仲間の意味を辞書で調べたい。
感想ありがとうございます。
心配されてしまいましたが、この作品は、ストレス発散で書いてます。
ストレスが溜まるのは、別の作品です。スランプで。
「ハルさんの毛皮は、すごいですね。防御力も高いですし、中は暖かくて傷を治したりも出来て、何より、最高の触り心地です!」
キラキラとした眼差しで私を誉めながら、リュートは洞窟内を歩いている。
私? 私は、だいぶ手慣れた徒歩?移動だ。転がるのは、緊急時だけにした。
(そう、ありがと。でも、油断しないでね)
「はい!」
言ってるそばから、サッカーボールぐらいの、大きなネズミが襲ってくる。
元気良く返事をしたリュートが、一太刀で斬り伏せたけど。
「ハルさん、怪我は?」
(問題ないよ。かじられたとしても、相手の歯が欠けるんじゃない?)
「確かに、そうですね」
冗談めかせた私に、素直なリュートは生真面目に頷いて、ふわふわと揺れている私のもふもふな毛並みを見つめている。
触りたいんだろうが、今は無視だ。
リュートに抱っこしてもらうという案もあったが、それだとリュートが剣を振れないので却下した。
リュートは、かなり残念そうだったが。
「もうすぐ出口です」
寂しそうなリュートの声。
(そっか。お別れだね)
私の声も、寂しさを滲ませているかもしれない。
「また会いに……」
リュートが何かを言おうとしたが、その瞬間、私は何かに弾き飛ばされる。
「ハルさんっ!」
大丈夫だから、リュート。
泣きそうな声に、そう伝えたいが、再びの衝撃。転がりながら、衝撃の元を探るが、何も見えない。
「撃つな! 敵じゃない!」
リュートの叫ぶ声に、私が視線をそちらへやると、ダンジョンの出入口側に、複数の人影。
リュートと同じぐらいの年代の、少年少女だ。
「止めろ!」
もう一度叫んだリュートは、彼らと私の間へ立ちはだかる。
(……知り合い?)
「はぐれた、仲間です」
(私は何に撃たれたの?)
「魔法です。石つぶてをぶつける」
(今までで、一番衝撃があったかな……嘘だよ、全然平気だから)
背中越しに冗談を言ったら、リュートが本気で愕然とした顔で振り返ったので、慌てて否定する。
「良かった」
満面の笑顔になり、全身で安堵するリュートに、私は吐いてはいけない冗談を言ってしまった気分になる。
(リュート……)
「リュート! 誰と話してるんだ!?」
完全に被った。
私がリュートを呼ぶ声に被せてきたのは、リーダー格らしい少年だ。リュートより体格はいい。ま、顔面はリュートが勝ってるし、と妙な対抗心を抱いてしまった。それより、気になる事が。
「誰って……」
(リュート、たぶん、彼らには私の声は聞こえてない)
「え?」
私の指摘に、リュートはまじまじと仲間の少年少女を見つめる。
彼らは不審者を見るようにリュートと、私を見ている。
試して、ハッキリさせよう。
(あ、足元に巨大なクモ!)
「え!?」
反応したのはリュートだけだ。
「ハルさん、クモなんていないです」
きょとん顔で、リュートが振り返る。
君は素直すぎて、私は心配になるよ。
「リュート、何ブツブツ話してやがる! さっさと、そのケダマモンスターを殺して、素材を売るぞ?」
「それだけ毛並みが良ければ、高く売れるよね〜」
「え? 私の襟巻きにしない?」
皆さん、好き勝手言ってるね。
鑑定させてもらおう。
『鑑定結果
名前 ノーマン
種族名 人間(男)
職業 冒険者見習い
レベル 6
貴族のボンボン。リュートに劣等感があり、事あるごとに嫌がらせをしているが気付かれない』
おい、見逃せない事が出ましたけど。とりあえず、次。
『鑑定結果
種族名 人間(男)
名前 ジュノ
職業 (冒険者見習い?)チャラ男』
頑張れ、鑑定。って、それだけ薄いのか。本職は、冒険者見習いですらないと?
最後は女の子。見た目は清楚な巨乳で、可愛らしい。
ちなみに、鑑定の間も、リュートは、私を仲間から守ろうと頑張って言い返してるのが聞こえている。
『鑑定結果
種族名 人間(女狐)
名前 エメラ
職業 冒険者見習い
男を手玉に取るのが得意。リュートを狙うが、スルーされてしまい、逆に憎くなった』
……何なんだ、このドロドロメンバーは。
リュート、ここにいたら、また危険な目に遭うんじゃ?
(リュート、ちょっといい?)
「……何ですか?」
小声で答える知恵はついたらしいリュートだけど、屈んで私に顔を寄せたら、何の意味もないと思う。
(仲間と仲良い?)
