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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-62 メッセ行き臨時列車-Ⅱ

「お前、一体何をし――」


 稔は問う。マモンが何が目的で自分にキスをしてきたのかを知るために、というのが一番にあったのは誰が見てもそう思うだろう。もちろん、稔はそれもちゃんと考えていた。一方で、「こいつ俺に気があるんじゃ――」などと、深く考えていたりした。


 彼に人の心を読む術がない。ラクトに心を読めと頼んでも、流石に、異性の心の中を覗けと召使に言うのは躊躇ってしまった。男女差別だとか、その類ではない。彼なりの区別である。ギャルゲーをやってきた者としての、女の子を大切に扱うというある種の信念である。


悪魔の国(エルダレア)では、親しい人、信頼できる人とはキスをするのが一般的なんだ……よ~……」


 キャラクターを演じるが、彼女は演じきれていなかった。誰だって完璧なんてことはない。たとえ最強だとしても、ご都合主義でひっくり返されることなんてよくある事である。もちろん逆も有る。弱いと思っていた敵が、実は強かった――など。まあ、多岐にわたる。


「キャラ、演じきれてねえぞ」


 そんなことを言って稔は、口に右手を添えて笑った。クスクス、と彼女の未完成な演技を見て笑った。


「うっ、うるさいなぁ~」


 語尾を伸ばすのは彼女なりの、キャラクター性を高める上でのポイントである。ただ、そういうものをぶち壊してこそギャップは生まれるものであり、それが『○○デレ』という属性に繋がったり、『ギャップ』という属性に繋がったりするものである。


 マモンがそれを理解しているか、と言われれば首を容易に縦に触れはしない。でも、そういうものはいつの間にか身についていることだって有る。何故か、そのような行動を取ってしまっていることだって有る。


 分かる分からないの問題はさておき、テストや犯罪など、繋がりのない多くの観点から言えることだが、結局は『運』である。『そう思わせれば大丈夫』なのだ。


「……」


 そんなことを思うと、稔は自分が悲しい生き方をしているんじゃないかと思ってしまった。「自覚なかったのかよ!」という読者からのツッコミはさておき、彼はそんなことをこれまで微塵足りとも思っていなかった。


「ひとつ、聞かせてもらいたい」

「なっ、なにかな~?」

「お前、このキスはファーストか?」

「……」


 マモンは口篭った。もっとも、彼女の言い分から行けばファーストとは考えづらい。彼女が友達の少ない――友達の居ない人間で有れば別であるが、小さい頃からそのような生き方をしてきている人は稀と言える。加えて、彼女の言い分では『親しい人』『信頼できる人』と言っていたから、稔は親にそれをしているんじゃないかと考えたのである。


 しかし、その予想は外れた。


「ファースト……」

「なっ――」


 稔は驚いてしまった。彼は自分の召使からキスを貰っているが、流石にこの世界で召使以外からキスを貰うのはこれが初めてだった。もちろんながら召使からキスを貰ったことを言うなど、彼の選択肢として無い。ギャルゲーやアニメやラノベや漫画などでどんな結末が有るか、多く見てきた。だから、そんな選択肢は無い。


「私が内面を開くのは、君が初めてなんだ……ぞ、ぞ~?」

「そっか。――ありがと」

「……」


 稔が照れ隠し混じりの笑みを浮かべた。この笑みには、彼が少々妄想を開始してしまいそうになってしまうというような合図が隠れていたのだが、マモンにそれは見抜けなかった。


「まあ、取り敢えず降りようぜ、階段」

「おう~」

「あと、お前が俺のことをどういうふうに見ているかは分からんが、俺を好意的に評価してくれているなら俺は嬉しい……かな」

「そ~」


 キャラクターを取り戻したマモンは、軽い口調になってくれた。稔のおかげとは言い難いが、取り敢えず稔はそれで安堵の表情を浮かべた。ラクト、ヘル、スルト、紫姫、そしてマモン。相手している女子の数は多岐にわたるが、キャラクター性が変わると対応しづらい。故に稔は、あまり変えてほしくなかった。




 階段を降りて、向かった先に待っている織桜とラクト。稔とマモンとの間の距離が狭くなったような感じは、当の本人たちには微塵足りとも感じられなかった。だが、稔の心を覗けてしまうラクトからすると、ため息混じりにマモンを問いただしたくなるような、そんな感じだった。


 ラクトは声の高さなどは一切変えておらず、基本の声と同じ高さにしていた。一方、彼女の内心に灯ってしまった火が大きくなって出来た炎は、その場所を焼きつくすほどの炎になってメラメラと燃えていた。


 抑えきれなくなったわけではないが、ラクトはマモンに聞いてみた。


「遅かったな。てか、階段で何してんだお前は」

「いてっ」


 頬を引っ張るが、彼女は力を弱くして引っ張った。もちろん、彼女は稔にまとわりついているような召使とは思われたくなかった。ただ、引っ張ったのはそう思われても仕方が無いことだった。反論がないわけではないが、主人の前で言われるのは処理が大変である。


