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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-67 メッセ行き臨時列車-Ⅶ

「ひゃぅんっ!」

「ひぅんっ!」

「んぁっ……」


 稔はそんな喘ぎ声に限りなく近い声を聞いていると、胸が高揚した。しかし彼はその高揚で、力をさらに強くして当たっていったりすることはなかった。触れた感触を感じつつ、透明化ないし同化されたのが一体何であるのかなど、そういったことを探りながらまた触れる。


「声聞こえないね」

「だな」


 柔らかな感触では有ったが、ラクトはまだそれを触っていないので、彼女と共有できる情報は口頭上の情報だけであった。何しろ今、彼女が今封じている扉の向こうに繋がる場所、そこをもし仮に封じれなくなってしまったのならば、相当な損失が生まれる。


 透明化、同化している正体が何であるかわからない以上、どうしてもそれを追求したくなってしまった。その上、謎の喘ぎ声に限りなく近い声が聞こえたのだ。健全な高校生男子たる者、それを探らない訳には行かなかった。


「そこはマジドン引きですわ」

「うるせーな。幻滅させたようで悪いけど、俺だってあんな声を連続で聞かされたらな」

「分かりました、分かりました」


 ラクトは汚いものを見たりする目を稔へ向けたりはしなかった。彼女は、稔がその声の正体を知りたいと言っている裏に、汚れた思想が有ることを確認していたのである。


「てか、その声の正体が本当に女の子かなのかわからないのに」

「こっ、心覗いたのか?」

「うん」

「やめてくれ! 俺のライフをゼロにしないでくれ!」

「そんなんでゼロになるような主人の召使だなんて、全くもー」


 ラクトはさり気なく稔を侮辱しているし、弄っている。でも、こんなことが出来る関係は珍しいものである。召使は本来は主人に逆らってはならないわけであるから、存在意義は違えど、どちらかというと奴隷的意味合いが強かった。けれど今、稔とラクトの関係はその裏をかくものだ。


「取り敢えずここを交代しようよ。男だと女に対して出来ないものが有るじゃん」

「まあ、社会的地位が下がるからな。それはしていないな」

「おお、今回は結構察してくれているんだね」


 稔とラクト、考えていたことが大体一致したので互いに行動を始めた。とはいえ、同化したり透明化したりしている者がこのトイレの中に居るということを考えた際、互い同時に行動するのは大馬鹿クレイジーだ。それを考えれば互い同時で行動しないほうが良い。利害ではなく、害しか生まないのだから。


「それじゃまず、俺がお前のすぐ目の前まで移動する」

「おう」


 ラクトがそう返事を返すと、稔は即座に行動を取った。ラクトの居る場所までは一メートルも無い。だから、距離を調整するのは大変だった。『メートル』という一単語の前に有る数字が加減を知った上で大きいものであれば、距離を調整するのは難しないが、大きすぎたり小さすぎたりすると難しい。


 ただ、稔は運に懸けてみた。その結果がどうであろうと頑張るつもりだった。そして、そんな事をした稔に神様が微笑んだか、稔はラクトのと顔と顔との距離がとてつもなく近くなるような近さにテレポートした。


「近っ……」


 互いにそう言った。発音のズレもなく、ハモる。

 ただ、稔は音楽的ではないハモリに嫌気が差した。ラクトと近くにいることが嫌ではなかったのだが、自分が咄嗟に出した声が気持ち悪かったので嫌気が差したのである。


「……悪いな。ほら、次はお前の番だぞ」


 稔は事の終息を図るべく、ラクトに早く行動を取るように命令を下した。でも、稔から貰った言葉を考えた際に「命令の事」が少なかったラクトは、それが命令であろうとは始めは理解できなかった。けれど、稔が真剣な表情を向けてきたため、ラクトは行動を取った。


