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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-56 駅とレールの復旧作業-Ⅸ

 量が減っていたということは、ある意味のフラグである。けれど、稔はそんな方面を考えたりしなかった。自分さえ楽が出来ればそれでいいだとか、そういうような人間ではないのだが、目の前にあることを第一に考えた結果、その方面のことを考えることはなかった。


「よし、サングラスを装着し――」


 ラクトの方を見てみれば、彼女が持っているのはサングラス五種。基本的に性能は変わらないが、赤・青・黄・黒・白の縁のものがそれぞれあって、五色の中から選択が可能になっている。

 この時厨二病患者であれば、大体の者は黒か赤、次点で白を選択する。特にこだわりや厨二病などの症状がなければ何を選ぶかは分からないが。


「それ、結局使わなかったな」

「そうだね。――でも、私達は使おうよ」


 そう言って、ラクトは稔にサングラスを手渡した。黒色のサングラスだ。


「私はサキュバスで、名前はブラッド。だから赤色の縁のサングラス」

「俺は『夜城』だから黒か」

「それもあるけど、稔はブラック属性じゃん」

「お前が言うな」


 稔もそうだが、ラクトもそうだ。もっと言えば、紫姫もヘルもブラック属性に属している。


「これ以外は片付けることにするけど、他に欲しかったりしたら言ってね」

「把握した」


 そう言って稔は、黒縁のサングラスを受け取った。ラクトは、受け取られなかった三種類のサングラスをそれぞれ廃棄処分――もとい、手中処分した。手の中で壊したりしてリサイクルし、再度服やら服程度のサイズの物を作り出すために使う素材にした。


「うむ」

「おお……」


 ラクトは稔から手渡されたサングラスから作り出したサングラスを初装着、稔は自分がラクトに手渡したサングラスを再装着した。稔はあまり驚くような表情を浮かべていなかったが、あまりの光景にラクトは目を見張ってしまう。


「そこまで驚くなって」

「悪かったな」

「謝らんでいいわ」


 あまりここで話ばかりしていると、後々何か言われるのは火を見るよりも明らかで、そう考えればそんなことをしている余裕なんて無い。これから色々とこの駅を利用する輩が来ることを考えれば、当人たちの始末を急がなければ、稔たちがここまでしてきた意味なんてなくなる。


「ほいよ」

「ん」


 枕木を渡し、稔とラクトは敷設作業を人並み――否、それでは間に合わないので少々急ぎめで行っていく。初心者の稔には自信といったものなんて無かったが、やらなければいけないことを拒否できない性格であったため、そんなものはあまり影響しなかった。


「誰か、単純作業を淡々とするんじゃなくて、一気にしてしまえるような魔法使える人が居ればなぁ……」

「居ねえからこうなってんだろーが」


 そう言われながらも稔は作業を始めた。会話程度、ながらで問題ない。


「加速したほうがいいんじゃないの?」

「そんなことしたら、敷設作業なんか出来なくなるだろ。規則正しい位置に配置できるわけじゃなくなるだろうし……」


 稔がそう言った時、ラクトの脳内で電灯がパッとついた。


「あっ!」


 稔に言わないと勿体無いと思い、ラクトは稔の顔めがけ人差し指を向ける。日本じゃ失礼な行為に当たるが、ラクトはあまりそういうことを考えていなかった。祖国も現在いる国も、そしてこれまで過ごしてきた世界線も異なる訳だから、そういうところは難しいものだ。


 ただ、稔は人差し指を向けられていい気分はしなかったために言う。


「人差し指向けんな」

「ごめん」

「俺に完全に従えってわけじゃねえけど、あんまりいい気分しないから」

「分かった」


 自分のテンションが高すぎたことが仇となった。そんなことを思えば思うほどに、ラクトは闇に落ちていきそうになる。けれどラクトの言いたいことはそれではないことをしっかりと意思として持ち、考えていたことを稔に告げた。


「えっと、伝えたいことなんだけど」

「何?」

「――テレポートしたら、早く終わるんじゃないかな?」

「あっ……」


 ラクトからの提案はごく単純の事だった。何処へテレポートするかを心の中ないし口で言えばいい稔のその魔法を使い、センチ毎にテレポートしていけばいい。それが何センチであろうと何メートルであろうと、直線距離であれば無問題。鉄道には持って来いだ。