「も~。君一人の男の子じゃないんだよ~?」

「そ、それは……」

「貴重な遺伝子を受け継ぐ子供を産めなくはないから、君に恋愛感情は有るかもしれないけどさ~」

「なっ、なんてこと言ってんだっ!」


 ラクトが問いただす側だったのだが、軽くマモンがそれをぶち壊す。問いただすことなんか出来ないほどに苦しめたわけではないが、精神攻撃は基本中の基本といえるわけで、ダメージは案外大きい。


「君たちが子供を作ると、エルフィリアに一人の騎士が誕生するんじゃないかな」

「なんの話だこれは……」

「まあ、召使と主人が子作りしても問題ないでしょっていう、私の意見」

「話の逸し方がおかしいだろ、こいつ……」


 ラクトが精神攻撃で少々のダメージを喰らったため、治癒して貰っている間は稔がマモンの意見を聞いていた。ただ、彼女は笑い混じりにやってくるので本当に質が悪い。ラクトからすればイライラの根源でしかなく、稔からすれば態度が変わりやすい女、そんな評価だった。


「したことないの?」

「……」

「一つ言わせてもらうけどさ~」

「なっ、なんだよ……?」


 マモンはニヤけた表情を浮かべると、稔の方に少し近づいた。頬を引っ張られたのは確かだが、現在はそのままの状態が続いているわけではなかったから引っ張られていなかった。動けたので、稔の方に近づいたのである。


「童貞が許されるのは、小学生までだぞ~?」

「くっ――」


 稔もマモンに屈しそうになってしまった。図星であると言わんばかりの対応は、自分の弱点が浮き彫りになってしまう。そんな事考えてもいなくてしてしまった反応だったから、余計に稔の心は締め付けられる。


「あれ、図星なの?」

「うっせーな! 黙ってろ! 悪いか! 悪いですね! そーですよ、そーですよっ!」

「……」


 罵詈雑言を浴びせようとも思ったが、稔は一旦ストップした。自分が伝えたいのはそれではない。罵詈雑言を少し使うのはこの状況じゃ問題ないかもしれないが、多用するのはどうかと考えたのである。……だが、結局は口の悪い言葉を与えていた。


「でも、愚弟。別に、童貞だけをターゲットにしているお姉さんも居るんだよ?」

「俺をショタにして、おねショタをするつもりか! 許さんぞ!」

「違うわ、この愚弟!」


 ホームでのツッコミ合いが続く最中、ようやくラクトが復活した。


「精神攻撃を浴びせやがって……」


 そう言いながらも、彼女はマモンを嫌に思っていなかった。好きでもなかったが、別に嫌いというわけでもないのである。要するに普通の関係だ。以上でも以下でもない、何処にでも有るような普通の関係。


「まあ、要するに。『処女』って名乗って寄ってくるおっさんが居るように、『童貞』って名乗って寄ってくるおばさんも居るっていうことだ。もっとも、女は男より後に性欲が一番多い時期を迎えるからね」

「さり気ない豆知識、有難う……」


 これでも二四歳である。永遠の一七歳、現実世界で死んだ一七歳ほかからは思いつかないであろう、話すことがないであろう、そんな話を織桜はかました。それが誰かの知識として蓄えられるのかは別として。


「おっ……」

「これは――」


 稔の周囲に電車のマニアが居るわけではない。整備に関してであればエキスパートが一人いるが、撮ったり乗ったりするようなマニアは、稔の周りには一人も居ない。詳しいからといってマニア――とは限らない。満遍なく知識を持っている場合、それだけに特別に執着して知識を持っているわけではないのだから。



『八番線ホーム、八番線ホームに列車が入線致します――』



 アナウンスが入った。ただその時、稔たちははっきりと見ていた。


「……あれ?」


 なんと、乗客が乗っていたのである。もちろん、それが何を表しているのかは大体分かろうとすれば分かるようなことである。しかしながら、まさか列車内に客が居るとは思わなかった。そんな事を知らせるアナウンスなんて無かっし、ここに駅員は一人も居ないためだ。


「数十分ぶりですね、御客様」


 そんな時。聞き覚えのある声が、跨線橋を降りた階段の一段目から聞こえた。


「マノンさんじゃないですか! 仕事ですか?」

「この制服を見て仕事じゃないといえる御客様のその目を心配してしまいますが――」

「いや、コスプレって可能性が……」

「あの仕事ぶりを見てなんでコスプレなんですか!」


 怒り心頭なんてものではなくなり、マモンは口に出して怒りを露わにした。もちろん、まだ優し目の怒り方である。あそこまで頑張ってくれた人なんだからということで、少し甘目に怒ったのである。


