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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-57 駅とレールの復旧作業-Ⅹ

「大体どれくらいが終わった?」

「知らねえよ。でも、まだまだ先は有るみたいだね」


 レールを敷く。それだけなら簡単だ。でも、土台が崩れれば意味を成さないため、安全第一でしっかりと基礎の基礎から作っていく必要がある。稔の職業は鉄道関連の職ではないが、だからといって手抜きは許されない。――否、だからこそ手抜きは許されない。


「連携プレイも……案外いけるんだな……」

「召使はこうやって使うんだよ……」

「そう……なのか……」


 一つの場所に待機しているのは、精々三秒から五秒。一〇秒なんていたら、稔たちが始める前から始めているような奴たちに追い付くことは出来ない。それも、初心者であればまだ追いつける可能性は有るかもしれないが、整備士達に追い付くためにはまだまだ時間が掛かる。


「終わらねえな――」

「そうだね……」


 メートルを数える様なシステム。それは、駅の何処かにあるはずだ。だが、稔にそれは分からない。鉄道関連の会社に勤めているわけではないのだから、分からなくて当然と言える。じゃあ召使はどうかと言われれば、召使も分からなかった。

 

 だが、メートルを数える様なシステムは簡単に使うことが出来た。ラクトは一瞬、自分には出来ないことだと思ったものの、何かできることはないかと考えた結果、見つけることが出来た。


「ログを漁る……」

「ん?」

「いや、なんでもないよ」


 ラクトはログを漁ることを計画し、実行に移そうと企む。だが、その為にはラクトがマルチタスク化しなければならない。いくら召使とはいえ、当然に出来るようなことではない。だからこそ、ラクトは一旦息を整える。もっとも、そんなことをすれば稔から心配されるのだが。


「よいしょ」


 枕木を置き、稔に導かれてテレポートする。向かった先は六〇センチ先だ。刻まれるようにして敷かれていくレールが後方に有るのだが、前方にそれはなく。枕木を敷いていけばどんどんとレールを敷く範囲も広がる。

 ラクトは、表面では多くのことを考えていなさそうな雰囲気を醸し出していた。だが、それは表面上の御話。内面では、ログを漁ることを専念しようと考えていた。でも、そうは問屋が卸さない。


(ここまでの累積テレポート回数は……)


 ラクトは、稔とラクトのログに潜入した。特にそれといったIDやパスワードは無い。なにせ、覗けるのは稔の召使であるラクトのみなのだから。ヘルもスルトも各自で持っているために、パスワードを掛けたりする必要なんて無いし、ユーザーが三名いるようにもならない。


(一〇〇回を越してるのか……)


 ラクトは覗いた稔の脳内を見て、そう心の中で言った。一〇〇回を超えているというのはログを見たために言えたことだが、召使といえど忘れてしまうところは忘れていた。ラクトは、召使として恥じなければならないだとか、そういう風に留意点として受け止めていた。でも、それは内面上。外見からは伺えない。


「稔! 残りは五分の二だよ!」

「そっか。――んじゃ、もういっちょってところで頑張らんとな」


 地味な作業だった。枕木が尽きれば再度戻る必要があったが、それはそれでテレポートを使えるから特に無問題。一番問題なのは、稔とラクトの集中力が切れてしまうことだった。


 勉強がそうであるように、苦手な教科は長く時間が掛かる。地味な作業である敷設作業だって、勉強というわけではないが大体同じだ。勉強なんて机に向かってシャープペンシルを用いて紙に書かれた文字と戦う作業だし、敷設作業なんて敷かれていない地面に向かって枕木置いて、その上からレール敷いて金具で留める作業だ。


 集中力。それさえ切れなければ、作業なんていくらでも出来る。効率よく、ミスのないように。

 ただ、作業ということもあってそれ以外に弊害が有った。


「資材は尽きてないか?」

「もうすぐ尽きそう……」


 何メートル地点かは分からなかった稔とラクト。でも、資材が尽きるまで進むことにした。最悪走って進めばどうにかなるわけで、尽きてからテレポートして資材を貰いに戻り、帰りは元いた場所が分からないなら、そこまで走ればいいと考えたのだ。


「あ――」


 尽きそう、と言ってから五回くらいテレポートと言った時。ついに、ラクトの持っていた資材が尽きた。一度持ってきてから長く続けて作業が出来ていただけに、ここでの足止めは非常にショッキングだった。


「ちっ」


 ラクトが自分から離れないように工夫しつつ、少々強引に稔は資材――風呂敷が置かれている場所まで戻った。約七〇メートル程度の場所だったが、稔とラクトに時間の余裕というものはなく。マルチタスク化する事が出来ないわけではなかったラクトだったが、大量の資材を持ちながらテレポートする状況でのログ漁りは困難を極めた。




 ただ、ひと通りまた資材を手元に補給すると、稔とラクトは再スタートを切った。メートル数だとかに囚われないスタイルで、また再スタートを切ったのだ。あまり色々な事に気を配っていると、後々負担が大きくなりすぎて背負いきれなくなるから、これくらいが丁度いい。


