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あがががが。

突っ込み所が多すぎて、ハルさん間に合いませんの巻。

どら息子が、常識人に見えてきた。

 うん、もちろん、ゆる女神様からは何の答えもなかった。当然か。

 とりあえず、あがあが言ってるどら息子を鑑定してみる。状態異常もわかるのは、私で確認済みだし。

『鑑定結果

 状態異常 山々ナメクジの粘液による麻痺』

 状態異常のとこだけを確認する。

 食われなかったみたいで、残念……おっと間違った幸運だったね、どら息子。

(山々ナメクジの粘液で麻痺してるみたいだよ)

 あがあが言ってるどら息子を介抱しているリュートに、私はそう伝える。

「原因は、山々ナメクジ、ですか……」

「みたいだな。ここまでは抱えて連れて来たのか」

 リュートの呟きに、傍らでどら息子を観察していたエヴァンも同意を示す。

「ノーマン達はどうしたんでしょうか?」

「これを連れ帰れないから、助けを呼びに行った、とかならいいんだがな」

 はい、エヴァン先生、違うと思います!

 思わず、そう言いそうになったが、自重した。

「あががが……」

 リュートに介抱されてるどら息子が、気持ち悪い動きで何かを主張しているけど、意味不明だ。

「すれ違わなかったって事は、違うルートを通ったか」

(そっか。ダンジョン、つまりは迷宮なんだよね。ルートは一つじゃないのか)

「俺達が通ったのは、最短ですが、一番モンスターが出易く、トラップも多いルートです」

 私の呟きに、リュートがどら息子を立たせながら、補足するように答える。

「まさか下へ向かったって事はないだろうから、引き返したか」

 エヴァンは、あがあが言ってるどら息子の反応を見ながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。麻痺してるどら息子が、反応するのを待ってるんだと思う。

 どら息子はエヴァンの狙い通り、あがが! と麻痺が残ったままながらも、怒りを見せる。

「怒ってるみたいですね」

「怒ってるな、明らかに」

(げきおこだね)

 思わず三人で顔見合わせた。

「リュートには悪いが、ノーマン達は、麻痺したこいつを置き去りにしたらしいな」

「そう、ですね。でも、きっと、ダンジョンを脱出したら、助けを呼ぼうと……」

 エヴァンの皮肉げな笑顔を前に、リュートは何とか仲間達をフォローしようとするが、タイミングを見ていたように一人の冒険者がセーフゾーンへ駆け込んでくる。

 本当に、タイミングを見ていたみたいだ。足音は、近寄って来た訳じゃなくて、急に聞こえたし。

 私が訝しんでいると、駆け込んで来た冒険者が口を開く。

「ま、待ってくれ、俺も連れてってくれ!」

 何かネズミみたいな顔した、小狡そうな男だ。って言うか、モブ顔冒険者の仲間だ、確か。

(リュート、こいつ、あの冒険者達の仲間だよ)