「んじゃ、稔。この扉の端から端まで、足と手を――」


 ラクトはそう指示を出し、稔の両手を扉を五分割した時の下から四番目辺りの両壁、即ち該当する位置の縦枠にそれぞれ配置した。稔の両足に関しては、縦枠の一番下の部分に配置した。


「オッケー。それじゃ、稔にちょっとしたご褒美を――」

「なっ……」


 ラクトは艶やかな笑みを浮かべると、稔の股の下をくぐって稔というゲートを抜けた。ただ、その後にしっかりと彼女はご褒美を主人に与えた。


「捕獲、頑張ろうね」

「悪い言い方すんな!」


 稔はラクトに背中から胸を当てられながら、そう言って自分の理性を保っていた。稔に胸を当てていた張本人からすれば、そんなことをしてほしくはなかった。理性を保っているのはいいにしても、「少しくらい褒めたっていいじゃないか」と思っていた。


「よし。んじゃ、私も頑張っちゃおう!」


 一〇秒程度、稔の背中に両胸を当てていたラクト。でも彼女は、その言葉と同時に稔が先程までやっていたことを再開した。手当たり次第、色々な場所を触っていくという独特のスタイルではあったが、これくらいしか透明化した者を検挙する方法はない。


 魔力や魔法なんざいくらでも隠すことが出来る。微量の魔力を感じ取ったとしても、その根源が一体何処にあるかなどを正確にするためには、微量の魔力を感じ取っただけでは通常は駄目である。その根源を探り当てるエキスパートなら話は別だが、ノーマルでは無理だ。


 だからこそ、質量が変わっていない事を条件として考えた際に有効な方法はそれしか無いのである。手当たり次第、色々な場所を触っていく。それしか無いのだ。


「えいっ! えいっ!」


 本当に色々な場所を触っていくラクト。透明化しているのかしていないのか、していないなら同化しているんだろう。色々な事を考えながら足を色々な方向へ進めていく。

 色々な考えが交差していたが、最終的に結論を彼女は出そうと思っていた。そんな時だ。


「わっ」


 トイレの便器のすぐ目の前、逃げようと頑張ったがそこで力尽きてしまった何かをラクトは発見した。柔らかな感触が伝わるため、すぐにこれが機械物ではないことが判明した。けれどまだ、妖族であるか隷族であるかなど、基本的な情報は分からない。


「何処に手があるんだろ……って、これか!」

「ひっ……!」


 声は男の声ではないことは、大体把握していた。稔が先程何かに触れた時に上がった声と同じ声だったし、今回ラクトが触れて上がった声はそれと同じだった。どちらとも、喉仏が出ている為に出る声ではない。そして、裏声でも無いと聞いて取れる。


 そんな声を聞き、ラクトは断定した。稔の方を向くと逃げられる可能性があるため、稔の方を見ないで言った。


「この子は女の子だ。そして、さっきまで聞こえていたあの声の正体はこの女の子……」

「そんな――」


 断定されて浮かび上がった事を深く考えて、稔はとても心が締め付けられてしまった。自分がなにか悪いことをしでかしたかのような態度を彼は取った。これまで欲望が少し出ていた稔だったが、内面が若干出てきてしまっていた稔だったが、今回はその欲望のせいで心が締め付けられてしまった。


「もしかしたら、この子の胸を触っていたかもね」

「……」


 稔が罪悪感を更に抱えている事になって無言になった。そんな彼を見ていると、それまで元気だったラクトも罪悪感が募って無言になってしまう。扉の前の出入口を塞ぐ力を弱めなかったけれども、稔は建前と本心というものを分けるために塞がれていた扉、即ち栓を弱めた。


「――」


 静かな空気が漂っていて、誰かがため息をつくと、それが耳に入って大きな音と感じる。


「ああもう! この子が透明化しているんだったら、透明なベールを脱がせてあげれば魔法なんか……」


 ラクトは、静かになってしまった主人に対して憤りを感じていた。これが普通の召使と主人の関係なのかもしれないと彼女は思ったが、それでも主人がいつも通りの対応や態度を見せてくれないことには、やり場のない憤りを感じた。


