいぐらい、とは好きの表現であるけど、いくら好きでも食べたくはない。ん? 追加事項がある?

『生物から吸収出来るが、生物を吸収は出来ない』

 矛盾……してないのか、これは。つまりは、血とか生気的なモノは吸えても、生きているモノを吸収は出来ないって意味かな、たぶん。

 試してみたくても、私はリュート以外を入れたくないし、リュートがいなくなったら、私はまた一人ぼっちになってしまう。それは嫌だ。

「はる、さん……」

 葛藤してると、毛の中にいるリュートに呼ばれる。

 そっと探るが、寝言らしい。むにゃむにゃと何かを呟き、幸せそうな寝顔をしてる。

 私とご飯を食べる夢でも見てるのかも知れない。

 気分がほっこりした私は、接吸収の詳細を知るのは諦めて、自分の鑑定を続ける。

 ここからは、最初読めなかった部分だけど……。

『放出……もふもふで受けたモノ、触れて吸収したモノを任意で放出。体内に吸収した場合は出来ない』

 少しだけ読めるようになっていた。私は、そこじっくり眺める。

 これなら、上手く使えば、攻撃出来るんじゃないかと。

 最近出来たムカつく奴らに、物をぶつける想像をしながら、ほくそ笑む私。恨みは十倍にして返すからね、いつか。

 放出の下には、まだ異世界文字で読めない部分がある。

 レベルが関係してるのかもしれない。危険なスキルじゃないと良いけど。

 スキルといえば、リュートも新しいスキルが付いてた気が……。

『鑑定結果

 種族 人間(男)

 名前 リュート

 職業 初級冒険者

 素直ないい子。

 

 特殊スキル 素直』

 素直って、特殊スキルに分類されるの? 他の人、剣術とか、体術とかだったけど。

 これも、リュートだからか。

 効果は?

『素直……疑わず進み、成長促進』

 あ、最近のレベルアップの早さは、これのおかげもあるのか。地味に良い仕事してるかも。

 リュートも、素直の下に読めない部分があるから、まだ目覚めてないスキルとかあるのか……。私のレベルが低いから読めない可能性もある。

 悩んでいると、不意に耐え難い眠気が襲ってくる。

 鑑定を使い過ぎたのかもしれない。

 私はもう一度、リュートを位置を確認してから、スイッチを切るように深い眠りの淵へ落ちていった。


吸収は、かなり緩い設定です。

一言しか喋ってない神様が緩いですから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