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ダンジョンにて。

ダンジョン回スタート。

 女神様との素敵な初対面と、どら息子との嫌な初対面を終えた次の日、珍しく早起きなボンボン達に連れられ、私はダンジョンの前にいた。

 正確に言うと、私を肩に乗せたリュートは、ダンジョンの前にいた。

 もちろん、仲間とは呼びたくない仲間達も一緒だ。

 さらに嫌なオマケが一匹……ごほ、一人いる。

「リュート、キミは本当に、このダンジョンの中で、そのケダマモドキを拾ったんだね!?」

 唾が飛んでる、唾が。

 リュートが珍しく嫌そうな顔をして、タオルで私のもふもふを拭いている。それでも、基本的にいい子なので。

「はい」

 とだけ答え、小さく、拾った訳じゃないですけど、と力無く付け足している。

 誰も聞いてくれないのは、わかってきたらしい。

 これは、ボンボン達とのお別れが早まるかもしれない。

 そんな感想を抱きつつも、私はリュートを励まそうともふもふを揺らして、頬を撫でる。

(リュート、私がついてるからね)

「ありがとうございます、ハルさん」

 リュートは目を細めて笑うと、私に頬擦りをしてから、さっさと来い、と叫んでいる仲間達の元へと駆け寄る。

「いつも通り、リュート、お前は殿(しんがり)だ。わかったな」

「あぁ、わかった」

 快活に笑って頷いたリュートの脇から、ニュッと顔を出したのは、どら息子だ。

「リュート! ダンジョン内だけでいいから、ケダマモドキを貸してくれないか? 上手くしたら同族を呼ぶかもしれない」

 湧いて出るな、どら息子。びっくりして、またもふもふがボワッてなった。

「ハルさんは嫌みたいなので、申し訳ありません」

 リュートは慣れてきたのか、サラッと流して、膨らんだ私を宥めるように撫でている。

「もういい! ボクもすぐにケダマモドキを捕まえてやる! それで、あの嫌味な男の鼻をあかしてやる!」

 唾を撒き散らすどら息子に、リュートはタオルで私を包んで唾がかからないようにしてくれた。

 ありがと、リュート。




「……ハルさん。同族って呼べるんですか?」

 生まれ故郷とも言えるダンジョン内をキョロキョロと眺めていると、リュートが話しかけてくる。

 相変わらず、ボンボン達とは距離がある。物理的に。

(わからない。元々、リュートが来るまで、一人ぼっちだったから)

 まぁ、モンスターとは遭遇したけど、意思疎通は出来なかった。

 第一異世界人(?)な骸骨剣士の事を思い出す。

(ちなみに、私以外に、意思疎通出来るモンスターに会った事は?)

「ないですよ!」

 語尾を跳ねさせ、リュートは私の声に答えてくれる。

 別に元気があるアピールではなく、話している最中に襲い掛かってきた、巨大なコウモリを斬り捨てたからだ。二匹も。

 ボンボン達も襲われてるが、向こうは一匹しかいないコウモリに、四人がかりで苦戦している。

 うん、喚くな。うるさい。リュートみたいに、スッと倒せ。

 結局、追いついたリュートが、鞘に入れたままの剣で打ち落として、それをどら息子がドヤ顔で刺していた。

 無抵抗な相手を刺したのに、急所を外したのか、コウモリは血を撒き散らして、苦し気に鳴いている。

(いたい……)

 コウモリの断末魔の悲鳴に同調してしまった。さっさと殺してあげて欲しい。

「ハルさん」

 リュートにギュッと抱き締められ、私は緩く息を吐き出す。

(大丈夫だよ)

「なら……」

 いいですが、と言いかけたリュートに被せるように、息を切らしたボンボンが詰め寄ってきた。

「おい! 近づき過ぎだ! 殿の意味がないだろう!」

「ごめん、すぐ元の位置に戻るよ」

 お前らが苦戦してるからだろ、と言う思いを込めて睨むが、通じる訳もなく、いつも通り謝るのは、何にも悪くないリュートだ。

(リュートは悪くないよ?)

「殿を任されたのに、離れてしまいましたから」

 素直ないい子はブレないな。

「さっさとしろよ〜」

「カネノ様をお待たせしちゃってるじゃない」

 うん、仲間達もブレないな。ぶん殴りたい。今なら許されるんじゃ。

「何か物騒な事考えてないですか?」

(カンガエテナイヨ?)

 ちょっと片言になった気がする。気にしないでくれ。

「危ない事をしちゃ、駄目ですよ?」

 クスクスと笑ったリュートは、私の顎の下辺りを指先で擽ってくる。

 まぁ、顎の下ってのは、何となくだけど、ここは最近発見された私の弱点の一つだ。単純に気持ち良いってだけの弱点。

(そこ、駄目だって……)

 気持ち良さに身悶えしてると、さらに擽られる。

(ん……っ)

 ちょっと変な声が出た。恥ずかしい。

「す、すみません……」

 リュートも恥ずかしそうだ。何か居たたまれない。

「おいっ! 何、イチャイチャしてるんだ!」

 少し前を行くボンボンから、息切れしながらも、お叱りの声が飛んでくる。

 どら息子以外は、ハァハァ肩で息してるけど、大丈夫か?

 リュートなんて、私とイチャイチャしながら、片手間で棘ネズミとか、大コウモリ倒してるけど?

 そちらは一匹の棘ネズミで苦戦とか。失笑寸前だよ。

 どら息子は守られて応援してるだけだから、元気そう。あれの方が、明らかに足手まといの役立たずじゃないか?

