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第17話 艱苦の答え

大変お待たせしました!久々すぎる更新です!またしばらくお待たせしますが、とりあえずはこのお話をお楽しみ下さい。







「...え?君、こいつが見えてるのか...?」





驚きを隠せない様子で目を見開き開口したままの隼太を気にも留めず、首をかしげながら、まるで何か不気味な物を見るような目で隼太のやや後ろを見つめる少女。リンと名乗った彼女が発した小さな呟きが、隼太の頭の中を駆け巡る。


「...もしかして、お兄さんって傀儡師の人だったりするんですか?それにしてもでっかい人形ですね~...」


「...ん?何?人形...これが?」


隼太はその言葉を聞いた途端、なんだか気が抜けるような感覚を覚えた。もしかすると、彼女はこれが精霊なのだと言う事に気付いていないのかもしれない。そしてそれはどうやら間違いではなかったようで、


「え?お人形さんじゃないですか。にしてもこんな変なの、誰が作ったんですか?悪趣味だなぁ...」


「例えそうだとしても人の持ち物にそんないい方しないでもらえるかな!?まぁいいけど...いやよかないが...」


彼女の天然の毒舌っぷりには驚かされっぱなしだが、どうやら本当にグロースを精霊としてではなく、ただの木製の人形だと認識しているようだ。まぁグロースの見た目上、そういった感想を持つのはごく自然な事ではある。これを精霊と認識していないとなれば、彼女が精霊使いである可能性は少ないように思うが、そうなれば何故精霊が見えているのかは全く分からない。


「で?どうなんですか?お兄さん傀儡師なんですか?」


「え?あ、あぁ...んん~~......まぁちょっと、趣味程度にね...そんな上手いもんじゃないけどな。」


「おぉ~私の予想通りですね!これはあれですね、賢いですね!私!」


なにがなんだか分からない、設定が全く安定していない隼太の動揺した答えすら全く疑問視しない時点で、彼女の頭脳はかなり一点に偏っているのかもしれないさえと思ったが、今はそれが好都合だ。この事をむやみに知られても良い事は無い。さらに彼女のような、出会って間もない人間に知られてしまえば、誰にこの情報が漏れるか分からない。


「...あぁ、君はすごいな。本当、驚いたよ。まぁこの事はいいだろ、今は避難命令が出てるんだから、さっさと後方に避難しよう。」


「あ、そうでしたね。世にも珍しい傀儡師の人をこの目で見れたのは嬉しいですけど、こんなとこに居ても危ないだけですし。じゃあ行きますか~。」



そんなこんなで、彼女の適当な同意の下、2人の避難がようやく始まった。一時はヒヤリとしたが、彼女の単純な性格のお陰で隼太が精霊使いであることが知られずに済んだ。だが彼女に何故精霊が見えていたのかは未だに不明だ。彼女自身がそのような魔法を使っているという可能性は低いだろう。もしかしたらフローレンスらが言っていた『加護』というものが彼女にも備わっているのかもしれないが、それは後々調査しなければ分からない。


しかし、考えても今どうにもならないものは仕方ない。今はとにかく前線を離れ、レティシアの元に帰ることが最優先だ。考えるのは足を動かしながらでもできる。



まぁ、その直後にリンが何も無いところで足を挫いて歩けなくなるのだが。



********************



時刻はとうに昼を過ぎている。既に陽は地平線に隠れ、今はその僅かな余韻が空を照らすだけだ。



「前線、思ったより遠いね.......ハウエル、本当にあそこまで追いつくの?」


「そう焦るなベルタ...俺たちは直接竜に乗って移動している。今は遠くとも、前にいる者共よりも進むのは速い。しばらくすれば合流できるハズだ。」


竜車を引く4足歩行の竜と違い、重荷を引く力はないがスピードに優れた2足歩行の竜に乗り、荒れ地を駆ける騎士が2人。1人は桃色の髪をなびかせ、もう1人は渋い顔つきで腰に差した長刀を揺らして進む。ここはフローレンスやエルヴィスらがいる前線より約5~6km程離れた場所だ。既に進行の跡が刻まれており、多くの兵士の亡骸が、片付けられる事無く地面に散乱している。


