断罪なう。
シリアス断罪にはなりません。
ハルさんがいますから。
「……ハルは、俺に何か恨みがあるのか?」
(強いて言うなら、初対面で思い切り乱暴に扱われた、とか?)
「それは、ちゃんと謝っただろ!」
(あれは、痛かったなぁ)
「そ、それは、悪かった……」
(さぁて、エヴァンをからかうのは終わりにしよ)
「な! からかったのか!?」
キメキメで思い切り躓いたエヴァンをからかっていた私は、呆然とこちらを見ている室内の面々に、体を揺らしてアピールしておく。
「生きてやがったのか……」
はっはっは。
悪役モブ顔冒険者の呟きを、悪役みたいに笑い飛ばしてみる。
またエヴァンに睨まれた。
リュートはまだ私の体に夢中で、帰ってこない。
「俺が生きていたら、何か問題でもあるのか?」
あ゛? とイケメンなクセに、悪役モブ顔にも負けない目力で、私を睨んでいたエヴァンが、カウンター前を陣取る集団を睨む。
「お前が生きていたとしても、貴族様は見捨てて来たんだろ!」
「そうですね、カネノ様がいないなら……」
粋がる悪役モブ顔に、ボンボンがくっついて、エヴァンへ反論する。
お、頑張るね。無駄な足掻きだけど。
その背後、カウンター内の受付嬢達や、他の冒険者達は、私達の無事を喜んでいる。で、無言でやり取りを見守ってくれている。
「……いや、あの、すまないが、ボクなら生きてるぞ?」
漫才していた私とエヴァンの背後から、カネノが申し訳なさそうに片手を挙げて、前へ出る。
すっかり落ち着いたので、良家のご子息様って感じで、柔和な微笑みを浮かべ。
「おぉ! カネノ! 愛しい息子よ!」
ヒキガエルなナリキ男爵が転がるように寄って来て、号泣しながらカネノを抱き締める。
息子を思う気持ちは嘘じゃなかったらしい。冒険者への態度は最悪だったけど。
人もノリも良い冒険者達は、一緒になって涙ぐんでいたり、囃し立てたり、カネノの生還を心から喜んでいる。お前ら、いい奴だなぁ。
「ず、ずまながっだ! よぐ、わじの息子を、助けてくれだ! 感謝するぞ!」
うわ、涙と鼻水ダラダラで、ナリキ男爵がエヴァンの手を握ろうとしてる。
リュートは無意識だろうけど、ちょっと逃げた。
「いや、俺はたまたま、だ。助けに行ったのは、そこのリュートって冒険者だ」
おい、こっちに振るな。
「君か!」
涙と鼻水ダラダラで、ナリキ男爵が寄ってきても、リュートはまだ無反応だ。
「感謝するぞぉ!」
私ごとハグされた。
ま、本当に心から喜んでいるらしいから、我慢してやろう。
リュートは少し反応しなさい。
(リュート、とりあえず笑って)
私の言葉に反応し、顔を上げてニコリと笑ったリュートに、ナリキ男爵は満足げな様子で何度も頷いている。
うちのリュートは可愛いからね。
(……エヴァン、今のうちに悪役モブ顔冒険者をお願いね)
「悪役モブ顔冒険者……? あぁ、ゲインとかいう奴か」
幸いにも、リュートはまだ完全には帰ってきていないから、ボンボン達を切り捨てちゃえ。
私の言い様に、エヴァンは苦笑しながら、真っ青になっている悪役モブ顔冒険者へ近寄る。
(ゲインって名前だったな、そう言えば)
「そう言えば、かよ。ったく。おい、ゲイン! いくら組合を通していないとはいえ、依頼放棄は見過ごせないが?」
私に呆れつつ、エヴァンは悪役モブ顔冒険者、長いのでゲインでいいや、本名違うし。ゲインへ、近寄っていく。
「依頼放棄なんて、俺達はしてないぞ!? そいつが勝手に貴族様を連れてったんだろ!」
「その嘘、突き通す気かよ。こっちには証人がいるのによ? おい、アンディ入れ」
エヴァンに呼ばれ、入り口から入ってきたのは、あのアンディだ。
ちらっと、背後に数人の人影が見えたけど、入ってきたのはアンディだけ。何なんだ、あれ。
「誰だ、そいつは!」
「覚えてないんだな? お前らに匂袋を投げつけられた冒険者のうちの一人だよ、俺は」
アンディの告白に、一斉に責めるような視線がゲイン達へ向かう。って、何でボンボン達も驚いてんだよ。
「あ、あぁ、あの時の冒険者か! 悪かったな、他に冒険者がいるとは思わなくてな」
「へぇ。じゃあ『死体はダンジョンが始末してくれるからな』って話が、セーフゾーンで聞こえたんだが?」
ゲインの白々しい謝罪に、アンディはにこやかな笑顔で、負けずに白々しく返す。
「あ? 聞き間違いだろ。それとも、俺達がそんな事を言った証拠でもあるのかよ!?」
怒鳴ってうやむやにする気なんだろうか?
