洗脳?
ハルさん教に、一人入信(笑)
リュート、少しは怒ろうよ、な話です。
「お、おま、いや、君は、本当に中級冒険者なのか?」
新人くん、面白い顔になってる。
私が思わずくすくすともふもふを揺らして笑っていると、リュートも楽しそうに笑う。
「あぁ。この間、なったばかりだけどな」
私を撫でながら、リュートは片手で服の下から、中級冒険者の証である銀の札を取り出して見せる。
相変わらず、自分の事では怒らないリュートは、気にした風もなく笑っている。
「最初から、見習いの僕達なんか、眼中ではなかったって事かよ! 馬鹿にしやがって!」
あ、キレた。本当に思い込みが激しいと言うか……。
「そんなつもりはない。俺一人なら、ここまで強くはなれなかったからな。全部、ハルさんのおかげだ」
うん。リュート、真剣な顔で語りながら、私を抱き締めて頬擦りは止めようか?
ぶち壊しだから。
「……何なんだ、そいつは」
新人くんは、毒気を抜かれたようだ。
「ハルさんは、ケダマモドキっていう珍しいモンスターなんだ」
あ、この流れは……。
あはは、こうなるとリュートは止まらないんだよねぇ。
「ハルさんは素晴らしいんだ!」
語る相手が出来て、リュート嬉しそうだ。
私は遠い目をして、戸惑う新人くん達を捕まえて、私の魅力を語っているリュートを見つめている。
エヴァンは巻き込まれないように、離れた位置でルーをもてあそんでる。
止める気はないのか?
と言うか、さっき言いかけた話は何なんだ?
エヴァンに目で訴えていたら、イイ笑顔でグッと親指を立てられた。
エヴァンの薄情者……っ。
「それは確かに素晴らしいな!」
「そうだろ、ハルさんは素晴らしいんだ!」
リュートが分裂した訳じゃないよ?
新人くん……可哀想だから名前呼ぶよ……デブリが洗脳されただけだよ。
元々、思い込みが激しいからね。
何か気付いてたら、こうなってた。
他人に迷惑はかけないだろうから、私が我慢しよう。
「おい、話の続きをしていいか?」
「「はい!」」
デブリ、影響受けすぎだよ……。
お仲間が、またかよ、って顔してるし、よくあるのか。
「デブリ、お前らが倒した山々ナメクジだが、何使った?」
エヴァンは気にしない事にしたらしく、キリッとした顔で再び話しかけてくる。
「え? あの、リュートは弱くて嫌な奴で、卑怯な手を使うから、何かあったなら使ってといただいた薬ですが?」
(何それ!?)
デブリの説明に、私は思わずもふっと膨れ、怒鳴り返すが、首を傾げてるデブリには伝わらない。
(エヴァン、怒って!)
リュートは怒らないのはわかってるから、エヴァンへ向けて叫ぶと、伸びてきた手に宥めるようもふられた。
「それは、誰にだ? 薬の見た目、あと効果は聞いたのか?」
「リュートの仲間だったっていう、エメラさんですが? 薬は瓶に入った透明な液体で、麻痺させる薬だと聞いてたので、山々ナメクジを倒すのが楽になると思って使ったんですが……」
「振り撒いてか?」
「はい。一応、魔法で風を作り、僕らにかからないよう気をつけましたが、それが何か?」
答えるデブリに、嘘を吐いている様子はなく、エヴァンは深々とため息を吐く。
「……お前らが使ったのは、猛毒だ。肌から吸収しただけで死に至るような。おかげで、あの山々ナメクジは納品出来ねぇよ」
「え!?」
デブリは目を見開くと、慌てて仲間を振り返り、無事を確認している。
「空気に晒されれば、すぐに無毒化するから、今生きてるなら大丈夫だ。ただ、生物に吸収された分は体内に残るからな。素材としても、ましてや食ったりなんてもっての他だ」
慌てるデブリの態度に嘘は見えないので、説明を終えたエヴァンは、肩の力を抜くが、その表情は険しい。
(……って、下手すれば、デブリも、お仲間も、周りの冒険者も危なかったじゃん!)
そりゃ、険しい顔にもなる……?
ん? まだ何か忘れてる?
「エメラ、そんなに俺が弱いのが気に入らないんですね」
リュートがシュンとして私を抱き締めて、顔を埋めて呟く。
そうだよ、リュートだよ!
その毒、リュートに使われるとこだった!
(そういう問題じゃない! 次会ったら、ボッコボッコにしてやるから!)
もふぅっと膨らんで、私が全身で怒りを表すと、ルーも一緒にぷぅぷぅ膨れている。
リュート本人だけが、気にした様子もなく、怒る私とルーを嬉しそうに見ている。
いやいや、怒ろうよ、ちょっとは。
「まさか、僕を騙して、リュートを始末させる気だったのか!」
デブリは熱血ヒーローなノリで怒ってるし。
うん、デブリはノクの冒険者組合の雰囲気、合うと思うよ?
ただ、思い込みが激しいのは、直した方が良いと思うけど。
また誰かに騙されそうだ。
「何か、ノーマン達、こういう悪戯を俺によく仕掛けますね。前はドクイチゴを野イチゴだって、嘘を教えられてましたよね」
いやいや、悪戯じゃ済まないよ?
