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7回裏~ククク、ヤツは我ら四天王の中では一番の小物~

 遂に、四天王との戦いが始まった。

 ベンチ前で選手たちとアリアが遥を中心として円陣を作っていた。監督とコーチはベンチでお茶を飲んでいる。気楽なモノであった。


「いいか、気を抜くな。四天王と言えば、名の知れた存在だ。今までのよく飛んでいる人たちトカ、角生やした人たちが中心人物だったチームとは格が違うぞ!!」


 グラウンドで遥の声が響いた。遥は結構真面目に言ったつもりであった。

 が、誰もが肩を震わせ、顔を遙かに見せないようにしていた。アリアなど顔を覆っている。


「な、何だ、どうした?」


 皆、四天王に怯えて泣いているのだろうか? そんなに恐ろしいのか、四天王と言う存在は――!?」


「いくら何でも酷いぞ、ハルカ」


「そうだ、対戦相手のこと、完全に忘れているじゃないか」


「え? アレ……? もしかして、私、笑われている?」


「十六翼将に八鬼軍曹ブリリアントエイト、な。せめて二つ名くらい覚えておいてやろうぜ」


 ちなみに、十六翼将とは翼持つ十六体の強力な人型の魔物であり、八鬼軍曹は強力な八体の鬼人オーガであった。彼らが率いた野球チームはなかなかに強かったが基本的に遥一人で簡単に粉砕していたので、彼女は彼らのことをあまり覚えていなかった。


「まあ過ぎたことはどうでもいいや」


 ひでぇ、と円陣を組んでいた全員が思ったトカ。


「気合を入れていくぞ! 今日から四天王との決戦が始まる!!」


「「「応ッ!!」」」




 敵地に乗り込んできた形の遥たちは今回もまた、先攻であった。

 相手ピッチャーは緩急を上手く使い分け、一回表を三者凡退にしてのけた。

 一回裏、先頭打者は――。


「ククク、俺を十六翼将や八鬼軍曹と一緒に考えないで貰おうか」


「貴様は……?」


「四天王一の巧打者、それがこの俺、デストール様よ。さあ、勝負と行こうぜぇ……!!」


「両者とも、会話などしないでさっさと試合を――」


 球審に促される形で、遥は投球を開始した。




 上手い。確かに巧打者と名乗るだけはある。

 遥はデストールのバッティングに辟易していた。デストール相手に三十球は投げている。否、投げさせられていた。デストールは遥のボールに逆らわずに、全てをカットする形で上手くファウルにしていた。

 コイツ、スタミナ切れを狙っているのか――?

 バッターボックスの中、ニヤニヤと笑うデストール。どうやら図星のようだ。ルルイエ帝国野球チームには、ピッチャーは残りはヴィンセントともう一人控え選手がいるだけである。遥とヴィンセントの間にはかなりの実力差がある。ヴィンセントに投手を任せようと思えば任せられるが、彼に代われば滅多打ちにされるのは目に見えている。

 仕方ない。この方法は嫌だったけど……!!

 それから遥は執拗に内角を攻めた。何とかカットするデストールであったが、六十球を越えたあたりから、デストールの両腕は痺れだしていた。






 なんと重たいボールだ……!!

 デストールは相手ピッチャーの力量に内心冷や汗をかいていた。

しかし、デストールの実力は、十六翼将や八鬼軍曹とは比べ物にならないことは既に証明されていた。一回表で遙に八十球以上投げさせているのである。

 何とか全球ファウルにしているが、あと二十球も俺の両腕は持たねえ……!!

 己の腕の限界が近付いて来ているのが分かった。だが、チームが勝つ為には相手投手を引きずりおろすしかないことをデストールは知っていた。彼の率いるチームは八鬼軍曹の率いるチームとも一線を画した実力ではあるが、やはりデストールを除いたメンバーの実力では遥に太刀打ちできないことは分かっていた。そう、遥の全力には……ッ!?

 考え事をしていたデストールの目に恐ろしい光景が飛び込んできた。

 遥がリストバンドを外したのである。否、それはデストールがリストバンドだと思っていただけの代物であった。


 ズシン……!!


 そんな音が聞こえて来た気がした。リストバンドはマウンドにめり込んでいた。

 そして、遥が自分の体から外したのはそれだけではなかった。足首に巻いていたのも外す。


 ズドン……!!


 今度はそんな音が聞こえて来た。リストバンドより遙かに深くめり込んでいる。


「遊んでやるのは、もうやめだ。さっさと終わらせてやるよ……?」


「バ、バカな……、貴様、今まで本気ではなかった、だと……?」


 冷や汗が止まらない。背筋が冷たくて仕方ない……。


「俺を、四天王一の巧打を誇るデストールを愚弄していたのか、貴様ぁーッ!?」


 返答は無言。否、投じられた白球が雄弁に答えを示していた。

 動けなかった。いや、見えなかった。気が付けば既にボールはど真ん中に構えられていたキャッチャーミットに収まっていたのだ。


「ストライク、バッターアウト!!」


 俺が、この俺が……ッ? 四天王一の巧打を誇るこの俺が、手も足も出なかった、だと……ッ!?

 誇りも何もかもが粉砕される音を、デストールは聞いてしまったのだった。






 その後、本気を出した遥の投球にデストールのチームメンバーは手も足も出ず、試合は終わった。一回裏終了時にデストールのチームメンバーが遥の球威に恐れをなして逃げ出した為に試合が成立しなくなったのである。





――――∀∀∀∀――――


「デストールのチームが敗れたか」


「フン、口ほどにもない男よ」


「だが、デストールチームは我ら四天王の中では一番の弱小チーム。我らをデストールチームと同レベルだとは思わない事だ」


「ルルイエ帝国野球チーム、か。相手にとって不足無し。ああ、試合が楽しみだ。楽しみ過ぎて眼鏡がずり落ちそうだよ……!!」


 外野席、ルルイエ帝国野球チーム対デストールチームの試合を観戦している人影(魔物影?)があった。その数は四つ。

 そう、四天王の残りのメンバーである。

 四天王の一人は既にルルイエ帝国野球チームの前に敗れ去った。だが、残りの四天王を構成する影は四つあった。その意味するところはいったい……?




 彼らはやがてバラバラに散っていった。

――ルルイエ帝国野球チームを倒すのは自分のチームだ……!!

 その思いだけを各自胸に刻んで。






――――∀∀∀∀――――


 四天王の一人、デストールが率いるチームを破ることに成功した遥たちルルイエ帝国野球チーム。

 四天王残りの三人が率いるチームを破り、魔王が率いる当代最強の野球チームへの挑戦権を得ることは出来るのだろうか……?

 決戦の時は、近い。


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