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対 火グマ戦

さらっと倒しますよ。

「ノーマンに感謝ですね。依頼を譲ってくれるなんて……」

(ウン、ソウダネ)

 いつか、リュートは悪人に騙されて、身ぐるみ剥がされそうだ。

 私が一緒の間は、守ってあげないと。

(で、組合長推薦の依頼は?)

「最近、町の近くに火グマが良く出るみたいで、二匹は狩ってくれと」

(火グマか。まぁ、昨日と同じ作戦でいこうか)

「はい!」

 リュートはボンボンが信頼してくれたと思い、無邪気に喜んでいるが、明らかにボンボンの真意は別にあるよね。

 自分達が出来ない依頼をリュートが出来る訳がない。だから、失敗する。そう思ってるんだろう。

 まさか、リュートが昨日一人で火グマを狩ったなんて知らずに。

 ちなみに、結局大イモムシと採集依頼は、ボンボン達が持っていった。

 彼らは、近くで大イモムシと採集依頼の青リンゴを探してる筈だ。

「火グマ、いそうですか?」

(ん、こっちかな。匂いに覚えがある)

 モンスターな私の体は、聴覚だけでなく嗅覚も鋭くなったらしく、昨日嗅いだ火グマの匂いをちゃんと覚えていた。

 自信満々に毛並みを揺らす私を、リュートは全く疑う事なく、私が示した方向へ、木々の間を進んでいく。

 町から少し離れただけで、森は鬱蒼として、様相が変わってくる。

(あまり、生き物の気配がしないね)

「そうですね。昼間なのに、小鳥の声もしないです」

 リュートからは、いつものほのぼのとした空気が消え、鋭さを増した深紅の瞳が周囲を油断なく窺う。

 ふわり、と風の向きが変わり、獣の匂いが強くなる。

 私は、リュートの肩から飛び降り、並んで身構える。

(来るよ!)

「はい!」

 短く声を掛け合い、私達は打ち合わせ通りに、木々の間から姿を現した火グマと対峙する。

 今日の火グマは、昨日の火グマより一回り大きい。

 火グマは、その名の通り、赤い毛皮を持つクマのモンスターだ。

 赤い毛皮だから、火グマかと思ったりもしたが、名は実を表すというか、火グマは――。

(あつ……く、ないけどねぇ)

 火を吹くのだ。

 ただ今、絶賛火吹きなう。

 最強もふもふな私でなければ、丸焦げコースだ。

 だから、私とリュートの作戦は単純明快。

 私が火グマを引き付けて、その隙にリュートは私が見つけた火グマの弱点を狙う。

 それに、日に日に私はこの体に馴染んでいるから。

(これぐらいは出来るんだよね!)

 火グマの前をチョロチョロと転げ回り、イライラとさせて引き付けた所で、右へと急転回。

 火グマは止まり切れず、大木へ顔面を強打。

「ハルさん、すごいです!」

 私を称賛しながら、火グマの弱点である眉間へ、剣突き刺してるリュートの方が、色々とすごいと思うけど。

 止まったとしても一瞬だし、それこそ闇雲に暴れるから。

 リュートの剣は、一発で火グマの命を吹き消したらしい。命を失った重い体が、ドサリと地面へ崩れ落ちる。

「ふぅ、ハルさん、火傷してませんか?」

(いや、逆にもふもふが、ふんわりした気がする?)

 まぁ、いわゆる個人の感想だけど。

 私の感想を聞いたリュートは、ワナワナと手を震わせている。

「ハルさん……撫でても?」

(だが断る……って、冗談だから、泣きそうな顔しないで、撫でていいよ)

 あまりにもリュートが撫でたそうにしてたから、つい悪戯心を出したら、この世の終わりのような顔になった。

 次からは止めよう。心臓に悪い。

 立ち直ったリュートは、パァッと表情を輝かせると、火で炙られてふわふわ度を増した私を勢いをつけて抱き締める。

 ちょっと、内臓出るかと思った。あるかは、わからないけど。

「うわぁ、本当にもふもふ増してます。いつもより、モフッと」

(火グマを一匹捕まえて炙ってもらう?)