どっちも、死ぬから! 即死だから! 下手すれば、大量虐殺だよ!?
言っても仕方無いから、心の中で叫んでいたら、エヴァンから生温い目で見られてた。
(リュートはこういうとこも可愛いの!)
思わず叫ぶと、今度はため息を吐かれた。
エヴァンめ。
「デブリ。麻痺薬と勘違いしてたとしても、今回の依頼は、納品した物を食べる事がわかっていたんだ。あまり、良い手段とは言えないな。いくら勝ちたくても、次からは依頼を疎かにするな」
「はい!」
私の恨めしげな視線を無視し、エヴァンは組合長な顔でデブリ達へお説教を始めてる。
リュートは一緒になって、真剣な表情で聞いてるけど、リュートには必要じゃないからね?
(エヴァン、あの毒まみれの山々ナメクジどうするの?)
下から見上げたリュートの顔は、楽しそうだったので、突っ込むのを諦めた私は、キメキメでお説教しているエヴァンへ話しかける。
「ん? あの山々ナメクジは焼却処分する予定だが、どうした?」
(じゃあ、食べていいね。ルー、おやつだよー)
エヴァンの答えを聞いた私とルーは、それぞれ抱えてくれていた腕から飛び降り、山々ナメクジの山へと向かう。
ギョッとする周囲の冒険者達を気にせず、私とルーは山々ナメクジをおやつとしていただいていく。
猛毒のおかげか、スパイシー感があって、いつもより美味しいかもしれない。
「お、おい! リュート! ハルとルーが猛毒の山々ナメクジ食ってるぞ!」
「早く止めないと、二匹が死んじまう!」
「お願い、止めてよ!」
皆さん、ノリノリだね……って、私とルーが心配させてるのか。
ルー、早いな。もう二匹目だよ。
「ハルさんとルーは、毒耐性があるから大丈夫なんです。ご心配おかけしてすみません」
(ん、苦しゅうない)
駆け寄ってきて謝るリュートの脇でふざけていたら、エヴァンに鷲掴みされて、持ち上げられる。
「全く、心配させんじゃねぇよ」
(心配してくれたんだ?)
ぶらぶらとしながら、エヴァンを覗き込むと、ふいっと顔を逸らされる。
「普通の山々ナメクジじゃなくて、猛毒だからな」
(ごめんね、ありがと。リュートも、ありがと。皆さんも、驚かせてごめんなさい)
ぶら下げられたまま目礼する私を真似し、ルーもぷるぷるしながら頭を下げるような動きをしている。
ノリも人も良い冒険者達は、口々に、気にすんな、と言いながら笑顔で去っていく。
(リュート、ルーがもう少し食べたいみたいだから、ついててあげて?)
「はい。焼却処分する時に間違えて一緒に焼かれたら困りますもんね」
私のお願いに、リュートは嫌な顔一つせず、山々ナメクジを食べているルーの側へ歩み寄り、待機する。
私はその間に、エヴァンへ小声で話しかける。
デブリ達は、山々ナメクジの運搬を手伝い、一足先に町へと帰ったので、エヴァンは一人だ。いたとしても、デブリには私の声は聞こえないので、良いんだけど。
(エヴァン)
「なんだ?」
答えながら、エヴァンは私を抱え直してくれる。
うん、宙吊りは話し辛いよね。見た目的にも。
(ボンボン達って、まだ生きてるの?)
「あぁ。悪運が強いらしい。一応、他の町の冒険者組合にも連絡はしてあるが、あちこちで騒ぎを起こしてるようだな。もうあいつらの言葉を信じる奴はいないと思ってたが……」
(いたね)
見え見えなボンボン達の嘘に、ある意味、リュート系なデブリが引っ掛かったと。
「……巧妙だな。毒とは言ってない、殺せとも言ってない。全く、冒険者としての腕を磨けよ」
(資格剥奪とか出来ないの?)
「審査が厳しい分、なかなか剥奪まではな。相当な罪、そうだな、理由なき殺人を犯せば、剥奪されるだろう。ついでに、首も胴体から離れるがな」
(理由なき殺人?)
「正当防衛なら、減刑はされる」
リュートなら正当防衛になるぞ、と冗談めかせて笑うエヴァンに、私は内心ひっそりと笑う。
正当防衛?
そんな心配しなくても、私とルーなら、死体も痕跡も残さない。
ボンボン達は、いた事もわからなくなる。
「何か悪い顔してんな? 思い詰めるなよ?」
どうして、こんなもふもふ顔なのにバレるんだろう?
「俺もいるからな。いくらでも、相談しろよ?」
ニッと男らしく笑うエヴァンは、文句なしにカッコいい。あと……。
よっ、兄貴! って、言いたくなるんだよね。
「変顔止めろ」
笑ったエヴァンに、がしがしと撫で回され、最終的にもみくちゃにされた。
何か、セクハラされた気分……。
リュート、その道端のゴミを見るような眼差しはしちゃ駄目!
可愛くないから。
自分はどうでもいい分、ハルやルーに何かすると、もれなく道端のゴミを見るような眼差しで見つめてきます。
リュートはそんな子です。
ご感想、ありがとうございます。
ルーはまだまだ成長期です。




