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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-82 帝国最終空母エルダ Ⅴ

 軍用機は、近くに一機と奥に一機の計二機だった。色は青丹の色をしていて、稔が見慣れたある植物の花びらの絵が入っている。


「桜……?」


 稔が目にしたのは、日本ではありとあらゆるところに植えられている一般的な木である桜だった。離弁花類であるサクラをモチーフとしているから、花びらを分離して描いても問題はないはずだ。けれど、軍用機に有る桜は分離して描かれていなかった。


「エルフィリア帝国の国花が桜なんだよ。……まあ、今も桜はこの国の国花だけど」


 稔が口にこぼした桜という言葉に答えない訳にはいかないと思って、ラクトが回答した。ただ、ラクトはそれだけで終わらず、もう一言付け足す。


「桜が国花になった理由は、エルフィリアの王は昔から桜を家紋にしてきたからだって、聞いたことが有る」

「へえ」


 日本では皇室の家紋は菊である。だから、日本の国花は菊だ。エルフィリアでもそれは同じで、王室の家紋が桜であるから国花も桜なのだと、ラクトは説を語った。とはいえ、それはラクト説であるから、本当にそうであるかはその時点では分からなかった。


「ところでさ」

「どうした?」

「なんで『戦争祈念館』なのに、軍用機しか置いていないわけ?」

「愚弟は馬鹿だな。軍用機以外にも、戦闘服や文献とかも展示されてるが」

「でも、ここは軍用機だけ――」


 稔の言っていたことはあながち間違いではなかった。戦争祈念館だというのに、自分が立っている場所から見えるのは軍用機のみだ。だからこそ、稔は「軍用機だけしか展示されていないではないか」と言う。でも――。


「ここの施設の正式名称は、『帝国最終空母エルダ』でも『戦争祈念館』でもなく、『ボン・クローネ・メッセ』って言うんだよ。つまり、展示されているのが主じゃない」

「それってどういう――」


 稔はまだ内容を掴めていなかった。理由がまだ足りない、と思っていたのである。だが、そんな稔の意見は折れてしまった。解決されたことによって、足りないとは言えなくなったための事だ。


「さっきさ、パン屋の店主に行き先を話したんだよね。そしたら店主曰く、『今は軍用機展示、来週は戦闘服展示、再来週は文献展示、再々来週は戻って軍用機展示』らしい」

「それってつまり……」

「ローテーションしてるってこった」


 戦争祈念館はそれほど大きい訳ではなかった。だから軍用機が一機二機程度入れば、もうその部屋はお腹いっぱいでもう入らない、という状況になってしまう。それを避けるためにも、ローテーションをしなければならないという訳だ。


 ただ、そんな時に稔は疑問が浮かんだ。


「でもさ、空母って元々は軍用機が入る為の場所があるはずだよね?」


 空母となれば、当然軍用機が飛び去るための滑走路、そしてその軍用機を収納しておくための格納庫ハンガーが有るはずだ。だから、もともとの空母の面積というものは大きいはずなのである。軍用機の一つや二つでパンクするような格納庫なはずがないのである。


「ヒント。現在のこの施設の名前は?」

「ボン・クローネ・メッセ」

「気づくことは?」

「『名前が変わっている』けど、何か他に……」


 稔は首を傾げる。『ボン・クローネ・メッセ』という名称で有るのは分かっていたし、帝国最終空母エルダと繋がりを持つ場所で有ることも分かっていた。


「あっ――」


 ただ。そんな分かっていることを整理していると、稔は織桜の言っている事の意味がわかった。


「改築が行われたから……」

「そういうことだ」


 織桜はそれが答えであると、首を上下に振って頷いて言った。


「それと、改築が行われたって言っても内装だけな。外は塗り直しってだけだから」

「へえ」


 豆知識のようなものを吹き込まれると、棒読みではない反応で稔は反応を見せた。


「思ったんだが」

「何?」

「文献とかだと見る楽しみが一杯あるし、戦闘服だと着る楽しみが有ったりするのかもしれないじゃんか」

「うん」

「でも、軍用機って乗れないんだろうから、楽しみなくないか?」


 頷きながら聞いていた織桜だったが、稔の言っていることが間違いであると分かった時、正しいことを教えてあげようと織桜は、「え?」と言ってから続けてこう言った。


「確かにこの軍用機は乗れないが、向こうの方にある軍用機は乗れるぞ」

「そうなの?」

「おう」


 稔が先程目を通した説明板には、稔が今見ていた軍用機に乗れるか否かは書いていなかった。でも、赤色のロープが軍用機の周囲を囲んでいるようになっているのを見ると、稔は乗れないだろうと思った。けれど、それは今見ている方の話だ。


