ひろめ市場で乾杯! ~河美子さんへの誕生日ギフト小説~
おなじみのひろめ市場。
今日は日下部さんとデートよ。ホワイトデー以来かしら。
去年は東京でお祝いをしてもらったから、今年は私が招待したわ。それにしても日下部さんったら遅いわね。何度も来ているから迷ったってことはないはずなのに…。こんなことなら空港まで迎えに行けばよかったかしら。
待ち合わせ時間を過ぎても現れない日下部さんに私はやきもきしながらグラスを口に運ぶ。そして、またお店の壁に掛けられた時計を眺めた…。
「あっ!」
思わず叫んでしまったわ。だって、さっきと時間が同じなんだもの。
「ねえ、店長。あの時計って止まっているじゃない」
「ああ、あれはただの飾り物だから」
店長は悪びれもせずさらっと言った。
私はバッグから携帯を取り出して時間を確認したの。待ち合わせ時間の10分前だったわ。ずいぶん長い間待っているような気がするのはきっと、私が1時間も早く来たからね。そう思っていたら店のドアが開いたわ。店の中をキョロキョロと見まわして、私に気付くと顔をほころばせたわ。
「さすがね。時間ぴったりだわ」
「お待たせしました」
「いいえ、少しも待っていないわよ。時間ちょうどだし。正確には3分前よ」
「でも、顔が赤いですよ」
「あら、そう?」
「まさか、僕に会えたから…。なんて言わないですよね」
「まあ! どうして解かったのかしら? 図星だわ」
「からかわないでくださいよ。テーブルの上がずいぶん賑やかですから、かなり前から来ていたんじゃないですか?」
「うーん…。なんか、面白くないわね。早く座って!」
私は店長にグラスをひとつ持ってきてもらって、ボトルの焼酎を注いだわ。もちろんストレートよ。日下部さんにも早く酔っ払ってもらわなくちゃ。
「はい、乾杯! 一気に空けてよね」
日下部さんは何も言わずにグラスいっぱいの焼酎を一気に飲み干したわ。益々面白くないわ。
「美子さんありがとうございます。今度は僕が注いであげますから、そのグラス空けてください」
「い、いいわよ…」
まあ、ちょっとしか残っていないし、楽勝よ。
私がグラスを空けると、日下部さんは店長に新しいグラスを持って来させたわ。そして、持参してきた紙袋から立派な箱を取り出したの。シャンパンの箱だとすぐに判ったわ。銘柄までは判らないけれど、多分、そこそこ、いいシャンパンなのよ。
「さあ、改めて乾杯しましょう」
そう言って日下部さんはグラスを掲げたわ。私もグラスを持って掲げたわ。
「美子さん、誕生日おめでとうございます!」
それから、日下部さんは同じシャンパンをもう1本。これはお持ち帰り用ですって。ナイスなプレゼントね。無くなったらおしまいですもの。一応、私も人妻ですし、身につけるアクセサリーなんかだと重たいしね。
日下部さん、今年もどうもありがとう。
美子さん、誕生日おめでとうございます。
いくつになっても素敵な女性でいてくださいね。