仲間って……以下略。
仲間に救済は与えません。
実はいい奴で的なのは、全く書く予定がないです。
森の中はダンジョンとは違い、私はもふもふとした全身に朝陽を浴びて目を覚ます。
夜中に何度か襲われたが、私も、もふもふ内のリュートも無傷だ。最強もふもふ健在なり。
(リュート、朝だよ。おはよう、起きて)
「んん……」
私が呼びかけると、もふもふの毛並みから、ボフッとリュートの頭が現れる。
(そういえば、潜ってて苦しくないの? 毛が口に入ったりとか……)
「……おはよう、ございます。苦しくないです。絶妙に空間が出来るし、呼吸を妨げられたりは全くないです」
ふと感じた疑問を訊ねると、リュートは目を擦りながら、面倒臭がらずに答えてくれる。
「ハルさんこそ、日が落ちると冷えますけど、寒くないですか? 今度から火を起こしますか?」
(寒くないよ。大丈夫、火もいらないよ。もしかして、リュート寒かった?)
心配してくれるリュートに頭を横に振って答えながら、私は体を元のサイズへ戻していく。
「いいえ、全然」
今度はリュートが、ブンブンと首を横に振り、元のサイズへ戻った私を、定位置になった左肩に乗せてくれる。
(なら良かった。で、仲間とまたはぐれたけど、探すあてはあるの?)
「はい。しばらく歩いた所にある町が、今の俺達の活動拠点なんで」
もふ、と自慢の毛並みでリュートの頬を押し、悪戯っぽく訊ねるが、返ってくるのは相変わらずの素直でいい子な答えだ。
「早速出発しましょう。あ、お腹は空いてませんか?」
(お腹……)
そう言えば、この体になってから、私は何にも食べてない訳か。でも、特に空腹は感じない。
何を食べるんだろ? と言うか、食べる必要があるのかも不明。食べる機能があるかすらも、不明だ。
「あ、これって、野苺ですね。前、ノーマンに教えてもらったんですよ」
(野苺?)
リュートの指差す先には確かに、赤い小さな果実が実った低い木が生えている。が……。
何か、毒々しい気がする。異世界だから?
念のため、鑑定開始。
『鑑定結果
注 猛毒がある果実
名称 ドクイチゴ
果実は野苺と似ているが猛毒がある。2・3個で死に至る。葉の形が全く違うので、生っている状態で間違う事はない』
嫌な予感は大正解だ。わざとか、あのボンボン。軽く殺意を覚えた。
「美味しそうですね」
(駄目! それ、毒がある!)
普通に食べようとしたリュートを止めた私は、お腹が空いたらしい彼のために、食料を探す事にする。
止めた時のシュンとした顔を見たら、探さずにはいられなかった。
三日目で、このもふもふな体にも慣れたらしく、私はだいぶ身軽に動けるようになっていたので、森の中を駆け回る。
幸いにも異世界は実りの季節らしく、私はすぐに生食可能な果実を見つけていた。見た目もリンゴ、鑑定結果もリンゴだ。
それを、もふもふな毛並みに埋めて運び、名残惜しそうな表情でドクイチゴを見つめているリュートの元へ運ぶ。
(はい、リュート。これ食べて)
「いいんですか!?」
私がもふもふから、コロコロと数個のリンゴを吐き出すと、リュートはパッと顔を輝かせ、リンゴと私の顔を交互に見やる。
(リュートのために探したんだから、食べて欲しいな)
「はい! ありがとうございます」
いい子なお返事の後、リュートはお行儀良く、いただきます、と言ってから、赤く色づいたリンゴへかじりつく。
「っ、美味しいです、ハルさん!」
(そう、良かった。全部食べて良いよ)
「え? ハルさんは良いんですか?」
(そんなにお腹空いてないから)
何食べられるかも、わからないんだよねぇ。
人とかだったら、どうしよう。
町に着いたら、もう少し私を鑑定してみよう。町なら食べ物は色々あるだろうし、試すには丁度良い。
チラチラと私を気にしながらも、食欲に負けたのか、リュートはあっという間に、数個あったリンゴを見事な芯だけの姿へ変える。
(ダンジョンに入る時に、食料は用意しないの?)
