……食いしん坊め!
素直ないい子で、食いしん坊キャラです。
そう言えば、リュートの年齢とか出してませんが、14ぐらいの想定です。
(リュート、いったよ〜!)
「はい!」
煤を渡る系な生き物のように天井を這い回る私は、リュートへ合図を出しながら、前方の山々ナメクジを叩き落とす。
リュートの上に落とすようなドジはしない。
万が一したとしても、リュートは避けるだろうけど。
落ちてきた山々ナメクジを、リュートは気合の声と共に一閃する。
「嘘だろ、剣の通りにくい山々ナメクジが、あんな簡単に」
「モンスターが、モンスターを倒す手伝いするなんて……」
そうだろ、そうだろ、リュートは強いんだからな? って、茶髪は私に驚いてるのか。
何かノクの町で普通に受け入れられてるから、新鮮な反応だ。
そんな事を思いつつ、私は山々ナメクジを収納だ。食べてないよ?
ルーが食べたそうにぷるぷるとしてるから、かなり心は揺れてますけど。
美味しいもんね、山々ナメクジ。
(多めに倒して、後で食べようね?)
私がそう話しかけると、ルーは嬉しそうにコクコクと頷き、床を這ってきた山々ナメクジへと一直線だ。
あ、と思った時には、ドゴッとまた鈍い音がして、山々ナメクジが昏倒……て言うか、お亡くなりになったようだ。合掌。合わせる手はないけど。
「な、なんだよ、あのスライム!」
「たぶん、硬化じゃない? たまに出来る個体がいるって話だし」
リュートよりルーが度肝抜いたらしい。
アンディも少年達の背後で驚いてるし。
三人を驚かせたルーはと言うと、マイペースに倒した山々ナメクジの周りを跳ねている。
あれは、食べていい? アピールだな。
(一匹くらい良いよね、リュート)
「そうですね。……食べていいよ?」
私とリュートから許可が出ると、ルーは歓喜のぷるぷるをしてから、自分よりかなり大きい山々ナメクジを呑み込んでいく。
食事中は無防備なので、私はルーの近くに移動し、待機だ。
(前方から、二匹来るよ。壁と床)
「はい! 前へ出ます」
ヌメヌメな床をものともせず、リュートは私とルーの横を駆け抜け、そのままの勢いで山々ナメクジを斬り殺し、止まれなかったのか見えなくなる。
(……リュート?)
しばらくすると、魔法袋を片手に、リュートが戻ってきて、自らが倒した山々ナメクジを回収する。
「先に何匹か見えたので、倒してきちゃいました」
へへ、と笑うリュートは、掛け値なしに可愛いと思う。
(何匹ぐらい?)
「五匹いました」
色々、規格外な事をしてるけど。
もう少年達は言葉もないよ。
これ、自分には才能がないから、冒険者辞めるぜってならない?
私が心配して、少年達を見つめていると、山々ナメクジを食べ終わったルーが、もふもふの中へ潜ってくる。
(お昼寝する? ゆっくりお休み)
ルーは大活躍だったからね。
私がルーをあやしてると、アンディと少年達の会話が聞こえる。
「どうだ? リュートの戦い方は参考になったか?」
「参考……に出来るかはわからねぇけど、俺もっと頑張るぜ! あいつらには絶対負けない」
「俺も頑張る。今までは、あいつら強いと思ってたけど、リュートに比べれば、あいつらも弱いってわかったし」
「リュートに追いつけるかって言われたら、いきなりは無理だけど、あいつらには、頑張れば追いつけそうだよな!」
「あぁ。まずは、馬鹿にしてたあいつらの鼻をあかそう!」
何だかやる気になったようで良かった。
少年達がやる気になってる中、アンディがこっちへ近寄ってくる。
「ありがとう、助かった。サムもシガーも弱くはないんだが……。負けたくないっていう同郷のパーティーが、二人をボロクソに言ったらしくて、やる気はあるが、何処かに勝てないっていう気持ちがあってな」
あー、リュートが穀潰しで、足手まといって言われ続け、呪いみたいになってるのと同じか。
言霊みたいなのってあるんだよね。
「同年代で、とんでもなく腕の立つリュートを見れば、同郷のパーティーがそんなに自分達とかけ離れてないと、目で見てわかると思ったんだ。上手くいって良かったよ」
「お役に立てたなら良かったです」
ニコニコと笑うリュートは、私を抱き上げて、去っていくアンディと少年達を見送る。
「俺程度の腕で感心してもらえるなんて、照れますね」
去っていく三人に、リュートの言葉が聞こえなくて良かったよ。
三人共、お笑い芸人真っ青な勢いで転けちゃうからね?
(リュートは弱くないよ)
腕前も強いし、何より心が強いと思う。
ボンボン達の呪いが解けるまで、私が言い続けるよ。
リュートは強いんだ、って。
ちょいシリアル……違うって、ゆる女神様がうつったかな?