「……本当に乗れるのか?」


 今見ている方が赤色のロープで囲われているという事実を突きつけるべく、一度それを見てから再度織桜の方を見て、稔はそう言った。ただ、織桜の主張は変わりはしない。


「私を信じろ、愚弟」

「分かった」


 自分の見ていた方だけではない、もう一方の軍用機が有るのだからという事でまだ自分の意見を捨てず、織桜の意見を指示しないことも可能だった。けれど稔はその考えを捨て、織桜が言っていたことが事実であると考えを改め、その主張を支持する。


「まあ、立ち尽くしているだけじゃ乗れねえからな。ほら、進むぞ」

「分かった」


 織桜が先導する形で、稔とラクトがそれに付いていく。稔は乗れることを楽しみにしていたわけではなく、面白みが有るか否かでの理由付けに言っただけだった。だが、織桜が先導してくれる事になって拒否しなかった以上は、今更ということで何も言わないままに過ごす。


「そういえば、ここって元々なんだったんだ?」

「店主さん言ってなかったから分からない。でも天井高とか軍用機が入ることを考えてみると、トレーニングルームとか軍用機の格納庫の一部とかじゃ無かったのかな?」


 あくまで予想だったが、織桜はそんなことを言った。


「ローテーションしなくても展示できればいいのに」

「それは確かにそうだよね。今みたいに、楽しみが制約されてしまうのは頂けないかも」


 稔が独り言を零すとラクトがそれを拾って会話に発展しそうになるが、ならなかった。稔が独り言だと思い込んでいたためだ。


「それで、それが乗れるやつ?」

「そそ」


 織桜が先導して、稔は乗れると彼女が主張する軍用機を目の前にする。先程の軍用機は青丹色のバックに白い桜の花びらという訳であったが、今度は白色をバックに黒色の花びらという配色だった。


「シンプルだな」

「同じく」


 白色と黒色という対になったその二つの色で描かれるそれは、迷彩色の軍用機とは異なった物を感じさせてくれる。何処か芸術的なセンスを感じる一方で、古い時代に撮影された写真を見ているような気分にもなる。


「ところで、何処から乗る気なんだ? ハシゴとかは見当たらないけど」

「そうだね」

「赤い色のロープも有るじゃん。入れないんじゃないの?」

「大丈夫だよ」


 織桜の意見を支持してはいた。だが、先程見た軍用機の周辺に有ったような赤いロープが有ることや、ハシゴが見当たらないことなどが重なってくると、どうしても嘘なのではないかという事を思ってしまった。


「ここから見ると無いように思えるかもしれないけど、ちゃんとハシゴは有るんだぞ」

「後ろの方に有ったりするのか?」

「それは見てからのお楽しみだ」


 織桜はそう言うと、稔が疑問視してくることに嫌気が差し始めてきたが、それでも笑顔を見せた。


「……え?」


 笑顔を見せた刹那、織桜は展示されている軍用機の下を通った。一応は通り道で、カーペットなどは敷かれている。だが、順路として書かれている方向ではない。


「そっちは順路じゃな――」


 織桜はこう言って笑顔で誤魔化す。


「バレなきゃ問題ないんだよ」


 アルティメットアドバイザーという職をした織桜。そんなことを言われると稔は、『アドバイザー』という単語から別の意味を想像してしまった。犯罪者を助長する様なアドバイスをしてきたんじゃないかと、そんなことをだ。


