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もふもふになりました。

息抜きなので、細かい設定は書きながら考えてます。

ただただもふもふしたかったんです。

 私は、田原楓。普通のOLをしてる。

 ここ最近は、仕事が忙しくて、疲れは溜まっていたけど。

 正直、まだ頑張れると思っていた。そこそこ若いし。

 仕事帰り、私は少しだけふらつく足元を感じながらも、そう能天気に思っていたのだ。

 確かに激務だったが、もう少しで終わるから。

 終わったら、猫カフェでも、ペットショップで犬でもいいし、小動物だっていい。何でもいいから、もふもふするんだ。

 その一念で私は頑張っていた。

 けれど、体は限界を迎えていたらしい。

 自宅への帰り道。

 駅の改札を抜けて、夜道を歩いていた私は、気付いた時には地面に倒れていた。

 あれ? と他人事のように思いながら、ゆっくりと霞んでいく意識の中、最後に思ったのは……。



「思う存分、もふもふ、したかった」




 神様というのは、私達の言葉を案外聞いているのかもしれない。

 意識が戻った瞬間、私は現実から逃避しながら、そんな事を思う。

 疲れが溜まって倒れた筈の私。

 目を開けて見えるのは、病院の天井で、横たわっているのは、少し固いベッドだと考えるだろう。

 でも、実際に私を迎えたのは、剥き出しの土の壁と天井。横たわっていたのは、意外と柔らかい、こちらも剥き出しな土の地面。

 なにより、私は私ではなかった。

 目覚めた私は、慣れ親しんだ、というか、当然だった人間の女性ではなく――毛玉になっていた。

 冗談でも、髪がボサボサな比喩でもない。

 最初、手足の感覚が薄くて、私は、脳に異常が? と焦ったがそうではなく、なかったのだ。動かすべき手足が。

 動こうと思えば、ゆっくりと移動出来てるが、その動きはかなり遅い。

 目だけは自由に動かせたので、キョロキョロと辺りを見回していた私は、常に視界に存在していた、白く艶やかなもふもふに気付く。

 そして、悟ってしまった。

 視界の低さ、動きの鈍さ、常に見えている、もふもふ。

 自分が死んでしまい、何だか良く分からない毛玉ぽい状態に生まれ変わったらしいと。

(気付いたからって、どうするんだって話だよね)

 発声器官はないのか、喋ろうとしたが、声は出なかったので、私は心の中だけで喋る。

(まず、私って何なんだろう? アンゴラウサギとか?)

 望むのは夢オチだけど、先程からカビ臭い土の臭いが鼻につく。夢なら、臭いはないだろう。

(どうにか、調べられないかな。新種とかなら、鑑定とかされるの? 実験台とかは嫌だな)

 そんな事を心の中で喋っていた私は、いつの間にか目の前に出てきていた、妙なモノに気付いて固まる。

 それは、パソコンのウィンドウ画面に似ていて、四角い半透明のウィンドウ的なモノが、何もない空中に浮いていた。

 そこには、見慣れた文字が浮かんでいて。

(鑑定結果? あ、私が鑑定とか言ったから? 何々、種族名ケダマモドキ……うん、そのままだけど、これじゃ、何の動物かもって、何なの鑑定って! 超能力?)

 さらなる異常事態に、私は脳内でノリツッコミしてしまう。

(新種で超能力持ちで、と言うか、前世の記憶があるって、もう私、解剖コースだよね)

 あはは、と笑おうとするが、ふわふわらしい毛並みが揺れるだけで、相変わらず声は出ない。

(あー、種族名だけじゃなくて、生態的なのも見られるんだ。ふーん、もふもふした毛並みが特徴のモンスター。その毛並みは史上最高の触り心地を誇る。臆病で、滅多に人前に現れない)

 うん? 何ですと? モンスター? 動物じゃなくて、モンスター? つまりは、魔物?

(……異世界か!?)

 突っ込んでみたけど、誰も笑う訳もなく、ただ私が空しくなるだけだ。もう、ここまで来たら、受け入れるしかない。

(鑑定って、もう少し詳しく出来ないかな。弱くてもモンスターなら、何か特殊な力とかありそうだけど……)

 某ドラゴンを倒す系なRPGゲームを思い出しながら、私は浮いているウィンドウ画面を睨み付ける。

(お、何か増えた。特殊スキル? まずは、最強もふもふ。もふもふ、か。どんだけ触り心地いいの? 次、次行こう。サイズ変更? お、特殊能力っぽい。サイズが変えられるんだ。次は、接吸収? よくわかんないな。あとは……読めないけど、何か書いてある?)

 私は頭の中で忙しくなく呟いているが、言葉には出来ていないため、土に囲まれた空間は静かなままだ。

(臆病な種族って事は、逃げて生き残ってきたんだよね? そう言えば、私は何で一人……じゃなくて、一匹なんだろう? 親とはぐれたのかな?)

