小旅行出発しました。
タイトル通りです。
アホ可愛いリュートは、時々、狂戦士予定だったせいか、片鱗が見えたりはしますが、基本はアホ可愛い子です。
(それで、そのリュートさんは、どんな問題を起こしたの?)
ニコニコと笑っているリュートを一先ずスルーし、私は苦虫を口一杯頬張った表情のエヴァンを見やる。
「まだ大した事はしてないが、冒険者の印象は最悪だ。トイカにいる友人からは『エヴァンの知り合いだというリュートという冒険者は、最悪のクソ野郎なんだが、お前の目は腐ったのか? お前のとこの受付嬢によると、お前のお気に入りだって話だったが?』と書かれた手紙が来るくらいだ」
(……ソウナンダ)
乾いた笑い声を洩らしてる私とエヴァンの姿に、リュートは後れ馳せながら何かを察したらしい。
「……え? もしかして、そのリュートって、俺の偽者なんですか?」
アホ可愛いな、うちの子は。
自分を指差して、ワタワタとするリュートを放置し、私はエヴァンへ向き直る。
明らかにリュートを狙った犯行に、犯人の心当たりがある。思い出したくもないけど。
(で、そのリュートさんは、一人で現れたの?)
「いや、仲間が三人いるそうだ。男二人に女が一人。で、全員もれなく評判が悪い」
ニィと笑ったエヴァンは、私の言いたい事を理解しているらしい。と言うか、素直ないい子のリュートを恨んでる奴らなんて、あいつらしかいない。
私がふふふ、と真っ黒く笑っていると、エヴァンが何とも言えない眼差しで私を見てくる。
(何?)
私が体を傾げて短く問うと、エヴァンはくく、と喉奥で笑う。
「リュートの偽者に関して、変な一文があって、悩んでたんだが、ハルだな、と思ってな」
(何が私なの?)
「手紙によると、偽者は、防寒対策なのか、肩に薄汚い毛皮をくくりつけてるそうだ」
(……肩に、毛皮)
想像してみた。って、エヴァンの言う、私だなって……。
(もしかして、こういう事な訳?)
私はワタワタとしているリュートの肩によじ登り、そこに落ち着きながら、含み笑いをしているエヴァンを窺う。
「あぁ、それだろうな」
「何て酷い!」
(……逆に違和感があるよね)
ワタワタから復活して怒鳴るリュートに、私も同意して頷く。
肩にだけ毛皮って、防寒対策としても微妙だし。
「ハルさんは薄汚くなんかないです!」
(あ、そっちね)
リュートはブレないね。
「……自分の偽者に対しても、それぐらい怒って欲しいんだがな」
(リュートなんで、無理)
即答したら、エヴァンが項垂れた。
とりあえず、私とルーで膝に乗って、癒しをプレゼントしておいた。
「俺の偽者が出たから、ハルさんが瞬間移動出来るか訊かれたんですね」
私がエヴァンの膝からリュートの膝へ戻ると、リュートは納得がいった様子でポツリと呟く。
「ああ。ハルはかなり特殊だからな。一応の可能性は考えたが……。薄汚い毛皮をくくりつける必要はないな、リュート本人なら」
(私がいるからね)
エヴァンが撫でて乱れた私のもふもふを直しながら、リュートは嬉しそうに返事をする。
「はい!」
素直で可愛いキラキラな笑顔を見ると、本当に狂戦士とかにならなくて良かったと思う。
「俺が呼ばれたのも、偽者が出たからですか?」
「そうだな。それで、お前らの都合が良ければ、トイカの町へ行ってもらいたいんだが……。本来なら、俺が行きたいが、さすがにリュートの偽者が出たぐらいじゃ、俺自身が動く訳にいかないんだ」
甲冑アリが町へ攻め込めば行けるけどな、とニィと笑うエヴァンは、立場云々より戦闘がしたいだけかもしれない。
私がそんな事を考えて見つめていると、がしがしと撫でられる。
いや、別に撫でられたい訳じゃ……まぁ、撫でられますけど。
(じゃあ、リュートは偽者成敗すれば良いんだね)
「別に俺は偽者が出ようが気にしませんが、ハルさんを薄汚い毛皮扱いしたのは許せません」
真っ白なもふもふの私を抱き締め、リュートはげきおこな様子だ。
「気にしろ。ま、俺の名前を騙らなければ、放置でも良かったんだがな。偽者は、腕前も偽りらしいんでな。ついでに、甲冑アリの駆除を手伝ってやってくれ」
ブレない怒り方に、エヴァンは苦笑しながらなだめるよう、リュートの肩をポンポンと叩いている。
(甲冑アリ、美味しいかな)
ぷるぷる!
私が呟くと、ルーも楽しみらしく、激しく震えている。
うむ。可愛いな、うちの子。
「俺は食べた事ないんですよね」
「あったら驚きだ」
(だよね)
すみません、と何故か申し訳なさそうなリュートに、私とエヴァンが、揃って突っ込む。
あ、でも、ボンボンに騙されてドクイチゴ食べようとしてたぐらいだし、リュートならかじるぐらいはしそうだ。
素直で疑わないし。
エヴァンも同じ事を考えたのか、何とも言えない眼差しでリュートを見つめていた。
目が合った私達は、リュートだしな、という表情で頷き合う。
「早速、明日出発でかまわないか?」
「はい。俺達は今日でも構いませんが……」
(うん。準備は特にないからね)
服は買いたいとは思ってるけど……。
あ、ドレスとかも良いよね。お嬢様ほど、フリフリじゃないやつで。
お金、足りるかな?
