土下座日和。
そんな日もあります。
初レビューいただきました!
柚子小町様、ありがとうございます。
これからも、もふもふ愛で頑張ります。
「……同じ名前でも、ずいぶん違うんだな。さっきは、絡んで悪かった」
「その、ケダマモドキ、投げたりして、すまなかった」
うん、マリオンもザッシュも、口だけでなくきちんと反省しているようだね。
え? 何故かって?
見事な土下座してるからだよ。
異世界にもあるんだね、土下座。
「ったく、騒がしいぞ」
そこへ奥の部屋から……ヤのつくご職業にしか見えない四十代ぐらいの男性が現れた。
たぶん、イリスさんと話をしていた相手、つまりはエヴァンの友人……の筈だ。
見た目はヤのつくご職業だけど。
『鑑定結果
種族 人間(男)
名前 ギルバート
職業 元・上級冒険者』
お。元だけど、上級冒険者なんだね。
見た目は、スキンヘッドな強面だ。一応、ダンディなイケメン寄りではあるね。
「お前が、エヴァンのお気に入りで、中級冒険者で、魔物使いなリュートであってるな?」
「エヴァンさんのお気に入りかはわかりませんが、そのリュートです。初めまして」
ペコリとお手本のような綺麗な礼をしたリュートに、ギルバートさんは軽く目を見張り、リュートの頭をガシガシと撫でてくれる。
「確かに、これで腕が立つんだ。気に入らない訳はないな」
「ありがとうございます? あ、仲間のモンスターも紹介しますね。こっちがケダマモドキのハルさんで、こっちがルーです」
自分への評価で首を傾げないように。
まぁいいかって顔で、私とルーを突き出さないように。
ギルバートさんは一瞬だけ目を見張り、すぐガハハと豪快に笑い出す。
「確かに、エヴァンの手紙通りだな!」
多分、自己評価が低い的な事が書かれて……、
「ハルってモンスターにベタ惚れなんだな、お前も」
たんじゃないようだ。エヴァンめ!
「自己評価も低いってのも、合ってるみたいだな」
そっちも書いてあるんかーい!
思わず関西人風に突っ込んじゃったよ。
駄々漏れてないと良いけど。……ん? そう言えばギルバートさん、妙な言い回しした? 気のせいか。
「俺と同じ名前の冒険者が、色々問題を起こしてるんですよね?」
私のもだもだ関係なく、話は本題に移る。
クロウパーティーも、マリオンとザッシュ以外は、コクコク頷いてる。
え? その二人?
まだ土下座してるけど?
額がゴリゴリいってるし、そろそろ誰か止めてあげて。
あと、シリアスな空気が、一気にシュールな光景になるから。
一部、厳密に言うと二人ほど額が赤くなってるが、やっと本題にしっかりと移る。
「それで、リュートと同名の冒険者なんだが……」
そう前置きしてギルバートさんが話し始める。
さっきリュートも言っていたけど、これがエヴァンと相談して決めた、リュートの偽者への対処だ。
リュートの偽者だとしてしまうと、本人にもダメージが来たりするので、じゃあただの同名で良いんじゃね? って結論になりました。
目から鱗だよ。
偽者が出たからには、本物が出てって、ははぁ、的な展開しないといけないって思ってたから。
そうだよね。別に、私のリュートの偽者だって公言してる訳じゃないし、放置で構わないか。……あ、自分が偽者だって公言する偽者って、いる訳ないか。
(ま。絡んできたらぶっ潰せば良いだけだよね〜)
(るー、がんがる)
うん、うちの子可愛い。頑張るって言えてないのが、特に。
リュート以外には私の声は聞こえないし、本題の話は進んでいる。
しかし、リュートの偽者……じゃなかった、同名さんは、小さな悪事を繰り返してるみたいだ。
通行人を意味なく恫喝。
