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第13話 愛と死を見つめて

――かつての彼は誰よりも普通な男だった。彼は商人の家に生まれた。次男坊だったこともあり、実家の家業は継がずに長男である兄に任せ、彼は自分で商売をすることに決めた。しばらく家で育てられた後、彼が家を出たのは18の時。世間に出るにはもう十分な年だった。


かつての彼は誰よりも普通な男だった。家を出てすぐの頃は全くもってうまく行かず、近くの鍛冶屋に弟子入りして手に職を付けることに専念した。親方は厳しい人だったが、それにも耐えられた。彼には自立する強い意志があったからだ。


20になる頃には一人前の職人として認めてもらう事ができた。その時は店の裏口で静かに嬉しさを爆発させたものだ。今となっては懐かしい記憶だ。


懐かしい記憶といえば、欠かせないものが一つある。妻となる女性との出会いだ。


かつての彼は誰よりも普通な男だった。彼がたまにある休日によく訪れる喫茶店があった。小さな店が坂に沿いズラリと並ぶ通りをしばらく上り、右に曲がるとひっそりと佇むようにそこにある。


軽い扉を開け、明るく落ち着いた雰囲気の店内を見回すと、既に少ない席は埋まってしまっているようだった。彼がすこし肩を落としていると、ふと従業員の女性が声をかけてきた。


「あの方と相席でも構いませんか?」


そのときに同じ席で茶を飲んだ彼女。その女性こそ後の彼の妻となる女性だった。薄く柔い陽光の似合う女性だった。きっと言ってしまえば彼女よりも綺麗な女性はたくさんいるのだろう。


しかし彼は、自分には彼女が必要なのだと、彼女以外では駄目なのだろうと、直感でそう感じていた。後で話を聞くと、彼女もその時自分と同じように思ったという。


かつての彼は誰よりも普通な男だった。しばらくすると、若い彼は地方の都市に店を構える事になった。ずっと手伝っていた親方の元を離れ、自分の腕で生きて行く。不安はもちろんあったが、彼には安心できる理由があった。きっと大丈夫だ。今の自分には妻と、小さな娘がいるのだから、と。


かつての彼は誰よりも普通な男だった。少ないものの家族3人、妻と4歳になる娘を養うには事足りるだけの金をなんとか稼ぎ、たまに友人と安い酒を飲み交わし、楽しむ余裕もあった。きっと多くの人はこれを幸せというのだろう。そして彼は時々考える。一体どれだけの人間が自分と同様の生活を送っているのだろうか。きっと数え切れないほどだろう、と。



――そしてその中のどれだけの人間が彼と同等の不幸を味わうのだろうか。



いや、きっと彼以外に存在しないだろう。


人が人を辞められるほどの不幸を経験する者は。




かつての彼は誰よりも普通な男だった。




*********************


「おとーさーん!!これみてー!!」


瞳を包むような柔らかい日差し。今でもハッキリと思い出せる。いや、むしろ今になってからの方がよく思い出せるのかもしれない。とにかくその日は良い日だった。娘のエリカはまだ4歳。元気で優しく、揺れる茶色の髪と笑った顔が妻によく似ている。


「ん?どうかしたのか?」


「ほら!みてみて!ふふふ、いいでしょー!」


自慢げに揺れる娘の小さな手には、赤い花がギュッと握られていた。


「おや、本当だね。すごいなエリカ。どこで見つけたんだい?」


「おみせのうしろにあったんだよ!」


「へぇ~そうなのか。お父さん知らなかったなぁ。」


そういって低い頭を優しく撫でてやると、娘は笑いながらも手をどけようとしてくる。その力弱さが自分にはとても可愛らしく思えた。娘は日々、私がハッとさせられるような発見をしては、毎度私たちに話してくれた。忙しく、何もかもに新鮮みを見いだせない自分では、到底気にも留めないことも、彼女は彼女らしい目線で捉えているのだ。