「はぁ~...ったく、私がついてくって言ったんだけどさ、もしかしたらもうフローレンスが『終焉』の奴ら全員倒しちゃってるかもよ?」


「その可能性もあるが...相手は『童殺の師団長』だ。長年騎士団が追い続ける大物、簡単な相手じゃない。」


「まぁそうだけど...」


「それに、いくらフローレンスが剣聖だとしても、歴代の剣聖の中には師団長クラスの相手に敗北を喫しているという記録もある。公にはされていないが。」


「..........」


「だから少しでも戦力があった方がいい。最前線にいる近衛騎士団員はたったの2人だ。指揮を執る者も少ない。俺たちが加われば戦況も少しは良くなるだろう。」


「確かに、そうかもね......じゃあ急ごうか!あいつらきっと寂しそうな顔して戦ってそうだもんね!」


ベルタの意気込みように、ハウエルは小さく鼻で笑う。手綱を引き、竜を加速させ、少しでも速く前へ行けるようにと足を速める。



「待っていろ同士、今すぐにそちらへ向う。」



******************


腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。蹴る。敵が弾ける。投げる。敵が切れる。敵が切れる。躱す。足を進める。蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。投げる。敵が切れる。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。足を進める。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。足を進める。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が切れる。敵が切れる。躱す。足を進める。蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。投げる。敵が切れる。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。足を進める。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。足を進める。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。足を進める。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵投げる。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。足を進める。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける蹴る。。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。足を進める。投げる。敵が切れる。敵が切れる。躱す。足を進める。蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。投げる。敵が切れる。敵が弾ける蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。足を進める。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵足を進める。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。投げる。敵が切れる。敵が切れる。躱す。足を進める。蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。投げる。敵が切れる。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が切れる。敵が切れる。躱す。足を進める。蹴る。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。走る。躱す。投げる。敵が切れる。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。投げる。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。足を進める。敵が弾ける。敵が弾ける。腕を振る。敵が弾ける。敵が切れる。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。敵が弾ける。蹴る。敵が弾ける。足を進める。敵が弾け あらららら.......可哀想.......可哀想だわ、私の子供達.........」






この小高い丘の頂上で、永遠に続くかと思われた殺戮の末に、ふと新しい声が聞こえた。






「....................やっと姿を現したか、悪魔め。」



「.............そんな、酷い.................傷付くわ..........」





驚くべき事に、その声は女性の物だった。さらに、この荒れ尽くした戦場の渦の中心には似つかわしくないほど穏やかで、悲しそうな声。


姿を見ればさらに驚く。背は特筆するほど低くも高くもなく、髪はうねりがかっているが不清潔な感じはしない。顔色は青白く、目には隈があり体も細い。どこを取っても戦地に赴く屈強な女戦士といった感じでは決して無い。どこか力が抜けたような格好で地面に座り込んでいる。


だが戦意を失う事はない。なぜなら、事前に調べていた人物の特徴と、目の前にいるそれがとてもよく合っていたからである。


「貴様らにそのような感情を抱く資格はない。...........随分と長い間貴様を探したぞ。『終焉の騎士団 童殺師団長 リガイアス・エイジャー』.......この名に間違いはないな?」


黒い死神がその顔を覆う布の隙間から、怨念に満ちた目を目前の女に向ける。


「あら.......どなたか存じ上げないけれど、私の名前を知っているのね..........もしかしてどこかで会ったことがあるのかしら...............」


相変わらず彼女の言葉には力が無い。


「貴様は覚えていないだろう。14年前のあの惨劇を、私の妻と娘を.......!!殺したのは貴様の手下だ...!!」


感情が高ぶる。妻と娘の最期。美しく飾られるはずだった2人の最期を、血生臭く穢したのは他でもないこの者達だ。


「............あら..........ごめんなさい、そんな事があったのね.........申し訳ないのだけれど、身に覚えがあり過ぎて何時いつのことなのかあまり覚えていないの...............貴方、辛いでしょう..............可哀想に.........」



此奴は何を言っている?



辛い?



可哀想?