「いや、トイカにはうちの組合から、イリスにも向かってもらう事になってるんだ。四人で明日出発で頼む」
何色似合うかな、とズレた事を考えていた私は、エヴァンの言葉に体を傾げる。
(四人て? リュートにイリスさんに、あと誰?)
「ハルとルーもいるだろ?」
呆れたように笑ってサラッと答えるエヴァンに、不覚にもドキッとしたのは、内緒だ。
(禿げてしまえ!)
「何でだよ!?」
いつも、全力の突っ込みありがとうございます。
次の日、待ち合わせ場所に現れたのは、丈夫そうな革の鞄を手にした、旅装姿のイリスさんだ。
「はーい、トイカまでは、馬車で行きますよ〜? 準備は大丈夫ですか〜? おやつは銅貨三枚までですよ〜?」
引率の先生のようなイリスさんに案内され、私達は組合貸切りの馬車へと乗り込む。
箱形の馬車は、私達しか乗っていないので、空間だけはある。けど、椅子は硬そうだし、乗り心地は悪そうだ。
リュートに乗ってる私とルーには無関係だね。
私達の荷物は、私のもふもふ収納に収納済みなので、リュートは剣と私とルーしか持っていない。
そのリュートも外套を羽織って、旅人っぽい格好になってる。
外套にはフードがあったので、せっかくだから、私とルーはインしてみた。
(イリスさんの鞄も、収納しちゃう?)
フードから、もふっと伸びた私は、向かいの席に座ったイリスさんを確認し、リュートへ話しかける。
「そうですね。イリスさん、よろしければ、ハルさんが鞄を収納してくれるそうですが……」
「ありがとうございます〜。でも、自分の荷物ぐらいなら、重くないので大丈夫です〜」
うふふ、と緩く笑って言うと、イリスさんは自分の鞄を叩いて見せる。
見た目はか弱いお嬢さんだけど、中身はそうではないって事だね。
私的には、好感が持てる。
「出発しますね」
御者のおじさんの声がして、ゆっくりと動き出す馬車。
うわ、結構揺れるね。
道が悪いのか、馬車の構造が悪いのかはわからないけど、揺れはなかなか激しい。
私はリュートの上だから平気だけど……。
(トイカまでは、どれぐらい?)
「馬車で一日ぐらいですね」
お尻、大丈夫だろうか、二人共。
エロ親父じゃないよ? 普通に心配しただけなんで。
途中、休憩はしたけど、イリスさんの顔色は、あまりよろしくない。
今さら馬車酔いって事はないだろうから、お尻が痛いんじゃ?
(リュート、お尻痛くない?)
「少しは。でも、慣れてますし、鍛えてますから」
うん、リュートは平気そうだな。さすが、レベル20オーバーの尻筋。
じゃあ、心置きなく、私はイリスさんの方へ行こう。
(リュート、イリスさんに少し腰浮かせてもらって?)
リュートにそうお願いしてから、私は揺れる馬車の中、イリスさんの座っている側の椅子へ飛び乗る。
「ハルさん、どうかしましたか〜?」
「あの、ハルさんが、少し腰浮かせてもらえないかと……」
不思議そうに私を見てくるイリスさんに、リュートがおずおずとお願いしてくれる。
「腰を浮かせればいいんですね〜」
ゆるっと答えたイリスさんが腰を浮かせたのを見計らい、私は体を平らにしてイリスさんのお尻と、硬い椅子の間に滑り込む。
すぐにもふもふの上に、何とも言えない柔らかい感触の重みがかかり、一瞬で消えた。
あれ?
「は、ハルさん〜! ごめんなさい、踏んじゃいました〜」
「あ、大丈夫です。たぶん、ハルさんはクッションになるつもりなんだと。俺が上に乗っても平気なんですから、イリスさんぐらいなら全く問題ないと思いますよ」
慌てるイリスさんに、リュートは自分の事のようにニコニコしながら説明してくれた。
おかげで、躊躇っていたイリスさんも、恐る恐るだけど、腰を下ろしてくれる。
良かった、良かった。
「ありがとうございます、ハルさん。実は、いつも持ち歩いていたクッション、忘れちゃったんです」
これだけ揺れるし、対策はいつもしてたのか。
イリスさんは、緩いけど仕事は出来る女だもんね。対策ぐらいするか。
今日は忘れたけど。
(全然軽いから、気にしないで)
言葉は通じないので、もふっとざわめいて返すと、擽ったいらしく、イリスさんがクスクス笑ってくれる。
「ハルさんクッション、いつも持ち歩いるクッションより、全然座り心地が良いです〜」
(そう? ありがと)
「そうですよね! カネノ様のお宅のソファ、ふかふかだったんですけど、ハルさんの方が全然座り心地が良くて……」
「お貴族様のソファに勝つとは……、さすがハルさんです〜!」
「はい!」
……何か、二人のテンションについていけなくなったので、寝る事にしよう。
起きたら、トイカに着いてると良いけど……。
そんな甘い考えを持ったせいか?
目が覚めた時には、馬車の中には私だけしかいなかった。
周りに人の気配もない。
置き去りにされたようだ。
(何がどうして、こうなった!?)
誰にも聞こえないだろうから、全力で叫んでおいた。
ハルさんには何色が似合うか、悩んでます。
トイカには、着きませんでした。
ご感想、コメントありがとうございます。
暑い日が続きますので、皆様、熱中症にはお気をつけください。




