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冒険者組合狂想

とりあえず、どんどん断頭台の階段を上がっている気がします。

まぁ、所詮、エセシリアスなんで。

 愉快な三人プラス一匹がダンジョンを抜けた頃、冒険者組合は喧騒に包まれていた。

 ボロボロな姿で戻ってきた二組混合パーティーから、とんでもない報告があったからだ。

「では、話を整理させていただくわ。ゲインさんがリーダーのあなた方パーティーは、組合を通さず依頼を受け、失敗し、救助対象である相手が亡くなったと」

 冷静に相手の証言を整理するのは、受付嬢の中で一番年嵩なアンナだ。

 今日は両側に他の二人――イリスとウィナもいる。

「俺達は悪くないぞ? 後から来た、こいつらを助けに来た冒険者が粋がって、貴族様は自分が連れてくって聞かなかったんだよ」

 そう言って、ハルがボンボンと呼ぶノーマンを示すのは、悪役モブ顔冒険者ことゲインだ。

 ゲインは受付嬢達の反論を待たず、さらに言葉を続けた。

「俺は仕方がないから、そいつに任せた訳だ。もちろん、こっちのパーティーからも護衛をつけたぜ? だが、予想以上に後から助けに来た冒険者、確か、お前らの仲間で、リュートだったか?」

 そこで、ゲインはノーマン達を振り返り、確認する。

 ノーマンは、周囲の空気を読む事なく、申し訳そうな顔をしながらも、口元を歪ませて頷いている。

 リュートを始末出来たと思い、嬉しいのだろう。

 リュートがエヴァンと共に来たという事実を、ノーマンは知らない。

 そして、見張らせていた仲間から報告を受けたゲインは、エヴァンの存在は知っていたが、ここの組合長で、上級冒険者という手練れだとは知る事はなかった。

 大きな墓穴を掘りながら、ゲインは大声で身振り手振りをつけ、演説を続ける。

「このリュートってのが、激弱な上に、本当に空気が読めなくてなぁ。止めるのを聞かずに、貴族様を連れて飛び出して行ったんだぜ? 報酬を独り占めしようとしてな」

 聞きたくなくても、ゲインの大声のおかげで、周囲の冒険者達は、よーく話が聞こえていた。

 ゲイン達は、ノーマン達も含めて気付いていないが、周囲の冒険者達の目は、不快そうに彼らを睨み付けている。

 その目が語っている。

『リュートは弱くないし、そんな事をする訳ないだろ』

 ノーマン達は、リュートがこの冒険者組合で、どれだけ認知され、愛でられているかなんて知らない。

 否、信じなかった。

 冒険者達が、どれだけリュートをフォローしようが、誉めようが、リュートは弱い役立たずで流してしまう。

 その目が曇りきったノーマン達からしか話を聞いてないゲイン達が、リュートの実力も、魅力も知る事はない。

 自分達を敵のように見つめている周囲を気付かず、ゲインはさらに演説を続けていく。

 ハルがいたら、大ウケしてるだろう。

「慌てて、護衛を追いかけさせたんだが、その時には、リュートって奴は土グモに喰われていて、貴族様も虫の息でな。この札と家紋が入った剣を俺に託されたんだよ。『父親に遺品として渡してくれ。あと、自分が死んだのは、冒険者だから仕方ないから諦めてくれ』とな。俺達がきちんと護衛していたら、こんな事にはならなかったのに残念だ」

 大袈裟に全身で悔しさをしめすゲインに、受付嬢三人は揃って笑顔のままだ。ウィナまで笑っている。

 そこへ、バンッとドアを勢い良く開けて、ハル曰くヒキガエル似のナリキ男爵が息を切らせて、護衛と共に転がり込んでくる。

「わ、わしの息子が、カネノが死んだとは、本当か!?」

 唾を飛ばしまくるトーチに、ノーマンが心底悲しそうな顔で歩み寄る。

「はい、残念ながら……。僕のパーティーの足手まといのせいで、お亡くなりに……。立派な最期でした。ゲインさん達が助けに来てくださったのですが」

「俺達より後に来た、こいつらの仲間が、粋がって、あんたの息子を連れていって、死んだんだ。あんたの息子を巻き添えにして、な」

 ノーマンとゲイン。二人揃って、リュートを悪者にして、ナリキ男爵をやり過ごそうというのが見え見えだ。

「な、な……なんだと! 本当に、本当にカネノは死んだのだな?」

 ナリキ男爵は、悲しみか怒りか、両方なのかも知れないが、ヒキガエル似の顔面を歪ませ、ゲインへ詰め寄った。

「あぁ、力及ばず、すまないが……」

 殊勝な表情でゲインが謝罪し、ゲインの仲間達、ノーマン達も殊勝な表情をしているが、俯いた口元は揃って歪んでいる。

「所詮冒険者に頼んだわしが間違いだった! お前ら、今からダンジョンに向かい、カネノを見つけるんだ!」

 ナリキ男爵は、唾を飛ばしながら、自分の護衛に指示も飛ばす。

「残念ながら、もうダンジョンへ飲まれているだろう。これは、あんたに渡してくれと預かったものだ」

 ゲインは、そんなナリキ男爵を痛ましげに見つめ、冒険者の証である札と家紋が入った剣を差し出す。

 それを確認した瞬間、ナリキ男爵の目が見張られ、ヒキガエル似の顔面は、絶望を濃く滲ませる。と、二つの遺品を交互に眺めていたナリキ男爵は、濡れた瞳でゲインを見つめる。