「しますけど、ノーマンが管理してますし、俺は役立たずだから……」
(もしかして、食べさせてもらえないの?)
「いえ! そんな酷い事をノーマンはしません。ただ、成長期みたいで……」
すぐお腹空いちゃって、と照れ臭そうに笑うリュートを見ながら、私はフツフツと湧いてくる怒りを必死に抑える。
(よし、モンスター狩りながら行こう。あと、果物とかも)
「え? ハルさん?」
(リュートのレベル上げと、私の分の食料確保しないいけないからね)
不思議そうに見てくるリュートに、それっぽい理由を告げると、私はリュートの肩へと登る。
「あ、そうですね。これ以上、仲間に迷惑かける訳にはいきませんから」
嘘吐いてごめんね、リュート。
内心で謝りながら、私はリュートにお腹いっぱい食べさせるため、高くなった視界で、ふわふわの毛並みを揺らして獲物を探し始めた。
文字通り、道草(果実だけど)を食いながら、私とリュートは森の中を、町を目指して歩いていた。
手ぶらに見えるが、実はリュートが便利な物を持っていたのだ。
見た目は、今の私が入るぐらいの布の袋で、口は紐で絞れるようになってる。まあ要するに、大きめな巾着袋だ。正直、ちょっと薄汚い。
元からそこそこの量は入りそうだけど、この布袋は、そんじょそこらの布袋ではない。
魔法がかけられた、特殊なアイテムなのだ。
聞いた時に、未来から来た青い動物型なロボットが過ったが、リュートに伝わる訳はないので、頭の隅に押し返す。
機能は、今の私達にピッタリで。
構造は良くわからないが、たくさん物が入るらしい。しかも、たくさん入れたとしても、サイズや重さは変わらないそうだ。
ただし、生き物は入れられないみたいで、残念ながら私は入れない。……いや、出られなくなりそうで怖いから、入れなくて良かったか。
入れた物が中で触れ合ったりとかもないって話なので、さっき狩ったモンスターの肉も入っている。
「だいぶ狩れましたね」
そう言いながら、嬉しそうに袋を眺めているリュートに、私も嬉しくなる。
(果実も集まったね。町はまだ遠い?)
リュートの肩の上で、ふわふわの毛並みを揺らし、私は前方を眺めて尋ねる。
「夕方までには着くと思います」
(結構寄り道したしね)
そんな事を話しながら、私達は森の中を歩いていく。
(リュート、どうやって、あの三人と出会ったの?)
「幼馴染みなんです。あの三人が冒険者になる時に、俺を誘ってくれたんです。俺も冒険者目指してたのを知ってたから」
(へぇ。リュート、家族は?)
「……戦争で、亡くなりました」
(そうなんだ。ごめんね、辛い事話させて……)
「いえ、気にしないでください。村のみんなが優しくて、家族みたいでしたから」
強がりではなく、本当にリュートはそう思っているみたいで、キラキラとした笑顔に曇りはない。
「小さい頃からの夢だった冒険者になるのも、応援してくれたんですよ。この袋も、村のみんなからの餞別なんです」
(いい人達なんだね。……仲間とは幼馴染みって事は、同じ村出身なの?)
リュートの肩で揺られながら聞くイイ話に、私はちょっとウルッと来るが、ふと疑問を覚えたので尋ねてみる。
リュートもみたいないい子が育つ村で産まれ育って、あんなにひねくれるとは思えなかった。
「いえ、三人は俺の村の近くにある町の出身です。幼い頃に出会って、一緒に遊んだりしてたんですよ」
(やっぱりね)
「やっぱり?」
(ううん、何でもないよ。それより、私が重かったら言ってね。歩くから)
「ハルさんは軽いです。それに……あ、何でもないです」
私が冗談めかせて言うと、予想通りブンブンと首を横に振るリュート。
(リュート?)