「向こうの棘ネズミ、特殊個体なんでしょうか」

 棘ネズミを余裕で斬り捨てながら、リュートは前を行く仲間を心配して、そんな事を口にする。

(特殊個体って?)

 リュートがいい子なのはいつも通りなのでスルーし、それより気になって、小さく肩上で跳ねて尋ねる。

「時々いるんですよ。同じ種族なのに、やたらと強かったり、普通の個体が使えないような技を使う個体が……今、何かしました?」

(うん? 何か飛んできたから、弾いただけ。わかりやすい説明、ありがと)

「いえ。……何が飛んできたんでしょうか?」

 さすがに肩で跳ねたら気付くよね。リュートは、少し不思議そうに周囲を警戒している。

 でも、いくら探しても無駄だよ。

 私が弾いたのは、モンスター狙ったフリをした、女狐の流れ魔法だから。

(さぁ、小石とか虫じゃない?)

「まぁ、ダンジョンですからね」

 リュートは納得したのか、私が怪我をしてないか確かめつつ、横から飛び出してきた棘ネズミを蹴倒している。

 リュートって、地味に強いよね。本人は無自覚っぽいけど。

 今の流れも、足を止めずに、仲間達を追いかけながらだし。

(大ムカデは出ないね)

「大ムカデは下の階層です」

(私がいたのって、何階層……?)

 そう言えば、階段あったな、と思い出しながら、私が尋ねようとすると……。

「リュート、ケダマモドキを捕獲したのは何階層かな!?」

 最悪だ。どら息子が被せてきた。いや、向こうに通じてないのはわかるけど。

「ハルさんと出会ったのは三階層です」

「はぁっ!? 嘘を吐くな! お前みたいな足手まといが、一人で三階層まで行ける訳がないだろ!? 一人で先にこのダンジョンに入っていたっていうのも、どうせ嘘なんだろ?」

 私とどら息子へ向けたリュートの言葉に、ボンボンは過剰ともいえる反応で喚き散らす。両脇では、チャラ男と女狐がうんうんと頷いている。

 ナカマッテ、スバラシイネ。

 もう笑うしかないよ。

「……信じるか信じないかは自由だ。でも、俺がハルさんと会ったのは、本当に三階層だ」

(私は信じるよ。って言うか、そこが住み処だった訳だしね)

 少し元気がなくなってしまったリュートのため、私はわざと明るい声音で告げ、もふもふな体を揺らす。

「ありがとうございます、ハルさん」

 良かった。笑ってくれた。

 リュートは片手で剣を持ちながら、空いた手で私を撫でる。

 ボンボン達は、興奮したどら息子に押し切られていて、下の階層へ向かう事になったらしい。

 ボンボンが偉ぶって、リュートについて来いって叫んでる。

(ねぇ、あいつらって、このダンジョン二回目なんだよね?)

 素直にボンボンに従っているリュートに、私は小声で尋ねる。リュートにしか聞こえないから、意味はないけど。

「はい。俺は、下見しろって言われたんで、一人で何回か潜りましたけど」

(……自分でやれって言ったクセに、信じないんだ)

「まぁ、宝箱とか見つけられませんでしたから」

(宝箱あるの?)

「ありますよ。トラップとかもありますし、下に行くとボスモンスターもいますし」

(でも、宝箱とか、みんなが探してたら、あっという間になくなるんじゃ? ボスも倒されたら終わりでしょ?)

「宝箱は、ダンジョンから自然発生するみたいですよ。トラップもちゃんと再生しますし。ボスも、復活するらしいです。まだ戦った事はないんですが……」

 二階層も、私の出番はなさそうだ。

 何故かって?

 リュートが私の質問に笑顔で答えながら、現れるモンスターを瞬殺してるからだ。

 前を行くボンボン達は、かなりの死闘なんだが。

 これは、今まで、リュートに全部任せてたツケだ。

 ま、良かったね。これで、全員レベル10に届くんじゃないか?

 安全地帯なリュートの肩の上で、私は意地悪くボンボン達を見つめて、密かに笑う。

 しかし、どら息子がかなりの足手まといで、かなり向こうは体力を消費してるみたいだけど、大丈夫か?

 別にボンボン達は心配じゃないけど、しわ寄せはリュートに来るのだ。絶対に。この数日の付き合いな私でもわかる。

(リュート、休憩とかってどうするの?)

「パーティーなら見張りを立てて休んだりもしますが、ダンジョンにはセーフゾーンがありますから。そこはトラップもないですし、モンスターも出ないんですよ」

 ちなみに、リュートはまだまだ元気だ。

 良くわからない色をした蛇を斬り捨てながら、ハキハキと答えてくれる。

(へぇ。セーフゾーンか……私入れないんじゃ)

「入れなかったら、俺達は外で待機してればいいですよ」

 もう、リュートは本当にいい子で可愛いな。

 ボンボン達だったら、私を外へ放り出して、セーフゾーンに入るぞ、きっと。

(あ、でも、泊まる可能性もあるよね?)

「その時は、その時ですっ!」

 一気に前を行く仲間と距離を詰めたリュートは、力強い語尾と同時に、仲間を囲んだモンスターを斬り捨てる。

 で、またボンボンに怒鳴られ、ちょっとシュンとして定位置な殿に戻る。



(可愛い……)



 思わず呟いてしまった私は悪くない。

しばらく、こんな珍道中です。

ハルさんとリュートは、ブレずにイチャイチャしますけど。

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