いちゃいちゃからの大ピンチ?
感想ありがとうございます。
個別にお返事はいたしませんが、全て読ませていただいてます!
本当にありがとうございます、そして、ありがとうございます!
プカプカと、ちょっとしたマリモ気分で水浴びしていた私は、ふと思いついた事があり、実行してみた。
で、結果から言うと、盥の水が適温なお湯に変わり、リュートが半泣きになった。
「ハルさん……、次からは、一声かけてください」
グスグスと鼻を鳴らしたリュートは、水浴びを終えた私を抱き締め、弱々しく懇願する。相当驚かせてしまったらしい。
私が何をしたかと言うと、ふと吸収と放出を試してみたくなり、昼間、火グマに炙られた事を思い出したのだ。
ちょうど良く水に浸かっているし、毛皮に触れたモノを無意識に吸収してるなら、火を放出とか出来るんじゃね? と、安易に考えた私は、試してみた。
さすがに、全身から噴き出すとは、思わなかったけど。
慌てたリュートが、私を盥の中へ沈めようと手を伸ばして来るのを、必死に叫んで止め、何とか放出してた火の方も止める。
盥の水がお湯になったのは、思わぬ成果だな、と思ってリュートを見上げたら、半泣きになっていたという訳だ。
(……ごめん。次からは相談してから、実行します)
「そうしてください」
ギュッと抱き締めてくるリュートのため、もふもふへ染み込んだ水分は、体内へ吸収済みだ。普通に水の味がした。
体内へ取り込むのは、意識的に行わないと出来ないらしい。最初の頃、ご飯を食べなくても平気だったのは、ただ燃費が良かったって事なんだろう。
つまりは、私の吸収は二段階だ。
もふもふに触れたモノを、一時的にもふもふ内の異空間的な部分に保管しておくほぼ無意識による第一段階。
そこから、普通の生物のように体内(?)へ取り込み二段階目。
リュートや青リンゴをもふもふ内に入れるのは、吸収ではなく収納だ。たぶん。自分でも無意識なので、わからない。
第一段階は無意識にも行うから、もしかしたら、もっと色々と吸収してあるのかもしれない。リュート関係以外で。
何せ、好きな相手からは吸いませんから。
好きな相手からは!
大事な事なので二回内心で言っておく。
「ハルさん! 聞いてるんですか!」
はい、リュートはまだお怒りでした。
(ごめんね、心配かけて……)
シュンとした声を出して、甘えるようにもふもふを擦り寄せる。あざとい? 気にしたら負けだ。
「いえ、俺も言い過ぎました」
いい子なリュートは、反省を見せた私を許してくれ、ベッドの上へ置いてくれる。
「じゃあ、俺も水使わせてもらいますね」
そう言ったリュートは、恥じらいなく、さっさと服を脱いでいく。
(洗濯ってどうするの?)
「頼めば洗ってもらえますし、場所を借りて自分でしたりもしますよ」
(そうなんだ)
リュートと他愛ない会話をしつつ、私はリュートの体を見つめている。気になるよね、やっぱり。
うん、未完成だけど、綺麗に筋肉がついてるね。
ボディビルな方々の魅せる筋肉ではなく、使う筋肉って感じかな。
典型的な脱いだら意外と……。
「……ハルさん、恥ずかしいので、あんまり見ないでください」
見すぎたようだ。
確かに、ちょっとエロ親父っぽいかな、とは思ったんだよね、メスだけど。
(ごめん、ごめん。でも、リュートだって、私の水浴び姿ジッと見てたよ?)
悪戯心から、からかって見たら、リュートはポッと首筋まで赤く染める。
いやいや、私の水浴び姿なんて、ほぼタオルの洗濯みたいなもんだから。照れる要素は何処に?