珍しく言い淀んだリュートに、私は名前を呼びながら、身を乗り出してリュートの顔を覗き込む。
「え、あ、あの、気持ちいいです。……もふもふが」
可愛いなぁ。耳が赤くなってるのが、髪の間から見える。
(ふふ、至上最高の触り心地だからね)
もっふもふと自慢の毛並みでリュートの頬を擽ると、クスクスと笑い声が聞こえてくる。
お。楽しい時間は、そろそろ終わりみたいだ。
モンスターになった私の耳は、やっぱり鋭敏になったらしい。
リュートが示してくれた町の方向から、嫌な声がワヤワヤ聞こえてくる。
相変わらず、彼らはリュートをボロクソに言ってるけど、その根拠はどこにあるんだろう。
何と、今日の寄り道で、リュートはレベルにして5もアップしてる。成長期パねぇ、って感じだ。
イノシシとか小型なクマなモンスターとかを、倒したからだと思う。
そいつらは肉として、まるっと袋へ収納された。リュートの村の人に感謝だ。
リュート自身も、何か体が軽くなった気がします、とまで言うぐらいに、成長してる。
このぐらいの年代の人間は、みんな同じなのかと、小さく見えてきた彼らを鑑定するが、レベルは変わってない。
ボンボンが6。チャラ男が7。女狐が5だ。
(リュート、自分のレベルってわかる?)
「レベルですか? 鑑定してもらわないとわからないです。一番最近は、4でしたから、1か2ぐらいは上がってるかもしれませんが……」
聞き捨てならない事を言われ、私はザワッと毛並みを逆立て、平静を装って問い返した。
(鑑定って、自分じゃ出来ないの?)
「そうですね。かなり特殊なスキルですから、滅多に出来る方はいないです。それがどうかしましたか?」
逆立った私の毛並みを撫でながら、リュートはきょとんとした顔で私の顔辺りを覗き込む。
(……何でもないよ。少し気になったから)
素直なリュートは、すぐに納得してくれて、見えてきた仲間へ手を振っている。
そんなリュートを横目に、私は安堵のため息をコッソリと吐く。
良かった、迂闊にリュートに言わなくて、と。
素直でいい子なリュートに、これ以上、彼らに隠しておくのは無理だろう。
ただでさえ、モンスターが喋るとか、色々と隠し事させないといけないんだから、鑑定に関しては、私の胸に仕舞っておこう。
そりゃ、そうだよね。
冷静に考えて、みんなが普通に鑑定出来るなら、ボンボンのあの嘘は意味ないし、リュートだって、ここまで馬鹿にされてないだろう。一番高いチャラ男の2倍だよ、レベル。
そこまで考えて、私は、自分の鑑定が、リュートの語る鑑定と同じなのか、気になってくる。
(リュート、鑑定って、レベル以外何かわかるの? 例えば、性格とか誰を嫌いとか、モンスターの弱点とか)
「俺が知ってるのは、レベルと、体力とかの能力値、あとは、特殊なスキルがわかるとしか……」
(そうなんだ)
はは。私の鑑定、何か違う。モンスターだからかな?
その可能性は高いけど、確かめる方法はないし、必要もないか。
レベルと弱点だけわかれば、十分リュートの手助けは出来るだろう。これから、成長するって可能性もある。
成長といえば、何でリュートは4から10にレベルアップしたんだろ。
彼らの態度からすると、リュートはレベルも一番下だったとしか思えない。
(リュート、他の三人って、強いの?)
「はい! 俺がレベルも低くて弱いから、いつもレベル上げのために、優先的にモンスターと戦わせてくれるんです」
原因判明だ。
あいつら、リュートにばっか戦わせて、いつもサボってたから、リュートの方がレベル高くなったんだ。
まさに、リアル兎と亀だ。
どうするんだろうね、リュートがとんでもなく強くなってる事に気付いたら。
リュートに気付いて、いつも通り小馬鹿にして話しかけてくる三人を、私は冷めた眼差しで見つめる。
私の視線に気付く彼らではなかったけど。
一通りリュートをからかって、合流した四人は町へと向かう。
合流してからは、モンスターと出会う事もなく、無事へ町に着いたのだが……。
「おい、それは何だ!?」
ごめん、リュート。
また、私のせいで、リュートだけ、門番に止められる。
薄情な三人は、宿屋にいるから、とすでに町の中だ。
リュートは、小一時間かけて私の安全性を門番に説明してくれて、私達は何とか町へ入る事が出来たのだった。
心置きなく、嫌いなキャラをざまぁしたくて書いてます。