ナカマッテスバラシイ?
ボンボン達には、反省なんて有り得ません。
ギャグ悪役なんで!
(エヴァン〜、女狐助けないと、駄目?)
「まぁ、あいつらを連れて行かせないといけないからな。あと、リュートの事もあるだろ?」
駄々を捏ねたら、エヴァンに正論で諭された。
女狐?
ゲインに羽交い締めにされて、悲劇のヒロインぶってるよ?
で、ボンボンが、クソとか、エメラを離せ、とか熱血ぽく怒ってる。ごめん、顔面偏差値が低すぎて、悪役にしか見えないから。
チャラ男は面倒臭そうに、耳の穴ポリポリ指でほじってる。
(ウワ、ナカマッテスバラシイネ)
「ったく、棒読みにも程があるだろ。……おい、無駄な抵抗は止めろ! ただでさえ重い罪が、ほんの少し増えるぞ」
(エヴァンも、やる気無さすぎじゃない?)
私と同じ感想を抱いたらしい人が、ちらほら。
「組合長、説得にやる気がないわ」
「あの子、悲劇のヒロインしてるんだから〜、もうちょっと、ヒーローっぽくしてあげてくださいよ〜」
「……どうでも、良い」
以上、受付嬢さん達からです。
あ、ウィナさんは、どうでも良いらしい。
書類仕事始めちゃったよ。
「ふざけてんじゃねぇ! この女がどうなってもいいんだな!?」
(うん)
「ハルは頷くな。……さすがに、ここで死なれるのは迷惑なんだが、あいつら手慣れ過ぎだろ」
エヴァンは緩い口調ながら、意外と隙がないゲインにイラッとしてるようだ。
しょうがない。
私の方の用件もあるし、リュートの事を馬鹿にしてる奴らに、リュートの本気を見せたいから、一毛皮脱いでやろう。
その為には、
(エヴァン。あの悪役モブに、こう呼び掛けて。
『逃げても無駄だぞ? カナリア出身のモービル』って)
「ん? わかった。呼び掛けるんだな……。おい! 逃げても無駄だぞ? カナリア出身のモービル!」
いやー、エヴァンと話せるようになってて良かった。
こういう時、リュートじゃ、迫力が足りないよね。可愛いから。
ちなみに、叫んでもらったのは、私が鑑定してわかった、ゲインと名乗る男の正体だ。
エヴァンの呼び掛けに、本人だけでなく、周囲も動揺を隠せない。
(何で、本人だけじゃなくて、皆も驚いてるの?)
「カナリア出身のモービルと言えば、殺人容疑で各国に指名手配されてるんだよ。まさか、偽名で冒険者になってるとは……。どうせ、エレの町で冒険者になったんだろうな」
(あー、エレの町って、ボンボンが初級冒険者になったとこか。何か不正してたの?)
私の鑑定じゃ、指名手配なのまではわからなかったし、女神様も興味がなかったのかもしれない。
そんな事を考えながら、エヴァンへ説明を求めると。
「金で資格を売ってたんだよ」
私の耳辺りであろう場所に、小声で囁いてくれた。
もちろん、ゲインことモービルからは目を離していない。
(そっか。あいつが完全なる悪人だってわかれば、私には十分かな)
「何をする気だよ」
エヴァンの呆れ混じりの声に目を細めて見せると、私はスルリとリュートの腕を抜け出し、動揺して隙だらけのモービルの腕へ飛び乗り、嫌だけど、女狐への肩へ移動する。
「な、なんだ! このモンスター野郎!」
「おい、ハル!」
怒るモービル、慌てるエヴァンを尻目に、私は大きく息を吸い込み……。
(きゃー、さわられる〜)
「いや、さらわれる、だろ」
てへ。肝心な所を間違えて、エヴァンから冷静な突っ込みをいただいた。
(どっちにしろ、成功したから良いんですぅ)
「あ? 成功?」
そう、成功だ。
訝しむエヴァンの横を、一瞬で通り過ぎ、私をさわっ……さらったモービルへと肉薄する人影一つ。
目にも止まらぬ早業で抜剣して、モービルの腕を斬り裂き、私の足場と化した女狐を救出したのは、さっきまで空気だったリュートだ。
「ハルさんに薄汚い手で触るな」
「いや、ハルは自分から行ったんだぞ?」
エヴァンのごもっともな突っ込みは、私を取り戻し(リュート視点)て満足げなリュートには、聞こえていない。
ついでに、女狐の乙女モード全開の、クネクネした言葉も聞いてないようだ。
「リュート! やっぱりあたしの事を……」
抱きついて来ようとする女狐をサラッと避け、リュートは私を抱き締めたまま、激高して襲いかかって来たモーブじゃなかった、手負いのモービルを避ける。
(エヴァン、人質いなくなったよ?)
