色々と緩い。
短いです。あと、間違って一回消してしまって打ち直しました。凹みました。
ふと目が覚めた感覚があり、私は周囲を見渡す。
そこは見た事もないふわふわとした空間で、体を動かした感触は、空気を入れて小さい子が中で遊べるバルーンの遊具みたいだ。
「あれ、手足がある? て言うか、声も出てる?」
周囲を観察していた私は、違和感を感じて、自分の体を見下ろし、人間のような手足がある自分へ驚き、声が出た事にさらに驚いた。
「あはは、夢かな。けど、人間の姿が、もう違和感しかないなんて……」
私はすっかりハルなんだなぁ、と心の中で呟く。
リュートに伝わらないように心の中で呟くのは、すっかり癖になってしまったようだ。
「リュートはいないみたいだね」
どうせ夢なら、人型で抱きついて、頭を撫でてあげたかったな。
「……あれ、でも、体型違う? 髪も長いし、もふもふで白い?」
転生したケダマモドキの姿が反映してるのかな。
自分の姿を見ようとクルクルと回っていると、視界の端に、いつの間にか誰かが立っている事に気付く。
「……どちら様?」
思わず尋ねる声が丁寧になる。
視界の端にいたのは、それぐらいの美女だ。
ヒラヒラとしたドレスを身にまとい、ニコニコと笑う姿に見覚えはない。
私の夢のはずなのに。
「会うのは初めてね。えーと、今はハルでいいのよね?」
「……はい」
頷いてから、美女の声に聞き覚えがあり、私は内心傾げる。しかも、会うのは初めて、とも言われた。もしかして。
「……間違えた神様、ですか?」
「はーい。ごめんね、聞き間違えちゃって」
緩い。でも、声に聞き覚えがある訳だ。
ケダマモドキ初日にも聞いてたんだから。
「何で、私の夢の中に?」
「一度、きちんと謝りたかったんだって。間違えちゃった訳だし」
女神様は、苦笑いしながら、相変わらず緩く説明してくれる。
「本当にごめんなさい。貴女の切なる願いを叶えたつもりだったのに、こんな事になって」
「あー、もういいです。死んだのがあなたのせいな訳ではないですし。
――何より、良い出会いがありましたから。モンスターでも」
恋ではないけれど。
「なら良かったわぁ」
復活早すぎ。でも、反省していたのに嘘はないみたいだし、気にしないでおこう。
「間違えちゃったお詫びに、スキルとか色々サービスしといたからね。レベルが上がれば、もっと色々出来るわよ」
サービスって。通販か。何円以上、送料無料的な。
「……私みたいな事、ケダマモドキ全員が普通に出来るんじゃ?」
突っ込むのは諦め、別の事を尋ねてみた。いい機会だから。
「あなたみたいなチートモンスター、たくさんいたら問題よ」
そうしたら、聞き捨てならない事を言われた。私って、チートなのか?
「まぁ、まだ成長途中だからね」
「何がどう成長するんですか?」
「ま、お楽しみにしててね」
やっぱり、答えてはもらえなかったか。
しかし、この緩さ加減、何か覚えが……。
「もしかして、私の鑑定って……」
「そうよ、私が見た情報から、あなたに必要な物を表示してあげてるの」
えへんっ、と胸を張られたが、これだけ緩い女神様だし。もしかして、
「だから、間違えて、咳き込んで誤魔化し……」
「しょうがないでしょ! あんな間違いやすい名前してるから」
あ、開き直った。
「普通の人の鑑定って、違うんですよね?」
「管轄が違うから、しっかりしてると思うけど」
そこも緩い。管轄が違うからって、お役所みたいだけど。
「私のスキルの、吸収と放出って、女神様が考えた、私だけの特殊スキルじゃないですか?」
「そうだけど。良くわかったね」
やっぱり。はい、色々と緩いので、あのスキル。
「結構万能なんだから、色々と試してみてね」
「はぁ、ありがとうございます。そう言えば、何で夢の中は、人の姿なんですか?」
ペコリと反射的に頭を下げた私は、体の動きに合わせて揺れるもふもふを視界に入れ、素朴な疑問を口にする。
「それは、色々あるのよ。ま、お楽しみにしててね」
答えてはもらえなかった、か。
「そうそう、あなたのチートは、防御力特化だからね? ドラゴンの攻撃ぐらいなら、防げるから」
思い出したように、女神様は緩く笑って告げる。結構、重要な情報じゃ?
「ドラゴンって、この世界での立ち位置は……」
その時、体が引かれるような感じがし、ゆっくり霞んでいく視界の中、女神様へ訊いてみた。
どれぐらいの攻撃まで防げるか、把握したかったから。
「モンスターの中で、最強クラスだったと思うけど。――じゃ、そろそろお別れね。いつでも見守ってるから……」
最後まで緩く。女神様はそう言って手を振っている。
「それって……」
(最強なんじゃ……)
突っ込んだ時には、もう慣れ親しんだ、ケダマモドキな体に戻っていた。
声も出なくなっていた。肉声でリュートと話したかったから、残念だ。
パチパチと瞬きして、リュートの姿を探す。どうやら、私がいるのは、宿のベッドの上らしい。
「はるさん?」
寝惚けた声が私の名前を呼び、伸びてきた腕が、私の体を引き寄せる。嫌な感じはないので、すぐにリュートの腕だとわかる。
(リュート?)
「よかった、めがさめたんですね」
寝惚けた声が安堵を滲ませていて、私は少し不安になる。もしかして、良くあるSF的なやつで、私の体感では二時間だけど、実は何ヵ月も経ってたみたいな?
(私、どのくらい寝てたの?)
「二時間ぐらいです」
ピッタリだよ、体感時間。
(じゃあ、何で不安そうだったの?)
「さびしくて、です……」
顔は見えないけど、恥ずかしそうなリュートの声に、色々とキた。
女神様との事は一旦置いといて、リュートを甘やかす事にする。
私にとって、リュートの方が重要だから。
で。うん。思う存分、いちゃいちゃしておきました。
手足がないのは、やっぱりちょっと不便だけど。
リュートの不安そうな表情は、すっかりいつもの笑顔になって、私は満足だ。
リュートには、笑顔が良く似合う。
リュートの笑顔のためなら、私は何だってするから。
まぁ、色々と緩いです。
リュートはすっかり甘えん坊さん。