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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-54 駅とレールの復旧作業-Ⅶ

 ジャックとウルカグアリーが居る場所に風呂敷を戻した稔は、去り際にジャックからこう言われた。


「作業が早く終わること以上にいいことはないが、くれぐれも安全第一で頼むぞ、稔くん」

「はい」


 稔は在り来りな返事をすると、笑顔を見せてラクトたちの居る方向へと向かった。当然のごとくテレポートを使うわけだが、時間が短縮されたのは一〇秒程度だ。それ以上、時間は短縮できてはいない。


 たかがホームの移動である。僅か五〇メートル一〇〇メートルの距離の移動なのだから、時間が短縮されるのが一分だとかは有り得ない。稔がそれほどまでに足が遅いはずがなく、一般人の足の早さから考えれば一〇秒程度が妥当だ。




 路線の復旧作業ということもあり、当然ながらレールの敷設作業が付きまとう。特急列車が来ることも考慮すれば、出来る限り早く作業を終わらせる方がいい。そしてそれは、現場の人間皆の共通意思だった。


「ラクト」

「何?」


 ホームに置かれていたベンチに座っていたラクトに、稔は声を掛けた。


「このサングラス、量産出来ないか?」


 稔はそう言ってラクトに聞いてみた。何しろ、これほどまでに便利な機能を使わないのは馬鹿と言っても過言ではなく、魔法を転用して貰えるのであればそれを使った方がいい。楽な方向ばかりを見ているのは少々頂けないが、今回は迅速な対応が必要であり仕方が無い。


「分かったよ……」


 転用することを嫌々ながらに了承するラクト。稔の召使ということが頭のなかの、考えている中の一番上に有るからそうなってしまう。稔は、もっぱら従って欲しい訳ではないのだが、ラクトは昔からの考えが完全に払拭できておらず、召使と主人の関係、主従関係を少し重視してしまう。


「取り敢えず、枕木を置くことから始めないといけないんですよね」

「ああ、そうだ」


 エオスの台詞に稔が回答するとすぐ、エオスは白色のマーカーペンをポケットから取り出した。稔含め、エオスをボン・クローネ駅に車で知らない者からすれば、「そんなものを持っていたのか」という思いが第一に有った。


 とはいえ、マーカーペンなんて日常的に使うものである。作業をするような職場であれば、使わないことなんて無いと言っても過言ではないほどだ。パソコンも含めたとすれば、プログラム上ないし、印刷後の書類などで使うことも有るわけである。


 もっとも、エオスの持っているのは一般的なマーカーペン、つまり現実に存在するマーカーペンだ。プログラム上のマーカーペンではない。


「エオス。それで何をするつもりだ?」

「ペンを使って、枕木を置く場所に印を付けるんですよ」

「えっと、それってホームに印を付けるってことか?」

「それは――」


 エオスは黙り込む。稔が言ったことが、エオスの考えていたことと一致したのである。考えていることが一致して、それがバレて恥ずかしいような内容な訳ではなかったが、稔からの酷評を恐れていたため、なかなか言えなかった。


「まあ、安心していい。そんなことをする必要はないから」

「でも、それだと作業ができないのでは――」


 心配するエオスだが、それがラクトの作業スピードが変貌する大きな理由へと繋がった。ラクトは、エオスに煽られたかのように思ったので、結果としてスピードが変化したのだ。


「ふふふ。エオスよ、これが私の力だァァァ!」


 本気マジになったかのような態度、そして声を上げるラクト。でも、それは『なったかのような』であり、本当になったわけではない。言い方を変えれば、『装った姿』ということが出来るだろう。


「そっ、それは……っ?」

「これはサングラスだ。稔から貰ったサングラスだ」


 稔から貰ったなどと意味不明な発言をしているラクトだが、間違いを訂正するために稔が口を挟む。


「いやいや、貰ったとか言うなコラ。俺がお前にあげた事実はないぞ」

「そうだっけ?」

「恍けるな」


 稔の訂正に、エオスは反応に困っていた。理由は簡単で、自分がハブられているような感じがしていたためだ。エオスは召使として愛されている方であるし、もちろん稔がエオスに対して酷い態度を取ったわけでもないが、何処かハブられているような感じをエオスは思っていた。


