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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-65 メッセ行き臨時列車-Ⅴ

 そして一方、その頃。インフォメーションセンターに向かって着いた稔とラクトは、その自動扉前に降り立ったので、自動的に開いた扉の向こうにすぐに向かった。見てみれば、男の姿はない。いつも通りの、よくある光景がそこにあっただけだった。


「マノンさん!」


 声を上げる稔。ラクトはそれと同時に握っていた手を離した。けれどこれは、嫉妬の表れではない。稔がマモンを探す時に行動しやすいようにという、ラクトなりの配慮である。いくら稔とイチャイチャしていたとしても、そういったところには召使としてのラクトの顔が浮かび上がる。


「あの……」


 受付担当が誰一人居ないため、稔は次第に声が小さくなっていった。ダミーのインフォメーションセンターの可能性さえ考えた。けれど、そんな事を深く考えていた自分がバカバカしくなるようなことが起きる。


「――稔さんですか。お疲れ様です」

「……」


 返す言葉にも困ってしまった。なんと、インフォメーションセンターの客が使うべき扉から入ってきたのである。マノンという女性をバカにしたりするつもりはなかった稔だったが、説明なしにそんなところから来るとなると、驚きを隠せない。


「仕事はサボ……」

「違います。お手洗いに行ってたんです」

「あ、だから――」


 仕事をサボっていたわけではないことを把握すると、稔は鉄道関係者の中でも上司クラスのような安堵の表情を浮かべた。そんな安堵の表情を浮かべる稔は、マノンからすれば笑いの大将になりかねた。ただし、彼女がその笑いを堪えて、その機会はなくなった。


「――それじゃ、男性が待っている方へ行きましょう」

「は、はい!」


 仕事熱心なマノンはすぐに作業を終わらせようと考えて、稔とラクトを早めに男を待機させている部屋へと連れて行った。その部屋は、インフォメーションセンター職員の利用する小さな茶室だった。駅の一番線ホームが見えたりはしないが小さな丸い穴が一つあって、そこの先にある売店から弁当が一つ送られていた。


「特に拘束とかをしているわけじゃないんですね」

「一つ言っておきますが、私にそんな趣味はないです」

「……」


 ラクトがそれを言えば、それなりのテンションでの返しが出来た稔。ただ、大人の女性相手の対応には少々手間取った。やはり、経験が豊富ではないの――もとい、経験が少ないのはいいことではないのだ。楽しめるという点ではいいことであるが、話が面白く無いとか、そういう弊害が生まれたら元も子もない。


「それで、この男性に関してなんですが……。どのように事情聴取するんですか?」

「業務妨害でしょう」

「ああ、なるほど。――でもそれでしたら、駅直属の警察の方を連れてくればいいんじゃないでしょうか?」

「そ、そういうことはマノンさんにお任せします……」

「そうですか。では、そうさせてもらいますね」


 マノンは何の躊躇いもなく、駅直属の警察官へと電話を掛けた。電話番号に関しては近くまで行って見なかったから特定などはしなかったが、桁数は四桁だった。電話番号がそこまで少ない桁数とは考えにくいが、一応職場内の電話番号なので、桁数が少なかったとしても問題は特に無い。むしろ、桁数が少ない方がいい。


「あ、あの、すいません」

『はい――』

「今ですね、業務妨害の疑いで拘束している男性が一名居るんですが、駆けつけて頂いて宜しいでしょうか?」

『何処ですか?』

「インフォメーションセンター、一階のです」

『把握致しました。至急担当を向かわせますので、今しばらくお待ちください』


 それで電話は切れた。時間にして僅か一五秒くらいだ。


「あ、そうそう。駆けつけるのも結構早いから、稔さんが抑える形の時にラクトさんはもう使ってしまって下さい」

「魔法を?」

「ええ、その通りです」


 ラクトは把握すると、自分の魔法を精一杯活用して欲しくなって、少し調子に乗って波動化させて魔法を使った。「入眠解除」という語句は何度も聞いてきていたのでもう、物珍しさというものは感じない。



「こちらですか!」


 

 丁度ラクトが魔法を使用し終わった時、駅直属の警察官が現れた。波動化させた魔法は、触れていないから指紋だとかは付かない。だから調査が及ぶ可能性は極めて少なくなる。もっとも、調査が及ぶのはラクトじゃなくて男のほうだが。


「離せっ!」


 起きた男は、何故こんな場所に連れられてきているのかが最初理解できずに、暴れそうになった。人間の本能であったが、それは稔が拘束していたので押さえつけられた。一方、警察官たちは男に手錠を掛けようとする。――しかし。


「なっ!」


 掛けようとしたその時、男は姿を一瞬にして消した。そしてこの間に瞬間移動し、インフォメーションセンターの室内、そしてボン・クローネ駅から消え去った。ただ男は一つ、手紙を落としていった。その手紙を稔はバレないようにズボンのポケットに入れると、警察が言った。