「お一人みたいですね」

 確かに、あの悪役集団みたいな濃い仲間はいないようだ。

「だからと言って、俺達が連れていく義理もないんだが。俺はともかく、リュートはカネノを助けに来た訳だしな」

 薄情かもしれないけど、エヴァンの判断は正しいだろう。

 麻痺が残るどら息子を連れ帰るには、どちらかが肩を貸したりして、戦闘出来なくなる。

 肩を貸して歩けば、格好の的となるから、それを守らなければいけないし、連れてってくれ、とか言うような相手がいては、下手すれば全員が共倒れだ。

 いくらリュートが素直ないい子でも、その辺の判断は出来てるみたいで、口を挟む事はない。ちょっと、悲しそうな顔してるけど。

「だ、大丈夫だ! 自分の身ぐらいは守れる! だが、さすがに一人では無理なんだ。お前達の後ろを歩かせてもらうだけで良いから……」

 いざとなったら切り捨ててくれ、と寄生宣言が来ました。

「わかった。お前も冒険者ならわかるだろうが、助けろと言われても、こっちにはお荷物がいるんだ」

「あぁ、もちろん。いくら、あんたが中級でも、そこまで迷惑はかけられないさ。そっちには、お荷物の他に、足手まといがいるんだ」

 今、ネズミ顔男、リュートを見たよね? リュートを足手まとい扱いしてるって事は、ネズミ顔男、ボンボン達に会ってるな。

 リュートを足手まといなんて言うのは、今はもうボンボン達ぐらいだからね。

「リュートは足手まといなんかじゃねぇよ」

 その前に、自分が中級じゃないって訂正しないのか、エヴァン。

 私的には、リュートを庇ってくれたのが嬉しいけど。

 不機嫌そうになったエヴァンのイケメン顔は、傷もあるから、余計に迫力がある。イケメンなのに。

 ネズミ顔男は、明らかに怯えてる。けど、ついてくる気らしい。

 エヴァンは勝手にしろとばかりに、ネズミ顔男を視界から外すと、どら息子の状態を確認する。

「何とか歩けるか?」

「あがが」

「俺が肩を貸すので、すみませんが、エヴァンさんには、モンスターの相手をお願い出来ますか」

「あがぁ」

(私もモンスターの相手をするよ)

「……」

 さすがにどら息子からのあがあがは無かった。

 べ、べつに期待なんかしてないんだから!

 久々にやったけど、気持ち悪いな、やっぱり。

「ハルさんも、お願いしますね」

(リュートのために、頑張るよ)

 リュートがどら息子に肩を貸してるので、私はリュートの頭頂部へ移動済みだ。

 白アフロだね。後ろから見れば。

 これで、頭部への致命傷は防げるはず。殿のネズミ顔男のこと、信用してませんから。

「よし、少し遠くはなるが、安全なルートを行くぞ?」

「はい」

 体力的には、リュートはお荷物などら息子がいても、全然平気そうだから。安全面を優先するよね。

 ネズミ顔男が、後ろで含み笑いしてるのが、ちょっと嫌だけど。別にリュートが弱い訳じゃないし!

 私がネズミ顔男にイライラしている間に、道中の打ち合わせは終了したらしく、セーフゾーンを出ようとした時だった。

 背後を気にしながら、二人組の冒険者が、セーフゾーンへ駆け込んでくる。

「エヴァンさん! ちょうど良い!」

 その冒険者のうちの一人が、エヴァンを見つけて駆け寄ってくる。

 ネズミ顔男は、何故か離れた位置へ移動した。

 不審に思った私だったが、その男性の話で、一気に解決した。

 アンディと名乗った彼によると、あのモブ顔冒険者パーティーと、ボンボン達はこのセーフゾーンで無事に出会えたらしい。

 聞き耳を立てていた訳ではないが、大声で話していたから、大体の話は理解出来たそうだ。

 相変わらず、ボンボン達はリュートを逆恨みし、あいつが三階層に行ったなんて嘘を吐くから、とか言っていて、全員ボロボロだったらしい。

 いや、ボンボン。信じてなかったじゃん、リュートの言った事。それを、今さらリュートのせいにする? 腐ってやがる。

 三階層に下りたら、予想以上にモンスター強くて、ちょうど良く別パーティーに寄生したは良いけど、今度は置き去りにされて帰れなくなったんだよね。

 お前らがリュートを追い返したせいだろ。

 リュート、五階層のモンスター、余裕だったぞ?

「ハルさん、怒ってますか? 頭絞まるんですけど……」

(ごめん。リュートを悪く言われて、つい)

「ハルさん……」

 リュートは全然気にしてなかったらしい。逆に、私が怒った事を喜んでるぽい。

 もー、うちの子、本当にいい子なんだから!

