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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-6 エルフィリア・メモリアル・センター・タワーズ

「ラクトさん」

「なに?」

「エルダレアの人口はどれくらいですか? ……あ、人口じゃないですよね」

「別に人口って言っても、私わかってるから大丈夫だよ」

「そっ、そうですか……」


 自分の口の回らない感じにいい思いをしなかったリートだったが、馬鹿みたいに頷いているラクトを見ていると、凄く気分が落ち着いた。


「そ、それで質問の回答は……」

「ざっと二億くらいかな。大元帥が住まう街の人口は八〇〇万人くらいかな。」

「以外と人口集中していないんですね」

「まあね。でも、二億って中には姿形を隠せる奴らもいるわけだから、実際にはそれ以上いるわけよ」

「か、確認が取れていないんですか?」

「まあね」


 現実世界の話だが、稔は何処かの国では、この時代ですらそういったことが起きているということを聞いたことが有った。だからなんだかんだ言って、人が魔族をばかにすることは出来ないのかもしれない。


 もっとも、その『どこかの国』以外では、難民で国籍のない特殊な人を除けば、そういったことは殆ど起きない。


「しょうがないんだよ。魔族デビルルドってのは、そもそもそんなに細かいことを気にする奴らじゃないしね。所詮、自分が魔力を使えればいいんだ。何をするにも魔力を使うわけではないけど、それでも他人を考えることは稀だね」


 そういう考えの種族なのか、とラクトの話を聞いていて稔は思った。一方でエルダレアという国家だけではなく、自らが居るこのエルフィリアという国家についても知りたいと思って、稔はリートに聞いた。


「それで、私はこの国に転生して来たわけだけど、どんな感じなの?」

「エルフィリアは、西にニューレ・イドーラ市という大都市が有りますね。あと、東にこれから向かうボン・クローネ市という大都市まではいかない都市があります」

「そっか」


 異世界だから仕方が無いが、やはり日頃から片仮名ではなく、平仮名と漢字を常用している現在の日本人には、あまりにも多すぎる片仮名の続くものはよろしくない。といえど、覚えてしまえば問題はないのは紛れもない事実である事に、変わりはない。


「ただ、それ以外はほとんどが農村で、以上の二都市への人口集中の酷さが問題になっているんです」

「人口集中ねぇ……」


 デビルルドには人口集中問題というものが分からないわけで、ラクトからすれば結構気になる話だった。だが、主人の許可無しには行動を自由に取れない事もあって、ニューレ・イドーラ市へ確認に行くことは結構難しかった。


 でも、そんなデビルルドの主人は稔である。稔であれば、結構簡単に認めるだろう。


「――ねえ、ご主人様。行きたいな、ニューレ・イドーラ」

「後でな。まずは、リートが行くって言ってる東の都市へ行くんだから、変に行き先変えんなよ」

「ご主人様はせっかちだね」

「俺はせっかちじゃねえよ。つか、今俺はこの国の権利をリートから譲渡されてんの」

「そうみたいだね」

「要するに、ある意味これは『公務』なんだよ」


 とはいえ、エルフィリアの国家元首は稔ではない。紛れも無く、リートなのだ。いくら権利を譲渡されたとはいえ、それは『首相』との立ち位置と変わりない。


 というよりも、エルフィリア全土に向かって「私が新しい首相の稔です」と言ってあるわけではないから、そもそも権利が譲渡されても、まだ『稔が首相』というのを理解しているのは当事者たちのみであって、まだまだこの国の国民はそれを知らない。


「公務、ねえ。まあ、どんな理由であれど私はご主人様の召使だし、付いて行くしかないんだよね。否定するための特別な理由が何処かにあるわけでもないし」

「まあ、ある意味これは旅行みたいなもんだし、ラクトも少しくらいそういうことから開放された生活――否、行動を取っていいと思うけどな、俺は」


 稔が息をつくように言うと、「ホントに?」とラクトが首を傾げる。


「まあ、今はまだやっちゃダメだけどな。でも、リートの言う東の都市に付いたら、俺の近くから離れない範囲で許すぞ。――離れない、というのは別に深い意味は無いからな、誤解すんなよ?」

