崖じゃないよ?
急展開というか、お前性格変わってない? と突っ込みたくなる変わり様(笑)
まぁ、一応貧乏揺すりフラグは建ててましたから!
ご都合主義なストレスフリー小説なんで、深く考えずに読んでいただければ幸いです。
村人総出のイノシシパーティーを終え、私とリュートは夜の見張りを村人代表とする事になった。
場所はというと、襲撃が度々あった辺りで、森に面している方だ。もちろん、野営なう、だ。
トラブル君に関しては、本人が何か言い出す前にリュートが、
「トラクは休んで傷を治せ。そのままじゃ、足手まといだからな」
と、宿へと送り出しちゃった。
どうせ、またピンクな事に、って思ったけど、トラブル君は一瞬悔しそうな顔をして、あぁ、と頷いていた。
「休ませてもらう。……お前ばかり、いい格好させられないからな」
そう言って仲間の女の子達を連れて去っていくトラブル君の横顔は、出会って初めて見る真剣なもので。
もしかしたら、自分と同じように顔で生き抜いてきたと思ったリュートの本気を見て、いい感じに発破をかけられたのかもしれない。
だとしたら、まだ救いはあるかも。
中には、芯の芯まで腐りきってるやつとかいるからね。
某ボンボンとかボンボンとか、女狐とか。
あー、何処かで悲惨な死に方して……いや、何処かじゃ困るよね。はっきり悲惨な目に遇って欲しいなぁ。
ぐふぐふと想像して笑っていると、リュートにギュッと抱き締められた。
おっと、一応見張り中なんだし、油断しちゃいけないよね。
「ハルさん、俺以外のこと考えてなかったですか?」
拗ねた顔をしたリュートが、私へもふもふと顔面を埋めて来る。
一緒に見張りをしている村人代表のお兄さんが、微笑ましげに見てくるのが、なかなかの羞恥プレイだよ。
そんな事を思いながら遠い目をしてたら、顔を埋めたリュートが、さらにぐりぐりしてくる。
(今は見張り中なんだから、リュートの事だけは考えられないよ?)
「……そうですよね、ごめんなさい」
もふっとなって言ったら、いい子なリュートは反省した様子で私を抱き締めて、私へ顎を乗せて周囲を見渡している。
村人代表は交代するが、私達は一晩ぐらいなら起きてられるから。最悪リュートが寝ても、私やルーがいるし。
トラブル君達は負傷してる。今日ぐらいは休ませてあげないと、ね。
何日か見張りは続ける予定だから、明日以降に期待しておこう。
「おい、交代だ」
朝日が射し込む頃、私達が見張りしている場所へトラブル君が現れ、そう言った。
女の子は一人しかいない。
「怪我はもういいのか?」
「あぁ、骨折したりはしてないからな。問題ない」
心配するリュートに、ニヤリと笑って返すトラブル君。
(リュート、女の子達の様子も確認して)
「はい。女の子達は平気なのか? その……」
あー、人型になっておいて私が聞くべきだったか?
「タダでヤられたのはムカつくけど、意外と紳士だったしー? あ、もちろんトラクの方が百倍上手いけどぉ?」
うん、気遣いはいらなかったらしい。
「……気遣い感謝する」
私が呆れてたら、すれ違い様にトラブル君がポツリとそんな言葉を口にし、私達が見張りをしていた場所へギャルな女の子と並んで座り込むのが見える。
(……やりたいだけかと思ってたけど、気持ちはきちんとあったんだね)
女の子達の方が逞しいっぽいけど。
「薪は十分ありますから、俺達は少し休ませてもらいましょうか」
という訳で、この前買ったテントの出番がついに来たって事だね。
「じゃあ、その辺で寝ますか」
私がワクワクしてたら、リュートは笑顔で普通にその辺の地面を指差してた。
(なんでやねん!)
思わずエセ関西弁な突っ込みを入れた私は悪くないよね?
「何かおかしかったですか? あ、もう少し離れた方がいいですか?」
不思議そうに首を傾げたリュートは、今度は小石の少ない比較的平らな地面を指差す。
(結局地面か!)
