表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/114

名物カップルな二人

ハルとリュートは、ノクの町で名物カップルと化してます。

 人間一人にモンスター二匹なパーティーになってから初めて、私達は冒険者組合を目指していた。

 と言うか、普通の人間から見れば、リュートがモンスター使いに見えるだけか。

 そんな事を緩く考えながら、私は定位置のリュートの肩の上だ。

 その私の上部から、ちょこんとルーが覗いていたりするが、もう存在は知れ渡っているらしく……。

「ほら、あれだよ、あれ」

「確かにスライム乗せてるな」

「あのサイズなら、俺でも倒せるな」

「リュートの連れてる子に、何て事を言うのよ!」

 微笑ましげに噂される中、粋がった旦那さんが調子こいた結果、奥さんに張り倒されてるのを、視界の端で捉えたけど、気にしない。

 本気の喧嘩じゃないのは見え見えだし。

 夫婦喧嘩は、ケダマモドキも食べませんから。

(ルー、皆さんにも、愛想良くするんだよ?)

 私の言葉に、ルーはすぐ反応し、私のもふもふから完全に出ると、私の上で揺れているようだ。

 ルーの姿は直接見えないけど、動きはもふもふで感知してるし、落ちないよう支えてもいる。対策はバッチリだ。

「まぁ、可愛らしい」

 そんな女性の声がちらほらと。

 うん、ウケてるようで、何よりだ。

「ハルさんも、ルーも人気ですね」

 嬉しそうに笑うリュートが可愛らしくて、私は軽く頬擦りする。

(大丈夫、リュートも人気だから)

 可愛くて。

 言うと拗ねるので、口には出さないでおく。

「ハルさんは可愛いですから。リボンもヘアピンも似合ってますよ」

 逆にリュートから言われた。

 今日着けてるリボンとヘアピンは、アニーとイリスさんからの頂き物だ。

 他にも、アンナさんやウィナさんにも頂いたので、未だにリュートと雑貨屋には行ってない。

 リュートは行きたいみたいだけど。

(ルーは、さすがにリボンとか着けられないよね)

 そっちの話題に行かないように、話を逸らしておく。

「ヘアピンを、突き刺すとか?」

(何その拷問)

 見てる私も嫌だよ。

 いや、たぶん、スライムだから平気なんだろうけど。

「スライムですから、平気だと思いますよ?」

(可愛くないし、ルーが痛そうで可哀想だから、却下で)

 ルーは痛くないとしても、見てる私が痛い。

「確かに、そうですよね」

 いい子なリュートは、すぐに納得して頷くと、きちんとルーに謝罪してる。

 いい子だ、うちの子達は。

 しみじみとしていると、屋台のおじさんが、余ったという串焼きをくれた。たぶん、肉的な何か。

 ちょうど塊は三個だったので、リュートは一つを私に、もう一つをルーに。残りの一つを自分で食べてる。

「ごちそうさまでした! 美味しかったです」

(ごちそうさま〜)

 私は体を揺らしてお礼を言い、ルーは無言でふるふるし、お礼を言ってるようだ。

 おじさんは嬉しそうに笑ってくれている。

 リュートは普通に自分で買う事も多いが、こうやって色々貰う事も多い。

 可愛いげがあるし、暇な時には町の人の手助けをしたりしてるから、すっかり顔馴染みだ。

 何て事を考えている私は、リュートの腕の中、ルーと向き合って、肉が刺さっていた串を両側から食べてたり……。

 リュートが羨ましそうに見てくるが、食べ足りなかったか?

(まだ何か食べる?)