店で騒ぎ、いちゃもんをつけて代金を払わない。
他の冒険者の獲物を横取りする。
他のパーティーが受けた依頼を、横からかっさらい、失敗したのをそのパーティーのせいにする。等々。
見事な小悪党だ。
逆に、もうちょい何かしてて欲しかった。
はぁ、とため息を吐くと、勘違いしたのか、リュートの手がなだめるように撫でてくれる。
ちなみに、私とルーの現在地は、皆さんが囲んでいる丸テーブルの上だ。
ギルバートさんが、時々ちょいちょい突いてくるのが擽ったい。
「同名野郎は、エヴァンの知り合いだと騙る野郎だって事で、次問題を起こしたら、この町から叩き出し、他の町にも伝令を出す。さっさと、この国から出てって欲しいもんだな」
ギルバートさんの豪快な笑い声を聞きながら、私は素朴な疑問を口にする。
(この国? そっか、国あるんだ)
町があれば、国もあるよね。当たり前か。
「俺達がこの国の名前は、ユナイトです」
私の呟きに、リュートは私を抱き上げて立ち上がり、壁に貼られた地図を見せてくれる。
大きな大陸が二つ、海を挟んで並んでいる。
ユナイトは西側にある大陸の、結構大きな国のようだ。
西は海へと面し、東と北、南にも国がある。国境は赤で描かれていて、わかりやすい。
その国境を、リュートは指でなぞってくれ、「ここがノク。ここがトイカです」と、丁寧に教えてくれる。
イリスさん以外は、リュートの奇行を不審げに眺めているが、気にしたら負けだ。
「ハルさんは、人間の言葉、わかるんですよ〜?」
イリスさんの緩いフォローに、皆さん微妙な顔してるよ。そりゃ、信じないよね、普通。
「そりゃ、すごいな」
ギルバートさんが馬鹿な飼い主を見るような目で、イリスさんを見てる。
「信じてませんね〜? リュートさん、ハルさん貸してください!」
「え、はい」
イリスさんの勢いに驚いたのか、リュートは珍しく私の同意を得ないで、私をイリスさんへ手渡す。
「ハルさんは、あたしの言ってること、わかりますよね〜」
(うん)
もふっとイリスさんの腕の中で頷くが、皆さんの顔はまだ微妙だ。
「質問してみてください!」
ギルバートさんが、悩んだ後、口にしたのは鉄板な質問だ。
「あ、あぁ、えーと、ハルはメスか?」
(うん)
こくりと頷く。
「じゃあ、モンスターなんだよな?」
次はクロウだ。
(モンスターです)
再びこくりと。
その後、何回か質問され、抱いているイリスさんや、リュートが合図をしてるんじゃないか、と二人は私から引き離されている。
「あ、俺ってカッコいいよね?」
うん。こんな馬鹿な質問をして来たのは、額に擦り傷のあるマリオンだ。
私は思わずジト目をし、ふいっとそっぽを向く。
「……言葉、理解しているようだな」
しばらくの沈黙の後、ギルバートさんが、ポツリと呟く。
マリオンには悪いが、何か納得してもらえて良かった。
いーやー! と叫んでるマリオンは、尊い犠牲となったのです。
それはさておき、本当の本題にやっと話は移る。
脇道に逸れたのは、私のせいだとかは言わないで欲しい。
「甲冑アリが出たんですよね?」
「あぁ。マノン、地図をくれ」
リュートの確認に、ギルバートさんが、カウンター内で控えていた女性職員――マノンさんへ声をかけ、地図がやってくる。
壁に貼られた世界地図とは違い、この辺りの地形が細かく描かれた地図だ。
ちなみにマノンさんは、仕事の出来る女秘書って感じだ。
クール系美人で巨乳。
思わず目で追っていたら、ヤキモチを妬いたリュートに抱き上げられた。
「ハルさん、美人の女性に弱いですよね」
(可愛いリュートの方が好きだよ)
一番はもふもふなんだけど、うちの子は別格だから!