自分で言っておきながら、私は自分で全力の突っ込みを入れ、色々と恥ずかしそうにしているリュートへ背中を向ける。
ま、背中だってわかるのは、リュートぐらいだろうけど。
「……お湯だと気持ちいいですね、この時期。ありがとうございます、ハルさんのおかげですね」
ピチャピチャと水音の合間に、リュートの柔らかな声が聞こえてくる。
しばらくして、
「もういいですよ」
と、リュートの声が聞こえ、裸の胸に抱き上げられる。
上半身裸なのは良いのか?
って、また頭拭いてないし。
(リュート、また頭拭いてないでしょ。水滴が垂れてくるんだけど……)
「あ、すみません!」
ワタワタするリュートの頭へよじ登った私は、朝と同じように白アフロと化す。
(これ、飲ん(吸収)だら、リュートの味が……って、思考がヤバいよ、親父だよ)
「……お湯、ハルさんの匂いはしなかったですね」
私が頭の上でモダモダしてると、残念そうなリュートの呟きが聞こえてくる。
お前もか……。
短い付き合いなのに、似てきたんだろうか。
私のドライで真っ黒な思考まで似ないと良いけど。
逆に、私がリュートの真っ白に染まる可能性の方が高いか?
(リュートは、リュートのままでいてね?)
「はい?」
私の唐突な発言に、リュートはきょとんとした声を洩らし、頭から降りた私を胸に抱いて、ジッと見つめてくる。
と言うか、あんな奴らと一緒にいて歪まないような子が、今さら染まったりする訳ないか。
(風邪引くから、そろそろ……)
コンコンッ。
『リュート、いるの?』
「エメラですね? 何か用でしょうか?」
うん、確かに女狐みたいだね。
「あぁ、どうぞ?」
『入るわね』
入ってきたのは、間違いなく女狐で、無駄に露出が多い気がする。
もしかしなくても、あれだな。
「お湯使ってたんだ」
「汗掻いたからな」
チラチラと上目遣いながら、女狐はガッツリ、半裸のリュートを見ている。
明らかに、狩人な目で。
「それで、何の用だ?」
何だかんだで、リュートは仲間には年相応な喋り方だから、新鮮だ。
リュートがお腹を冷やさないように――本当にそう思って、私はリュートの引き締まった腹筋へくっついたまま、そんな事を考えていた。べ、別に、女狐に見せたくないとかじゃないから……。
自分でやってて、気持ち悪いな、これは。
「用事がなきゃ、仲間の部屋に来ちゃいけないの?」
それ以上に、くねくねとして女狐の方が、気持ち悪いけど。
「そういう訳じゃないけど……」
リュートは戸惑いを隠せず、私の体をギュッと抱き締める。
「ノーマンもジュノも、あなたに冷たくし過ぎだと思うの」
「……そうかな」
「そうよ! あなたも頑張ってるのに。あたしにはわかるわ」
「ありがとう……?」
あー、女狐が焦ってるのが、傍で見ている私にもわかる。
女狐は、自らが可愛いし、女らしい体型なのも良く理解して、武器にしていると思う。
話の内容も、きちんと相手のツボを突いている。
リュート相手じゃなかったら、だけど。見よ、このきょとん顔。
「あ、あの、あたしはあなたの味方よ?」
「そうだな、俺達は仲間だ」
当然だろ、とリュートは不思議そうに、ベッドへ座ったまま、女狐を見ている。
「もっと、あたしを頼っていいよ? ノーマンやジュノに、きちんと話もするわ」
女狐は、無理矢理リュートの隣へ腰かけると、グイッと体を寄せてくる。
(リュート、二人きりになりたいなら……)
明らかに女狐は、私を邪魔そうに見てくる。これから先の展開には、私は邪魔でしかない。
リュートも男の子な訳だし、ここは私が気を使うべきだろう。据え膳食わぬはって言うし。女狐は、見た目だけは良いから。
「ごめん、ハルさんとゆっくりしたいから、出てってくれ」
よし、出て行くかって、女狐を追い出すの? あんまり、興味ないのか、リュート。
(リュート、良いの? 男の子なんだし、私は気にしないよ?)
