やきもちリュート
リュートがすっかり甘えん坊さん。
評価、ブックマーク、ありがとうございます。
「重くないんですか?」
(重くないよ)
「本当に?」
(本当)
「本当に、本当ですか?」
(本当に、本当だよ)
「本当に、本当の、本当ですか?」
(本当に、本当の、本当です〜)
本当がゲシュタルト崩壊してきそうな会話をしてる私とリュートが、何をしているかというと……。
女狐との遭遇は回避し、私を抱いたリュートは、部屋の中へこもっていた。
食事は途中の屋台で買ってきたので、大丈夫。
おかみさんは、私がいなくなった事を知っていたのか涙ぐんで、良かった良かった、と笑顔で迎えてくれた。
で、ハルと食べな、とパンとか果物とか片手鍋をリュートへ渡していた。
これも、リュートの可愛げのおかげだ。
追加の食料も手に入れ、私達は部屋へ引きこもる。夕食までは、出る予定はない。
部屋の中で何をしようかという話になり、最初は文字の勉強をしていたが、しばらくしてリュートが船を漕ぎ始めたため、お昼寝タイムへ移行した。
最初は私を抱っこして寝転んでいたリュートだったが、ふと朝の私を思い出したらしく、仰向けになって私を持ち上げる。
「ハルさん、まっ平らになってませんでしたか?」
(なれるよ?)
リュートの疑問に、実践で答え、最終的にもふもふな私をシーツみたいにしたら気持ち良いんじゃないかと思い付いて、冒頭の会話になった。
ベッドへ広がった私を、リュートはおずおずと触り、乗ろうか乗ろまいか悩んでいる。
(せっかくリュートのために、体のサイズ変えたのになぁ……)
しょぼんとした声を出すと、リュートはワタワタと慌てて、失礼します、と私の上へと横たわる。
「気持ち良いです。なんか、すぐねれ、そう……」
瞬殺したようだ。
いや、死んではいないよ?
すやすや健やかな寝息を立ててるし。
毛足の長い私の毛並みに埋まってるから、寒くはないはず。
(ゆっくりお休み)
しかし、某眼鏡の少年並みに寝付きが良いな、リュートは。
もふもふでリュートを愛でるが、起きる気配はなさそうだ。
今のうちに、何か対策を考えないといけないな。
何の対策かって?
リュートの仲間だよ。仲間という意味を調べたくなるような『仲間』だけどね。
ボンボンの初級がメッキだという私の推測が当たっているなら、リュートが本当の初級になった事がバレると、ヤバい。
お前なんか出てけ! なら良いけど、表面上は気にしないフリをして、今以上に酷い扱いになるかもしれない。
そうなると、私ではリュートを守りきれそうもない。それ以前に、私がリュートの弱点になりかねない。
今日がいい例だ。私には攻撃手段がないから、乱獲――じゃなかった捕獲されやすい。
私の事となると、リュートの仲間に対する盲目的な信頼は揺らいでしまう。
そうすると簡単に敵対関係に……って、問題ないか。
私を盾に、死ね! 的な展開の心配はあるけど。
ボンボン達程度の攻撃なら、最強もふもふが防いでくれるだろうから、その間にリュートが助けてくれると思う。
でも、出来ればリュートが悲しむような展開は嫌だな。こう、サラッと、上手くお別れ出来ないかな。
このタイミングで私が、あんな奴らとは一緒にいたくない! って駄々捏ねれば……。
じゃあ、ハルさんとはここでお別れです、ってなる可能性もあるのか。リュートが仲間を見限らないと。
刷り込み、なんだろうな。
誰にも見向きもされなかった時に、仲間に誘ってもらえたから。
その上、リュートは素直ないい子だから、恩義を感じて、余計離れられない。
悪循環してるとは思うけど。
モンスターな私には、出来る事は少ない。
せめて、リュート以外とも意志疎通が出来れば。
地位も力もあり、人柄も良い、エヴァン辺りならリュートも従うだろうし、説得力もある。
今のところ、全く意志疎通出来ないけど。
(エヴァンの事を考えて、伝われって思えばいいのかな?)
リュートの時はそうだったし。
(エヴァンなら、あいつらを上手くあしらえるし、適任なんだよな)
私は無意識に、エヴァンの事を考えるあまり、駄々もれになっている事に気付かなかった。
(エヴァンに会ったら……)
そこまで考えた時、広げていた体に、軽い衝撃がある。
犯人は、なんて、悩む必要もない。リュートが起きたようだ。
私はリュートへ視線を移し、軽く目を見張る。
見張ったとわかるかは、わからないけど、気分だ。
(リュート?)
おずおずと思わず呼び掛ける。
上体を起こしたリュートが見慣れない表情で、私を見下ろしていたからだ。
(リュート、どうしたの?)