突っ込み疲れたので、私はそっとテントを吐き出す。
うちの子可愛いけど、可愛いんだけど……うん、やっぱり可愛い。
●
テントの存在を思い出してくれたリュートは、てきぱきとテントを組み立て、私達はテントの中でイチャイチャする。
まぁ、もふもふな私を、地面へ寝そべったリュートがもふってるだけだから、もふもふする、が正しい表現かもしれない。
「ハルさん、ハルさん」
頬を染めて仰向けな私をもふもふする美少年。
何かまたキスされてるなぁ。
リュート、キス魔だったっけ?
(るーも)
ルーも真似してぷるぷるしながらキス(?)してくれる。うむ、可愛いよ、二人共。
(リュート、何で最近キスしてくるの?)
わからない事は聞くのが早いよね。
私の問いに、リュートはキラッキラの無邪気な笑顔を浮かべ、
「トラクがしてたので聞いたら、好きな相手にはするものだ、って教えてくれたんです!」
(そ、そっか……)
これはトラクを怒るべきか? いや、でも、嘘ではないし……正直、きちんと好きな相手認識は嬉しいし……。
(って、好きな相手にはする、って事は、エヴァンとか受付嬢さんにもするの?)
さすがにそれは止めないとまずい。
皆避けるだろうけど、痴漢扱いされちゃうかもしれない。
「しないです」
私がもふっと体を起こしながら問いかけると、リュートは深紅の瞳でヒタと私を見つめ、短く答え、
「ハルさんだけです」
そう付け足したリュートは、ふふ、と小さい笑い声を洩らし、私のお腹へ顔を埋めて動かなくなった。
聞こえてくるのは、小さな寝息。
(よかった……って、思う私は、心が狭いかな、ルー)
(るーも、ままだけ)
ちょっとシリアスになりかけたけど、ぷるぷるしてアピールするルーの可愛さで、あっという間にどうでもよくなった。
そのまま、交代の時間までルーを愛でて過ごす。
ご飯は途中で差し入れもらったから、リュートを起こして食べさせて、またまったりしてからトラブル君と交代した。
私をもふるリュートを、トラブル君は呆れた眼差しで見下ろしたが、ため息を吐かれただけで、嫌みは言われなくなった。
これもリュートを認めてくれたからかもしれない。
リュートはいい子だからねー。
「負けないからな」
ライバル視はされてるみたいだけど。
トラブル君がスポ根漫画みたいなメラメラ感背負ってると、違和感ぱねぇって感じ。
取り巻き――じゃなくて、たぶん彼女な女の子は、
「燃えてるトラクもイケてるよね〜」
と、楽しそうにけらけら笑ってる。
昨日の事は、本当に平気らしい。
すっかり忘れかけて……嘘です、忘れてた彼女達の鑑定結果にあった一言も関係あるかも。
相変わらずのゆる女神様鑑定で、色々な性格だとわかっていた三人の女の子、その共通項。
『元・奴隷』
なかなかヘビーだった。
でも、トラブル君とイチャイチャしてる姿には、そんな様子は一欠片もない。
ゆる女神様鑑定で、リュートを駄目にしたとか言われたトラブル君だけど、根っこは悪い子じゃないのかな。駄目にって事は、前は駄目じゃなかったって事だし。
ぴろん。
覗いてたのか、タイミング良く女神様通信が来たよ。
『リュートを駄目にしたような子って言っただけで、悪い子とは言ってなかったでしょ〜』
語尾に『ww』みたいな幻覚が見えたのは、私の被害妄想かなぁ?