「でもそんなに強く握っては花がダメになってしまうよ?」


「えー!やだー!」


「ははは、いいかいエリカ、自分の大事なものは大切に、そっと包むように守ってあげるんだよ。優しく、優しくね。」


「わかった!」


エリカはそう言うと、強く握っていた手を緩め、手のひらでそっと包み込むように花を持った。そんな娘に微笑みを向けていると、店と併設されている家の方から声が聞こえてきた。


「エリカ!あなた!そろそろお昼にしましょう!」


「はーい!!おとうさん、いこ!」


「おっとっと、落ち着いてエリカ、そんなに引っ張ったら転んでしまうよ」


「ふふふ、あー!おかーさんもみてー!!」


エリカの引く手は先ほど私の手を払おうとしたものとは思えないほど力強いものだった。


彼女、エリカとの生活は、この時の自分の生きる理由だった。それは妻にとっても同じ事だったろう。妻のジーナは私よりもひとつ年上の女性だ。彼女は年上らしい抱擁力を持ちながらも、たまに寄り添って甘えてくるような年下のような一面も持ち合わせている素敵な人だった。


「あら、綺麗な花。テーブルの上に飾っておきましょうか。」


「そうする!」


私の家は決して裕福ではなかった。部屋の中はとても質素なものだ。テーブル1つに椅子が3つ。エリカの者は私たちのものよりも脚が高い。食器も3人分だし、寝室のベットは1つだけ。もちろん家族全員がそこで寝るのだから毎日狭くて仕方ない。そんな彩りとは縁のない家の、少し寂しい食卓に娘からの赤い色のプレゼント。それだけで部屋の中が明るくなったような気さえした。自然と笑みが零れる。気付けば彼女といる時は自然と笑顔になっていた。



とにかく、その日は良い日だった。




――その日のうちは。



**********************


――いつの間に寝てしまっていたのだろう。昨夜の昼食以降の記憶が全くない。辺りはすでに暗く、街の明かりがちらほらと見える。今はどうやら夜のようだ。そういえばさっきから酷い耳鳴りがする。視界はチカチカと赤く、それにどこか白くモヤがかかっているようだ。寝起きなんてこんなものか、とは思えども、なんだか土埃の匂いまで漂っている。遠くで人の大声?激しい足音が聞こえるような。とにかく起きてみなければ。...おかしい、脚が動かない。それどころか腰から下が全く言う事を聞かないではないか。


「??」


気付いてみればおかしい事だらけだった。なぜ自分は狭いベッドではなく地面に俯せになっているのか。なぜいつもは夜になれば明かり一つない家の中からなぜ街の明かりが見えているのか。なぜ家が倒壊して自分の腰辺りに思い出深い家の柱が突き刺さっているのか。なぜ明かりとは全く違う場所から、激しく火柱があがっているのか。


なぜ自分の妻が、得体の知れない人間に首を掴まれているのか。なぜ自分の娘が黒装束の者共に捕まっているのか。


「――あ」


妻だ。娘だ。あそこにいるのはかけがえのない自分の家族ではないか。街には黒い影がいくつも激しくうごめき、時々血飛沫と断末魔の飛び交う地獄のような状況になっている。


「ジーナ...エリカ...!!」


助けなければ。全身全霊を持って彼女らを苦しみから、恐怖から救い出さねば。自分に笑顔をくれる彼女たちを。何としても。絶対に、助けなければ。


「今...!今行くぞ...!」



動かない。なぜ動かない。腰に柱が刺さっていようとも関係はない。腕で前へ前へと進もうとする。だが体が進む事はなく、背骨と神経がゴリゴリと音を立てて擦れる感覚が強くなっていくだけだ。


そうこうしている間に、得体の知れない者が掴む妻の顔色はどんどん悪くなり、抵抗する体の動きも鈍くなってきている。陽光に優しく微笑むジーナの顔が苦痛に歪み、目は空を泳ぐ。エリカはだんだん生気を失っていく母を見て、声が出ないほどの恐怖、不安、混乱に頭を支配されているようだ。彼女はただ力なく震え、大きな目から延々と涙を流す。