「……エオス?」

「なっ、なんでもないですっ!」


 顔を少し赤らめるエオス。稔は自分がなにかやらかしたのかと思ってしまうが、彼は特にそれといって悪いことをしたわけではない。そのため、更に自分がやらかした罪の重さを大きくしてしまう。


「さてはエオス、稔に恋しちゃったのかな?」

「そっ、そんなわけないですっ! 召使が主人以外に恋愛感情抱くとか、そんなの有りません!」

「否定しなくてもいいのに~」


 エオスの頬に人差し指を当てるラクト。稔は、そんな自分の召使の行動にため息をつく。とはいえ、これがラクトだ。調子に乗ると他人を煽っていってしまうのが、ラクトという召使だ。


「とっ、とにかく! 作業の妨げになるような真似はやめて下さいっ!」

「あんまり真面目だと、稔は好きになってくれないよ~」

「で、ですからぁ……」


 エオスは涙目になりそうなくらいだった。自分の主人を愛することは、一応召使としては一般的な事である。ただ、自分の主人ではない主人を愛すること、それはある意味禁断的な行為で、そこら辺の線引きはしっかりしていた。


 だからこそ、稔を愛することはエオスに出来なかった。自分の主人の為に、それはしたくなかった。そういったこともあって、エオスはラクトが煽ってくることに苛立ちを少々感じていた。


「ラクト。それくらいにしておけ」

「稔はモテるね~」

「やめろ! それ以上煽るんじゃねえ!」


 稔は神経質になってしまったため、苛立ちを抱えているエオスを思ってラクトにそう言ってやった。けれど、やはり調子に乗ったラクトは調子に乗ったラクトのままだ。召使に対して主人がある程度強く出なければ、ラクトのような召使の行動を止めることは出来ない。


「煽られて嫌なら、もっと抵抗――」


 ラクトはそう言うが、ついに稔の怒りが爆発した。実力行使に移り、ラクトの煽りを強制的に止める。どんな方法をとったかといえば、ラクトの両肩に稔は手を置く方法だ。そして、ラクトに対して語りだす。

 

「みっ、稔……?」

「俺は、ある程度召使の行動を自由にさせている。それは俺が召使をペットだと思っていないからだ。信頼関係を築く事によって、戦いに関しての協力関係を築きたいと思っているから、自由にさせているんだ」

「う、うん……」

「でも、それを悪用されるのはたまったもんじゃない」

「……」


 同年齢であることを忘れてはいけないが、育った環境が違うので、年齢だけで判断するのはよくない。片方は日の本の国で、片方は悪魔達の住む国で、それぞれ生まれて育って生きて死んだのから。


「エオス、悪かった……。俺の召使のせいで傷を負わせたなら、なんでもするから許してくれ――」

「べっ、別に嫌なわけじゃないです。それに、謝って貰う必要は無いですよ」

「良かった……」


 稔はそう言うと、エオスに穏やかな表情を見せた。一方、ラクトにはきつい視線を浴びせる。内心では「謝れこの召使が」と、若干きつめの台詞を当てる。


 稔はラクトを掴んでいた手をおろし、彼女の背中をエオスの方向へ押す。


「ごっ、ごめんなさい――」


 稔に言われるがまま、ラクトはエオスに謝罪した。けれど、エオスは謝罪なんてしてもらうくらいだったら作業を進めて欲しかったので、謝罪されても「いいよいいよ」というふうに言うに留まった。


「謝られても、今は仲間じゃないですか。許さなくちゃ、この作業だって何時までたっても終わりません」

「エオス――」


 涙ぐみそうなラクト。調子に乗ったわけではなかったけれど、ラクトは涙を隠そうとエオスに抱きつこうとする。でも、それを稔が後方から「やらせねえよ」と言って抑える。


「うう……」


 動物のような愛くるしさを見せるラクト。光によって艶めく瞳に、稔は内心ドキッとする。でもそんな気持ちを押さえつけて、サキュバスとしての前世を利用した彼女の行動に対して意見を述べる。


「お前は可愛いしエロい。でも、それを他人に魅せつけんじゃねえよアホ」

「独占欲が募っちゃった?」

「だから煽るなって言ってんだろ!」


 稔の言っている言葉が理解出来ていないわけではないのだ。でも、やはり煽りたくなってしまうのがラクトである。でも、かつてのような目で稔を見ているわけではないから、それはある意味で愛情表現だ。