 すす、と地面を移動しながら、私は改めて周囲を探り、首を捻る……違った、頭を傾ける。まあ、頭的な部分しかないみたいだけど。

 改めて良く見ると、私がいるのは、洞窟の中らしい。外の光は全く見えないので、かなり奥まった場所なのかもしれない。

 光ゴケ的なモノが生えてるのか、夜目が効くのか、異世界だからなのかはわからないが、洞窟内でも意外と明るい。

(仲間を探すべきだよね)

 そう結論を出し、私は生き延びるために、同族を探そうと、洞窟内の移動を始める。

(鏡見てみたいな。最強もふもふ見たい。何なら埋もれたい)

 今のところ、変な気配はしないので、私はのんびりと洞窟内を移動していく。特に行く宛はない。

 迷路だと、壁に右手だったか左手をつけて歩けば、的な豆知識を思い出したが、私にはつけるべき手がない。笑うしかない。笑えないけど。

(同族なら、会話できるのかな? と言うか、耳はある? 毛が揺れる音は聞こえてる気がするけど)

 コツを掴んだのか、少し移動速度が上がる。徒歩ぐらいかな?

(洞窟なんだよね、たぶん)

 体力はあるのか、幸いにもまだ疲れる気配はない。かなり進んだけど、地面も剥き出しの土のまま。

 だから、私は油断していたのかもしれない。

 不意に体の右側から衝撃を受けて、地面を転がる。

 上下の感覚が一瞬無くなり、そこへ二撃目を食らう。

 壁に叩きつけられ、衝撃に息が止まり、そのお陰で呼吸をしていた事に今さら気付いた私は、自分が生き物だと認識出来て、状況も忘れて安堵する。

(あぁ、私、生きてるんだね。もふもふなケダマモドキだけど)

「ゲゲ……ッ!」

 私の脳内独り言を邪魔したのは、奇妙な声。

 耳も正常だ、と他人事のように思いながら、私は体勢を立て直し、声の主を睨み付ける。

 モンスターになったせいか、恐怖はあまり感じなくなったらしい。驚きはしたけど、恐怖はない。

(……動く骸骨? もしかして、あの剣で斬られた?)

 私を攻撃したらしい相手は、血も涙も、ついでに肉もない真っ白な骸骨だった。

 思わず学校の七不思議的な、動く骨格標本を思い出した私は、やはり思考がモンスター寄りになったのかもしれない。

 その骸骨は、錆びた長剣を構えていて、どうやら私は横から斬りつけられたようだ。

(その割りには痛みがないけど。錆びてたから? それにしても、無傷って、私の毛ってそんなに強い……まさか、これが最強もふもふの効果?)

 先ほどの鑑定で見た、自分の特殊スキルとやらに思い至り、私は試しにもう一発食らってみるべきかと覚悟を決める。

 まずは手始めに、ゆらゆらと体を揺らして、骸骨を挑発する。

「ゲゲッ!」

 知能は低いみたいで、骸骨はすぐに挑発に乗って、私へ斬りかかって来る。

 あえて避けず、脳天から錆びた長剣の一撃を食らう。

(いた……くは、ないな、やっぱり。最強もふもふは、かなり丈夫なんだね)

「ゲゲッゲゲ……ッ!」

 私が冷静に分析していると、骸骨は怒り狂った様子で、ガクガクと顎を鳴らしている。

(そうだ! 相手も鑑定出来るのかな?)

 思いついた考えに、私はガクガクと顎を鳴らしている骸骨を見つめ、鑑定、と心の中で繰り返す。さっきは、こんな感じで見られたし。

 長い数秒が過ぎ、私の目の前には、さっきと同じ半透明のウィンドウが開く。

(種族名は骸骨剣士。そのまんまだね。あ、レベルがある)

『鑑定結果

 種族名 骸骨剣士

 レベル 5

 剣を装備した骸骨姿のモンスター。ダンジョンで死んだ者の成れの果て。

 特殊スキル ????』

(5って、高いの低いの? 私はレベルあった? また読めない部分あるし)

 ガクガクしている骸骨剣士を無視し、私はウィンドウに表示された情報を目で追っていく。

(あ、あった。私のレベルは、1か。やっぱり、産まれたてなのかもしれない)

 それと、思いがけない新情報だ。

 骸骨剣士は、ダンジョンで死んだ者の成れの果てらしいから、ここはただの洞窟ではなく、ダンジョンらしい。

(ダンジョン? 迷宮って事かな)

 骸骨剣士とコンタクトを取れれば、何かわかるかも、と骸骨剣士を見たが、彼? はもうそこにいなかった。

(攻撃が通じないから逃げたのかな。とりあえず、ここから離れよう。どれぐらいの攻撃まで防げるか、わからないし)