助ける。絶対に。自分の命と引き替えにしたとしても、絶対に救い出さなければ。あの黒装束の者を絶対に許さない。妻と娘をこんなにも苦しめる彼奴らを許してなるものか。


下半身は既に使えない。きっと生き残れたとしても二度と立つ事はできないだろうという大怪我だ。出血も酷く、自分の命も危ない。だが関係ない。上半身を全力で使い、体に刺さった柱を抜き取らんとする。がしかし、家を支えるほどの木材を怪我人がそう簡単に動かせる訳はなく、血で滑る手に苛立ちが募る。


「あ、ぁ..なた...」


妻の弱々しい声にハッと振り返る。既に妻は息をするのも難しい程、力強く首を掴まれ、つま先が地を擦るだけで彼女の足は空を振るだけだ。


「あ、あぁ...ジーナ...!ジーナ!!」


「ぅ...あ、エリ...カ....ハァ、エリカ...を...ガフッ...」


「待っていろ...今行く...ぞ...!」


「お、おかあさ...」


一人は自分の命がもう助からないと悟り、瓦礫に埋もれた夫に娘の未来を託そうとする。一人は命の灯火が、今まさに消えようとしている自分の母を見つめ、複雑に絡んだ感情を理解できずにただ母を呼ぶことしかできない。また一人は、到底変わるはずの無い状況を必死に変えんとし、全身に力を込めて移動を図る。


今まで小さな喧嘩はあれど、家族の心は常に一つだった。家の保護を離れて生きてきた自分には、人との繋がりは何にも変えられない財産なのだと知っていた。だから自分の家族を何よりも大切にしようとしてきた。大切にしてきた。しかし――


「ハ、ハァ..エ...リカ、逃げ...」


「え、あ、、お、かぁさ...」


「逃...あ゛ぁ.......」



長い沈黙。黒装束の者が手を離せばその華奢な体は膝から落ちて手も付かなかった。その時にフッと静かに分かった。妻は死んだのだ。


破壊と殺戮のみが交錯するこの街に、ただ一つだけ純情な娘の泣き叫ぶ声が響き渡る。愛した人間の終わりとはこれほどまでに呆気ないものなのか。頭ではハッキリと分かっていた。だがどうしても心の底では信じられなかった。彼女ともう二度と言葉を交わせないという事が。いつも聞かれても「なんでもいい」で済ませていた彼女の作る料理はもう二度と味わえない事が。


「ぁ....」


気付けば、黒装束の者が娘に手を伸ばしていた。母の死への悲しみを上から塗りつぶすように彼女を襲う濃厚な恐怖。人は本物の恐怖を目にした時、体の一切の機能を投げ捨て、ただ目の前の脅威に怯えるだけの動物となる。


「待て...それだけは...!!」


娘だけは。どうしても守らねば。妻と自分が生きた証が、世界で最も愛しい存在が、今危機に晒されているのだ。自分の体の痛みや不条理など知ったことか。そこに行かねば。


絶対に助けなければ。


...思えばこの少ない時間でこの言葉を何度口にし、反芻してきたことだろう。だがその度に自分の無力さを痛感させられるだけだった。


――世界は意思では変わらない。


「             」


思い出す度怒りが、恨みが新鮮に蘇る。この時の事を思い出すと。


黒い人影が、あまりの恐怖で力の入らない娘の開いた口に太い手を無造作に突っ込む。4歳の娘の喉に大人の腕が入る訳もないが、そんな常識など考えもしないように、空いた片方の手で娘の顎を音がする程の勢いで外し、一気に肘まで娘の喉に手を入れる。娘は白目を剥き、飛んだ意識に反発するように体が痙攣し、狭い喉は音も無く嘔吐きを上げる。黒い人影は外から変化が分かるほど娘の内蔵を荒らし回り、最後には狭い喉からその小さな体に詰まってた臓器を引っ張り出した。