「ともかく、お前は俺の召使だ。そのことを忘れたらダメだからな」

「……それって、『稔』って呼ぶなってことじゃないよね?」

「呼ぶ名前なんてなんでもいいよ。でも、俺の周りの色んな人を馬鹿にしたりすることには、それなりの限度を持てっていうかさ」

「なるほど」


 首を上下に振ると、ラクトは稔の言ったことをしっかりと呑んだ。

 ただ、こんなエオスとラクトと稔の会話を見ていた女性は、ここらで苛立ちが頂点に達した。エオス以上の苛立ちである。


「こっちはさっきからレール敷いてるんですけどねぇ、愚弟さんよぉ……?」

「おっ、織桜っ!」


 織桜の存在。それは、ある意味で稔を脅かすものだった。年上の女性であることはもとより、少々情緒不安定なところがあったりして、堕ちたりした時にどうなってしまうかを考えれば、それが脅かすものではないと言い切ることは出来ない。


 そして何よりも。愚弟と呼ばせているからこそ、逆らおうに逆らえないような妙な何かが稔と織桜の関係の中には有った。だからこそ、稔にとって織桜の存在というのは大きな脅威だった。


「こっちはよぉ、道具の一つも使わずにここまでやってきたんだけどよぉ――」

「――」

「愚弟。お前にこの仕事全部押し付けていいか?」

「やめて! そんなことされたら俺のライフはゼロにな――」

「そっか。それじゃ、ちゃんとしようね?」

「……はい」


 しぶしぶ、稔は織桜の脅威に逆らえずに従った。自分の体力だとかを考慮してみれば、レールの敷設作業でも非常に地味な作業である、枕木を敷いていく作業なんてものは辛いと言っていい。加えて、その辛い作業がハーフエンドレス。終わりの見えないような作業が続くのだから、たまったもんじゃない。


「織桜には低い姿勢なんだね」

「今のは軽く脅しだかんな? それに逆らうとかおかしいって」

「そっか」


 ラクトはそんな反応を示すと、さっさと作業をする稔の姿勢を評価して行動に移した。ラクトは、稔に言われた言葉をしっかりと脳裏や胸に刻み、彼の召使としての行動をとることにした。


「取り敢えず、担当する場所とかを決めたほうがいいんじゃないですかね?」

「そうだね。んじゃ、一番遠い方を俺、次に遠いところをラクト、その次がエオス、その次が織桜って事でいいんじゃないかな?」

「ですがそれでしたら、召使を総動員してはどうでしょうか?」

「それもいいな」


 稔やエオスに躊躇いはない。だが読者などからすれば、キャラクターの把握が困難になるのでやめて欲しいものである。もっとも、召使を総動員するとなればこの駅の四番線ホームだけで五体、召使のみならず精霊も含めれば、軽く七体だ。


 でも、召使が増えれば仕事は早く終わるのは確実だ。力持ちが居たりするのだから、そういったところを上手く活用していく事が重要である。確かに指揮を執るには困る可能性はゼロではないかもしれないが、それで作業が円滑に進むのならそれでいいと稔は思っていた。


「んじゃ、織桜。協力を頼む」

「でもさっき私に仕事を押し付けた罰として、何か詫びないとダメだぞ、愚弟」

「くっ――」


 歯を食いしばって拳を強く握る稔。単純に、織桜の言っていることに腹を立てたからそのような行動を取ったまでだったが、織桜の言い分も聞けないものではなかった。なにせ、ラクトやエオス、それに自分も彼女のことを気にしておらず、自分たちだけが会話で盛り上がっていたのだ。


 考えれば織桜の言っていることは的確だったし、詫びを入れるのは必要だと思った稔は行動に出た。


「――じゃ、織桜の言うことをなんでも一つ聞く」

「そう。んじゃ、今日いっぱい私の奴隷ね」

「え……?」

「てことで、私がレールを敷く為に協力するのはここまで。此処から先は、私が作業を先導しますんで」

「ちょっ、そんなの突然過ぎ――」


 稔のとった行動により、リーダーシップを取る人物が稔から織桜へ変わった。稔が何か言おうとするが、織桜が言わせなかった。

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