「はい。俺がはぐれたり、モンスターに囲まれたりして足を引っ張ってしまっても、笑って許してくれて、迎えに来てくれます」
ニコニコと答えるリュートには、聞こえてなかったみたいで良かった。
『生きてやがった』
『面倒くさいよね〜』
『ダンジョンで死なれたら、金とか装備、回収大変だから、ちょうど良いんじゃない?』
元気なリュートを見て、そんな会話をしている三人の声が。
よく生きてたな、リュート。
(リュート達って、よくこのダンジョン来るの? あ、あんまり声に出さないで。頷いたりとかでわかるから)
私の声はリュートにしか伝わらないし、それで意志疎通は可能な筈。
リュートはきょとんとした後、ゆっくりと首を横に振り、指を一本立てる。初めてだったのか?
(リュートは何回か来てるんだよね? つまりは、この仲間とは、初めて入った?)
今度は縦に振られる首。
(よくはぐれたりするの?)
リュートは困った顔をして、再度首を縦に振る。
私はリュートの顔を見上げてから、リュートが仲間だという三人へ視線を向ける。
初対面から、敵意のない私を毛皮扱いしているのも気に食わないけど、何よりリュートの扱いが気に食わない。
でも、リュートは彼らを仲間だと思い、慕っている。
年齢が一番下なせいもあるのだろう。
年齢に絞って鑑定した結果、一番上はチャラ男で、二番目はボンボン。三番目が女狐で、リュートは一番下だった。
まだ、襟巻き襟巻き騒いでいるエメラとかいう女狐が煩い。
そんなに私を首に巻きたいのか? 噛むぞ? 出来るかわからないけど……あ、そうだ。いい事考えた。
(リュート、ダンジョンの外にもモンスターっているの?)
はい、と小声で答え、頷くリュート。どっちかでいいのに。
(じゃあ、モンスター使いみたいな職業の人はいる?)
「かなり珍しいですが、いるらしいです」
リュートの答えを聞いた私は、ゆらゆら、と体を揺らして、準備運動をする。
(リュート、飛びつくから、受け止めて。その後は、私が言った事を喋ってね)
リュートが頷いた事を確認した私は、とうっ、と気合を入れてジャンプする。
ほとんど届かなかったけど、上手くリュートが受け止めてくれた。
予想通り、リュートへ飛びついた私を見て、殺せだとか、叩き落とせだとか、聞こえるが無視して。
(このモンスター、俺になついてるから、連れていこうと思うんだけど)
「えぇと、このモンスター、俺になついてるから、連れて……え? いいんですか!?」
こら、嬉しそうに目を輝かせるな。ちゃんと、最後まで言わないと、意味不明だ。
(……リュート? 連れていこうと思うんだけど?)
叱る時はちゃんと叱るよ、私は。
「連れていこうかと思うんだけど……」
私の怒気を含ませた声に、リュートは反省した様子でプルプルとしながら、私の言った台詞を反芻する。
その途端、ボンボンからイラッとするような言葉が飛んで来た。
「はぁっ? 何でそんな弱そうな毛玉を、連れていかないといけないんだよ? ただでさえ、お前みたいな穀潰しがいるんだぞ?」
さらにチャラ男から緩い追い討ち。
「そうそう〜。リュートは自分の食いぶちすら稼いで無いんだし〜」
私を抱くリュートの腕に、ちょっと力が入る。痛くはないけど。
(リュートを悪く言うな!)
伝わらないのはわかっていても、ついイラッとして怒鳴る。
「ハルさん……」
少しだけ涙ぐんだような声でリュートが私を呼び、モフッと私の毛並みに顔を埋めたようだ。背中部分だから、見えない。
今は許そう。リュートが聞いてないおかげで、
「別にいいんじゃない? ……隙を見て奪って殺して、毛皮にしちゃえばいいのよ。どうせモンスターなんだから、襲われた、とか言えばリュートなら納得するわよ」
なんて、話をしてくれたから。
モンスターだから、聴力がいい可能性もあるけど、彼らはリュートを馬鹿にしているんだろう。
騙されやすいお人好しとして。
(リュート、私が誰かを襲ったって聞いたら、納得する?)