「どの口が言うか...!!この場で!!晒せその首を!!!」



情けは不要。すぐに戦闘態勢に移行する。これから行うのは間違いなく、この戦場に降り立ち、最初に見せる本気の戦闘だ。



しかし――



「............生きているのは、とっても辛い事............本当に、可哀想だわ.......みんな.........」






「..........でも大丈夫。私たちが貴方たちを助けてあげる...........心配しなくても、大丈夫。」





怒りと憎しみに脳内が支配される感覚。無意識に踏み込んだ足から得た推進力は時間すら置き去りにするほど速く、同時に繰り出した右の拳は、それに対応するように完璧な軌道とタイミングで相手の頭を吹き飛ばす。敵の静かな呟きは耳にも入らず、音が空気を伝い耳に入る前に決着がつく。




というのが脳内のイメージ、実際は違った。




「.........................................何が、起きた...........?」



ハッと気付けば、自分と相手との間に100m以上の距離が空いている。完璧な攻撃だった。何人たりともこの攻撃を防ぐ事は敵わないはずだ。なのに、


「躱された、のか?」


『違うぞジャック....今、攻撃を躱したのは、お前の方だ。』


「...私が避けた...?奴の、攻撃を?」



まさか。


攻撃を仕掛けたのは自分だ。


あの女は座っているだけで何の動きも無かったではないか。


『奴を普通の手合いと心得てはならん...推測するにあれは....』


「...なるほど、『厄災の法』か....」


『間違いない。正体は分からないがあれこそが直接の魔女の使いである証。6人の師団長がそれぞれ違う特殊能力を持つと言われているが、奴の場合がこれなのだろう...』



「―――ごめんなさい、少し失敗してしまったわ......魂を刈りとれなかった.......」



女は気だるげに立ち上がり、不健康そうな顔を下に向けたまま、こう続けた。


「でも大丈夫。救済の時は今........今度はもっと範囲を広げて行います.......」


両手を真っ直ぐ横に伸ばし、それをゆっくりと自らの顔の前に移動させる。指を複雑に絡め、虚ろだった目を今度はしっかりと見開いている。


『――まずいぞジャック、「厄災の法」は魔法の類ではない!』


その言葉を知覚し、自分が今どれほどの危険に晒されているのかを知ったジャックは、憎しみに染まる脳を回転させ、臨時の緊急退避を行う。敵に向けていた足を反対に向け、全力で相手との距離を離す。


「焦らないで........まだ範囲内だもの.......」


女は静かにそう呟くと、今度はしゃがみ、両手を地面に付ける。



「この願いはいつか、未だこの世を彷徨う数多の魂に届くでしょう......さぁ貴方も一緒に...........『霊魂回帰の祈り』を―――」



















「―――済まないが、それは地獄でお願いするよ。」
















輝く剣が、美しい円の軌道を描いた。女の両手が鮮血と共に宙を舞い、不格好な音を立てて地面に落下する。




「............あら................初めて見る顔。」





「自己紹介は必要かい?」





「いえ..........必要ないわ.............」


血が流れる傷口を押さえようにも、それを行うはずの腕はもう女には残されていない。


『....剣聖が来た。獲物を獲られるぞ、ジャック。」


「分かっている。奴を退け、復讐を行う。少し面倒だが大きな変わりはない。」


魔女の使いと唐突に現れた剣聖の睨み合いに、黒い死神が割って入る。


だからといって3者の間に感情の変化はない。


一人は苦しむ者への救済を。


一人は正義の裁きを。


一人は復讐の拳を。


三者三様の思惑が交差し、戦場の果てで入り交じる。


紛い物の手合いでは参戦すら敵わない戦闘の頂点だ。


「君がこの場にいることは知っていた。どちらも正義に反する罪人だ。片方でも逃すことはしないよ。」


「貴様の正義など知った事ではない。私は私の復讐にのみ生きる。それの邪魔をするのであれば、貴様もここで首を晒す事になるぞ。」


「戦い.......不毛だわ.....争えば人が死に、人が死ねばまた人が悲しむ........二人とも救ってあげないと.............................でも、今はまだその時じゃないみたい。」