ゆる女神様には、この未来が見えていたのか。
それとも、トラブル君が完全に性根まで腐る前に、リュートと触れ合わせてどうにかしたかったのか。
たぶん、後者なんだろう。
元・奴隷な女の子をここまで大事にしてるようなトラブル君が、完全に駄目になるのを見たくなかったから。
カネノを筆頭に、リュートと触れ合って良い化学反応起こした人は多いしね。
ここまで来ると、逆に全く影響を受けてなかったボンボン達を尊敬しちゃうよ。
悪い意味で。
まぁ、良くなる部分がない人間は、どうなっても良くなりようがないんだろうね。
「ハルさん、どうかしましたか?」
(何でもないよ)
他の女の子二人も合流し、仲良く帰っていくトラブル君を見ても、もうイライラはしない。
私はほっこり気分でトラブル君を見送ったんだけど……。
「リュートさん、来ちゃいました」
見張りの待機場所で待っていたのは、孫娘ちゃんだった。
ほんのりと染まった頬に、潤んだ瞳。
明らかに恋する乙女な表情を浮かべて。
「えーと……たしか、村長さんの……」
「孫娘のナユカです!」
元気いっぱいな恋する乙女は、ぐいぐいとリュートへ迫ってくる。
「君は、トラクの事を好きだったんじゃ……」
昼間、トラブル君と休憩時間重なったんで、リュートに色々聞き出させたから、リュートの戸惑った呟きは当然だ。
昼間ならモンスターは来ないだろうと、トラブル君達も昼休憩をもらったそうで、テントの外で一緒にランチした。
で、色々気になってたから、色々聞いてみた。
うん。ゆる女神様鑑定で、ちょっと先入観あり過ぎたらしい。
最初に依頼料多くせしめようとしたのは、彼女達の身請けで借金があったから。
誠心誠意謝られたよ。
行きの馬車でのゴトゴトは、本当にトラブル君の貧乏揺すりで、声はマッサージ……って、今時ギャグ漫画でだって見ないよ?
馬車に乗せてくれなかったのは、リュートが彼女達にちょっかいを出すんじゃないかと思ったから。
色々意地悪したのは、リュートが帰れば、依頼料を独り占め出来るから。
御者さんにも、あとできちんと謝ってたらしい。
ゴブリンなら自分達だけで問題ないと思ったが、依頼人から複数パーティーで受けて欲しいと言う要望があって、御しやすそうなリュートを選んだそうだ。
あはは。二時間サスペンスで崖に追い詰められた犯人かよ、ってぐらいにペラペラと話すトラブル君。
それを笑顔で聞いているリュート。
「あんたのご主人様、変わってるね〜」
私はリュートから降りて日向ぼっこしつつ、聞いてたんだけど、ギャルな彼女に捕獲されて話しかけられた。
「トラク、真面目だからなかなか手出してくれなくて、今回も消毒してーって、皆でお願いしたんだから〜」
ぷんぷんと擬音つきで怒るギャルな彼女は、意外と可愛らしかった。
その会話の中で、ゴブリンの襲撃場所への案内を頼んだ孫娘ちゃんに言い寄られたっていう話を、ギャルな彼女が教えてくれたんだよねぇ。
だから、変わり身の早さに私はびっくりだ。
リュートはただ驚いただけらしいけど。
「えー、だってあの人弱いですし、彼女がたくさんいるなんてあり得ない」
可愛らしく唇を突き出す孫娘ちゃん。ま、私は可愛いとは思わない。
「トラクは弱くないよ。ゴブリンに捕まったのは、想定外の使役されたモンスターで、君や彼女達を人質にされたからだ。自分が傷ついても大切な人を守ろうとしたトラクを、俺は尊敬してる」
リュートも心動かされなかったらしく、苦笑しながらやんわりと孫娘ちゃんの腕を押し退けてる。
と言うか、孫娘ちゃんのせいでトラブル君捕まったんじゃ、とか思うけど、私は空気を読んで黙っておく。
「そ、そうですよね。ごめんなさい。……あの、リュートさんて、好きな相手」
「いるよ」
口先だけの謝罪から、リュートへの質問をしようとした孫娘ちゃんは、食い気味に即答されて固まってる。
「この世界の全てを敵にしたって守りたいぐらい、好きな相手が」
リュートの容赦ない追撃に、孫娘ちゃんは涙目で走り去った。
「あきらめませんから!」
そう叫んで。
私達と一緒に見張りをしてる村人からの生ぬるい視線を受けながら。
(リュート、あの……)
――好きな相手って。
そう聞こうと思ったが、蕩けるような笑顔を浮かべて見つめてくるリュートに、数瞬ためらって言葉を飲み込んだ。
「もちろんハルさんです!」
空気を読まないリュートに、私のためらいは無駄だったようだ。
ちょっとずつ、にじり寄るリュート。
通常運行なハル。
トラブル君もリュート教に染まったので、そろそろノクへ帰れるかなー。
久しぶりにエヴァンが書きたい。