「何処に捲るための場所が――」


 ラクトはそう言うと、やはり手当たり次第に色々と触っていく。前世ではよくやっていたことであることは言うまでもないわけだが、稔はそういったことを自分の目の前でされて、あまり良いことではないんじゃないかという評価を下したくなった。


 もちろん、それを口に出して言いたくなるのが稔という主人だった。親しい者が道を外しそうになったら直してやるのが親しい者の役目であるわけだから、稔は口に出して言いたくなる事に恐怖なんざ感じなかった。いつも通りに彼は言う。


「変な場所触んなよ?」

「触らないよ。野獣男じゃあるまいし」

「そっか」


 ラクトは口頭では良い風に言っていたが、本当はそんなものではなかった。目の前の透明化魔法を使用している女性に対して彼女は、いやらしい手つきなんてもので触ってはいなかったものの、触っていた場所はどう考えてもいやらしい場所だった。


「な、なにしっ、ひゃっ、ひっ、そんなのらめっ――」


 増していく喘ぎ声に限りなく近い声。稔は耐えられなくなりそうになって、煩悩が募っていって、良いことなんか何一つなかった。けれど稔は、歯を食いしばって必死に堪える。ここが正念場と必死に堪えて闘う。


 しかし、そこは心を覗ける召使。ラクトは稔をコントロール出来ないわけではないが、心を読めるので圧倒的に優位な立場に居る。もっとも、それを悪用すればされた側は溜まったものではないのだが――。


「ここかー?」

「そこはっ、駄目ぇ……っ!」


 喘ぎ声に限りなく近い声がまた聞こえたかと思うと、次の瞬間には赤色と黒色が混じった光が魔力の根源を包み込むように現れた。それは特にそれといった風を巻き起こしたりなどはしなかったが、稔もラクトも驚いて後退していた。


「なっ、何が起きたんだ……?」


 稔の方へ近づくラクト。彼女もまだ、詳しい情報を理解できてはいなかった。けれど何が起きているのかを、彼女は稔に出来る限り伝えた。心の中を読んだことによって得られた情報を伝えた。


「極端に人間を嫌っているようだね。だから、ああいう光とか透明化魔法とかを使っているんだと思う」

「そうか……」


 稔はまず、男嫌いの召使が目の前に居ることを考えた。「また嫌なことを克服するために闘うのか――」などと考えたりしそうになるが、それを考えるとラクトが可哀想になってやめた。なんだか、ラクトが事の元凶のように聞こえたからだ。召使を悪く言いたくなかった稔だから仕方が無い。


「俺は、普通の人間とはちょっと違うような人間だ」


 根源たる女の子を取り巻く赤色と黒色の混ざった光。眩い光が目の中に入ってきそうになるが、稔は堪えてそう言った。口説いているわけではないが、彼女に心を開いてもらうためにそれを実行したのだ。


人族ヒュームルトのように見えるかもしれないが、俺は外来人デファーだ。このエルフィリア帝国に飛ばされてきた男だ。だから、ちょっと違うような人間なんだ」


 彼の趣味と言い、飛ばされてきたという大嘘と思われてもおかしくないような話といい。彼を普通の人間とはちょっと違う人間であることは言えなくない。何だかんだ、魔法が使える時点でそう言っていいとも考えられるが。


「俺とお前じゃ性別も違う。けど、仲良くなれなくはないと思うんだ。キャラクター性に違いが有ったとしてもそれは個性だし、俺に打ち明けてくれたら出来る限りのフォローだとかしてやるし……」


 稔は色々と案を出していく。けれど相手方にとってみれば、稔なんて今日会ったばかりの赤の他人と呼ぶべき存在である。執拗に絡むことがなければ一日で縁が切れてしまうような、切っても大丈夫なような、そんな関係である。