 うん、癒された後は、イライラするけど、アンディの話へ戻ろう。

 どら息子は、やっぱり山々ナメクジにやられたらしく、いつまでも麻痺してるどら息子を囲んで、ボンボン達は苛立って舌打ちしてたそうだ。

 アンディ達は、どうするんだ? と、明らかに新人臭いパーティーを心配してくれたそうだが、ちょうどそこにモブ顔冒険者パーティーがやって来たそうだ。

 そこで、どんな話し合いがあったかは、急に小声で会話を始めたからわからないそうだが、全員が悪どい笑みを浮かべ、麻痺したどら息子を置いていったらしい。

「死体はダンジョンが始末してくれるからな」

 そう捨て台詞を残して。

 死角にいたアンディ達に聞かれた事なんて、気付かずに。

 アンディ達は、どら息子を連れてく義理はないが、かといって見殺しも嫌なので、どら息子へ水を飲ませてあげてから、ダンジョンを出る事にした。

 もちろん、ボンボン達とは違い、助けを呼ぶためだ。セーフゾーンにいるなら、生き残れる率は高いよね。急げば、私達ぐらいの時間で来られる訳だし。

 リュートとエヴァンは、お荷物を抱えていても、普通に帰還出来る自信があるが、普通の二人組なら、ためらうんだろう。

 赤の他人のために、命はなかなか賭けられないよね。

 リュートのためなら、私、命賭けますけど。

 話は戻るけど、ダンジョンを出る事にしたアンディ達は、ボンボン達一行と同じルートをたまたま選んでしまったらしい。

 モンスターそこそこ。トラップ少なめルートだったらしいんだけど、二人組なアンディ達は、移動速度も速く、先に出たボンボン達へ追いつきそうになった。

 まぁ、ボンボン達には女の子な女狐がいるから、足は遅くなるよね。

 妥当だし、別に何が問題だったんだろう、追い抜けばいいじゃん、とか思った私は甘かった。

 ボンボン一行のゲスさは、私の想像なんて軽く越えてきてくれた。

「俺達の方に向けて、モンスターを誘き寄せる匂袋投げつけて、寄ってきていたモンスター、全部なすり付けていきやがった」

 うぉい!

 冒険者じゃない私にもわかる。

 それ、冒険者として、と言うか、人としてやっちゃ駄目なやつ!

「まさか、なすりつけするなんて……」

(大丈夫? やっぱり、なすりつけって、駄目なんだよね?)

 私は、呆然と呟いている、足場なリュートへ尋ねる。

「……駄目というか、厳しい罰則があります。犯罪ですから」

 マジか!

 私は目を見張って、無言のエヴァンへ視線をやる。

 うわ、額の血管がピクピクしてるよ。エヴァンもげきおこだね。

「しかも、匂袋が使われたなら、そのルートはしばらくモンスターだらけで使えません」

「……っち、仕方ない。中ボス部屋の前を通るルートに変更するぞ」

「……はい。仲間がすみません」

「「「リュート(お前)のせいじゃない」」」

 アンディだけじゃなくて、今まで黙っていたアンディの相棒まで参加して三人で、謝るリュートへ突っ込みを入れてくれる。

(そうだよ、リュートは悪くない)

 私もちゃんと言っておかないと。

 いくら連帯責任って言葉があっても、これは範疇を越えてる。

 あがあがどら息子も、頷いている。どうやら、最低限の人としての常識はあるらしい。

 ネズミ顔男が、私達から離れたのは、仲間のしでかした事を知ってたんだな、多分。

 初犯じゃないな、これ。

 モンスターを誘き寄せる匂袋なんて、普通いらないよね?

 何に使うんだよって話だ。

「とりあえず、まずはカネノを無事に連れ帰る事だけを考えるぞ」

「……はい!」

 ハァ、とため息を吐いたエヴァンは、気を取り直した様子で、そうリュートへ声をかける。

 で、ためらいつつも、しっかりと返事する、うちのいい子。

 アンディ達は、少し休憩してから、別ルートを行くそうだ。

 ネズミ顔男? 知らないよ。付いてきたけりゃ、付いてくるでしょ。

 出鼻を挫かれまくって、複雑骨折な気分だけど、私達は麻痺したどら息子を連れ、ダンジョン脱出を目指す事になった。




 何事もないと良いけど……。


自分で書いておきながら、あいつら死ねばいいのに、って思うぐらいのゲスがいます。

ちゃんと、順番にざまぁしますし、名前をハルさんが呼んでる人間は、基本的に死なないので。

そして、私は主人公至上主義の、(私にとっての)ハッピーエンドマニアです!

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