溜まるものは溜まる。生理現象は仕方ない。
「そんなに、その毛玉が良いのね」
ゾクリ、とするような嫉妬の視線で私を見つめ、女狐は名残惜しそうな態度を隠さず、部屋を出て行った。
「ハルさん……」
ドアが閉まった瞬間、リュートは私を抱き締めたまま、ベッドへと飛び込む。
「ハルさん、ハルさん」
(はいはい、いますよ?)
甘えるように頬擦りし、リュートは私の名前を連呼して、楽しそうだ。
(断る言い訳じゃなかったのか)
「言い訳?」
(何でもないよ)
鑑定通りって事か。本当に、あんなあからさまな誘惑に気づかないとは、女狐にとって、かなりの屈辱だろうな。
何か、起きないと良いけど。
私が気を揉んでいる間も、リュートは半裸のまま、私を抱き締めて、もふもふを満喫している。
少し経ち、リュートが動かなくなった事に気付き、私は訝しんでリュートの顔を覗き込む。
そこには、すやすやと寝息を立てる穏やかな寝顔があって、私は苦笑する。スイッチオフか。
(……起こすのは可哀想だね)
お疲れ様、と小声で伝えた私は、リュートが風邪を引かないよう、掛け布団を引き上げた――かったが失敗した。
リュートの腕が外れなかったのだ。
私は全身でため息を吐くと、体をサイズ変更していき、平べったく、平べったく。
出来るもんだね。
満足げに吐息を洩らした私は、リュートの全身を覆えている事を確認して、気配を殺しながら、リュートが起きるのを待つ事にした。
ただ今、見た目は白い毛足の長い毛布だろう。
女狐の相手は、私がすべきかな。
言葉が通じれば良いのに。
そんな平和的解決をしようとしていた自分を、ぶん殴ってやりたくなるとは、思わなかった。
(リュート〜)
現在の状況?
私は丈夫な麻袋に、ゴミのように詰められて、運ばれてますよ?
あの、女狐のせいで。
女狐は、私が相当邪魔だったらしいね。
まさか、正面から誘拐されるとは、欠片も思わなかったけど。
話は今朝に遡り、私はもちろんリュートと一緒だった。
そこに女狐がやって来たのだ。
「あたしもその子と、遊びたいんだけど。駄目かな?」
可愛らしくお願いされ、リュートはデレッとした顔を――する訳もなく、私へ窺うような視線を向けてくる。
(いいよ)
二人きりになれば、弱味的なモノを見せるかも、とか考えた私は馬鹿だった。
女狐の悪意は、私の予想を遥かに越えてきた。
寂しそうなリュートへ見送られ、私は女狐に抱かれて、宿の廊下を進む。
一旦部屋に戻った女狐は、麻で出来た手提げバッグ――エコバッグみたいな袋を持ち出し、そこに私を入れる。
抱かれているよりは落ち着くので、私は大人しく従う。
何か、こんな感じで小型犬を散歩してる人、見た事あるな、と思いつつ、私は袋から目だけを出しておく。
「……気持ち悪っ」
聞こえてますよ?
外を歩く気らしいし、人目があるから、と油断していたら。
宿から出て、しばらく歩いた所で足を止めた女狐は、私はグッと袋の中に押し込む。
(何するの? そこまで見られたくないなら、連れ出さなきゃ……え?)
袋の奥まで押し込まれた私の頭上で、袋の入り口がギュッと狭まり、ゴソゴソと動く気配。
(まさか、縛ってる?)
『あの、すみません……。大きなネズミが出て、袋へ詰めたんですけど、怖くて。捨ててきてもらえませんか?』
(ネズミじゃねぇよ!)
渾身の突っ込みが届く訳もなく、私はデレッとした声の男によって、何処かへ運ばれていく。
これが、現在の私の状況だ。
そして、さっき、何処かへ捨てられたらしい。
麻袋は厚いので、かろうじて光を感じる程度で、外は見えない。
――もしかしたら、結構なピンチなのかもしれない。
ハルさん、なかなかなピンチです。