改めまして。
ちょいシリアスだった空気は、あっという間に吹き飛び、私達は帰路についていた。
気付いたら、山々ナメクジが軽く十匹を越えてたからだ。
そりゃ、見えなくなったと思ったら、五匹狩って帰ってくる子がいますから。
帰り道、誉めて誉めてアピールを控えめにするリュートを、甘やかしながら……他人から見たら、たぶん、私が可愛がってもらってるように見えるだろうけど……特に危険もなく、私達はダンジョンを後にしていた。
誰に似たのか、たくさん食べるルーが、目を覚まして空腹を訴えたので、森の中で早めの夕飯タイムとなった。
開けた場所を見つけると、リュートはおかみさんお手製弁当で、私とルーはリアルに道草を食べる。
(ほら、これがドクイチゴだよ)
ぷるぷる。
美味しそうにお弁当を食べるリュートの近くで、私とルーは熟したドクイチゴを食べていく。
毒耐性がある生き物しか食べないせいか、ドクイチゴは鈴生りだ。
私とルーは毒耐性があるので、美味しくドクイチゴをいただいていく。
「……美味しそうですね」
(駄目だよ? 二粒も食べたら、即死だからね?)
私とルーを羨ましそうに見てるリュートのため、私はもふもふ内にしまってあった青リンゴを吐き出す。
(リュートは、これ食べてて)
「ありがとうございます!」
お弁当じゃ足りなかったみたいで、リュートは嬉しそうに青リンゴへかじりつく。
私は、そっと二個追加で吐き出しておいた。
(ドクイチゴ、美味しいね、ルー)
ぷるぷる。
何だろう。ストロベリーソーダみたいな?
甘くて、シュワシュワするんだよね。
毒がシュワシュワ部分だと思うけど、確かめようがないね。
ルーと顔を見合わせ、黙々とドクイチゴを食べていく。
野苺なら、鳥や獣もモンスターも食べるかもしれないけど、ドクイチゴなら食べ尽くしても大丈夫だろう。
途中、大イモムシと出会ったけど、目を輝かせたルーのご飯になった。
私と違って、ルーは相手が生きてても食べられるんだよね。
大イモムシを呑み込んだルーの体は、抹茶餡入りの葛まんじゅうみたいだ。
時々、ボコッて変形するけど。
しばらくすると、ルーは元の大きさに戻って帰ってくる。
どうなってるんだ? って、私が言っちゃ駄目だよね。
サイズも自由自在。もふもふの中は魔法袋と同じ効果あり。
吸収した攻撃を、放出して攻撃も可能。
もふもふの中に入れた生物を回復。場合によっては、デトックスも可能。
うん、今さらながら、私って結構チートってヤツじゃない?
攻撃が出来ないから、最強とは言えないけど。
攻撃に関しては、リュートが最強になれば良いんだよね。
ルーもなかなか将来有望だし、三人(?)パーティーでも、上手くやっていけそうだ。
(リュート、そろそろ帰ろうか……って、どうしたの?)
葛まんじゅうだったルーを回収し、リュートを振り返った私は、そこに真っ白な顔色をしたリュートを認め、瞬きを繰り返す。
ふらついて、何か今にも倒れそうなんだけど……。
慌ててリュートの元へ駆け寄ると、その足元に転がる数個のドクイチゴに気付く。
まさかとは思うけど、嫌な予感がひしひしと……。
(リュート、食べたの!?)
「ひとつなら、へいきかと……」
それだけ言って、その場にバタリと倒れ込むリュート。
(いやいや、一つでも、猛毒は猛毒だから! 即死しないだけだから!)
私は慌ててルーを吐き出し、見張りを頼んでから、体のサイズを変えてリュートをもふっと取り込む。
(毒を吸収、毒を吸収……)
どれだけ食いしん坊なの?
徐々に穏やかになるリュートの呼吸を感じつつ、私は深々と安堵の息を吐く。
上手くいったようで何よりだ。
リュートは眠ってしまったようで、動く気配はない。
(ルー、野営によさそうな場所探して?)
私のお願いに、見張りをしていたルーは、張り切って跳ねていく。
しばらくして、ルーは戻って来たが、何故か葛まんじゅうだった。
途中で、大イモムシを摘まみ食いしたらしい。
うちの子は、いい子なんだけど、いい子なんだけど――。
(食いしん坊過ぎるから……)
ルーはともかく、リュートは明日キツく叱ろうと思います。
ルーの見つけた野営場所へ向かいながら、私は心を鬼にして決意していた。
起きた後、めちゃめちゃ怒られます。
リュートは、ハルさんとルーが美味しそうに食べてたから、食べたくなりました。
基本的に深く悩んだり、考えない子なんで。
地面に巣穴見つけたら、指突っ込んじゃいますよ、多分。で、噛みつかれそうになったら、身体能力を駆使して避けます。
ちょいお馬鹿です。
評価、ブクマ、ありがとうございます。