「指輪は? カネノは指輪を渡さなかったのか?」

「指輪?」

 ナリキ男爵の問いに、ゲインは顎に手を宛て、悩む様子を見せる。

 その背後で、ノーマン達が顔を寄せ合って、

「指輪はどうしてはずさなかったんだ」

「だって、あいつ絶対に手を開けようとしなかったからさ〜」

「指切り落とせば良かっただろ」

「嫌よ、気持ち悪い」

などと、小声でコソコソ話し合っている。

「ゴホンゴホン、いや、指輪は受け取っていないが。なぁ、お前らも受け取ってないな?」

 ノーマン達の会話を聞こえないようにしたいのか、ゲインはわざとらしく咳をし、仲間達を見渡す。

 あぁ、と仲間達も、ゲインの言葉に頷いている。

「そんな筈はない! あの指輪は、わしの妻、つまりカネノの母親の形見だぞ? それを、カネノのサイズに直し、着けていたんだ! カネノなら、何より先に、あれを遺品として託す筈だ!」

 ナリキ男爵の反論に、ゲインは落ち着きなく視線をさ迷わせる。

 まさか、あの指輪が、そんなに大切な物だと思わなかったのだ。

 貴族なんて、家紋が入った剣を渡せば騙せるだろう、ぐらいに甘く考えていた。

 言葉に詰まるゲインに、さらなる追撃が入る。

「ゲインさん、でしたかしら? 一つ確認ですが、あなた方を妨害し、カネノさんを連れて行ったというリュートさんですが、お一人だったんですか?」

 貼りつけたような営業スマイルのアンナだ。

「あ、いや、違うぞ?」

 アンナの唐突な質問に、ゲインはチラチラと仲間の一人を窺いながら、微妙な否定をする。

「そうだ、そうだった。粋がったヤツがもう一人いたんだよ。顔に傷がある、顔だけは良い中級冒険者が! そいつが、リュートをけしかけたんだよ」

 がはは、と笑うゲインは、アンナ達受付嬢の笑顔が変わった事も、自分の背後にいるノーマン達の動揺にも気付かない。

「確認したいんですが〜? その顔だけは良い中級冒険者さんは、自分で中級冒険者だと名乗ったんですか〜?」

 二番手は、イリスだ。

「あ? そうだが……。あぁ、札は確認してねぇからな。実は初級だったりしてな」

 イリスの質問の意図も知らず、ゲインは自分の発言にウケて笑っている。ゲインの仲間達も、同様だ。

 彼らは、笑っているのが自分達だけだと、まだ気付いていない。

「……その中級冒険者も、亡くなった、ですか?」

 三番手はウィナ。

「そうだ。リュートと一緒に、土グモに殺られたんだよ」

 ゲインの自信満々の言葉に、受付嬢達は顔を見合わせてから、ため息を吐く。

「な、何だよ、何なんだ!」

「ゲインさんのお話には、おかしな点がいくつかあるわ」

「まず〜、カネノさんが亡くなった状況です〜。ナリキ男爵が嘘を吐く訳がありませんから、遺品に指輪がないのはおかしいです〜」

「な、それは……」

「……ハルさんの、話がない、です」

「そうね、それもおかしいわ。リュートさんには、ハルさんっていう、モンスターだけど、頼りになる子が一緒だったのに、あなたの話には、一回も出て来ない」

「逃げたんだろ!? 所詮、モンスターなんだ!」

 喚くゲインの背後で、ノーマン達も、そうだそうだ、とばかりに頷いている。

「私達はリュートさんとハルさんの絆を見てるわ。リュートさんを置いて、ハルさんが逃げるなんてないわ」

 言い切るアンナに冒険者達からも声が上がる。

「そうだそうだ!」

「ハルはそんな薄情じゃねぇぞ!」

「リュートを庇って、火グマに突撃するぐらい根性据わってんだ!」

「ハルさんは、リュートをとんでもなく可愛がってるのよ!」

 明らかな敵意に囲まれ、ゲイン達は怯む気配を見せる。

「どういう事だよ、話が違うじゃねぇか」

「ぼ、僕のせいじゃ……」

 ゲインは小声でノーマンへ文句を言うが、ノーマンはただ、僕のせいじゃ、と繰り返すだけだ。

 ゲインの予定では、足手まといで役立たずなリュートが、粋がってカネノと共に死んだ、と報告し、そうですか残念です、ぐらいで終わると思っていたのだ。

 まさか、追及などされるなんて、思ってもいなかった。

 そんなゲインには、気がかりがもう一つあった。

 いつもなら、とっくに後始末をして戻ってきている筈の仲間が、まだ戻らないのだ。

 足手まといと呼ばれる見習いと、中級冒険者程度に後れをとるなんて有り得ない。

 ゲインはそう思い込んでいた。

 ニッコリと笑ったアンナが口を開くまで。

「あと、もう一つ、おかしな事があるわ。リュートさんと一緒にカネノさんを迎えに行ったのは、うちの組合長よ?」

「それが……」

 どうした、まで言わせず、アンナは続ける。

「組合長は、あなたより顔も良いけど、実力もあるわ。現役の上級冒険者で、ノクのダンジョンを踏破したパーティーのリーダーよ?」

「な!? そんな話、聞いてないぞ!」

 ゲインがまさに憤怒の表情でノーマンを振り返り、ついに声を荒げる。

「おい、そんな大物が出て来て、何故、わしの息子は死んだんだ!? 答えろ!」

 脇で話を聞いていたナリキ男爵も、黙っていられなくなったらしく、乱入してくる。

 一気に騒がしさを増し、殴り合いに発展しそうな険悪な空気は、勢い良く開いたドアでヒビが入り……。



「今帰ったぞ!」




 ――キメキメで入ってきたくせに、思い切り躓いたエヴァンにより、完全に打ち砕かれた。


ゲイン達には、これで退路はありません。

ま、自演乙ってやつでしょうか。


いつも、読んでくださり、ありがとうございます。

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