「遅れちゃうぞ」

「それは連帯責任だろーが」

「稔と連帯責任……はっ!」

「何を考えてんだお前は……」


 稔にラクトの心を覗くことは出来ないが、一々ラクトの反応が大きいためにそう言っていじる。でも、立ち止まってツッコミを入れたりボケを入れたりするわけではなかったから、作業スピードが若干遅れそうになったとしても、誰が見ても遅れているというような範疇になかった。


 いうならば、実験誤差だ。誰が見ても首を上下に振るような実験失敗ではなく、上下に振る事はできない程度の実験誤差なのだ。極端にグラフで線が変な方向を向くわけではないし、少し逸れるくらいなのだ。


「えい」

「やー」

「とう」


 アクション映画のような掛け声が入るが、完全に遊びだしていた。イチャコラしている光景は、周囲から見れば嫉妬の原因だとかに繋がる。稔はラクトだけのものではないため、彼の取り合いに繋がる可能性だって否定出来ない。


 ただ、ヘルやスルトはまだ好意を明確に示してはいない。紫姫はデレた時にそういう言葉を口に出したりした事が有るが、稔に対しては明確には言っていない。言っているのはラクトだけである。ただ、そんなラクトの言葉さえも、稔には『ライク』で受け取られてしまっていた。


「よし、八〇メートルを突破したよ!」


 ラクトは先ほど出来なかったログ漁りを決行。導き出した八〇メートル突破という単語を稔に伝えた。ただ、八〇メートルは六〇の倍数ではないため、『八〇メートル』という整数で答えが導き出されたわけではない。


「オッケー」


 五分の四を終わらせた。今度はレールを敷いていくことになる訳だが、今度は枕木よりも長い。設置するためにそれなりの技術が必要なのは確かだが、そんなのは慣れてしまえば問題はない。現状で燃やされなかったレール部分から接続して、ホームとしっかりと平行に敷けば無問題だ。


 ただ、それは枕木の敷設作業が終了した後のお話で、まだ少し先の話だ。


「片付けるぞ!」

「あと二〇パーセントだもんね」


 互いに協力しながらここまで来ていたため、何だかんだでそれが楽しみでやっているような感じになっていた。この作業が終わったらどうたらこうたらとか、そんな死亡フラグみたいなものはない。でも、この作業は楽しいだとか、そういうふうなことは思っていたのだ。互いに、稔もラクトも。


「はい」

「へい」

「そい」

「ほい」


 掛け声が続く。声に出さないで敷いたりしていたことが多く、声に出して敷いても精々これくらいに留めてきていたのにも関わらず、今回は相当な回数掛け声が続いた。テレポートして声が出ないときを除けば、殆どの時に言っていた。それは儀式のような感じすらうかがえるほどだ。


「今何メートルだ?」

「残り一〇メートルくらいだよ。もうちょっと、あともうちょっとで――」


 何だか、スポーツをしているような気分になってきていた。水泳で壁に手がタッチするのが僅差で遅れて負けたとか、陸上で走っていて白線を超えたのが僅かながらに遅くて負けたとか。その寸前に訪れるような、あの僅かな瞬間に似たような気分が今、稔には襲いかかっていた。


「枕木は足りる?」

「足りる足りる。後でレールを貰ってくる時に、枕木を返さなきゃいけないほどだって」

「そんなに余ってるように見えないけどなぁ……」


 少なくとも、枕木を敷いてきたのだから軽くなっていて当然だ。いくら目の前にレールが途切れている場所が見当たらないとしても、先行きが不安だと思っても。軽くなっている事実が変わることはない。


 ただ、その残っている枕木の量が多いのか少ないのかに関しては、個人差が有る。稔とラクトとの間での食い違いが有るように、個人差は少なからず存在する。


「そういえば、この後戻ってレール持って来るわけだけど、一体どれくらいの重さなんだろうね?」

「んなもん持ってみなくちゃ分からねえよ、バーカ」

「そんなの知ってるよっ! それは前提としての話だよっ!」

「知るか」

「むー……」


 頬を膨らませるラクト。でも、そんなラクトが可愛くないわけない。サキュバスという前世が有る以上、男から好かれるような要因は数多く存在しているのだから、それで可愛いと思わないわけがない。それも、童貞男チェリーボーイの稔からすれば尚更だ。


「お……」


 イチャコラしだした稔とラクト(バカップル)だったが、少し変化が訪れた。あまり時間に関しては考えていなかったから、稔は驚いた。列車が来ていたのだ。


 四番線ホームは使えないし、作業のじゃまになるなどの理由から、五番線は四番線の反対側に有るホームなので使用できない。だから、列車が停まったのは七番線だった。稔たちが緊急退避した際に居たホームだ。


 七番線ホームには特に影響もないため、特に問題もなく列車の運行は再開された。稔も、この復旧作業が終われば陰陽本線を南下して向かわなければならない駅が有るが、やはりまずはレールの復旧作業――。