お互い交わす言葉は一言で足りる。相手に対する宣戦布告と自らの意思の再確認。または新たな行動への決意か。



始めに動いたのはジャックだ。日没間近の黒装束は目に映りづらく、左足から放たれた鋭い蹴りが剣聖の腹を捉え、遙か後方に蹴り飛ばす。


すぐに姿勢を入れ替え、魔女の使いに蹴りの反動を利用した回し蹴りを見舞う。予想通りに軽い体は、予想以上に遠くまで飛んだ。


すぐさまリガイアスを追おうとするが、それは剣聖が許さない。薄い光を反射して何倍にも輝く剣を一度振れば、剣の有効範囲よりもずっと遠くまで残撃が広がる。荒れ地一杯の敵を一掃したものと同じ技だ。しかしその術は死神には通用しない。


「....私に対して魔法などという穢れた戦闘手段は意味を成さない。」


「噂には聞いていたが.....それは加護の一種だね。どうやら君とは純粋な剣で相手をしなければならないようだ。」


フローレンスは自身の剣にかけていた魔法を解き、純粋な剣技のみでジャックと戦う。互いに人知を超えた手数の多さだが、なかなか決着は着かない。剣を交わし、拳を剣で往なす。どちらにも決め手に欠ける勝負が続く。


「私には呑気に貴様の相手をしていられる余裕が無い。少し退いていてもらおう。」


「そんな簡単には――」


言葉を放つより前に、完璧なタイミングで捉えた両方の拳が、綺麗に聖剣を両断した。刀身が折れ、一時的に聖剣として扱われていたボロボロの刃物は、その本来の姿を取り戻し、美しい輝きを失った。


「.............複製品では持たないか。」


去りゆく死神の背を眺めながら、折れた刃に向って手を合わせる。


「ここで本当に奴らを捉えるなら、抜かなければならないか、この剣を。」


フローレンスは、自身の腰に差した剣を撫でながら、柄に手を付けた。



*********************



「二人を相手にするのは..............些か難しそうですね...................救いはまた、この腕を戻した後に...............」


「待て。逃しはしない。」


両手を失ったリガイアスと、その周りに集まる多くの『終焉』の戦闘員達。ジャックが追いついた時には、リガイアスの腕には既に治療が施され、血は止まっていた。


「ごめんなさい..........できれば早くあなたを助けてあげたいのだけど......腕がないから今日はできなくなってしまったの..................」


「そうか。だがそんな事は知らん。貴様はここに首を置いて行くだけで良い。」


「いえ、それもできないわ.................私にはもっと多くの人を救う義務があるもの...............だから次に会うまで、待ってて。」


女がそう言うと、『終焉』の戦闘員が円を描く様に並んだ。




次の瞬間、周りにいた者たちの首が無くなり、吹き出す鮮血と共に女はこの場から姿を消した。




一瞬、ほんの一瞬であった。




「.................またも逃したか。二度と無いこの好機を.......」


ジャックは俯き、悔しさに拳を握る。


『剣聖の参戦があった時点でこの機会に彼奴を討つのは難しかっただろう......すぐに奴が戻ってくる。「本当の聖剣」はまだ残っているぞ。』


「分かっている...だが今は夜だ。奴よりも私の方が速く動けるだろう。...ミッシェラを拾って帰還する。」


『それが良い。まだ先に機会はあるだろう。』


ジャックと、その中の何者かは即座に次の行動を決定し、この場から離れる事にした。


だが復讐は終わらない。


六つの師団を討ち、この世から永遠に魔女を葬るまで――


********************



「フローレンス!!無事か!!」


戦闘を終えた剣聖の元に、重装備の男が鎧の音を立てて走ってくる。既に空は星に包まれ、月の柔らかい光が木々を眠らせる。


「やぁエルヴィス。すまないが、今回は失敗だよ。二人とも逃してしまった。」


腰の剣に伸ばした手が、結局刀身を抜き取る事は無かった。今はただこの丘の上で遠い星々を眺めるだけだ。


「そうか...お前が任務を失敗するのは初めてだな。まぁ誰にでもそういう経験はある。幸い、『終焉』の者達も後続で駆けつけたベルタとハウエルの助けによって殲滅に成功した。被害は拡大していないぞ。」