 私は半分ほどになった串をルーに譲り、リュートを仰ぎ見る。

 まさか、私やルーみたいに串を食う訳にいかないよね。

 串を美味しそうに取り込むルーをちら、と見ると、もうほぼ溶かし終えたようだ。

「いえ、大丈夫です。あんまり食べると、動けなくなってしまいますから」

(確かにそうだね)

 お腹一杯になって動けなくなったリュートを想像し、私はクスクスと笑う。

「そうなったら、依頼こなせませんからね」

 私の笑い声に、リュートも一緒になって笑う。

 ルーもつられて笑っているようだ。

 ほのぼのしてる私達を、町の人達はあたたかい眼差しで見守ってくれてる。

 そんな眼差しに見送られ、私達は冒険者組合へ向かう足取りを速める。

 あまりのんびりしてると、次から次へとお茶のお誘いが来たり、ちょっとした力仕事を頼まれたりと、足止めされてしまうからだ。

 幸いというか、本日は挨拶を交わすぐらいで、無事に冒険者組合へと辿り着け、私達は視線を合わせて笑いながら、冒険者組合のドアを開くのだった。




「おはようございます!」

(おはよう〜)

 ふるふる。

 挨拶をしながら、私達は顔馴染みばかりとなった室内を、受付カウンターへ向けて歩く。

 もちろん、冒険者な訳だから、多少顔触れの変動はあるが、組合長の人柄のお陰か、だいたいノリと人の良い冒険者が多い。

 リュートと初対面のパーティーも、周囲にいる面々からリュートの説明を受けるのか、好意的だ。

 稀に好奇の視線を感じるが、対象は私だ。

 何せ、レアモンスターですから?

 今日は知らない顔はいないようで、ノリの良い挨拶だけが飛んでくる。

「おはよう、リュートさん。昨日は、うちの組合長がお邪魔したみたいね」

 今日の受付嬢は、巨乳なアンナさんだった。

「おはようございます。はい、とても楽しかったです」

「なら良いけど。帰ってきて、珍しくシリアスなため息吐いてるから、何かあったのかと思ってたわ」

 ニコニコと笑っているリュートを見て、アンナさんは若干訝しんでいたが、すぐに仕事モードへ思考を切り替えたらしい。

「まぁ、組合長は置いといて。今日は、依頼を受けに来てくれたのよね?」

 営業スマイルじゃない柔らかい笑顔で、アンナさんはリュートへ向けて首を傾げる。

「はい」

「じゃあ、早速だけど……」

 頷いたリュートに、アンナさんは数枚の紙をカウンターの上へ広げ、説明をしてくれようとしたのだが……。

「よう、ちょうど良かったぜ」

 奥から現れて、そう声をかけて来たのは、先ほど話題へ上がったエヴァンだ。

「おはようございます」

(おはよう)

 眠くなったのか、ルーは私のもふもふ内に姿を消したので、私とリュートだけで挨拶をする。

「あぁ、おはよう。まだ依頼を受けてないなら、奥へ来てくれ」

 私達の挨拶に応えてから、エヴァンが示すのは、先日入ったばかりの応接室だ。

「あら、私もリュートさん向けの依頼を用意したのよ?」

 アンナさんの文句に、エヴァンは肩を竦めて応じる。

「悪いが、こっちは指名が入ってるんでな」

「あら、なら仕方無いわね」

 二人の会話を、リュートは静かに聞いているが、私は気になった事があり、リュートの耳へ体を寄せる。

(リュート、指名って何?)

「名指しで依頼をされる事です。俺に指名なんて、誰でしょうか?」

 答えながら、リュートは首を傾げたので、私の体へもふっと頬が埋まる。で、クスクス笑う。可愛いじゃないか。

(あの子犬じゃない? また迷子になったとか)

「有り得ますね」

 リュートは私のもふもふへ頬を埋めながら、笑顔で頷いている。

「話は済んだな? 細かい話をするから、奥へ来てくれ」

「はい!」

 元気良く返事をしてエヴァンへ続くリュートの背に、頑張れよ、とか励ましの声が複数飛んでくる。

 ノリが良いよね、ここの冒険者達は、本当に。

 そんな光景に、受付カウンターの中で、アンナさんがふふ、と笑っている。

 美女の笑顔は眼福だ。

 アンナさんの笑顔に見惚れていたら……。

「何か、エロ親父みたいな顔になってるぞ?」

 エヴァンから呆れたような呟きが。

 事実にしろ、そうでないにしろ、言わせてもらおう。

(失礼であると!)

「それ、何キャラだよ」

 全力で呆れられた。




(それで、リュートに指名依頼なんて、誰からなの?)