「ラクト……っ!」

「だっ、抱きつくなぁっ……」


 召使に抱きつく主人。そんな光景は日常的――というわけではないが、同性の召使と主人、または妖族の召使と主人だとかであれば、そういう光景はよくある。


 ただ、女の召使に抱きつく男主人というのは、よく有るような光景ではない。有るとすればそれは、ユースティティアとエイブとの関係がそうだったように、ああいった性的な関係でしか結ばれていないような、そういう召使や精霊と主人の関係になる。


 拒否しようとするラクトだが、稔は抱きついたままだった。密着していると照れてしまって、ラクトは何を思っているのか気になって稔の心を覗いてみる。だが、やましいことを考えてはいなかった。


「よし。んじゃ、お前はその枕木を敷いてくれ。レールをこれから持ってく――」

「いや、枕木の量を考えたらそんなことしてられないっしょ……」


 照れていたラクトだったが、平然さを取り戻し、いつものような対応を心掛けた。もっとも、そうしていた方が心が安定するし、無駄に妄想を暴走させて突っ走って行ったりだとか、そういうこともなくなる。


「あ、分かった!」


 ラクトが否定したため、稔は代替策を考えようとした。だがラクトは、自分を使ってくれないことを恐れた。自分だけの主人で居て欲しいような気分になっていた。代替策なんて作られて他の召使を招集されたら、こういう二人きりの時間が減る。だったら、そうなってほしくない。


「……ラクト?」

「なっ、なんでもない――」


 折角取り戻した平然さ。彼女はそれを第一に考えてしまうが故に、脳内がどんどんこんがらがっていく。空想や妄想と現実を混同させるのはいけないことだが、それを重く受け止めすぎると脳内はそれを処理しきれなくなり、最終的に黙りこんでしまう。


「やっぱり、俺が抱きついたのがいけなかったのか?」

「そっ、そういう訳じゃ――」

「まったく、お前らしくねえな……」


 稔はため息を付いて、ラクトが今陥っている『妄想加速症候群』的な症状を嘲笑う。でもそれは、彼女の為を思っての対応だった。抱きつかれて落ち込んでいる可能性が否定出来ない以上、ラクトが詳しい原因を喋ってくれない以上、稔に取れる対応はそれくらいしかなかった。


「稔」

「ちょっ、なんだよ?」


 ラクトが稔の左手を自分の右手で持っていく。――誤解を生んでほしくないのだが、別に手の部分だけを破壊して持っていった訳じゃない。そんなグロデスクな行動、ラクトは断じて取っていない。


「その、確認なんだけどさ……。稔は私をどう思ってるの?」


 不安気な表情を浮かべているラクトだが、稔は何故そんな顔をしてくれるのか心配になった。そんな顔をするような沙汰を自分が犯してしまったのかだとか、そういうことを考え始めそうになる。でも、稔は敢えて考えないでいた。時間の無駄だと思ったからだ。

 

「『明るく可愛い巨乳で赤髪の女の子』って内心思ってるけど、建前じゃ『一緒に居ると楽しい女の子』じゃないかな。まあ、お前が『召使扱いしろ』って言ってもしないような人間だから、お前からしたらうんざりかもしれないけど」

「うっ、うんざりなんかじゃないよっ!」

「そう?」


 稔が内心を伝えているのは、ラクトだからである。言いふらしたりしないから、安心して言うことが出来る。かつてのトラウマ、そういったものを気にしなくて話せるからこそ、ラクトに話すことが出来る。


 一方のラクトは、あまり「大切にしている」とか言われてしまうと、もう止められないほどに妄想が加速してしまうため、稔に言ってほしくなかった。でも、現実は非情だ。


「『好き』か『嫌い』だったら、『好き』って事でいいよね?」

「なっ、なんか引っ掛かる質問だなそれ……」

「そう?」

「まあ、その解釈で大丈夫だ」


 稔は笑いながらそう言った。アニメだとかでよく見るように、ライクとラブの意味を履き間違えるような女の子ではないと、そう思いたかった。でも内面が覗けない以上は思うしか無く、正確性は無い。