「それは良かった。ベルタとハウエルもいるのかい?はは、きっと後でベルタに叱られるだろうなぁ。」


「ハハハ!!そりゃ間違いない!!まぁとりあえず俺たちも都に戻ろう、間もなく迎えの竜車が到着するしな。」


「......みんなには苦労をかけた。兵も騎士も皆全力を尽くして国のために戦ったというのに、僕は何もできていない。」


彼が初めて見せる虚ろな表情だ。だが、エルヴィスはフローレンスの肩を叩き、こう話した。


「何を言ってるんだ?荒れ地一杯にいた敵を瞬時に排除し、兵をここまで導いたのもお前じゃないか。お前は十分すぎるほどにやったさ。大きな目標を一つや二つ逃したくらいで気に病むな。次は騎士団全員で戦う。お前にだけ負担はさせない。」


「あれはそんなに大した事じゃないさ。きっと僕じゃなくてもできたはず。」


「・・・・・・確かに、近衛騎士団には精鋭しかいない。お前の他にも出来る者がいたかもしれないな。」


「なら――」


「――だが、やったのはお前だ。他の誰でもなく、お前なんだ。フローレンス。」


「――――――」


「俯いて帰るなよ、剣聖が。兵や騎士にだって、お前は英雄だ。最期まで勇猛な戦士でいてくれ。」


その言葉に改めて気付かされた。自分は剣聖なのだと。自分は人々を助け、人々の希望でならなければならないと。


「そうだ...その通りだね。ありがとうエルヴィス。もっと強くなるために頑張るよ。それが僕の今回の失態への償いだ。」


「まだ頭が固いが...まぁいいか!とにかく笑って帰ろうぜ!祝勝会の祝い酒が待ってるからな!」


彼の後について兵や騎士、そして同僚の元に向えば、みんなが手を振って喜んでくれた。

ベルタには無理をしたことを多少叱られはしたが、全員が暖かく自分を迎え入れてくれた。


自分はもっと強くなろう。この笑顔を見せてくれる民のために。


次は必ず敵を倒せるようにと。


戦いの後、無傷ではない騎士団の中に、新たな風が吹き始めていた。


*********************


「お、重かった.......」


背中に乗っていた大量の機械と少女を降ろした後、もの凄い疲労感が隼太を襲った。距離的には大した事は無いが、背中の多すぎる荷物のせいで予想以上に時間をかけてしまったようだ。やっと前線から後方に離れた基地に戻ってきた。どうやら戦闘はあらかた終わったようで、なんとなく緊張の糸が緩んだような雰囲気が漂っている。


「あ~どうも、お疲れ様でした。なかなか快適でしたよ、お兄さん!」


そんな隼太とは対照的に、背中に乗っていた少女、リンは元気ハツラツといった感じで呑気に欠伸しながら体を伸ばしている。


「そりゃ良かったが...機械をあんなに背負って歩くとなかなか疲れるもんだな。」


「助かりました、ほんとに。あんなとこで足挫くとは思いませんでしたね~!タイミング完璧ですね!ある意味!」


「『ある意味!』じゃねぇよ!......ったく、もう大丈夫なのか?」


「ん~...まぁ一応庇って歩くのは大丈夫ですね。普通に歩いたり走ったりは無理ですが。」


「そうか。んならとっとと病院行って治してもらうか。俺の目当てもそこに居るんでな。」


「ほへ~、そうなんですね、まぁあたし基本いつでもフリーなんでどこ連れてっても構わないですよ~。」


「うん、それあんまり怪しい人の前とかで言わない方がいいからね。」


彼女の間が抜けたところというか、天然というか、とにかくこのフワッとした感じが心配にならなくもないが、彼女自身今までずっとこんな感じで生きてきたのだから大丈夫なのだろうと思いながら歩みを進める。相変わらず機械を背負ったままだが、先ほどとは違いリンが自分で歩いてくれるお陰で、その分の重さが減っただけマシだろう。とはいえ彼女自身そこまで重くはなかったので大量の機械を相手にするのは未だになかなか疲れるが。