「あぁ、ま、死ななきゃいいよな?」
エヴァンは緩く答えながら、モービルの仲間を兵士に拘束させ、自分は襲いかかって来たモービルを、逆に飛び膝蹴りで吹っ飛ばす。
壁際まで吹き飛んだモービルと一気に詰め寄ったエヴァンは、
「これはリュートの分」
と、襟首を掴んで持ち上げたモービルの腹部を殴り、
「ついでにカネノの分だ」と、もう一発食らわせて、昏倒させる。
(よっ、兄貴!)
「お前、たまに変な顔してると思ったら、そんなこと言ってたのかよ」
昏倒したモービルを兵士へ預けていたエヴァンは、私のふざけた呼び方に、半眼で睨み付けてくる。
変な顔してたのか?
体を傾げて、首を傾げてる感を出してると、エヴァンにガシガシと撫でられる。
(エヴァンの撫で方、好きだな)
遠慮がなくて。
「そ、そうか?」
またまたイケメンの照れ顔いただきました。
「組合長、デレてないで、ノーマンさん達の処分もお願い出来るかしら?」
アンナさんが、苛々した表情を隠さず、カウンター内から話しかけてくる。
アンナさんは、別にエヴァンに苛々してる訳じゃないよ?
「良かった、エメラ。君が魔法を使ったんだろ?」
「じゃなきゃ、リュートがあんな上手く動ける訳ないし〜」
「あ、あたし、怖かったわ」
あの犯罪者集団のせいだ。
「おい、お前ら、忘れてるようだが、お前らも加害者だからな?」
(だからな〜?)
エヴァンは近寄りながら、厚顔無恥を絵に描いたような三人組へ話しかける。私を抱いたリュートも、きちんとついてきてるよ。
「なっ! 僕達も、あの男に騙されて……」
「みたいだな。だとしても、お前らが依頼放棄をし、カネノを見捨てた事実は消えない」
(消えないぞ〜)
エヴァンから、無言でガシガシと撫でられました。
黙ってろって事かな。ふざけ過ぎたか。
無言でもふっと膨らんで、黙ってるアピールをしておく。
リュートも、まだ大人しいから、今のうちだ。
「そうだ、リュートだ! リュートが足を引っ張ったせいだ! リュートがいなければ、僕達は簡単に依頼達成出来ていたんだ!」
「そうだね〜、リュートのせいだよ」
「……言い過ぎって言いたいけど、本当にリュートは足手まといで」
どうしてくれるんだろう、この室内の白けた空気。
張本人であるリュートとボンボン達以外の目が、分かりやすいぐらいに語っている。
『こいつら何言ってんだ?』と。
沈黙が支配した室内。
しばらくして、あはは、と笑う声が響く。
「この期に及んで、まだリュートのせいにするのか、お前らは!」
笑っていたのはエヴァンだ。目は全く笑っていないけど。
「お言葉ですが、それが事実なんです!」
素晴らしい根性だね、ボンボン。墓穴が深くなってるよ?