ドヤァとしてると、リュートにギュッと抱き締められる。
慌てたルーがもぞもぞとし、少し擽ったい。
「おい、続きを話して良いか?」
「はい、聞いてます」
(私も聞いてまーす)
ギルバートさんが諦めたようにため息を吐き、話を始めてくれる。
クロウパーティーも参加している。魂が抜けかけたマリオン以外は。
「甲冑アリの巣はここだ。なかなかの規模らしく、町にもチラホラ被害が出て来ている。今回の作戦では、人海戦術で、甲冑アリの巣を叩く予定だったんだが、お前じゃないリュート達のせいで、冒険者達が出て行ったんだよ」
地図の赤く囲まれた場所を、ギルバートさんの太い指がトントンと叩く。
「……俺が昔みたいに動けたなら、良かったんだかな」
苦々しく寂寥感を滲ませて、ギルバートさんが笑っている。
鑑定した時に見たので、私にはその理由はわかる。
ギルバートさんの左腕は、筋が切れて、上手く動かせないようだ。
冒険者にとっては致命的なんだろう。
「ギルバートさん……」
クロウパーティーは、ギルバートさんと昔からの知り合いなのか、何かシリアスな空気が流れる。
そんな中、ニコニコとリュートが笑顔で口を開く。
「甲冑アリの中には、一回り大きな女王がいるんですよ? 楽しみですね、ハルさん」
すみません、うちの子、ちょっと空気読むのに失敗しました。
ギョッとするクロウパーティーを他所に、ギルバートさんは豪快に笑い出す。
さっきまでの弱々しい雰囲気は欠片もない。
「そうだな。女王はリュートに任せるぞ? 兵士ぐらいなら、片手でだって倒せるからな。クロウ、お前らも頼りにしてるぞ?」
いないもんは仕方無いし、動かないものは嘆いたって始まらない。
出来る事をしないとね。
しかし、いや、もしかして、だけど……。
今ぐらいの好感度なら、もう少しぐらい何かで上がれば、古傷も、もしかしたら?
いや、期待させて出来なかったら申し訳ないし、止めておこう。
ギルバートさん、片手でも強そうだし、リュートもクロウパーティーもやる気だから。
マリオン以外は。
甲冑アリ駆除の相談を終え、私達――私とリュートとルーとイリスさんは宿屋への道を歩いていた。
クロウパーティーは、トイカが拠点だそうで、家を借りてるらしい。
ルーは一番高いリュートの頭に乗り、ご機嫌だ。
(ぷー、ぷー、ぷぅ?)
謎の歌が無敵に可愛い。
何で疑問系なんだって気にならないぐらい。
イリスさんは、あちこちの店をウィンドウ(?)ショッピングしている。
私もイリスさんの肩に乗り、一緒にショッピングだ。
雑貨を眺め、アクセサリーをひやかし、トイカの名産だっていうスイカサイズのトマトに驚く。
せっかくなので、リュートに二つ買ってもらい、私はいそいそともふっと収納する。
宿屋に帰ったら、ルーと食べるつもりだ。
ここはノクじゃないから、私とルーは食卓にはつけないだろうし。
そう考えると、ノクのおかみさんは器が大きいよね。
ノクのおかみさんを思い出していると、イリスさんが動き出して、次の店へ向かう。
「ハルさん、服屋さんですよ〜? 組合長から、手紙もらいました〜。ハルさん、服が見たいんですよね〜」
イリスさんは小声でそう言うと、リュートを言いくるめて、私を連れて服屋の中へ入っていく。
あ、リュートが捨てられた子犬みたいな顔してる。
可愛いけど、お姉さんとか変なおじさんに気をつけて待ってて欲しい。
普通に誘拐されそうだ、可愛くて。
リュートに気を取られていた私は、服を見ているイリスさんの呟きに、エヴァンへ土下座したくなった。
「でも、組合長、下着も含めて、女性用の服一式って何するつもりなんでしょう〜。しかも、サイズは、身長とかは私で、胸はアンナさん寄りって、失礼です〜」
ちょっとイラッとしているイリスさん。
すみません、そのサイズの説明、私がエヴァンにしたやつなんです。
他に例えようがなくて……。
帰ったら、本気で土下座しようかな……。
スライディング付きで。
女神様に頼めば、スリーサイズ教えてくれたと思います。
ハルさんスリーサイズ。
胸以外は、イリスさん寄りのスレンダー(ちょいお尻厚め)
胸はアンナさんぐらい。
もちろん、エヴァンにも自分が着るとは言ってないですよ?
出番があるまで、もふもふ収納ですが。