「すいません……」


 そんなことを知らずに謝る稔。別にそこまでして欲しい訳ではなかったものの、マモンは謝る稔を嫌に思わなかったので止めさせようとはしない。


「まあ、別にそういう風に思われるのは個性だと思いますが、TPOを考えた行動をお願い致します」

「はい……」

「これから私はこの列車の整理を致しますので、取り敢えず手伝って下さい」

「人員が足りてないのか……」

「ええ、そういうことです。ご理解とご協力、是非よろしくお願いします」


 その台詞は客に言うべき台詞だろ――と稔は思うが、一応稔も客である。レールを敷いたり、こうやって乗客を誘導したりしている彼だが、これでも『客』である。自分の好感度アップだとか信頼度アップだとか、それ以外に自分が役に立ちたいとか。そんな思いのもとで働いているだけであって、客であることに違いはない。


「分かりましたよ、マノンさん」


 嫌々ながらでは無かった。そして八番線に停車した列車のドアが開くと同時、五人の仕事は始まる。ラクトはマノンの心の中を確認しながら、一体どのような事を思っているのかを感じ取っていた。そのマノンはマニュアルに沿った対応を心がけた。織桜はと言えば、進んで自分から動いていた。マモンも同様だ。


 もちろん稔も、同様に動いていた。


「――現在、爆弾事件の影響で七、六、五、四、三、二番線のホームへと向かうことは出来ません!」


 鉄道関連会社に勤務している者さながら。ただ、こういう台詞は覚えればすぐに使うことは出来るものである。ただ、稔はアドリブでやっている。何せ、何が何でもマニュアル通りとか言っているから未曾有の危機が発生するのであるから、アドリブのほうがいい。


「御客様、足元にお気をつけてお願い致します!」


 ボン・クローネ駅にはエレベーターが有る。だが、そのエレベーターを使用することは不可能に近い。理由は単純だ。『乗れない人』が発生するし、そのせいで『怒り出す人』が発生するからだ。最悪、乱暴な真似をすることだって考えられる。


 たかが乗れないからと思ってはいけない。価値観の違い、民族の違い等で乗れないということだけでも問題は発生する。非常時に与えられる物を待って行列を成す民族が居る一方、その時間帯に大切な物を壊す民族が居るのだから。


「――健常者の方は、エレベーターを利用なさらないで下さい!」

「ふざけんな! 俺だって乗りてえんだよ!」


 稔の言葉にイライラが頂点に達し、ついに不良のような男がキレた。


「貴方を中心に世界が回っているわけでは――」

「あ?」


 エレベーターを使用させたくない稔。一方で、乗客たちはエレベーターに乗りたいと考えていた。確かに、人がごった返しているから階段だけでは賄えきれない。だが、それならホームを降りて歩いて行けばいい話である。無理して跨線橋を使う理由、況してやエレベーターを使う理由なんかない。


「うっせえな。御客様を大切にするのが鉄道じゃねえんか?」

「私は、貴方様がご無事にここまでこれたことを誇り思い、かつ、今後の貴方の行動に幸せあれと思って、安全に、安心に、大切に保護し、送り届けようと思っているのです」

「意味がわからない」

「ですから、人に配慮しながら貴方を行き先まで送り届けようと思っているのです」


 首を上下に振る不良。刹那、彼は稔の胸ぐらをつかんで自分の方向へと持ってくる。誘惑なんてものではない。こんなのただの恐怖である。


「客を大事にしない奴はここで死ね」

「御客さ――」


 その時だった。


「私のトモダチに、なんてことをするんだ!」

「マモ――」


 見慣れたマモンの姿。駆けてきたのは言うまでもない。まだ稔は拳銃などを向けられていなかったが、それでも危機的状況は迫ってきていた。だからこそマモンは咄嗟に行動し、不良のような男をその場で蹴り飛ばした。もちろん、客の迷惑にならない方向へと、であるが。


「客を殴ったなテメェ!」

「鉄道マンを大切にする御客様を守る必要は有るけど、お前みたいな鉄道マンを大切にしない御客様を……」


 マモンの苛立ちもまた、不良同様に頂点近くになってきていた。そしてその頂点に達したその時、ついにマモンは客に対して暴行を振おうとした。しかし、それを察したラクトがマモンと不良のような客に対して魔法を使った。


「戦いを緊迫した状況下で行うんじゃ……ねえよッ!」


 そう言うと、波動化された魔法がマモンを不良のような男を襲った。それは眠気を誘い、二人共出そうとしていた武器は出せずにその場に倒れこんだ。一応コンクリートで有ったため、即座に稔が二人の頭部を支えようと動く。


「ふう……」


 なんとか稔は支え、マモンと不良のような男に怪我を負わせることはなかった。そして、こうなるように仕立ててくれたラクトに稔は言って贈った。


「有難うな、ラクト」

「いいのいいの。召使が守るべき者は、本来は主人だからね。コスプレとかの要望も受け付けるけど、最終的には主人を守ることだから」

「そっか」


 眠っている二人の近くに稔とラクトは移動すると、そこで乗客たちの整理を行った。自分たちの乗車は考えないままに。

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