「しないって。てか、そもそも心が読めていることも有るから、心配ご無用だぞ。それこそ、まだまだ昼の世界だし、夜にならない限り変なことも起こらないっての」

「本当にそうなんだか、結構心配だな」

「召使を信用しないとか、ご主人様も酷い男だと思うよ?」

 

 『信用しない』――というよりも、『信用したくても出来ない』という感じだった。稔は、さっきの自分の貞操が危機にさらされているなど、そういった危険な話を聞いていたこともあって、信用したくても出来なかったのだ。更に、現実世界で彼女が出来なかったことも大きい理由と言える。


「で、リート」

「なんですか?」

「ええと、下に見えるこれは何て建物なんだ?」

「『エルフィリア・メモリアル・センター・タワーズ』ですね」


 飛び立ってから数分。辺り一面を囲うようにして山がある中で、ラクトは小さな小さな集落を見つけた。だがその集落には、普通では考えられないほどの超高層のビルが有った。それは一つだけではなく、二つのビルとなって建っていた。


 もちろんながら、そのビルのお陰でラクトは集落を見つけることが出来たのは言うまでもない。


「『エルフィリア・メモリアル・センター・タワーズ』、通称『EMCT』の中には、第一次世界大戦争と第二次世界大戦争の死んだ一般のエルフィートや死んだ兵士達の墓とともに、歴史を語る遺物が展示されています」

「歴史――」

「高さは両方五〇〇メートルで、どちらも一〇〇階建てです。一階から五階までが展示施設、五階から九九階までが墓地、一〇〇階が展望台、という作りになっています。――寄っていきますか?」

「よ、寄れるのか?」

「はい、大丈夫です。ただ、礼儀作法は守ってください」

「ああ」


 稔がそう言って反応を示した後、すぐにリートは話を再開し、礼儀について教えた。


「この国は、エルフィートの国では有りますが、成り立ちは小さな国です。要は、縄張り意識がとても高く、そういった縄張りに他人が入ることを極端に嫌っている集落が有ることが、事実として有るんです」

「そ、それで、どういった礼儀作法を……?」


 リートは唾を呑んでから冷淡と喋っていく。


「ですから他人の墓地には勝手にはいらないこと、これはもう絶対条件です。それと、私は一応この国、そしてこの国以外にも知られている『第一王女』。兄が拉致されて当国エルフィリアに居ない以上、この国の王は私と考えられている方も多いのです」

「つまり、バレないようにしなきゃ……ってことか?」

「そういうことですね」


 言って、リートがこの国の作法を教えた。日本でも、他人の墓地に入ったりするのはあまりよろしく無いことであるが――というか、そういうことをするのは不良や非常識人みたいな、そういった大体おかしいいような人たち程度だ。


 そんなことを考えてみると、やはり日本に近い何かが有ることを稔は思った。日本だって、大和政権誕生前は小さな国がひしめき合うまではいかずとも、小さな国が存在していた訳で、そういったことと墓地にはいらないこと、それは案外結びついていることなのではないかと、そう稔は思った。


「このビルを建てたのは私の父ですので、正直な話、この建物の中には私達、王族一家の墓地も有るんですよね」

「そうなのか……」

「はい。私たち王族の墓地は、尊敬の意を込められてなのか、九九階に設置されています。東棟の九九階です。でも、そこに眠っているのは大元帥である私の祖父と当時の首相、そして私の祖母だけです」

「じゃあ、西棟の九九階には誰の墓地が有るんだ?」

「西棟の九九階は、エルフィリア帝国時代の帝国陸軍と帝国海軍の大将が眠っています」


 頷きながら聞いていた稔は東棟と西棟の九九階に何があるのかを知り、その時代を生きたこの国の先人たちがどんな人だったかを問うた。


「眠っているその大将たちは、どんな人達だったんだ?」

「兄も私も、戦争が終結してから生まれたので詳しくはわかりませんが、父は『子どもと遊ぶことを楽しんでいた人たち』とは言っていました。暇さえあれば子どもと遊び、楽しんでいたそうです」

「そうか」


 何となく、悲しい気分になっていった。稔だけではなく、リートもラクトもそうだった。人が死んだ話を聞いて、戦争の話を聞いて、笑みを見せられるのはやはり間違っている。


 しかしながら。目の前にいる第一王女の彼女、リートは、そんなことが起こっているということを知っていながらも、他国に戦争を仕掛けることに肯定である。別に、それは悪いことじゃない。でもそれは、勝てばの話である。負ければ良いことではなく、悪いことになる。所詮、戦争は勝ったものが勝ちだ。


