1-4 ラクトアイスと召使
「では、稔様。自分自身の『召使』を召喚しましょう」
「『召使』って何だ?」
「マスター――いえ、今回の場合は貴方に従順な存在のことです。二つの系統が有りますが、まずほとんどの召使が該当する方から参りましょう」
「なんて言って召喚するんだ?」
「普通に、『召使――召喚ッ!』と言ってください」
「わかった」
稔は、深呼吸をしてから自分自身の召使の召喚作業に入った。ついさっきリートがパンダに似た生き物を魔法陣から召喚した時のことをイメージして声を発する。
「サーヴァント、サモン!」
叫ぶまではいかなかったが、それなりの声の大きさで、左手を前に出し、目を瞑って言った。だが、目を開けた時にリートが召喚したような自分とは完全に異なる存在は視認できなかった。
「違う言葉みたいですね。では、『召使――召喚ッ!』ではどうでしょうか? 二択なので流石に召喚されないということは無いと思うんですが」
「分かった」
稔は言って唾を呑んだ後、リラックスしようと深呼吸した。そして状態が整ったと思うと、稔はリートから言われた通りの言葉を言う。
「――サーヴァント、カムオン!――」
稔の声がリートの耳に聞こえるよりも早く、左手の前の方には一人の少女が立っていた。光の速さと音の速さでは、圧倒的に光の速さの方が早いため、そうなるのは当然であったが――やはりなんといっても、リートが驚いたのは、召喚してきた少女が大変なまでにエロい恰好をしていたところだった。
「ご主人様ぁ……っ」
第一声がそれだった。赤い髪の毛に紅の瞳、背中からは黒い翼が生え、耳の形も特徴的だった。直角三角形に近い形で、人の耳よりはどう見ても大きい。それをピクピク震わせながら、口から唾を垂らし、余っている胸の肉を稔の胸の下に擦り当てる。
「ばっ……」
服は着ていなかった訳ではなかったが、ほぼほぼ着ていないと言っても過言ではないほどだった。黒色のブラジャーと、黒色のガーターベルトが異常に印象に映る。加えて、黒ニーソックスを履き、それに破いてある痕跡が見て取れた。
「ふっ、服を上から着ろっ!」
「別にいいじゃんかぁ。むぅ、ご主人様は性欲が無いのかよぉ……」
「うるさいっ!」
稔の召使は期待外れだと思った。別に誰かに処女を捧げたわけではないが、それでも自分の主人様には、もう少し積極的に来て欲しかった。「きゃー!」とか言ってみるのが理想だったのだ。
ただ、主人様の言葉に逆らおうとはせず、稔の召使は着替えることにした。白色のバタフライカラーシャツを着て、黒色のスラックスを履き、その後灰色のウエストコート、黒色のジャケットと着ていく。
自身の大きな胸を強調させるべく、クロスタイではなく、敢えて黒いネクタイを選択し、胸の谷間に挟むように付ける。最後に白軍手を付けて、着替えは終わった。
「――しかし、そんなに手際よく執事服着るなんて、用意していたのか?」
「まあ、私はコスチューム程度であれば、買う必要ないしねぇ。目で見てトレスしてしまえば、もうその服は着れるんだぁ」
「なんだよ、その魔法……」
稔は便利な魔法があるものだと感心した。そんな彼に気を払うこともなく、赤い髪を揺らせながら召使は黒髪の胸に飛び込んでいった。
「寒いしさー温めてよー」
「離れろ! 色々と危ないんだよ!」
「あったか~」
召使は主人の体温を感じ取って笑みを浮かばせる。直後、唐突に話題が変わった。
「それはそうと、初めましてご主人様っ!」
「自己紹介の前に離れろ!」
大きな胸がいちいち当たって、凄く辛い。リートに助けを求めようとしても彼女は、稔が抱きつかれているその光景に目が釘付けになっていた。だから、助け船は出なかった。
「ご主人様は『稔』って言うんだよね?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、私はなんて呼ばれればいい?」
「そうだなぁ……」
稔が名前に関して悩んでいた時だった。リートが、突如として、好きな食べ物を稔の召使に聞いた。
「好きな食べ物って、何かあるんですか?」
「そうだねぇ。お菓子で言えば――ラクトアイス!」
ラクトアイスが好きだと召使は答えた。
「んじゃ、ラクトって名前でいいのか?」
「ご主人様がそう言うんだったら、私はそれに従うよ」
「それは抜きで答えてくれ。呼ばれて嫌じゃないかを答えて欲しい」
「そんなの――」
ラクト(仮称)は稔に抱きついて、彼の耳元でこう言った。
「嫌じゃないに決まってんじゃん。大丈夫だよ」
そうして、稔の召使の名前は決まった。乳固形分三パーセント以上の、『ラクトアイス』という言葉から決まったのだ。言うまでもなく、『ラクト』だ。
「分かった。――んじゃ、お前はこれからラクトだ。それと、俺から離れろ」
「嫌なの?」
「ああ、嫌だ」
「でもそれって建前でしょ?」
ラクトが稔に抱きついていたのをやめながらそう言った。ただ、稔は建前だということがバレるのを問題視し、逃げるように言った。
「よろしくな、ラクト」
「うん、よろしく。あとアイス食べたい」
「アイスなんか無いんだが?」
アイスがないことを言っておいた上で、召使の名前が決まり、ようやくリートの技術指導が行われることになった。