つかの間の?
まったり貝……違った、回です。
エスカルゴ、私も食べた事がないので、想像ですが……。
先日、感想でネタを提供していただいたので。
ありがとうございます。
なかなか濃い一日を過ごした私達は、次の日、つまりは今日だが、宿屋の中庭にいた。
おかみさんから許可を得たので、獲ってきた素材を焼いて食べようと思ったのだ。
宿屋の中庭には、キャンプ場みたいな調理場と、焼き場というか、バーベキューグリル? みたいなのがあるんだよね。
さすがに解体前のモンスターを、厨房に持ち込むのはマズイと思うから、中庭でだ。
その解体前モンスターは、今現在エヴァンに解体されてる。
うん、間違いじゃないよ?
何でか宿屋の中庭に、エヴァンがいる。
通りすがりの冒険者が二度見してから、気軽に挨拶してくから、幻覚でもない。
「しかし、山々ナメクジ食うのか」
(別に、無理に食べなくても良いし)
「いや、気になるから、食わせてくれ」
私がプイッとそっぽを向くと、ニッと笑ったエヴァンが小さく頭を下げてくる。
(仕方無いな。解体もしてくれてるし、いいよ)
悪戯っぽく応じた私は、人間には食べられないし、素材にもならない山々ナメクジの中身を、ルーと一緒に処理してる最中だったりする。
私が鑑定して、エヴァンがポイポイと投げてくる中身を、私とルーでキャッチして、もぐもぐ中だ。
「ハルとルーがいれば、ゴミが出なくて良いな」
(ま、私もルーも、何でも美味しくいただけますから)
ルーも美味しいのか、ぷるぷるしながら、残さず食べてるようだ。
「鉄板はいい感じですよ?」
リュートは火を起こして、鉄板を温めてくれてたのだ。
山々ナメクジは焼くと美味しいらしいし、貝っぽいから、バター焼きにしようと思う。
醤油が欲しいとこだけど、今回は塩コショウで我慢だ。
熱々な鉄板の前に、私はエヴァンの肩へ乗って移動する。
ルーは私の頭の上で、ちょこんと鎮座してて、大人しい。たぶん、コブみたいだと思う。
(まずはバター入れて、ジュワッとしたら、適当なサイズにした山々ナメクジ投入で)
私の指示に従い、エヴァンが切った山々ナメクジを投入すると、ジュッといい音がし、山々ナメクジの肉が鉄板の上で踊る。
「こうして見ると、美味そうだな」
「はい! いい匂いです」
(うん、焼くとまた違った感じで美味しそう)
ルーも匂いを感じてるのか、私の上でぴょこぴょこ跳ねてる。
私は身を乗り出し、熱せられた鉄板へ乗りながら、
(塩コショウ振っちゃって)
と、指示を出す。
感覚的なものが、このタイミングだと教えてくれたから。
もしかしたら、女神様かもしれない。だとしたら、暇過ぎるとは思う。頼っておいてなんだけど。
(そろそろ焼けたみたいだね)
「だな。リュート、皿くれ」
「はい!」
リュートが差し出した皿に、焼き上がった山々ナメクジがどんどん乗せられていき、小さな山を作る。
一匹分で結構な量になったな、と私が感心していると、おかみさんが血相を変えて駆け寄ってくる。
「あ、あんたら、ハルまで焼いてどうするんだい!?」
おかみさんの悲鳴のような声に、リュートとエヴァンが、揃って私を振り返る。
夢中になり過ぎ、いつの間にか、山々ナメクジと一緒に鉄板で焼かれちゃってる私を。
「「あ」」
綺麗に声をハモらせた後、私はリュートに救出され、おかみさんが用意してくれた水桶に突っ込まれる事になった。
「これは、ハルが興奮するのがわかるな!」
「初めて食べましたけど、美味しいです」
そのまま中庭のテーブルで、山々ナメクジの試食を兼ねた昼食を始めたのだが、エヴァンもリュートもべた褒めだ。
(でしょう?)
嬉しくなって私は水桶の中で、大きく体を揺する。
一緒に浸かっているルーは、私の作った波に揺られるのを、プカプカ浮かんで楽しんでるようだ。
「ほら、ハルも食べてみろ」
エヴァンがそう言って、焼き山々ナメクジをフォークに突き刺し、私のもふもふへ突っ込んでくれる。
うん、ご好意は嬉しいけど……。
(エヴァン、せめて顔近辺にしてくれない?)
そこは一応、お尻なんで。
ジトッと睨むと、エヴァンは悪戯っぽい表情で、ニッと笑う。
わざとか。
(……焼くと、また味が違って美味しい)
完全に高級な貝だ。
食べた事ないけど、エスカルゴって、こんな味かもしれない。
一旦エヴァンの事は忘れて、焼き山々ナメクジの味を堪能する。
で、悪戯へのお返しをしよう。
(ねぇ、エヴァン。ルーにもあげてよ)
「あぁ、そうだな」
私の言葉を疑う事なく、エヴァンは焼き山々ナメクジをフォークに刺し、ルーへ食べさせる。
(目標接近!)