「へぇ、足手まといだというリュートさえいなければ、お前らはもっと出来るパーティーだと言うんだな?」
「はい! 当たり前です! あんな、レベルも低い見習いのリュートが足を引っ張っらなければ……」
「そうそう、リュートは目障りなんだって〜」
「悪い子ではないんですが、あたし達のパーティーには不釣り合いで……」
あーあ、言っちゃった。そんな事を言ったら、ね。
「ピーピーうるせぇな。なら、お前らパーティーへの罰として、足手まといだと言い張るリュートを、パーティーから外せ」
「そんな軽い罰でいいなら、喜んで!」
居酒屋かよ。
ボンボン達は、本当にリュートが足手まといだと信じきってるんだな。
チャラ男も、女狐も罰が軽いって喜んでるし。
「あ? その程度で済む訳ないだろ? あとは、罰則金、カネノへの慰謝料、この俺の組合へ泥を塗ったんだ、今後二年はノクの町及びノクのダンジョンへの立ち入りを禁ずる」
「……わかり、ました」
ん? ボンボンは不服そうだけど、周りの冒険者達は微妙な顔してるって事は、罰が軽いのか?
「わかったなら、荷物をまとめて、さっさと出て行け!」
リュートへ絡もうとしたのか、ボンボン達が近寄って来るが、エヴァンに恫喝され、ノロノロと出口へ向かう。
歯医者じゃないや、敗者そのものなボンボン達を見送ってるのは、私とリュートぐらいかな。
(二人になっちゃったけど、私達なら大丈夫だよね、リュート)
「はい! あんなに足手まといだと思っているなら、早く切り捨ててくれれば良かったのに」
実は、ボンボンが喚いた辺りで、リュートは帰ってきてたが、私がもふもふで黙らせときました。
さらに、どうしてくれるんだろう、って空気になるのは目に見えてたから。
でも、予想ほどショックは受けてないみたいだな、リュート。
逆に、少し、ホッとしてるみたいだ。
リュートも、本気で自分が足手まといだと信じてたからなぁ。
ボンボン達は、カネノに絡んで、まだうだうだしてるよ。ウザいな。別に、カネノは悪くないだろ。
私が内心毒づいていると、カウンター内から出てきたアンナさんとイリスさんが近寄ってくる。
「リュートさんへ、伝達事項があるわ」
「今回の一件で、リュートさんは、特例での中級昇格の資格を得ました〜。一応、血ください」
「え、あ、はい」
テキパキと進められ、リュートは深く考える間もなく、自らの剣で指先を傷つけ、イリスさんが差し出したカードへ血を垂らす。
(エヴァン、エヴァン、エヴァン! どういう事!?)
もっふもふ、とリュートの腕を抜け出し、エヴァンへ詰め寄る。
「あぁ、忘れてた。俺が一緒にダンジョンへ潜ったのは、リュートの見極めも兼ねてたんだよ。組合長の権限で。リュートの実力は、明らかに抜きん出てたからな」
(……組合長っぽい事してるんだね)
「組合長だからな」
くく、と笑ったエヴァンに、私は猫の子のように、ぶらんと持ち上げられ、リュートの元へ返却された。
(リュート、指の傷治すから、突っ込んで)
リュートにキャッチされた私は、その血が滲んだ指先に気付き、もふもふを揺らしてアピールする。
「はい」
リュート味〜、とイチャイチャしながら、リュートの傷を治してると、何か空気が読めない集団がやって来るのが見えた。
「お前が、中級昇格なんて、どんなイカサマをしたんだよ!?」
あ、お前が、それを言っちゃうんだね。
メッキ初級のクセに。
サラッと消えない辺り、さらに三下っぽいですよねぇ。
で、まだ次回も粘りますよ?
罪が軽いのは、リュートの事を慮ってです。
読んでいただき、ありがとうございます。