 そんなことを考えていて周囲を見渡せば、多くの整備士達が敬礼していた。


「敬礼、しないとダメだなこれ……」

「みたいだね……」


 整備士達のようにヘルメットを着用しているわけではないため、稔もラクトも本来であればお辞儀の敬礼をするべきだ。けれど、周囲を見た二人はそれをしない。周囲がしているような挙手の敬礼を行ったのだ。


「おいバカ。なんで左手でしてんだよ!」

「だっ、ダメなのっ?」

「ダメだ! 左手で敬礼なんかしたら、軍隊だったらエロ同人みたいになっちゃ――」

「なんてこと考えてんだ!」

「例えが悪かったか……」

「悪すぎるだろ!」


 ラクトはツッコむ。普段であれば逆のポジションだが、イチャコラしている彼らにそんな事は通用しない。


「降りてきたね」

「そうだな」


 ホームもレールも破損していない七番線以降は、特にそれといった弊害もなく使うことができる。また、一番線も問題なく使うことができるようにはなっているが、三番線がやられている以上は二番線ホームも使うことは出来ない。


 それに跨線橋だって無いから、アンダーパスする通路だって無いから、結局線路を通る必要がある。即ちそれが何を意味するかといえば、一番線ホームを使ってしまうとそれがこんなになってしまうということだ。レールが復旧したと言っても、まだ通路が無ければ不便なのに変わりはない。


「駅員も大変だよねぇ」

「そうだな」


 駅員は降車した客を誘導していた。メガホンを持って多くの駅員が頑張って仕事をしていた。声を出し、乗客を誘導している。駅員はこんな仕事初めてだったが、御客様相手ではそんな弱音は許されない。安全第一、お客様第一。それをモットーに掲げて来たエルフィリア王国鉄道だからこそ、そうせざるを得なかった。


『危ないですから足元には十分お気をつけ下さい――』

『陰陽本線へお乗換えの御客様は、九番線より列車が臨時出発致しますので、移動お願い致します――』

『新幹線は一四時二五分出発の列車より運転再開となります。今しばらく御待ち下さい――』


 臨時放送が入り、アナウンスが流れる。メガホンを使用している駅員たちよりも小さいアナウンスだったため、稔は意味があるのか心配になった。ただこれは、あくまで駅舎内に居る乗客に対してのアナウンスであって、ホームに居るような人たちへ送ったメッセージではないことを踏まえた時、稔の考えは変わった。


 整備士達が敬礼を止め始めたので、稔とラクトは作業に戻った。これから作業して、一体どこまで追いつけるかは分からない。だからといって、ここまでしてきた事を放り投げたくはなかった。ラクトを扱き使うことは悪いことではないのだろうが、稔はそれを躊躇った。だからこそ、『協力』というところに落ち着いたのだ。


「ラクト」

「ひゃっ」

「あと少し、俺と頑張ってくれるよな?」

「頑張るに決まってんだろ。こんな口の利き方してるけど、稔の召使なんだから」

「そうだな」


 敬礼をしていたから手は繋いでいなかった。だから、強引に稔はラクトに手と繋ぐ。がっちりとホールドするまではいかなかったが、それなりに指を絡ませて生半可な力じゃ取れないようにした。ただ、それなりの力が入れば取れる程度だから、取れるか取れないかはラクト次第だった。


 稔に導かれてテレポートをするラクト。移動してきた地点には、やはり枕木は敷かれていない。


「よし」


 まずは稔がラクトの前に枕木を敷いた。いいところを見せたいだとかいう不順な動機ではなく、ただ稔はラクトに見せたかった。自分が頑張っている姿を見せれば、ラクトも早く終わらせてくれるだろうと思ったからこそ、そうやって自分から行ったのだ。


 ただ、考えてみれば稔が敷いたのは偶数回だった。奇数回をラクトが担当していたため、ごちゃまぜになることもなくて全然良かった。やはり、効率よく作業を進める時は分担が重要だ。どちらがどのような対応をするのか、作業をするのか、そういったことを考えておくだけで効率は違う。


「おや――」


 一〇パーセントの残りだったはずなのに、すぐそこにレールが見えていた。途切れている場所だ。実質的には僅か五パーセントくらいしか残っていなかったのだ。――否、違うか。分母が変わるから一概に五パーセントとは言えないか。


「やった! テレポートのおかげだよ!」

「そこまで喜んで貰えるとか、俺は凄い嬉しい」

「やだなー。努力の賜物なんだから、稔にも喜んでもらわないと困るよー」

「そういうもんか?」

「うん」


 最後の枕木を敷いて、稔とラクトは風呂敷が有る場所へと戻ろうと考えた。そこに居るジャックやウルカグアリーからレールを貰ってくれば一番いいのだが、彼らが手段や方法を変更してくる可能性は否定出来ない。だから、一旦彼らに作業をどう進めるのか聞くべきである。整備長という経験豊富な人に聞けば、ほぼ間違いはないはずだ。

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