「魔法使用者ですか……。それにテレポートとは質の悪い」

「――」


 稔は言葉の返し方に困る。自分自身がテレポーターであることから、自分自身の立場上を考えた時に言いづらかったのである。もしかしたら、自分の魔法が鏡に反射されたりして――みたいなふうになってしまった可能性も考えられなくないから、それで諸悪の根源みたいになって、自分が消されるのは嫌だと思ったのだ。


 もっとも、そんなところまで深く考えることが重要か否かと考えた時、どうなるかとも思うところも少なからずは有ったが、それでどうにかこうにかなるか別として、考えて後悔するような内容でははないから、気にするような心配はあるまい。


「魔法を正しく利用――いや、魔法を存分に使って他者を困らせるような奴が多いですからね。本当、そういう人たちは迷惑際まわりないと言って問題無いですし」

「そうですね」

「テレポートが今回は大きく挙げられているようだけど、実際それだけじゃない。確かにテレポートを使用可能というだけで能力的にはチートに近いものとなる。瞬間移動出来るんだからな」


 警察はそう言った。そしてそれを言ったすぐ後に、その警察の人の部下と考えられるグループが五名、その警察の人の元へと向かった。ただ、その警察の人は彼らにこういう。


「お前ら、今は帰れ――」


 何も悪いことをしていない彼らだったが、警察サイドからすると不都合だった。他人と面向かって話し合っているという状況下、そのような部下たちのせいで雰囲気をぶち壊されたら溜まったものではない。流石にそういった部下はいないにしても、上司からしたら心配で心配で仕方がなかった。


 過剰な親心と言えそうで言えないような状態の心であるが、上司ならば大体の人が持っているような心であろう。もっとも、義務教育が終わって高校へ進んだ上に家でゲームを楽しんでエンジョイしている、そんなような稔には、年齢的にそんな経験はないが。


「……部下たちを放っておいていいんですか?」

「無問題だ。日頃からの付き合いが有る以上、ここで突き離したところで問題は殆ど無いと言える」

「それもそうですね」


 要するに、自分がこれまで培ってきたことが有るか無いか。それが重要であると警察の人は言った。一応「人生の先輩としてアドバイスをしよう」、なんてことは考えていない状態での話であるが、あたかも稔が警察の人を刺激して、その人が言ったかのように、稔が取材しているかのように聞こえる。


「被疑者が確保できませんでしたから、事情聴取は不可能ですが……。まあ、指紋だとかの証拠は取り敢えず押さえておくことにしますんで、ここら周辺から別の場所へ移動して頂けないでしょうか?」

「ああ、すいませ――」


 稔は謝りながら右足を後ろの方へ下がらせようとした。ただその際に、稔は警察の人が言っていた言葉をもう一度脳内再生して、本当にそれをしろと言っていたのかと審議した。そして、審議して疑問に思ったことを稔は堂々と聞いた。


「――移動って、もしかして僕がテレポーターだってことは知った上での話ですか?」

「君、テレポーターだっのか! ……羨ましいねえ、色んな場所へ格安で気軽に旅行できるなんて……」

「車も電車も使う必要は有りませんし、向かった場所で求められるのは『歩き』ですからね。格安で気軽のなのは同意です」


 警察の人が言った事を支持すると、稔は首を上下に振って相槌を打つ。


「ああ、そうだ! 君は被疑者ではないが、テレポーターとして話してはくれないだろうか?」

「……何をですか?」

「決まっているだろう。『テレポートをする際、一体どのようになるのか』ということだよ」

「ああ……」


 稔は聞かれている内容を理解して把握すると、回答文を考えた。即座に回答する必要が有るとか無いとか、そんなことは聞いていないからどちらでも良いとしても。一つ、回答することだけはやらなければならない。聞かれた質問を、それも近くにいる人からの質問を。断りなしにスルーするのは、どうしても人間性を疑う。


 出来る限り長文化しないことを考えつつ、稔は警察の人が述べた質問に合うように回答を述べた。


「そうですね……。僕特有なのかもしれませんが、テレポートする時には自分含め、確か三人までとであれば、手を繋いで同時にテレポートすることが可能だった気がします。だよな、ラクト?」

「そうだね。うん」


 いつも――とまではいかないが、稔が使用した時は大体付いて来る召使に、何の躊躇いなしに稔は聞いてみた。ラクトの回答は、うんとかすんとか言わないよりはマシだった。でももう少し、味のある回答をして欲しかった。


 そんな事を心の中で思っている事をラクトが感じ取ると、彼女は頭を一度三〇度の角度で下げた。召使として主人へ迷惑を掛けてしまったことにお詫びのメッセージを、無言で告げたのである。


 メッセージ性は高くないが、稔が正しく理解すれば二者間の、かつ言葉を用いないでのやり取りで解決するだけあって、恥ずかしがる必要もないから便利である。

 