「んじゃ、ラクト。テレポートするぞ」

「……」


 ラクトは無口のままだった。そんなキャラクターではないのは周知の事実だが、テレポートすることが嫌だと言わんばかりに、彼女は無口を貫く。もちろん、ここまで極端にキャラクターが変わってしまうと、心配しないほうがおかしい。


「大丈夫なのか、本当に?」


 稔は心配してラクトに声を掛けるが、その声すらもラクトにとっては害だった。好きな人に声を掛けられたということを考えすぎて、もう辛かった。ラクトは口から単語一つも出てこないほどに辛い状態になっていた。


「無理やりいくからな……?」

「――」

「ラクト! 口を開け! 声を出せ!」

「ふっ、ふえっ?」


 ラクトは加速しすぎた妄想に脳内を完全征服され、軽い気絶症状に陥っていた。だからこそ、稔に声を掛けられたと認識した時に目を見張る程驚き、即座に理解して顔を赤く染めていった。主人に言われただけだと認識すればそんなことはないのだが、ラクトが『主人』という単語を『好きな人』に変えたためになってしまった。


「……ったく。熱有るのか?」

「無い無い! 無いよっ!」

「ダメだ。そんな赤い顔してるのに信用できん」

「んじゃ聞くなよっ!」


 ツッコミが有るということは、意識が有るということだ。ただ、顔は赤いまま。普段であればこんなことはないため、稔は額同士を付けてみることにした。恋愛ギャルゲーや一八禁エロゲーの純愛モードでよくある、イチャラブしてるカップルやそれになる前に男女が交わすような、あれである。


「しかし熱いな……。四〇度いったんじゃねえか?」

「そこまでいったら倒れるわ! それにツッコむ余裕なんか無くなるわ!」

「ハハハ、そっか」


 ラクトは装っていた。外面ではドキドキしている様子を浮かばせていないものの、先程までの彼女の姿がそうだったように、内面では蕩けている。ドキドキを越し、蕩けてしまっているのだ。


「人騒がせなやつだな、ホント……」


 そう言って稔は話を締め、ラクトとの共同作業を開始する。その為にテレポートしようものなら、手を繋ぐだとかする必要があるわけだが、ラクトはそのことを先に考えていた。だから、若干の免疫力を付けておくことに成功した。

 もちろんそれは、ラクトが普段通りの性格や態度、そういった化合物ものを取り戻すための重要な原子もととなる。


「んじゃラクト」


 そう言うと、稔はラクトに左手を差し伸べた。もちろんラクトは、これが一体全体何を表しているのかをすぐに察することが出来た。「こういう意味なんだろうな」とか、そういう風なことを思ったりするが、そういうのを断定して間違っていると相当恥ずかしく、それは止めた。


「うん」


 差し伸べられた左手に導かれるように、ラクトは手をその方向へと向けていった。人肌に辺り、温かな温度が手に伝わる。稔に芳香だとかは無いものの、それでもラクトは稔に心を奪われそうになる。かつて、自分の親や姉が寝取られた時に感じた、ああいった男とは違うような男だからこそそうなったのだ。


「……こっから頑張るから、連携乱すなよ?」

「望むところだ!」

「よし。お前の調子も元に戻ったみたいだし、いくぞっ!」


 ラクトが差し伸べた稔の手をぎゅっと握ったのを確認すると、稔は心の中で言った。六〇センチ先、第一にレールを敷かなければならない場所。そこへ移動するためにテレポートを使うべく、でも声に出して何度も言うのは躊躇せざるを得ないような感じがする訳で。


 稔は色々と考えつつも、テレポートをするという思いは変えずに進む。


「よいしょ」

「ほいしょ」


 そんなことを言いつつ。奇数回は稔が、偶数回はラクトが担当した。非常に長い距離に見えるが、テレポートを使えばなんてこと無い。魔力の消費だってそこまで多い訳ではないため、稔も気兼ねなく使えた。


「これなら、サングラス要らなかったんじゃないの?」

「いいじゃんいいじゃん。お前との思い出作っておきたいし」

「なんだそれは」


 そう言って平然を装うラクト。でも、さっきよりは小さい感情でだったが、稔に言われて嬉しくなっていた。そのため、少し顔が緩んで笑みが浮かんだ。

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