「             」


黒装束は作業が済むと軽い体を死体の山に投げ加えた。


殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す


『――奴らを殺したいか?』


ふと、声が聞こえたような気がした。


「必ず殺す」


『ヌフフフ...貴様では到底不可能。俺に任せてお前は寝ておくが良い....』


聞こえたのではない。それは音ではなかった。


声は自分の中にあった。


次第に意識が消えてゆく。自分の意思が体から離れ、別の何かが入って行くようだった。朦朧とした意識の中で辛うじて見えたのは、自分の足が地にしっかりと付き、自分の体が自分とは思えないような動きで妻子の仇を一瞬で殺す姿。意識は干渉していないのに、自分の体は理想と同じ動きを遂げた。なんと心地良い体験だったことだろう。復讐を果たす快楽と、自分の中に生まれた別の意識に身を任せ、気の向くままに殺戮を繰り返した。



それから目を覚ましたのはどれほど時間を経た後だったのだろうか。体に受けた傷は塞がり、自分は血が小川のように流れる街の中心に立っていた。見間違えるほど黒い衣服に身を包んでいる自分。周りに転がる無数の黒装束の死体を見て、自分はもう普通には生きられないのだと悟った。



「私は復讐に生きる。」



黒い死神は今、世に放たれた。


**********************


「ち、ちょっと、ビビらないでくださいよアニトラ様!!」


「シ、シスイの方こそ...!声震えてるって...!!」


目の前で柔らかく、美しく、誰よりも華麗に剣を振るう女騎士。シスイとアニトラがビビリ倒しているのはまさにこの人だった。


近衛騎士ベルタ・ベルトーニ。ウェルド公国切っての先鋭、近衛騎士団唯一の女性騎士だ。


では何故に二人がこんなにも彼女に対して畏怖しているのか。それは先ほどベルタ自身が口にした言葉による影響だ。


「自分に対して恐怖心を抱いている者を優先的に排除する」


それが彼女の癖であり、敵を追跡、効率的に排除する事を可能にしている。だが平凡な農家の娘と、その従者の精霊使いにとっては、その言葉は聞かない方が良かっただろう。


しかし今のベルタは完全にスイッチが入った状態であり、忠告がなければきっともっと酷いことになっていただろう。シスイとアニトラは必死に平常心を保ち、次々に敵を排除していくベルタの後をついて行く。ベルタの動きはまさに重力を無視したように軽快で、一度の跳躍で建造物を軽々と超えてみせたり、長い時間はできないものの、垂直な壁を足だけで移動してみせたりもする。


こんなものがもし自分の事を攻撃してきたら、無論逃げることはできまい。だから今は襲撃してくる敵よりも、恐怖を押さえつけるという自分との戦いだと言えるだろう。


「シスイさん、近くに敵はいますか?」


「あっ、ハイ!あ、いえ、もう敵の反応はありませんね!だ、大丈夫だと思いましゅ!」


「声が裏返ってるよ...」


「そんなに焦らなくても...いや~ありがとうございます!私では見えない敵を見つける事はできないので...安全と分かれば良かった!」


どうやら普通の状態が戻ってきたようだ。鋭い目つきは優しくなり、美しいその桃色の髪と整った顔が音付いて見られるようになった。


「やっと戻った...」


「ん?どうしました?アニトラ様。体調が優れないのなら私が背負っていきましょうか?」


「あ、いえ、そういう事では...」


「それなら良かったです!ですがもしなにか異変がありましたらすぐにお申し付け下さいね!」


「あ、はい...」


「ではそろそろ出発しましょうか!ボサッとしてるといつ奴らがやってくるか分かりませんからね!」


シスイとアニトラの二人はベルタの変貌っぷりに少し憂鬱な気持ちになりながら、急いで先を目指した。


響く呼吸音は急いだせいの息切れか、もしくは深いため息か。



更新大幅に遅れて申し訳ありません!これからは不定期の更新になってしまうと思いますが、更新は続けていきますので、どうかよろしくお願いします!

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