「それと。テレポートはネットサーバーみたいな場所を通ってから行くようなので、たまにサーバー負荷がかかると速度が遅くなって、一時的にテレポートしてサーバー内での待機となってしまうんです」

「それは君が体験したのか?」

「あ、はい。そうです」

「なるほど……」


 警察の人は、それまでメモを取っていなかった。稔は会話に夢中だったからメモを取っていなかった事なんか気が付かなかった。だが、ラクトはそれに気がついていた。なら言うべきだろうと思うだろうが、彼女は今度言い出せなかった。別に稔が怖いわけではなかったが、空気を読んだ形である。


「――貴重な意見をありがとう。他に言っておくべきことは有るか?」

「いえ、特に無いです」

「そうか。なら、これで終わりとしよう」


 そういうような締めとなって、警察の人は帰らせた部下を追いかけるようにして、インフォメーションセンターを出て行った。ボールペンらしきもので警察の人は文字を書いてメモっていたが、ボールペンをメモ帳と一体化させ、それを自身の履いていたスラックスのポケットに入れた。


「――色々とお騒がせして申し訳ございませんでした」

「いいんです。鉄道関係者からしたら、貴方みたいな人の行動は素晴らしいものですよ。その行動力、是非色々な場所で活躍を広げるために使用していただきたいものです……」


 笑顔を見せた後、マノンはこう続けて言う。


「時間も時間ですし、もう乗客はメッセ行きの臨時列車に乗り始めている頃でしょう。これまでは貴方たちは『駅員』やら『鉄道関係者』やら、そういうような扱いを受けておられました。……ですが、これからは『御客様』です」

「そうですね」


 マノンの言った台詞に稔が一言、返しの言葉をつける。その後、マノンは稔とラクトの手を繋がせる。


「なっ、何を――」

「テレポート、しないんですか?」

「あ……」


 跨線橋が使えない今、テレポートはとても有用だった。効果的に使える反面、他の乗客たちが妬まないかは心配する価値もないような話であったが、そのような事が起こらないとは限らないので予断を許さない。


 でも――。ここで稔はもう、鉄道関係者ではなくなったのだ。演じる必要性はもう無く、それを助けるために何かをする必要もないのだ。解任されたような気分になることもなくて、稔は安堵の表情を浮かべた。


「全力で御客様を持て成すことが、我々の使命です。では――」


 マノンは三秒程度下を向いた。そして、繋がせた二人の背中に、それぞれ左手と右手を添えるように当てがった。刹那、あまり強くない力で二人を同時に押した。それが、テレポートの合図と成ることを祈ってマノンは、目を閉じたままに押した。



「――行ってらっしゃいませ、御客様――」



 痛みが引いていくような感覚。もちろんそれは比喩表現であり、痛みなんて何一つ無いのだが――。それでも、押した手の先にあった温もりが無くなったのは、しっかりとマノンも感じ取った。これまでこんな風にして乗客との別れを告げた経験はなかったから、マノンは新鮮な感じがした。反面、何処か悲しい感じもした。


「あの、すいません……」


 マノンが目を開いて自分の定位置へと戻り、椅子に座ろうとした時だった。一応、透明ガラスだから誰が来たのかは容易にわかるためにマノンは恐怖感なんざ抱くことはなかったが、一人の少年が相談しに来ていた。


「君、どうしたのかな?」

「切符を忘れて――」

「ハハハ。バカだねー」


 マノンはそうやって少年を煽る。ただその煽りは、焦りからの煽りではなかった。少年が落とした可能性のある切符がここに届けられていることを知らなかったからこその煽りではなく、切符が有ることを考えての煽りだった。そうでなければ、自分が『バカだね』という言葉を浴びることに成る。即ち、ブーメラン状態が待っているのだ。


「ほら――」

「お姉さん、ありがとう!」

「どういたしまして」


 少年はぺこり、と可愛く頭を下げる。まだ幼げが残る少年では有ったが、礼儀はしっかりとしていた。


 マノンも本当に有るなんて思ってもいなかった。けれどこれは、マノンが居ない間にインフォメーションセンターに居た人がやってくれたことだ。少年からの感謝をインフォメーションセンター担当のその人へと、左から右へと流すようにして、マノンは感謝の気持ちを伝えた。


 口では言えないことは有るが、心で言えないことはない。思いとどまればそのままであるが、言おうと思えば喉に詰まりそうに成るくらい溜まった言葉も排出できる。


「さて、仕事しますか」


 少年が去った後、インフォメーションセンターにはそのような女性の声が聞こえていた。一応この場所は、誰かが必ず来るような場所ではないため、それなりの給料の一方で労働は大変ではなかった。


 八番線ホームの方向を見ながら、マノンはカウンターの職員側の椅子に腰掛けて、透明ガラスの向こうからこちらへ来る人を待っていた。

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