 かといって戦争をせず、このまま他国がエルフィートを奴隷として扱うようになってしまえば、そのうちエルフィリアは滅ぶ。軍事増強なしではどうにもならないし、『平和』なんて事柄を掲げていたら、本当にエルフィリアは滅ぶ。


 そういったこともあり、稔は凄く複雑な心境だった。そのうち、この国の明暗を分ける戦争が起こりうるかもしれない。その際、全国民の権利と財産、そういったものを全て持っている稔が『元帥』になりえるのは、可能性として否定出来ない事柄だ。


「まあ、悲しいことばかり言っていてもどうにもならないでしょう。取り敢えず、高度を下げてタワーの内部に入りましょうよ」

「で、でも、降り方分からない――」

「また魔法技術指導ですか……。疲れますね」

「――」

「まあいいです。取り敢えず言ってください。『降下ランディング』と」

「わ、分かった」


 稔はリートに指示されるがまま、その場で降下するために、魔力の使用を宣言した。


「ライディング! ――って、ちょっ!」


 宣言直後、体勢を大きく崩した稔は、空の方向へ目線を向け、重力に逆らえぬまま降下していった。ただ、重力に逆らえないということは、この異世界マドーロムは地球と似ている世界であるということがわかった――と、そんな科学者気取りのことはどうでもよい。


「こっ、ここって何メートルだ……?」

「ざっと、高度一二〇〇メートルくらいですかね?」

「不時着したら死ぬ! あかん! あかん!」

「はぁ……」


 大袈裟な稔の動き方に、リートはため息を付いた。そして、助けようとして魔力を使用し始めた時、召使であるラクトが魔力を使用してご主人様である稔を、上から支えた。この時、ラクトの背中には黒色の翼が生え、見事にそれは悪魔を象徴するような翼の形、つまりコウモリのような翼の形をしていた。


「ご主人様、運動音痴なんですかねぇ?」

「なっ――」


 的確に当てられたことにショックを受けた稔だったが、なんだかんだいって命を救ってくれたラクトに、稔は感謝の言葉を伝えることにした。


「まあでも、助けてくれて有難う」

「まあ、召使ですしね。……じゃあ、この御礼は、身体で支払ってもらいますかな」

「い、嫌だぞ? そんなの、俺は認めないぞ?」

「――じゃあ、今、この場所でご主人様の身体を離しましょうか?」


 稔は黙り込んだ。否定の意味を込めてだ。だが、それは肯定の意味に聞こえたらしく――否、どう考えても狙っているとしか思えない笑みを浮かべ、ラクトは言った。


「――では、離しますか」

「離さないでっ! でも、身体以外で支払うからっ! 貞操だけは勘弁っ!」

「分かってますよ、それくらい。本当、ご主人様はその気になると……」

「だ、騙したな!」

「魔族は騙すのが得意ですしね。といっても、今回はご主人様のせいですが」


 稔は何も言い返せなかった。主人であるため、もう少し強く出たいところだったが、召使や精霊といった身分へ対する稔の考えが色々と複雑だったのだ。


「――さて、そろそろ地上面ですね」

「そ、そうだな……」

「稔様はラクトさんに掴まれているため大丈夫だと思いますが、不時着には気をつけてくださいね」

「あ、ああ……」

「では、お先に――」


 そう言うと、リートは先に急降下し、地上に着陸した。そして、それに続くようにしてラクトが稔に話しかけて地上へと急降下をする。


「それじゃ、ご主人様。私が更に強く抱きつくけど、変な妄想したら駄目だよ? まあ、心が読めるから何考えているかなんて簡単に分かるんだけどね」


 黙りこむ稔に、ラクトは続けて言った。


「変なこと考えて立てなくなるようなことになったら、それはもう『ドンマイ』だよ。そうならないように、気をつけてね。私はそうなっちゃうと思うけど」

「おまえ何を――って、うわっ!」


 稔のことで散々不気味な笑みを浮かべた後、ラクトは稔を抱き寄せながら、急降下した。

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