 そう考えると稔は、織桜の方に白い目線を送ってしまう。でも、織桜はそんな目線にすぐに気づいた。稔とは違って鈍感ではないから、気づくことが出来たのだ。


「私のことを白い目で見てるけど……。愚弟、どうかしたの?」

「いや――」


 白い目線なんて送ってはいないと逃げ腰になる稔だが、それは「図星」だと織桜が理解する事に繋がった。


「この下を通ったほうが早いんだ。人もそれほど来ていないんだし、早く乗って早く写真撮影しようよ」

「なんだ、そういうことか……。全く、そう言ってくれればいいのに」

「白い目線を送っていたのはそういう理由だからか」

「いやっ、違っ――」


 なおも稔は白い目線を送っていないと否定し続けるも、もうバレているから否定しても意味はなかった。


 ようやく隠すために否定している事がバレバレで、召使であるラクトも助けようとはしていないことを察すると、稔は白い目線を送っていたことを話した。もちろん、こんなことで稔は謝ったりはしない。それはつまり、ラクトの言っていたことを理解してきたということだ。


「白状するしか無いか……。ああ、白い目線は送っていたぞ」

「そう。まあいいよ、進もう進もう」


 織桜は何食わぬ顔で、稔とラクトを先導する事を再開する。


「……あれ?」


 すぐ目の前の軍用機の展示されている場所の向こう側へ行こうと、軍用機トンネルと見て取れるところを通る稔とラクト。しかし、通った先にはハシゴなんて無かった。でも、一部だけロープが繋がっていない部分が有った。


「……織桜。本当に乗れるのか?」

「ハハハ。愚弟は何を心配しているんだよ?」


 織桜は笑顔を見せて余裕こいているが、稔は更にその顔で心配してしまった。でも、兵士が乗ったと思われるドアが有る方向から撮影する意味も含め、後ろに戻る意味もないと判断し、稔は織桜に付いて行くことにした。もちろん、ラクトが稔に付いていくことにしたのは言うまでもない。




 織桜に導かれるように付いてきて、ロープとロープが部分的に繋がっていない場所まで来た。さながらガイドの様であるが、一応はアルティメットアドバイザーであった経験を持つためである。鉄道会社勤務ではないが、マモン同様に職業柄という訳だ。


「――それじゃ、ここが搭乗口だ」


 そんな風に織桜は言う。稔とラクトが頷いている最中、彼ら二人よりも先にロープとロープが繋がっていないところを通り越し、軍用機が展示されている方向へと足を進めた。


「それじゃ、準備をする。愚弟たちはそこで待っててくれ。――といっても、すぐに終わるけどね」


 織桜はそんな事を言うとその場にしゃがんだ。しゃんだ際に金色の髪の毛が左右に二往復揺れて、後ろにシュシュが付けられていることを改めて確認できた。もちろん、織桜はそんなことを狙ってしゃがんだのではない。


 しゃがんだのは、床に有る軍用機内へと続く階段を起動するための装置を起動するためだ。警備の関係上鍵が掛かっているので、それを開けて機械を操作する必要がある。けれど、稔とラクトにはそんなことを伝えていなかったので、サプライズ的なところも有った。



「――天空七光剣セレスティアル・サーベル・セッテ――」



 右手を斜め上の方向に上げると、織桜はそう言って堂々と魔法使用を宣言した。口頭で必ずしも言う必要はないのだが、サプライズの為の行動が一変、変な行動をしていると思われると困ったために取った行動だった。


「ちょっと小さくして――」


 口頭上はそう言っている織桜だが、内心では堂々と魔法使用のために色々と言っていた。現実世界での職業柄、キャラクターの使い分けは得意だったのだ。でもそれは、二重人格者という訳ではない。キャラクターを使い分けできているからといって、精神異常者サイコパスではないのだ。


 ボン・クローネ駅でユースティティアとの一件の際に、織桜が豆腐メンタルであることはあの場に居た全員が知った。でも、その時くらいだ。煽られなければ、織桜が精神異常者に変貌してしまうことはない。


「光で照らして鍵穴を見つけ――」


 闇を照らすのは光なのだから、それを使えるということは暗い場所での作業に向いているということに繋がる。そこから、自分の影で鍵穴が見つけづらくなる事を考慮して、織桜はその魔法を選んだ。