「火グマは、特殊なスキルがないと無理でしょうね」

 私の冗談めかせた言葉に、リュートは真剣な表情で答えてくれる。ただし、私のもふもふへ顔を埋めながらなので、あまりシリアス感はない。

(特殊なスキル?)

「モンスターを手懐ける系のものですね。何種類かあるらしいですけど」

 ふむ。そんなスキルもあるのか。

 服従とか、モンスターへ好かれるとか、そんな感じなんだろうか。

 モンスターを連れてる人がいたら、要鑑定だな。それ自体がレアだけど。

(そろそろ、次の火グマ探そうか?)

「そうですね。こうしてて、向こうから来てくれたら楽なんですけど」

 私を肩へと移動させたリュートは、そんな冗談を言いながら、倒した火グマを片付けている。

 また、フラグになりそうな事を……。噂をすれば影が――って、地球の諺だし、わからないか。

 火炙りでもふもふ感を増した毛並みを揺らしていた私は、近寄ってくる赤い毛皮をリュートより早く視認していた。

 緊急事態のはずなのに、何処か冷めた私が、頭の中で突っ込み入れる。

 リュートはしゃがんでいる。

 このままでは不意を突かれる。しかも、新たな火グマは、口を開いて、火を吹くモーションへ入った。

 リュートも火グマへ気付いて腰を浮かすが、回避は間に合いそうもない。

 必死に頭を回転させた私は、一つの手を考えついた。実行するには、リュートが必要だ。

(リュート! 私を投げつけて!)

「え?」

 素直なリュートは、反射的に私の声へ反応して、私を掴むが、一瞬躊躇いを見せる。

(いいから、投げるの!)

「はい!」

 怒鳴った私に、リュートは今度こそ、私を火グマへ向けて投げつける。

 勢いをつけ、白い弾丸と化した私は――ま、自分じゃ見えてないけど――、タイミングが良いのか悪いのか、火を吹こうと開いた火グマの口へカポッと突っ込む。

(……え?)

「え?」

「ぐぇ!?」

 驚いたのは私だけではなく、投げつけたリュートもきょとんと、そして一番驚いたのは、私に口を塞がれた火グマだろう。

 火を吹く寸前だったため、止められなかったらしく、私が蓋をしたせいで行き場を失った火は、火グマ自身を焼く。

「ぐぁぁっ!」

 あ、燃えないとかないんだ、とか、考える余裕はない。

 頭を振って暴れ回る火グマは、口を塞いでいる私を外そうと、鋭い爪で引っ掻いてくる。

「ハルさん!」

 もふもふした毛が絡まったらしく、私自身も外したくても外れない。

 何だろう、この喜劇。

 リュートもどうしていいかわからないから、私を呼びながらワタワタしている。

 そうこうする内に、スポッと体が滑る感覚があり、空中へ放り出される。

 追撃が来るか、と放物線を描きつつ身構える私の視界を、電撃のような素早い銀の光が一閃した。

「はぁっ!」

 聞こえたのは、リュートの気合の声。

 私を追撃しようとしていた火グマを、逆に追撃したらしい。

 容赦ない太刀筋は、一撃で火グマへ致命傷を与えたようだ。

 それでも、リュートは油断なく剣を構え、火グマが事切れるのを鋭い眼差しで見つめ続けている。

 普段のリュートとのギャップに、初見の人間なら固まること請け合いだ。

 火グマを蹴って、完全に死んだ事を確認したリュートは、さっきまでの引き締まった顔が嘘のような、おろおろとした表情で駆け寄ってくる。

「ハルさん!」

 ちなみにリュートを冷静に観察していた私はというと、放物線を描いた結果、木の枝へ引っ掛かっていた。

 必死につま先立ちをしたリュートから、無事に回収してもらう。

「怪我はないですか? 何処か、痛かったりは?」

(大丈夫。ほら、早く火グマ回収して移動しよ? 三連戦は嫌だよ)

「はい!」

 素直ないい子の返事をしたリュートは、すぐに作業へ取りかかる。

 手伝えない私は、リュートの肩へと移動し、辺りを警戒しておく。

 血の匂いで余計なモノが集まってくる可能性は、大いにある。

 幸いにも、特に邪魔は入らず、二匹の火グマは、素材となって回収される。

 リュートの袋が、ここでも大活躍だったとだけ、言っておこう。




(思いっきり投げてね)