「……ハルさん自身の口から聞いたなら、納得します。きっと、やむにやまれない理由があるでしょうし」
(そっか)
嬉しくなって、毛をざわつかせると、顔を埋めたままのリュートが擽ったそうに笑う。
イチャイチャしていると、向こうの話し合いは終わったらしい。
「おい、リュート。お前がそこまで言うなら、その毛玉を連れていく事を許可してやる。ただし、エサはお前の分の飯を分けろ。いいな?」
「何か問題起こしたら、放り出すからね〜」
「ほら、良く見たら可愛いわ」
全員が明らかに上から目線で、私は微妙な気分になったが、ガバッと顔を上げたリュートは、素直に嬉しそうだ。
「みんな、ありがとう! ハルさん、一緒に行きましょうね」
(うん、一緒に行こう、リュート)
君が彼らを信じる分、私は彼らを疑って、少しでも害意から守るよ。
リュートには伝えられない決意をし、私はほくそ笑んでいる彼らを睨む。
「ハルさん、歩きますか? それとも、抱いてていいですか?」
(あ、それなら、さっき良い案を思いついたから。……肩貸して?)
「もちろんです!」
真剣に私と会話をするリュートを、彼らは嘲笑めいた表情で見ているが、ひとまず無視しておく。
(こうして、しがみつけば、戦う時も邪魔じゃないし、後ろから襲われた時とか、庇えるから)
そう説明しながら、私はリュートの肩へよじ登り、そこでしがみついて、モフッと落ち着く。
「名案ですね。……どうやって、掴まってるんですか?」
軽く跳ねたりして私が落ちない事を確かめたリュートは、横目で私を窺っている。しかし、実は私もどうやってるか、不確かだったりするので。
(たぶん、毛?)
と、疑問系で答えておく。
「ハルさんのもふもふは万能ですね」
肩へ留まる私を撫で、リュートは楽しそうだ。
ついていくのを、ここまで喜んでもらえると、私も素直に嬉しい。同行者は最悪なのも、ちょっとだけ気にならなくなる。
リュートの仲間は、私を警戒しているのか、リュートと少し離れて前を歩いている。私は初め、そう推測した。
そのままの隊列で、ダンジョンの出口へ向かうらしいが、ふと私は違う仮説を思いついた。
(ねぇ、いつも、こんな並び方なの?)
「はい、基本的にそうですね」
はい、ビンゴ。
だから、リュートはいつもはぐれたり、囲まれたりするんだ。
狙いを絞れないようバラけるとか、そんな戦略もあるかもしれないが、今のこのパーティーの隊列は、そうじゃないと思う。
戦略だとしたら、最初からリュートを捨てゴマにする気なんじゃと、穿った見方をしたくなる。
リュートの肩でそんな事を考えていると、さっき見たボンボンの鑑定を思い出した。
(嫌がらせだ、これ)
「ハルさん?」
(あ、ごめん、独り言だから気にしないで。それより、私はリュート以外に触られたくないから。あと、私と話せる事とか、私がサイズ変えられる事とか、傷が治った事とか、仲間でも話さないで欲しいな)
「はい、わかりました」
素直ないい子に、注意事項を伝えていると、空気の匂いが変わる。
さらに進むと、ダンジョン内では感じられなかった、そよそよと吹いてくる風が、私のもふもふした毛並みを揺らす。
「ハルさん、外ですよ? 大丈夫ですか、眩しかったりしませんか?」
(うん、平気だよ。お日様が気持ちいいぐらい)
日の光が駄目なモンスターもいるのかもしれない。リュートは本気で心配している。
考えもしなかった可能性だったが、リュートに答えた言葉に嘘偽りはない。
逆に、もふもふした毛並みは、外の光を喜んでいる感じがする。
(改めて、よろしくね、リュート)
ダンジョンを抜け出し、この体で初めての日の光を浴びながら、私はお日様みたいに笑う少年へ挨拶する。
「はい! よろしくお願いします、ハルさん」
返ってきたのは、やっぱりお日様みたいなキラキラした笑顔。
勢いでダンジョンから出る事にしたのだが、あの時、飛び込んできたのが、リュートで良かった。
リュート以外でも、助けたりはしたと思う。
その後は、きっと違う。
リュートだから、仲良くなれたし、一緒に行こうと思えた。
まず、普通の人は、モンスターと話そうとはしてくれないだろう。
少し先で、リュートを見ている彼らのような反応が、きっと大多数だ。
リュートみたいな子は、希少。この出会い自体、奇跡に近い。
考えれば考えるほど、リュートで良かったと思う気持ちは強くなる。
(リュート)
「何ですか、ハルさん」
(ごめん。呼びたくなっただけ)
「はい! 好きなだけ呼んでください」
(ふふ、ありがと)
バカップルなやり取りをしながら、リュートは私を乗せたまま、仲間を追いかけて行こうとしたが……。
「あー、君、それはモンスターじゃないのか?」
ダンジョンの管理をしているぽい男性に呼び止められ、私が危険じゃない事を説明するのに、小一時間。
終わった時には、同行者達の姿は何処にもなく、私とリュートは、森の中で野宿をする事になった。
私のもふもふで眠れて、リュートが物凄く喜んでたのが、せめてもの幸いかもしれない。
ゆるゆると。