怒ってるような、悲しんでるような、そんな複雑な顔をしたリュートは、私のもふもふをギュッと握り締めている。離すものか、と言わんばかりに。
「だって、ハルさんが、エヴァンさんの名前、呼んでるから……」
寝惚けてるのか、喋り方は拙いが、言いたい事はわかった。
たぶん、これは、あれだな。
「ハルさんは、俺のハルさんです」
うん、確定。やきもちだ。私がエヴァンの事を考えてたのが、駄々もれたみたいだな。
リュートは私のもふもふを掴み、ゆさゆさと揺さぶる。
「俺のハルさんなんです」
(はいはい、リュートのハルさんですよ〜)
酔っぱらいみたいだな、と頭の隅で考えつつ、私はあやすようにもふもふを蠢かす。
「おれ、もっと、つよくなりますから……」
そんな言葉を最後に、リュートは崩れ落ち、再び寝息を立て始める。
私がエヴァンに乗り替えるとでも思ったのか。
不安にさせてごめんね。
けど、リュートが今以上の速度で強くなったら、困るな。私がついていけなくなるよ?
そんな事をひっそりと考えると、もふもふを鷲掴む手の力が強くなる。
甘えん坊さんめ。
私を探し回って疲れていたのか、リュートは夕方まで目覚めなかった。
あまりにも動かないので、途中何回か呼吸を確認した。うん、良く寝てます。
無意識なんだろうが、私のもふもふを鷲掴みした手は、外れる気配がない。
禿げたらどうしよう?
そう言えば、抜け毛とかないみたいだけど。生え変わるのか? あと、伸びるのか?
これはリュートに観察してもらうしかないか。
そろそろ夕飯にしたいので、リュートを起こそうともふもふを蠢かす。
(リュート、起きて。ご飯食べよう?)
「うぅ、ふぁい……」
くしくしと目元を擦りながら、リュートがゆっくりと起き上がる。もふもふを鷲掴みしたまま。
(リュート、手が痛い。引っ張られるのは、あんまり好きじゃない)
「え? あ、ごめんなさい! 何か変な夢見て……。ハルさんが、エヴァンさんと浮気するんです」
私の言葉に、リュートはハッとした表情で自らの手を見下ろし、わたわたとしながら、もふもふを解放してくれる。
(ま、私は一応、メスだし。エヴァンはイケメンだからね)
シュンとしているリュートを見兼ね、私は冗談めかせながら、体のサイズを戻していく。と、そこを見計らったように、リュートにガシッと抱き締められる。
「イケメンって何ですか?」
(あー、そっか。通じないよね。ま、格好いい男って感じかな)
鬼気迫るリュートの顔に、私は内心で首を捻りながら、イケメンの説明をする。
「俺は? 俺はイケメンですか?」
美少年なリュートだから許される台詞だよね。
ボンボンが言ったら、張り倒されるな。
(リュートはイケメンって言うより、美少年だよね。まだ、ちょっと幼さがあるし)
そんな事を思いながら、何も考えず口にしたら、リュートに予想以上のダメージを与えてしまったらしい。
「お、おれ、イケメン、じゃないん、ですか」
あ、ヤバい。泣きそうになってる。
(別にイケメンが、私の好みな訳じゃないし。リュートも、あと何年かすれば、かなりのイケメンになると思うよ?)
慌ててフォローすると、うるうるした深紅の瞳が、本当に? と言わんばかりに見つめてくる。
(心配しなくても、私が好きなのはリュートだよ)
「好き? ハルさんが、俺を好き……」
よし、泣くのは阻止したぞ。泣いても可愛いけど、泣かせたくはない。
(うん、好きだよ、リュート)
改めて口にすると気恥ずかしいけど。大切な事はきちんと伝えないと。
「俺も、ハルさんが好きです!」
完全復活したリュートは、頬を染めながら、キラキラとした笑顔で、私へ頬擦りをしてくる。
相思相愛ですね、と無邪気に喜ぶリュートに頬擦りをされながら、私は若干遠い目になっていたと思う。
そう言えば、宿の部屋には小さいけど鏡があったので、私はやっと自分の姿を見る事が出来た。
そんな私の見た目は、真っ白い毛玉だった。それ以上でも、以下でもない。まごう事なき毛玉だ。
ただ、金色をした丸い瞳が、もふもふな毛並みの中で目立っていた。
確かに、この見た目なら毛皮じゃないな。こんな目立つモノがあるなら。
予想より全然可愛らしい見た目で良かった。
「ハルさん、ご飯にしましょう? お腹空きました!」
(そうだね)
高い高いをするように抱え上げられながら、空腹を訴えるリュートに同意を示して笑う。
「明日は、どんな依頼がありますかね」
(リュートと一緒なら、どんなとこでもいいよ)
「俺もハルさんと一緒なら、何処でもいいです」
とりあえず、女狐と散歩はもう嫌だ。
麻袋はちょっとしたトラウマだよ。
「エメラには、キツく言っておきましたから」
私が女狐の事を思い出したのがわかったのか、リュートは、そう言って私をしっかりと抱き締め直す。
そのまま、いちゃいちゃと夕飯を終わらせた私達は、寄り添って眠りに就く。
リュートの腕に抱かれ、一緒に布団へ入って眠ったのだが、落ち着かなくて眠れなかったのは秘密だ。
アランと書きそうになって、何度か打ち直しました。
間違ってたら、そっと教えてください。