「よし……」


 鍵穴を見つけ、織桜はそこに剣を差し込んだ。小さくしたのは、差し込んだ際に剣が折ってしまうことが嫌だったからだ。なにしろ、折れてしまえば大切な武器を失ってしまうことになる。


 でも、理由はそれだけにすぎない。織桜が剣道五段の資格を持っており、それによって強く使うことが出来た自分の特別魔法の中で最も強い魔法が使えなくなるという事は、極めて大きな損害であったこともまた、大きな理由だった。


 光の剣を鍵穴に刺すと、織桜はそれを右方向に回した。


「きた!」


 織桜は小声でそう言うと、鍵穴の有った蓋の役割をした床を装置を操作するために取ろうとした。だが、それは取ってしまうスタイルではなく、引いて上の方へあげるスタイルだった。


「せーのっ!」


 織桜は剣を引き抜くには力が掛かるだろうと思って、立って作業を行った。いざ彼女が刺した剣を上の方向に引き抜くようにすると、勢い良く蓋のような役割をした床の一部が持ち上がった。でも、これで蓋が再度しまっては困るということで織桜は、上がった瞬間に左足を滑りこませるようにして前の方に向かわせ、蓋が下がってきてもある程度大丈夫なようにした。


「ふう……」


 集中して行ってきた作業だったので、織桜は自然とため息を付いた。無理をしていたわけではなかったが、全身を利用しての作業は疲れるものだということを再度感じたのだ。


 滑りこませるようにして出した左足はそのままに、織桜はその場に尻をつく。掃除されていない可能性もあって汚いと言いたくもなったが、装置を起動しなければ軍用機内へ入ることは出来ない。そして、それを知っているのは織桜だけだったから、到底言えなかった。


「よし」


 今一度集中力を取り戻そうとそう言うと、織桜は右手に持っていた剣を都合の良い位置に置き、自身の左手で蓋のような役割をした床を持ち上げたままにする。その後、左足を後方に下げて右手で蓋のような役割をした床が下がってこないようにすると、織桜は左手の人差し指を装置に触れさせ、スイッチを押した。


「おお」


 押したと同時。乗り込む入り口である扉が開かれて徐々に下がっていった。機体と垂直になるようにまで開かれると、今度はロープとロープが繋がっていないところから少し進んだ所に、そこから入り口の扉が垂直に下がったところまで通ずる階段が形成された。


「というわけだ。私は前に入ったことが有るから、愚弟たちは楽しんできな」

「別に楽しんでもいいんだけど、許可取ってやってる?」

「それは――。あは、あはは……」


 どう見ても黒である。そして、そんなことを察したということを稔は口頭で言わなかったが、バレたと思って織桜は白状した。


「許可取ってない。でも、楽しまなくていいのか?」

「いいよ。正規の方法で楽しみたいし」

「そう。まあ、愚弟が言うならそれでいいか」


 織桜はそう言うと、自分の右手で押さえていた蓋のような役割をした床の一部を、バレないように元通りの平らに戻す。スイッチを押したままだと階段が作られたままだったので、織桜はスイッチをもう一度押して階段を仕舞った。


 鍵穴は開けたままにしておくとバレるので、巧みな剣の使いようによって元通りに戻すと、織桜は何事もなかったかのようにして通りすぎようとした。


 だが。そんなところに招かねざる客が現れてしまったことで、事態は急変する。


「久しぶりですね、ブラッドさん――」

「誰だ!」


 ラクトを呼ぶ女の声が聞こえた。ラクトには聞き覚えのある声だったが、織桜には聞き覚えの無い声だったため、自分がやったことを元通りに戻してからラクトの方向へ向かうことにした。


「アスモデウス。七人の罪源(セットモータルシンズ)の『色欲』を担当する悪魔です。聞き覚えありませんか、ブラッドさん――?」


 歯を食いしばるラクト。姿形は見えなかったからどんな女かは把握出来なかったが、稔は何か理由があると思って聞いた。


「因縁の相手か?」

「近いね。けど、もっと詳しく説明するなら――」


 ラクトは一度唾を呑み、聞かれた内容に簡潔に答えようと冷静になる。そして、稔に回答を告げた。


「――あいつこそ、私を処刑した張本人――」

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