「はい!」

 慣れたのか、躊躇いなく私を上空へ向けて放り投げるリュート。

 別に、移動した先で襲われたりした訳ではない。

 私が狙うのは、木の上の方に生っている青リンゴだ。

 この青リンゴ、前世で見たような緑色している青リンゴではなく、本当に青々しいリンゴなのだ。

 正直、青は食欲減退させるけど、採集依頼にあったものなので、たまたま見つけて採集していた。

 最初は、リュートが木に登ると言ったが、青リンゴが生っているのは、かなりの高さ。万が一落ちたりしたら大変だ。

 そこで、さっきの戦いで得た経験を生かし、私を放り投げてもらう事にした。

 見事に枝へ取りついた私は、枝から枝へと移動し、青々しい青リンゴを採集していく。もふもふで。

 ある程度、青リンゴを採集した私は、

(リュート、降りるよ)

と、声をかけて、枝から飛び降りる。

 返事を聞かなくても、リュートはきちんと受け止めてくれる、そう信じて。

「はい、って、え」

 さすがに早く飛び降り過ぎたらしい。

 リュートの顔面に着地を決めた私は、ちょっとだけ反省する。信頼と過信は違うよね、と。

「ふふ、擽ったいです」

 何となくシリアル……じゃなかった、シリアスを気取ってみた。

 その間に、クスクスと笑ったリュートは、私を顔面から引き剥がし、抱え直してくれる。

「青リンゴ採れましたか?」

(うん。美味しいの?)

「はい。美味しいらしいです」

(らしい?)

「高いから食べた事ないんです」

(よし、おやつに一個食べよう)

 シュンとしたリュートを見て、即決する。

 私は早速、もふもふの中から青リンゴを吐き出し、リュートへ無理矢理握らせる。

「いいんですか?」

(いいんです!)

 目をキラキラと輝かせたリュートへ、駄目って言える奴がいたら、会ってみたい――あー、いたな、少なくとも身近に三人ほど。

「いただきます!」

 そんな私の内心を知る訳もなく、リュートは無邪気に大きく口を開けて青リンゴへかじりつく。

 恐る恐る覗き込んで見たら、断面はいたって普通だ。真っ青だったりはしない。

「美味しいです!」

 相当美味しかったらしく、リュートは顔を蕩けさせている。

 素直で可愛い。

(もう一個食べる?)

「はい!」

 元気良く返事をしたリュートの手に、私はもう一個青リンゴを吐き出す。

 美味しそうにシャリシャリと青リンゴを食べるリュートを見つめ、私はそっと鑑定をしてみる。

『鑑定結果

 名前 リュート

 レベル 18

 職業 初級冒険者』

 マジですか? レベルの上がり方、これが普通?

 リュート以外と話せないから、もどかしいな。

 私が内心悶々としていると、食べ終わったらしく上から、ごちそうさまでした、とお利口さんな挨拶が聞こえてくる。

「ありがとうございます、美味しかったです。ノーマン達も終わったでしょうから、そろそろ町へ帰りましょうか」

(そうだね。連戦で、リュートも疲れたでしょう?)

「ハルさんが体を張ってくれましたから、ノーマン達と一緒の時より疲れてないです」

 ん? あぁ、そっか。普段は、最後尾にいて、全ての戦いを一人でこなしてたからか。

 私を腕に抱えて歩くリュートは、言葉通りに元気溌剌で、あまり疲れは見えない。

「帰ったら、水浴びしましょうか」

(お風呂、とかないの?)

「貴族の屋敷にならありますけど……。あとは、宿屋で桶にお湯をもらって、体を拭いたりするぐらいで……」

(そっか)

 今だけ、ボンボンが羨ましい。

 私達は、そんなゆるい会話をのんびりとしながら、森を突っ切って、ノクの町を目指して歩く。

 見える範囲には、彼らの姿は見えないので、簡単な依頼はサッサと終わらせて帰ったんだろう。




 そう思ったのだが……。


さてさて、イモムシは狩れたでしょうか。

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