しかし、冒険者相手には失策だよ? 怯えてるのは、ボンボンと女狐ぐらいだ。
それに、忘れてないだろうか。
こちらには生き証人がいる事に……。
「父上、前金は払ってありますよね?」
「あぁ、勿論だ! その他に、危険手当てと、食事代と、宿泊費と、ダンジョン手当てと、装備費と、運搬費、成功報酬、諸々、即金で払ったぞ?」
「……父上、次は組合を通してください」
カネノが何とも言えない顔をしてる。あと、父親には、丁寧な口調なのが、面白い。
周囲の冒険者達は、ナリキ男爵の言葉を聞いてから、さらに眼差しを鋭くしてゲイン達を睨んでいる。
「な! あなた方は、ナリキ男爵が報酬をケチったから、僕らにあんな提案をしたんじゃなかったのか!?」
ボンボンが責める側に回ったぞ。
お前も、結局貴族のボンボンだから、食い物されたみたいだね。
だから、と言って。
「ノーマン達は、完全な共犯ではないようだが、お前らは組合から受けた依頼放棄をしたんだ。その咎は受けてもらう」
無罪放免になんかならないよ?
「お、俺達は、組合から受けた依頼放棄なんてしてないぜ?」
そっちは厚顔無恥過ぎるだろ。良い大人が。
エヴァンが無駄にキラキラした爽やかな笑顔になった。
(キモい……)
無言のエヴァンに、もふもふを引っ張られた。だから、それ痛いんだって!
私の抗議を無視し、エヴァンはキラキラした爽やかな笑顔のまま、ゲイン達とズイッと距離を詰める。
「そうだな。だが、お前らは不当な料金を請求して、偽りの情報で依頼を受けた。故意ではないとしても、他の冒険者へモンスターを擦り付けた。何より……」
ニッコリと笑みを深めて言葉を切ったエヴァンは、カネノに場所を譲る。
「麻痺した僕を、邪魔だからと見捨てた上に、止めを刺そうとしていたな?」
「それは、本当か、カネノ!?」
穏やかな笑顔で、追及の手を緩めないカネノ。ついでに、ナリキ男爵が大きなリアクションなのが、良い味出してる。
「えぇ、父上。彼らは、麻痺して足手まといになった僕を、セーフゾーンに置き去りにし、どさくさ紛れで殺そうとしていたんです。その殺そうとした冒険者は、組合長の妨害で失敗し――」
父親に説明しているようで、カネノの声は良く通り、ゲイン達をあがあがさせてる。
どうした? 麻痺したか?
そのあがあが集団へ微笑を向け、カネノは続ける。
「あっという間に、土グモに食べられてしまいましたよ」
ふふ、と笑いながら、カネノは何でもない事のように告げる。
うむ、なかなか良い方へ育ったみたいだね、カネノは。
地味顔だけど、穏やかな癒し系笑顔からの、鋭い一撃だ。
「なんだと!? そんな危険な場所に、カネノを置き去りにしたのか!?」
ナリキ男爵、げきおこだ。
「父上、残念ながら、置き去りに関しては、重い罪にはならないんです。僕は、麻痺してしまい、連れて帰るには、多大な危険を含みましたから」
カネノは口元だけを笑みの形にし、意味ありげな視線をゲインへ向ける。
「そ、そういう事だ! 俺達は、自分達の安全のため、貴族様を置き去りに……」
あ、開き直った。
「その危険も含めての依頼の筈だが? ま、どちらにしろ、お前らが行く先は決まってるんだ」
エヴァンは呆れたように肩を竦めると、ドアの側にいた冒険者へ片手を挙げ、合図を出す。
その冒険者が合図を受けてドアを開けると、中へなだれ込んできたのは、武装した兵士達だ。
「まぁ、とりあえず、ナリキ男爵への詐欺行為と、依頼不履行。カネノへの殺人未遂で、十分投獄する理由にはなるからな。開き直ってるんじゃねぇよ」
エヴァンがキメキメだ。今回は邪魔しないよ?
「冒険者は危険が伴う分、色々な国を出入りできる自由があって、ある程度の権力もある。だからこそ、お前らみたいな、冒険者を貶めるような奴らを野放しにしておく訳にはいかないんでな」
おー、組合長っぽい!
格好良いじゃないか、エヴァン。
ん? リュートの拘束が強まった?
けど、そんな事を気にしている暇はなかった。
「そ、そこを通せ! こいつがどうなってもいいのか!?」
開き直ったゲインが、女狐を人質に、吠えてるから。
女神様、見捨てちゃいけませんか?
悲劇のヒロインっぽい顔してるの、イラッとするし。
(女狐、お前はそっち(犯罪者)側だからな?)
「……ハル、ちゃんと名前覚えてるのか?」
エヴァンからの突っ込みに、私は可愛い子ぶって、首はないけど小首を傾げてみた。
(ううん。呼ぶ必要ないし)
「そうか。俺の名前は、覚えてたみたいだな」
(好きな相手の名前ぐらいは覚えるのは当然でしょ?)
「そ、そうか……」
うん、エヴァンが照れた。イケメンの照れ顔いただきました!
リュート、中身出る、中身出る! 絞めないで!
「早く助けなさいよ!」
あ、忘れてた。
まだまだ罪を重ねますよ?
ボンボン達は、また後で!
感想、評価ありがとうございます。