「あ?」
その瞬間を逃さず、私は濡れた体を盛大にブルブルと震わせ、水を飛ばす。
「ハル、お前なぁ……」
おぅ、何か申し訳ない。予想以上にエヴァンがずぶ濡れだ。
リュートは私の行動を読んでいたのか、皿を抱えて避難してる。
「大人げないぞ?」
苦笑しながら濡れた髪を掻き上げるエヴァンは、悔しいけど……。
(ちっ、格好良いじゃないか)
「そりゃ、どうも。まったく、着替えなんて用意してないぞ?」
私の負け惜しみの発言に、余裕の笑みで返すリアル水も滴るイイ男。
「おかみさんに、タオル借りてきます」
(大丈夫、タオルはいらないよ)
室内へと向かいかけるリュートを、私は水桶から這い上がりながら止める。
すぐに納得したリュートと、訝しんでいるエヴァンの前で、私はもふもふから滴っていた水を吸収し、乾かしたところでエヴァンを見上げる。
(エヴァン、抱いて)
「ぶっ! おま、なにを……っ!」
間違えた。
エヴァンは動揺しすぎ、リュートを見習って……あ、固まってるだけか。
(変な想像しないように。抱き上げてって、言いたかったの)
「あー……ったく、驚いたじゃねぇか」
動揺したのが恥ずかしいらしく、エヴァンは頬を染めて毒づきながら、私を抱き上げる。
(リュートはともかく、エヴァンはモテそうだし、経験も豊富でしょ? 毛玉相手に、動揺しすぎだって)
「悪かったな。不意討ち過ぎるんだよ」
(まぁ、私相手に興奮されても、困るけどね)
ふふ、とからかうように言いながら、私はエヴァンの濡れた体に身を寄せ、水分を吸い取っていく。
「……悪かったな」
(ん? 何か言った?)
作業に夢中だった私は、ボソリと呟かれたエヴァンの言葉を聞き逃し、体を傾げる。
「いや、たいした事じゃねぇよ。しかし、お前の毛皮は万能だな」
何か話を逸らされた気はするけど、誉められて悪い気はしない。
いつもより、もふっとしながら、エヴァンの濡れた髪から水分を奪う。
(うん、今日はエヴァン味だね)
「……この小悪魔め」
何言ってんの?
(私はモンスターだよ?)
「あぁ、わかってるよ」
何だか微妙な顔で笑われ、髪を乾かし終えた私を引き剥がしたエヴァンは、リュートへ私を差し出す。
「酒が欲しくなるな」
リュートが私を受け取ると、代わりに山々ナメクジの乗った皿を手にし、エヴァンがしみじみと呟く。
(うん、確かに)
たしなむ程度だけど、私も酒は嫌いじゃない。
組合長だから、何か色々あるのかもしれない。
さっきの微妙なエヴァンの表情と結びつけ、私はそんな事を考える。
嬉々としたリュートに手櫛で、もふもふを整えてもらいながら。
その後、せっかくだから、色んな肉を焼いて、ちょっとした肉パーティーをしてみた。
レッサードラゴンも、出したんだけど、エヴァンにひっぱたかれて押し戻される。
駄目なの?
「お前のもふもふの中は、どうなってんだよ」
「何でも入りますよ? ハルさんのもふもふ」
「みたいだな!」
(エヴァンも入ったでしょう、私の中)
「そうだったな」
はぁ、とため息を吐き、エヴァンは疲れたように項垂れた。
突っ込みお疲れ様です、兄貴。
毎度の事ながら、エヴァンにジロリと睨まれる。
駄々漏れてる訳ではないようだけど。
エヴァンが鋭いのか、私の変顔がヤバいのか?
「とりあえず、レッサードラゴンは、組合へ持ってこい。さばくにしても、ここじゃ、悪目立ちするからな」
(はい、りょーかいです)
ビシッと背筋……ないけど、気分だけ伸ばし、私はいい子なお返事をしておく。
「わかりました!」
本物の素直ないい子も、もちろん良いお返事をしてる。
私達がほのぼのしていると、おかみさんがやって来る。
山々ナメクジを味見にしてもらったら、とても気に入って、食堂のメニューにしたいとまで、言ってくれた。
流行るといいな。
なんて、のんびりしてたら……。
(リュート、エヴァン、おかみさん止めて! ルーがまだ水桶の中にいるから!)
ルーが泳いでた水桶を、おかみさんに片付けられそうになりました、と。
一部バタバタしたけど、こんな感じで私達は、エヴァンも交えて、のんびり休日を過ごしたのだった。
山々ナメクジ、もうちょっとネタを引っ張ります。
レッサードラゴンの尻尾は、しばらく封印で。
感想ありがとうございます。
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