 マモンだとかはお調子者みたいで、元気がいい。それが執拗と言うのかはさておき、それなりの絡みをしてきた訳であるから、そう簡単に縁を切れなくなったわけではないとしても、切る際にそれなりには思い出が呼び起こされるものと考えて然程問題はない。


「……Why protect me?」


 稔が色々と考えていた時、目の前の光をまとった少女は英語で言った。この世界に英語が有るかどうかが分からなかった稔だったが、一応言語として確立されていることをこの時確認した。もっとも、稔はそこまで英語が得意科目ではないから、どのような結果になるのかはたかが知れている。


「俺は……」


 聞かれた質問。それは「何故私を庇うのか」という質問だった。稔は答えようとするが、相手方は回答を拒否したと考えて話を続けた。発音は無問題な彼女であったが、気持ちがこもっていないような話し方だった。


「I hate people. Nevertheless, why do you protect me?」

「……」


 稔は黙りこんでしまった。和訳を少し転化させてみれば、「関わらないで欲しい」というように言われたのである。「私は人が嫌いなのに、何故貴方は私を庇うのか」と言われて、稔は答えに苦しんだ。


 けれど、それを打開するために居る者こそが召使だった。そう、ラクトだ。名付け親が困っているこの状況で彼女は、稔に軽く笑みを見せて会話の代理者となるように少女と話を続ける。


「Minoru is such a person. He love to protect the people.」


 稔が世話を焼くのが好きであることをラクトは彼女に言った。それだけであれば全然無問題であるのだが、そこで終わらないのがラクトだった。


「In other words, he is nosy.」

「おい!」


 言わなくてもいい、「彼はおせっかい屋です」という言葉。違うことを言われた気分になって、稔はラクトに対して怒りを露わにした。けれどラクトは怒りを受けて嫌ではなかった。何せ、計画通りだったのだ。


 そんな怒っている稔を見て、怒られている自分を見て、心をひらいてくれればいいなとラクトは思って、「おせっかい屋」という言葉を言ったのだった。それが悪い例えに聞こえそうで聞こえなさそうだったから、というのが採用理由である。


「She said different thing!」


 取り敢えず、ラクトが異なった情報を流していることに腹を立てて稔はそう言った。自分の英語力の前ではラクトに頼るべきであろうと考えてしまったりはしていなかったが、この段階でもう、彼女に頼ることを諦めた。


 ただ、その時に少女は言った。


「I cannot use the words of you guys.」

「Really?」


 本当かどうかを確かめるべく、ラクトは少女に聞いた。


「I'm sorry. It's a lie.」

「えっ……」


 少女は、光をその時一瞬だけまとわなかった。そして、こう言った。


「私はベルフェゴールといいまして、怠惰たいだと好色を司る悪魔であります。人が大っ嫌いなのは事実ですが、あなた方が話されている言語が喋られない訳でないので、ご安心下さいませ」


 衝撃の事実を知り、ここまで彼女が引っ張ってきた意味が一体何だったのかを知りたくなった稔とラクト。でも彼女はそれを話そうとしなかった。


「普段は人目につかないように透明化魔法を使っているんですが、バレてしまうんですね」

「俺の召使のせいだ。こいつに言ってくれ」

「なんで私が悪役みたいな扱い受けてるのさっ!」

「だってお前、前世が魔族デビルルドじゃん。それにお前、サキュバスだし」

「そんなの差別しゃべつだーっ!」


 軽く言ったラクトだったが、噛んでしまった。自信満々に言ったりとかはしていなかったが、稔への抗議をしているときにそうなってしまったのだから、恥ずかしいわけがない。


「噛んでやんの~」

「うっさいなっ!」


 稔に右頬を人差し指で突かれながら笑われたラクトだったが、自分も先程は稔を軽く怒らせたのである。それに弄られて嫌な気分ではなかったから、ラクトは笑顔になった。


 そんな光景を、光をまとった少女は言葉を発さないで静かに見ていた。

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