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延長戦~「いつまでこの話が異世界青春野球小説だと錯覚していた?」「なん……だと……?」~

 魔王のバットはあっけなく空をきった。


「なん……、だと……?」


 そして、白球はあっけなくキャッチャーミットに収まっていた。


「伝家の宝刀、スプリットだ。今まで誰にも投じていなかった一球だ。ありがたく思え」

 



 ルルイエ帝国野球チーム対魔王チームの戦いは、こうしてルルイエ帝国野球チームの勝利で終わりを告げた。

 いくらかの領地の支配権は人間族に取り戻すことが出来たが、取り戻せなかった領地も沢山ある。もっとも、一度勝っただけで取り戻すことは出来ないルールなのだが……。


「さて、異世界甲子園、今年の分は終わったか。帰ろうか、ルルイエ帝国に。もう、ここには用はない」


 遥は帰る気満々であった。魔王城は未だに異音を発しているし――試合中には気にならなかったのだ――、嫌な予感がするのだ。嫌な予感というのは、だいたい当たるのだ。


「クククク、ハーッハッハ!!」


 最後のボールを空振りしてからずっと項垂れていた魔王が急に笑い声をあげた。遥達だけでなく魔王チームのメンバーも驚いている。


「勇者遥よ、貴様はとんでもないことをしてしまったぞ!!」


 魔王城を一部破壊したことだろうか? 確かにとんでもないことかもしれないが、それはきっと建築士のせいだろう。ホームランボールが当たっただけで貫通するくらいなのだから。


「貴様は今まで、何故異世界甲子園が何世代ものあいだ続けられてきたのか、まったく分かっていないようだな!!」


「なん……、だと……?」


「決してどちらかが完全勝利をおさめないようになっていたのだ、異世界甲子園は!!」


「ば、バカな、何の為に……?」


 ルルイエ帝国野球チームのメンバー、形だけの監督、コーチたちは首を振った。知らないのだろう。遥を筆頭に、皆結構いい加減だからだ。


「異世界甲子園はな、神々の娯楽だったのだ!!」


「な、なんだってー!?」






 かつて、このファーガイアでは神と魔神が争っていた。

 それぞれの陣営同士では戦力が拮抗しており、決着がつくことはなかった。

 その為、人間や魔族に代理戦争の形で争わせることにした。そして時代は流れ、異世界甲子園というシステムが出来上がった。

 最初は魔族も人間も純粋に争っていたが、やがて魔王や勇者が色々なからくりに気付いた。どちらかが完全勝利を遂げると、神と魔神が介入をしてくるということに。

 よって、今までどれ程の戦力差があっても、どちらかが完全勝利をおさめることなく連綿と続いてきたのだ。






「魔王城は世界を支える塔のような役割をもしていたのだ。その中枢部を貴様が破壊した。それは、人間対魔族の異世界甲子園が完全決着をし、システムとして何の意味もなさなくなったことを示すのだ。来るぞ、奴らが。神と魔神が……!!」


 緊張感があたりを支配した。

 そして、まるで魔王の言葉が終わると同時に、空が割れた。

 三塁側のベンチ付近には光が降り注いだ。太陽の光とは違う、神聖な光が。

 一塁側ベンチ付近には闇色の光が降り注いだ。


「天使……、伝承にある、天使?」


「では、こちら側が、魔神……?」


 三塁側には伝承にのみ伝えられてきた天使が数人降臨し、一塁側には数体の魔神が出現していた。






「魔王との対戦、お疲れ様だったとだけ言っておこう、ルルイエの勇者よ。魔神の戦力を少しだけ削ってくれたようだな。が、ここからは我々の領域だ。焼け野原にならないうちに、ひくがよい」


「勇者相手に負けるなんて、ダサイわね、魔王。さ、代理戦争は終わった。後は、直接決着あるのみ。死にたいならこの場に残っていいわよ」


 白銀の鎧を身に纏った金髪の美しい、白い翼を持つ天使がルルイエ帝国野球チームに声をかけるのとほぼ同時、黒いゴスロリ衣装に身を包んだ黒髪の小柄な魔神が魔王に声をかけた。だが、その視線は勇者にも魔王にも向けられていない。


「天使アズライールか。貴様が出て来るとは、な。まあいい。殺しあおうではないか」


「魔神イリス、数百年前につけられなかった決着をつけるとするか」


 アズライールとイリスがお互いの武器を構えようとした時に、割って入った声があった。


「ちょっと待った!!」


「なんだ、邪魔をするのか? 勇者よ。邪魔をするなら貴様も殺すぞ」


「塵芥に等しい存在の貴様が、我らの戦いの邪魔をするなよ」


 嘲りを含んだ声に、遥の怒りは頂点に達していた。


「ふざけるなよ、今まで真剣に戦っていた私達に対する敬意すらない時点で、私はぶちギレているんだよ!! お前ら、そこに並べ!!」


 遥の怒声にビビり、何故か整列をする天使と魔神達。


「よおし、そんなに戦いたいのなら、野球で決着をつけようじゃないか!!」


「何を言っているのだ?」


「やれやれ、何を言いだすのかと思えば……」


 アズライールもイリスもまともにとりあおうとはしなかった。


「なんだぁ? 野球で負けるのが怖いの? それとも、人間が簡単に出来るスポーツの一つも出来ないの? ならとっととおうちに帰ってクソして寝てろ。ママ助けてーって泣きついてこい!!」


 アズライールもイリスもその言葉にキレた。圧倒的な力を持つ天使や魔神である彼女達は、人間に敬意を持たれることはあってもバカにされることなどなかったからである。


「野球? 出来ないと思うてか」


「安い挑発に乗ってあげるわ……」


 案外単純であった。「もしかして、こいつら脳筋か?」くらいに思う遥である。 


「ふん、ならばやるぞ、試合を。私達ルルイエ帝国野球チームと魔王チームの混成軍対天使チーム、魔人チームの総当たり戦だ」


 勝手に混成チームにされたことに怒りを覚える魔王であったが、敗者は勝者に従うとでも決めたのか、異論は挟まなかった。


「どうせなら、楽しい試合にしよう。ホームアンドアウェー戦で行こう」


 ホームアンドアウェー戦? 聞いたこともない言葉に首を傾げる天使たちと魔神達を、自分でもよく分からない知識で上手く丸め込んだ遥。

 こうして、天使チームの本拠地、天界と人間と魔族の本拠地である人間界、そして魔神の本拠地である魔界を行ったり来たりする野球大会が始まることになった。






 異世界甲子園《一つの時代》が終わり、新しい時代――異世界地獄甲子園アナザーヘブン――が始まる――。






















「天使にも魔神にも可愛い女の子がいて、イイね。アズライール、メンドクサイからアズにゃんでいいや。アズにゃんもイリスも私のモノにしてあげよう。ウフフ、夢が広がるなあ……」


「ハルカは可愛い女の子だったら誰でもいいの?」


「拗ねないでよ、アリア。アリアが私の一番」


「むー、そうやってすぐはぐらかすんだから。でも、勝てるの? 相手は天使と魔神だよ?」


「大丈夫、勝つよ。この素晴らしい世界で生き抜く為にも、ね」


 アリアに応える遥の表情は、自信に満ち溢れていた。






「野球をするなら、神だって倒してみせる――!!」

参考資料

「地獄甲子園」 2002年

「デッドボール」 2011年

某漫画を原作とした実写映画。

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