 いきなり限界を越えて、グシャッとか、最悪なパターンだろう。

 私は小さく身震いし、再び移動を開始する。何処まで行けば安全なんだろうか。

 外に出たとして、外がどんな世界かもわからないのに。

 でも、同族が見つからなければ、外へ出るという選択肢も頭に入れておかなければ。

 モンスター同士も殺しあうって事は、身をもって知ったから。

(せめて、寝る場所は確保したいよね)

 もっふもふ、と移動しながら、私は変化のないダンジョンの中を見回し、今日の宿を探す。

 しばらく進むと、細く目立たない脇道が現れ、覗き込むと、少し先で行き止まりになっていた。

(ここなら、見つかりにくいかな。色々ありすぎて、疲れた)

 奥にあった岩の脇の枯れた草の中に紛れ、私は目を閉じる。眠くはないが、情報を整理したかったから。




(……神様、私はもふもふしたかったのであって、もふもふにされても困りますけど)

「ごめーん、返品不可だから!」




 パチリと目を開けても、周囲の光景は変わっておらず、私はため息を吐いた。

 何だか変な夢を見た気もするが、夢は夢。すぐに忘れてしまった。

 それより、静かだったダンジョン内に、バタバタと足音が聞こえる。

 骸骨にしては重々しい音に、私は頭を傾けながら、成り行きを見守る。どうせ、私の速度では逃げ切れない。

「あ! まさか、行き止まり!?」

 飛び込んできて、一人で慌てているのは、剣を装備した旅姿の少年だ。

 私は草の中に紛れたまま、人間がいる世界らしい事に安堵していたが、少年の不審な動きに気付き、その動きに注目する。

(何かに追われてる?)

 脇道の入り口を窺い、少年は剣の柄から手を離さない。明らかに警戒している。

 良く見れば、少年は満身創痍で、重傷はないようだが、あちこちから血が流れている。

(痛そう。可哀想。殺されちゃうのかな?)

 モンスター寄りになったと思っていた私だけど、まだ人間らしい気持ちは消えてなかったみたいだ。

「うわ、来たッ!」

 助けたくても、戦闘能力がないのは、実証済みだ。

 それに、私はモンスターなのだ。庇ったら、後ろからバッサリとか……。あ、大丈夫か、最強なもふもふがあるから。

 腹を決めた私は、転がるようにして少年の前へと飛び出す。うん、転がったら速かった。

 その驚きは置いといて、私は少年を追い込んだモンスターを睨む。

 骸骨ではない。見た目は巨大なムカデだ。

(鑑定、鑑定……っ)

 焦ったせいか、ほとんど情報が出てこない。

『鑑定結果

 種族名 毒ムカデ

 レベル 6

 たくさんの足と、鋭い牙がある昆虫型モンスター。噛まれると死に至る可能性がある』

(ヤバい事は良くわかったけど。弱点とか、教えなさいよ!)

 心の中で怒鳴ったら、鑑定結果が変化する。よし、これさえわかれば……。

 少年は背後で慌てているが、何とか剣は構えたようだ。 何とか、少年に私の意思を伝えたい。

 私がオトリになるから、その間にヤツの弱点を狙えと。

(伝われ、伝われ!)

「え? 君の声? わかったよ!」

 案ずるより産むが易し、だ。何かは伝わったらしい。

 と言うか、素直な少年でよかった。

 私は胸を撫で下ろ――せないけど、それぐらい安堵して、ムカデへ転がって体当たりする。

 残念ながら、ダメージはゼロらしいけど、怒り狂ったムカデは、ガブッと私へ噛みつく。

「あっ!」

 心配してくれるな少年。私の毛並みは、そんじょそこらのもふもふとは違うから。

 貫通しない私の毛並みに、ムカデは苛立ちを隠さず、くわえた私の体を振り回す。

 予定通り私に夢中になったムカデは、隙だらけで、弱点である、お尻から生えた尻尾のような部分が丸見えだ。

(今!)

「はい!」

 本当に素直な少年だ。

 意思もしっかり伝わっていたようで良かった。

「ハッ!」

 私には剣の事はわからないけど、少年の太刀筋はとても綺麗だと思った。

 少年に弱点を斬り落とされ、苦しさから暴れまわるムカデから放り出され、地面に転がりながら、私は他人事のように考えていた。

 ビタビタと地面をのたうち回っていたムカデが動かなくなると、肩で息をしていた少年が、私へ近寄ってくる。




 緊張するけど、まずは挨拶から始めよう。

 私のもふもふ(自分が)生活を。

ストレス発散小説なので、深く考えずに読んでください。

巻き込まれ、のストレスが結構ありまして……。

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