「そういや、この事態が収まったらどうするんだ?家族と家は?」


「あ、アタシ家族とかいないですよ?」


「.........ごめん、聞かない方が良かったか。」


「いやいやそんな!別に気にしてないですから!」


「そんな事はないだろ。家族だろ?」


「ん~、何だろう。慣れちゃったんですかね、母は私を産む時に死んじゃったらしいので顔も見たこと無いですし、父は7年前の戦争で命を落としました。昔の事です。祖父と祖母は私を大層嫌っていました。私、混血なんですよ。母が東洋の人間で。だからそれが気に入らなかったみたいです。まぁ父方の祖父だけは私の事をかわいがってくれてましたけど、4年前に騎士団に連れて行かれちゃってもう会えないんです。」


「...........辛いなら話さなくても...」


「あれ、聞いてて辛いんですか?なんかお兄さんそんな顔してますもんね!!あはは、その顔初めて見ました。新発見ですね!」


聞いていてなんだか胸が痛くなった。この世界ではこういう家庭環境の子供も少なくないのだろうか。それをこんなに普通に話せるのが余計に痛々しい。


「じゃあ一人で暮らしてたのか?」


「えぇ、まぁそんな感じです。とは言ってももうその家も壊れちゃいましたけど......」


「あの首都郊外に家が何軒か建ってたところか....」


「ですね。そこにおじいちゃんと2人で暮らしてたんです。4年前までは……まぁその家がなくなっちゃったのは、少し寂しいです。」


リンの表情が初めて、少しだけ曇った。考えずとも分かる。思い出の詰まった場所だったのだろう。


「........行くとこないなら、俺のいるとこに来るか?」


「え、何ですか、いかがわしい事しようったってあたしそんな軽くないですよ。」


「いきなり真剣な表情になるのやめてくれない!?全然そんなんじゃないから。住むなら許可は要るけど、多分大丈夫だろ。それに君が作る機械に興味あるんだよ。詳しく話が聞きたい。どう?悪い話じゃないと思うんだけど。」


そう言った後にリンの表情を見てみると、なんだか必死に悩んでいるようだ。


「いや...正直言うとマジでいい話だと思います....タダ飯食いたいし....…でも迷惑かかりそうだし.....いやでも綺麗なベッドで寝たいし.....広いお風呂入りたいし.....」


「ほぼ煩悩じゃねぇか.......んならいいだろ、とりあえず家主が病院にいるから挨拶だけしとけ。あとはなんとかするから。」


そう言うと、なんとなく、少しだけ嬉しそうな顔をした気がする。なんか建前上申し訳なさげな顔をして腕組みなんかしてみたりしているが、スキップしながらついてきているのできっと、というか絶対喜んでるだろコレ。


とまぁそんなこんなでしばらく歩くと、やっとこさ野戦病院の前まで辿り着いた。


「なるほど確かにこれは公国一の治癒魔術師と言われるだけの事はありそうだ....」


病院の前には多くの兵が集まっており、装備はボロボロだが体にあったであろう傷はなくなっている者ばかりだ。


「うえ、なんか生々しいですね。」


「んな事言うな。この人達だって必死に戦ったんだ。ほれ、中行くぞ。」


仮設のテントの布を開くと、大量の患者の中にいる金髪の少女を見つけた。別れた時間は長くないが、それでもまた顔を見られたのは限りなく嬉しい。


たった一言。きっとこの一言が、今の疲労した自分の心情をうまく表現してくれる。




「ただいま!」




その言葉に、激務の中の少女は驚きと安堵の表情を持って、最もかけてもらいたい言葉を言ってくれた。




「おかえりなさい!ハヤタ!」




長かった一日限りの戦闘であったが、この場にいた全員にとっても等しく長い、長い一日であった事だろう。

それも今やっと終わりを迎え、人々は日々の平穏を取り戻さんと次の行動を始めている。

体の傷は必ず消える。壊れた街も元に戻る。去りゆく者の思いを乗せて。

人が人であり続ける限り、人間の営みは終わらない。

いろいろな思惑が交錯した一夜。各陣営も今は揃って休息を取っているだろう。

これにて動乱の一日は幕を閉じた。




ただ一つの陣営を残して。





***********************









「――どうしよう、エリクが、帰って来ない。」

























最後まで読んで頂き、誠に有り難うございます!これにて第一章『霊脈の導き』は終了となります。次回からは第二章となる予定です。どうかお楽しみに!ではまた次回お会いしましょう!

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