 応接室へ入り、私は早速リュートの腕から飛び降り、テーブルの上からエヴァンを見上げて問いかける。

「あぁ、リュートも良く知ってる奴だよ」

 私を見下ろし、ニヤリと笑ったエヴァンは、そう言ってはぐらかし、依頼が書かれているらしい紙をテーブルへ滑らす。

 パシッと紙を踏みつけてキャッチした私は、異世界の文字が並んだ紙を見下ろすが、読めたのはリュートの名前だけだ。

(リュートの名前しか読めないから、私)

「覚えてくれたんですね!」

 別の所に感動したリュートが、しゃがんで私へ頬擦りしてくる。

「あー、仲良しなのは良いが、依頼を見て欲しいんだが?」

「あ、すみません! すぐ読みます!」

 エヴァンの苦笑混じりな声に、リュートはハッとした様子で私の下から紙を取り出し、並んだ文字を読み進める。

(ねぇ、誰から何の依頼なの?)

 私はリュートのズボンを、もふもふで引っ張る。正直、興味津々だ。

「ナリキ男爵からだよ」

 突然体が浮いたと思ったら、エヴァンの声がし、背中には逞しい大胸筋の感触がある。

 何の断りもなく抱き上げられたらしい。

(へぇ。すっかり、リュートを見直してくれたんだね)

 ま、エヴァンだから、許してあげよう。

 代金として、もふっと体を寄せて、逞しい筋肉の感触を堪能させてもらう。

(やっぱり、柔らかさは女性の方が上だよね)

「……無茶言うな」

 私の独り言に、エヴァンは何処か拗ねたような表情で、私を見下ろして呟く。

(ふふ、拗ねない、拗ねない。エヴァンの腕は、抱かれてると安心感があるよ? 柔らかさはないけど)

「そうか」

 嬉しかったのか? 頬を染めたエヴァンから、ギュッと抱き締められた。

(リュートも、エヴァンぐらいに逞しくなるかなぁ?)

「なるだろ、リュートなら。その時も、きっとお前らは一緒なんだろうな」

(家族だからね)

 どうした、エヴァン。

 妙にシリアスな空気感出してるけど、そんな難しい依頼なのか?

「ハルさん! ナリキ男爵からの依頼でした! 山々ナメクジの肉が欲しいそうです!」

 少し心配になりかけた私の不安を、リュートの明るい声が吹き飛ばす。

 思わずエヴァンを見上げると、悪戯っぽくニッと笑われた。

 からかっただけかよ。

 ムッとして頭突きしようとしたら、位置がズレて、何か犬が飼い主にキスしたみたいな事になった。

 私には、外から見える口的な部分がないから、雰囲気的な感じだけどね。

(……初めてだったのに)

 とりあえず意趣返しで、泣き真似をしながら、固まったエヴァンの腕から飛び降りる。

「いや、あの、そのだな……」

 うん、エヴァンはこの手のからかい方が苦手なのか?

 私を捕まえようか悩んでるのか、半端に腕を伸ばして、手をワキワキさせてるし。

 リュートは止めたげなさい。

 何か、道端のゴミを見るような眼差しで、エヴァンを見てるよ。

 素直ないい子過ぎるのも困りものだね。

(冗談だって。気にしてないから)

 この体で初めてなのは本当だけど。

 けらけらと笑いながら、私はリュートの肩へとよじ登る。

「……気にされないのも、微妙なんだが」

 エヴァンが言葉通り、微妙な表情で呟くが気にしない。

「ハルさん、ハルさん」

 エヴァンを見ていたら、横からリュートに呼ばれ、反射的にそちらを向くと……。

 チュッ。

 可愛らしい音で、リュートからキスされた。

「俺も初めてです!」

 何と言うべきなんだろう?

 ありがとう?

 ごちそうさま?

(……そっか)

 悩んだ結果、こうなった。




 ニコニコと笑うリュートは、無敵可愛いとだけ言っておく。


ポッキーゲームからの、事故チュー回です。

山々ナメクジも、まだ出番があります。


感想、評価、ブクマありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